毎日のできごとの反省

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戦時国際法のクイズの解答です

2019-08-21 07:27:59 | 軍事

 国際法とは、元々はヨーロッパにおいて、国の争いのやり方のルールについての慣習から始まったものです。ですから、戦時国際法は、国際法のルーツとも言えるものです。詳細は述べる余白がありませんが、国際法とは国際的条約と積み上げてきた慣習の総合体系と言うべきもので、明文化されているものはほんのわずかです。その解釈は事例の積み重ねで、専門家によってもかなり幅があります。

 例えば日清戦争で、東郷平八郎艦長の軍艦浪速が英国船籍の、高陞号撃沈事件では、英国国内で国際法違反の声が上がりましたが、英国の国際法の権威のウェストレーキ教授が国際法違反に非ずとの見解を公表すると、一挙に沈静化したと言う有名な事件がありました。明文化されて解釈が判然としていたのならこんな混乱はありません。条約と事例と専門家の見解の積み重ねなのです。

 従いまして、以下述べます解答は、小生の考える標準的解釈だと考えていただき、それを参考に皆様の戦時国際法解釈、ひいては歴史解釈の一助としていただきたく思います。決して正しいひとつだけの答えだなどという考えは持っておりません。小生のブログに回答をいただいた「テレビ倒さん」さんの貴重な見解も、そのまま掲載させていただくことも参考になると思います。まず質問を再掲します。

 

 映画プライベートライアンのストーリーでの戦時国際法のクイズです。

 ライアン二等兵を救出に行った部隊は、ドイツ兵Aを捕獲しました。小隊を指揮する主人公は「任務に邪魔だから殺しちまえ」と言いますが、通訳兵が、国際法違反だと主張します。それで仕方なく、今後戦闘に参加しないと誓わせてドイツ兵Aを解放しました。

 ところが、何日か後の街中の戦闘中にドイツ軍を追い詰めると、ドイツ兵Aが出てきて、銃を捨てて、降伏すると言いました。すると誓約を破って戦闘に参加したことに怒った、通訳兵は、手を挙げているドイツ兵Aを殺してしまいました。

 そこでクイズです。通訳兵が、降伏しようとしたドイツ兵Aを射殺したのは、戦時国際法に違反しているでしょうか、いないでしょうか?!理由を説明の上回答ください。ヒントは、ドイツ兵が降伏を申し出たのは、戦闘の継続中です、ということです。

  まず、理解しやすいよう、戦時国際法での捕虜となる手続等を下記のように整理しました。

①捕虜は抑留場所に拘束する以外は人道的に取り扱わなければなりません。②で述べる捕虜となるべき資格を喪失した者は、その限りではありません。

②捕虜となるのは敵対する兵力の戦闘員と非戦闘員からなる交戦者です。非戦闘員とは武器等を持たず軍務として補給に当たる者等を言います。純粋な市民等の民間人は非交戦者として、この中には含まれませんが、敵対行動を取らない限り無条件に保護されるべきものです。ただし、交戦者が非交戦者のふりをしたりした場合には、捕虜となるべき資格を喪失します。

③捕虜となるのは降伏した場合です。ただし、降伏が受け入れられても、武装解除を確認されて抑留場所に着いて始めて捕虜の身分となります。それまでは戦闘の継続中なので、途中の射殺は合法です。これは降伏したふりをして、隠し持った武器で反撃する例が稀ではないからです。

④降伏を申し出ることが出来るのは、その戦闘区域内での最高指揮官だけです。最高指揮官が戦死などの理由で不在の場合には指揮権を委譲された者とします。ただし、降伏の申し出があっても相手方は必ず受け入れる必要はありません。英軍バーシバル将軍に山下中将が降伏の「イエスかノーか」を迫ったという逸話があります。実際には威嚇的ではなく、イエスかノーかを返事するように聞いてくれ、と通訳に行っただけのようですが。

⑤原則として一個人や一部の部隊が降伏を申し出ることはできません。これを可とすれば、戦争が嫌になった者が勝手に降伏するからです。ただし、戦闘不能状態や状況により捕獲した場合には、適宜判断により捕虜とすることができます。ただし、③の手続きが終わって始めて捕虜となりますから、それまでに射殺は可です。理由は③に記したものと同じです。

 

 以上の捕虜の説明で答えは出ました。ドイツ兵Aの射殺は米軍において合法です。③の捕虜とする手続きが終わっていないからです。また戦闘で追い詰められたドイツ兵Aを捕虜とすべきか否かを判断するのは、捕獲した通訳兵の任意となります。Aは元々降伏を申し出る資格を有さないのです。実際には、約束破りに頭にきて殺しただけなのですが。

 試みに時間を遡って、小隊を指揮する主人公が今後戦闘に加わらない誓約をドイツ兵Aにさせて解放した時点に戻ります。ドイツ兵Aが誓約を守って、戦場を離れて民家に助けを求めて入ったものと仮定します。するとAはドイツ側から見れば、逃亡罪で銃殺ものですし、米軍から見れば民間人のふりをした戦闘員ですから、見つけたら処刑相当です。そもそも誓約そのものが、成立し得ないものなのです。

 実際にはAはドイツ軍側に戻ったのですから、捕虜になったが逃亡したということで、受け入れて再度戦線に戻すことになりました。欧米では捕虜の逃亡と言うのは推奨されているのは承知の通りです。米軍に誓約したから前線には行かないとAが言いだしたら、軍律違反で処刑ものですから逆らえません。

 

 以上雑駁ですが見解を述べました。ひとつ国際法の解釈の成文化されない原則を言います。それは、解釈は自国に有利に解釈すべし、ということです。ですからAを射殺したことがドイツ側にバレて、射殺した通訳兵がドイツ側に捕まったと仮定すれば、ドイツ側は捕獲して武装解除した捕虜を殺害した、という口実で国際法違反として処刑するでしょう。

 東京裁判に日本人弁護に来た米国人は真摯に日本人の無罪を主張し「原爆の投下を命令した者を知っている。」とまで叫びましたが、これは原爆が戦時国際法違反の残虐な兵器だと言ったのではなく、米軍の最高指揮官は米大統領であることを言ったまでです。つまり東條らが戦争の最高責任者であったが故に戦犯になるはずはない、と主張するための比喩なのです。

 米国人弁護士たちは信念を賭して、日本人を弁護したために、米国民たちからは白眼視されましたが、それでも米大統領が戦時国際法違反の命令をしたとは決して言いませんでした。それが米国人としての信念です。見上げたものではありませんか。ちなみに彼らなら、原爆はダムダム弾のような残虐兵器には指定されていなかったから「残虐兵器」には相当しないと言い張ることでしょう。

 ある軍学者を自称する日本人は、中国に対しては侵略戦争をしていないが、米国には不戦条約違反をしたから、日本は米国を侵略したなどと繰り返し述べています。国際法は自国に有利に解釈するものです。日本人政治家が侵略戦争をしたと言いだした瞬間に、本当に侵略戦争をしたということが国際的に認知されることになってしまうのです。

ドイツですら第二次大戦を侵略戦争ではなく、ヒトラー一味がかつてに戦争を始めたのに過ぎないと開き直っています。愚かな知識人を自称する日本人が増えたものです。小生の父も叔父も参戦しましたが、侵略戦争などと露程も思っていませんでした。一介の庶民程案外知恵があるものです。

 小生は、専門的素養の有無を常に問題にします。例えば工学的素養などということです。それは必ずしも、工学部出身だとか工業高専の出身だとか言うばかりとは限りません。しかし、工学の基礎を系統的に学んだ基礎を身につけていることをいいます。それでは法律の素養のない小生が平気で国際法を論ずるのでしょうか。法律の素養がある、というのは、国内法に限ります。国際法とは、法体系が全く異なるからです。現今の日本で国際法の素養のある人は極めて少ないのです。その意味で、小生も多くの国際法の論者程度の素養があると自負しているからです

 


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2 コメント

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猫の誠さんへ。 (テレビとうさん)
2019-08-21 08:44:17
最初からドイツ兵Aは「捕虜」になったと思ってしまいました。ひっかけ問題の様な気もします。

「捕獲」「投降」「降伏」は「捕虜になる絶対条件ではない」という事ですね。
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実はです (猫の誠)
2019-08-22 05:45:38
かの南京攻略戦の国際法の解釈や、日本の軍隊がいかに道義的だったかを認識するヒントにするつもりですのであしからず。
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