時代の缶詰

2015-03-19 20:14:58 | 映画
映画は「時代の缶詰」と言われます。
映画が制作されている時代を如実に繁栄するからです。

缶詰にも、素材缶から調理されたものの缶詰まであります。
映画だって、その時代の「現代」を描くものから
その時代に思う「江戸時代」のチャンバラまで様々です。


黒澤の『七人の侍』が、この現代では作れません。
あの時代でなくては出来なかった。

第二次大戦の記憶が生きていたから
あの迫力が生まれたのです。


私は最近、時間があれば成瀬の映画を見ます。
手堅い監督ですから安心して画面に向かえますね。
もう画面に向かって怒るのは疲れました。

「現代劇」が多いし。
「そうそう、昭和30年代の前半はこうだった」などと
ノスタルジーに浸れます。

後ろ向きな人生・・・・・


成瀬ばかりでは飽きがきます。
家にあるストックもそう多くはありません。

先日は小津映画にしました。

何と言っても日本映画古今の筆頭です。
別格と言ってもよろしい。

有名なものは避けて、印象が薄い『秋日和』に
しました。
晩年の有名な作品です。

人もいない廊下の片隅、誰もいない部屋の壁・・
すべての画面が完璧に美しいのです。
1秒にも満たないカットが、それ。
しかも決して重たくはありません。

演者もパーフェクトなら、編集も100点。

非の打ちどころがない名人芸の極致。


生意気なことを言いますが、私個人は小津の
美意識は、ジツは好きではありません。

中途半端なビルの外壁、何とかならんかい、
ちっとも綺麗じゃないぞ、・・・などとね。

ローアングルもやりすぎだし
抑えた演技も凍りついています。


ということなのですが、それでもなお
小津の美的世界の統一感には圧倒されますね。
(やはり小津がナンバーワン)

ずいぶん意志の堅固な人だったようです。

時代を超える、芸術です。


もちろん時代の缶詰、そこから逃れられません。

男はセクハラだらけだし、人々の考えも古いし
ギャグは笑えない、戦後日本の貧しさ・・

それらは見る側の責任として、頭脳で処理すべきことです。

でもね、正直いって、それでも長かった、
タイクツでした。

きっと余りに完成させちゃうと、こうなるんだ。

『凍りつく「美」の一文字や 小津映画』