成瀬監督『あらくれ』

2012-05-07 21:09:27 | 映画
家にある成瀬監督のビデオは20本くらいでしょうか。
機械が変わったりするたびに見られなくなるものが増え
重要な作品でも抜けてしまったものがあります。


小津のものはNHKが現存するものを徹底して放映した
時期がありましたので、それは欠けずにある筈です。
あと溝口の重要な作品はたぶん大丈夫。

黒澤のビデオは手元には、ほぼありませんね。
かなり強烈に焼きついちゃってるし、ふと見たくなる
感じではないし、なぜか無くても構いません。

ちなみに好きな黒澤映画は、平凡ではありますが
『七人の侍』『羅生門』『生きる』がベスト3で 他には
『酔いどれ天使』『醜聞』『白痴』『どん底』でしょうか。
(全ての作品を見ていますが改めて見てもこれくらいかな)
線が太いので何度見ても同じなのです。

成瀬は見るたびに新しい発見がある気がします。
名人の落語は何度聞いても良いですね、・・同じようです。


その成瀬監督の作品で『あらくれ』は未見でした。
・・というか20代前半に見ていたかもしれません。
まったく記憶がないのですがラストが気になるのですね。
見たかなあ?

見ていたとしても分からなかったのですから実質未見。

とまあ、前置きが長くなりました。

『あらくれ』はとても良い映画でした。
私としては、成瀬のベスト5・・・、ベスト10なら必ず!

何より光の加減が抜群で、大正時代はこんなイメージだった
という香りがするのです。
スタッフが超一流だった筈ですね。

(以下、きっとネタバレになりますから、興味がおありで
しかし読みたくないという方はご注意ください)

従来、評論家や映画好きにはそんなに高い評価はなかった
作品のようです。
それは大間違い、『歌行燈』と並ぶ名作です!

もっとも、長い間、成瀬作品自体の評価が内容よりも低かった
ようで、評論家って連中がいかに井戸端会議的世界で仕事を
してきたか、よく分かります。

『あらくれ』は徳田秋声の著名な作品を昭和32年('57)に
映画化したものです。

当時監督は52歳、仕事ざかりですね。(私は8才・・無関係か)
前年には『流れる』を撮っています。

同じ年の映画に、今井正『米』木下恵介『喜びも悲しみも幾年月』
川島雄三『幕末太陽伝』などがあります。

小津は『東京暮色』黒澤が『どん底』という年で
溝口は前年に亡くなっています。

また主演の高峰秀子はその前後に'54『二十四の瞳』
'55『浮雲』'58『無法松の一生』などに出ています。
なんという名画ぞろい、芸の巾の広さ・・


成瀬の研究書など読んだことがないのに勝手な推測ですが
この映画は監督としては気が入っていたのではないでしょうか。

映画はひとりの女性がいかに強く生きたかを描くものです。
(少しずつ強くなります←男が頼りない)

どこか『カーネーション』と通じます。
いま見たら面白いと思われる方も多いのでは?

暗い映画にも作れる内容ながら、笑えたりもし
何よりバランスが良いので、品があります。

昭和30年代前半にはまだ強い女性を描くとヒットしづらい
ところがあったのかもしれません。

それも舞台が大正時代ですからね。

監督の気が入っている証拠にセット・カメラ・照明・・は勿論
それ以外に役者のすごいこと。

主演クラスのスターの何人かは省略します。

それ以外に東野英治郎、仲代達矢、志村喬、宮口精二、田中春男
坂本武、左卜全、中村是好、高堂國典、横山運平
中北千枝子、千石規子、丹阿彌谷津子、賀原夏子、沢村貞子
ほかにも大勢、この人、え~っと名前は・・


働いている場面の多い映画です。
昔の様子を動く絵で見られるというのは有り難いですね。
若い学校の先生などにもお勧めしたい。

大正デモクラシーの中、女性の社会進出が少しずつ認められ
そういう時代背景があるから強い女性も登場したのでしょう。

(もっとも室町でも江戸でも強い女性はおられました。
 比較的弱かったのが明治時代)

もちろん大正時代ですから今のようには参りません。

そこを強く生きるのですから無理も生じますね。

現代の目から見れば、頑張ってはいるけれど、それってダメな男と
同じレベルになるだけのことであって、それだけでは・・
・・なんて思うのです。

その限界があるから、最後の大雨をゆく主人公も
行く手は決して明るいだけではない、今までと似たことが待っている
多難な様子を暗示する、微妙な、絶妙なシーンでした。

(また、雨の使い方が上手いんだ。
 この映画では自立に関して使われています。)


一人の強~い女性とダメ~な男どもを描きながら暗くならず
品の良い出来あがりです。

映画では、町を行く行商の人たちが目立ちます。
ただの場面転換なのですが、その雰囲気がGOOD
きっとこんなところも成瀬マジックの秘密の一端が。

旗を飾った桶を頭に、団扇太鼓の飴屋さん
沢山の風鈴を運ぶ涼しげな風鈴屋
ラウ屋(煙管そうじです)
風琴を持ったオイチニの薬売り
金魚屋
イカケ屋
甘酒売り

などなど。

細かいところを上げればキリがありません。

はっきりとした「記号」をさりげなくちりばめて
話を進展させるところが(名人)なんですよね。


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