魯迅『吶喊』

2011-05-29 11:35:55 | 本の話
高橋和巳訳、中公文庫

狂人日記、孔乙己、故郷、阿Q正伝などが入った
魯迅の第一作品集です。
これは高橋和巳の完訳版

230頁ほどの薄い文庫本ですが定価180円(昭和48年)


高校の教科書だったかで竹内訳「故郷」を読みました。

久しぶりに読み返して全体の印象は変わりませんが
幼馴染ルントウの描写が記憶のイメージより簡略で
これだけの描写であの強い印象を与えるのか、と
改めて感動しています。

名作は読み返すべきものですね。

若いころはまったく分からなかった「狂人日記」が
心に沁みます。

「孔乙己」も深すぎますね。
クラっときて何かにつかまらなきゃ倒れそうです。
こんな作品でも私は表面的にしか捉えていなかった。

話の内容はよくあるといえばそうなのですけれど
(歴史的にどうなのかはよく分かりません)
そういうことは関係ありませんね。

いつの記憶なのだか孔乙己のラストの姿をした物乞?
を見た記憶があります。
戦後はまだおられましたね。
正座の形をしたまま手をついて道を進まれます。

とある方が速いスピードで移動されており、見ると
下肢に自動車タイヤを巻きつけておられました。
子供心に強く焼きついたことです。


「魯迅の作品は暗い。」

高橋和巳の解説冒頭にこうあります。

人間を見つめた結果でもあり、魯迅という人の人間性でも
あったからでしょうが、社会の反映でもあったはずです。

貧困は人を暗くします。

現代社会が物質的に豊かとなっても人は幸せに結びつき
ませんが、かといってその反対に貧しい世の中では
不幸な人が多く出ることも間違いありません。

阿Qとあまり違わないような私でも現代社会では何とか
還暦を迎えることができているのですから。

中国政権が経済に血眼であるのも分からないではない気
になるのは半世紀前までの中国社会の記憶があるのです。

ま、それだけっていうワケでもないだろうけれど。


読み返してさまざまな思いがよぎりますが
加齢ゆえに分かることもあるようです。

「故郷」
主人公に母がいう何でもない一言が胸にしみます。

『二、三日休息をおし。
 親戚に挨拶回りをすませたら、行ってもいいよ』


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