褒めまくる映画伝道師のブログ

映画の記事がメイン。自己基準で良かった映画ばかり紹介します。とにかく褒めることがコンセプトです。

映画 邪魔者は殺せ(1947) 瀕死になりながらの逃亡

2023年08月07日 | 映画(さ行)
 タイトルから想像すると、酷い内容の映画を想像してしまう。ちなみにタイトルの原題はOdd Man Out。意味は「残りもの、余りもの」「仲間はずれ」といったところ。個人的には原題の方もおかしいと思うのだが、もっとおかしいのが邦題の付け方。この映画のどこに邪魔者が居たのか?そして、殺せなんて命令している奴も出てこない。確かに主人公のバックボーンは決して褒められないが、なかなか最後は感動できるストーリーだし、人殺しをしているシーンはあるが、観ている間は主人公がそこまで悪い奴に見えない。むしろ、自分も怪我を負ってフラフラになりながら逃亡している姿に悲しみすら感じさせるストーリーが今回紹介する映画邪魔者は殺せ。そして本作が面白いのが単なる逃亡記録のような構成になっているのではなく、主人公が逃亡中に出会う最中に偶然にも居合わせた人々の様々な反応が人生を感じさせる。散々、悪事を働いているが、そのまま放って置けば死んでしまうような人間を目の当たりにした時、人間はどの様な行動を取ってしまうのか。高い賞金目当てに警察に突き出すか、それとも出来る限りの命を助けるために最善の努力をつくしてやるのか、それとも・・・

 内容だけでなく、映像テクニックにも感心させられるストーリーの紹介を。
 北アイルランドにおいて。ある部屋においてジョニー(ジェームズ・メイソン)を首領とする5人の男たちが組織の資金集めのために銀行強盗の計画を立てている。ジョニーは獄中に8カ月、脱獄して隠れて半年。1年以上もの間、外出していなかったジョニーを今回の強盗の実行部隊から外す意見もあったのだが、ジョニーはこの中ではリーダーだということもあり、頑なに降りることを拒んでいた。
 いよいよ銀行強盗を実行する。現金は簡単に奪えたが、逃げる段階でジョニーのブランクの長さが響く。ジョニーは銀行の職員に追いつかれてもみ合うことになるが、ジョニーは銀行員を射殺するのだが、銀行員の撃った弾を左肩に喰らってしまう。
 他の仲間が乗っている逃亡用の車にジョニーも乗ろうとするが、運転手が焦ってしまっているためにジョニーは殆ど車に捕まったままの状態で発車。猛スピードで走る車に乗り込めなかったジョニーは振り落とされてしまう。逃亡用の車に乗っていた仲間達が助けに行こうかとする間に、しばらく微動だにせずに倒れていたジョニーは急に立ち上がり、走って別方向へ逃げ出してしまい・・・

 北アイルランドを舞台にしてるのでこの組織はIRAだとすぐにわかる。時間にして16時から24時に至るまでの8時間のドラマが描かれているが、主人公は17時に負傷して、それから7時間も瀕死の状態で警察の目を避けながらの逃亡。しかも天気が雨が降り出し、終盤は雪が降り出すなど、地味なストーリーだがドラマチックな演出もなされている。
 7時間の逃亡劇といっても防空壕に隠れている時間や、倒れているところを心優しき人に拾われて家に運ばれたり、意識が薄らぐ中で辿り着いたところが酒場で閉店までビール付きで休憩させてもらったりで、ずっとフラフラになりながら血を出しながら歩いている訳ではない。しかしながら、次第に死が近づいていく様子が見てとれるし、彼を慕う綺麗な女性の存在に、愛は信仰を超えるほどの尊さがあるんだよな~、なんて思えたりする。
 本作が公開されたのが1947年ということを考えるとIRAの暴力革命に対する批判が込められているのが丸わかりだし、それでいて何処かテロリストに対する優しさを感じさせるのは何故だろう。音楽はドラマ性を高めるのに充分な役割を果たしているし、主人公の意識が薄らぐ中での幻を見るシーンの映像テクニックは非常に洗練されているし、他にも褒めたりない所がたくさんあるような気がする。
 サスペンス映画でありながら、観ていて色々な想いを起こさせるドラマ性がある。唯一の欠点はタイトル名だけ。非常に洗練された映画を観たいという人に今回は邪魔者は殺せをお勧め映画に挙げておこう

 監督はサスペンス映画の名匠であるキャロル・リード。映画史に遺る大傑作第三の男、これまたサスペンス映画の落ちた偶像がお勧め











 

 
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映画 モンパルナスの灯(1958) 悲劇の天才画家モディリアーニ

2023年08月03日 | 映画(ま行)
 35歳の若さで夭折した悲劇の天才画家であるアメディオ・モディリアーニ。今では彼の名前は有名だし、作品は日本でも観れるが、生前はまるで売れなくて著しく評価が低かった。さて、西洋絵画が好きな俺の彼の作品のイメージだが、その多くは女性をモデルにしており、現実離れした細長い面持ちで、目の描き方がまるでアーモンドみたいで個性的。誰の絵画の作品か知らされてなくても、これはモディリアーニの作品だと見た瞬間にわかる。正直なところ俺から見ればデッサン力があるとは思えず、大してデッサン力がない画家達が取り上げられる印象派と呼ばれる連中よりも劣るような気がする。しかし、絵の評価なんていうのは上手い下手で決まるわけではない。時々絵画展を観に行くことがある俺だが、実際に絵画を観ると絵画集のような本で観るのと大違い。生で観るとやはり画家のパッションのような物を絵画に見出すことができる。

 さて、この悲劇の天才画家の壮絶な生き様とはどのような物だったのか、ストーリーの紹介を。
 モディリアーニ(ジェラール・フィリップ)は、パリのカフェで似顔絵を描きながら小金を稼ごうとしていたが、その殆どは大して喜ばれず、せっかくの似顔絵を返され、その似顔絵の代金だけを払われる屈辱な日々を送っていた。そんな苦悩を彼は酒と女で紛らわすのだが、酒量が増えるだけで女性との付き合いも長く続かない。
 ある日のこと、美術学校に通うジャンヌ(アヌーク・エーメ)に一目惚れ、ジャンヌの方もモディリアーニの事を前から知っており、すでにその時から彼に好意を持っていたのだ。モディリアーニは付き合っていたベアトリス(リリー・パルマー)とサッサと別れ、ジャンヌと付き合おうとする。しかし、初めての待ち合わせのデート時にジャンヌはやって来ない。アル中の体が更に彼を蝕み、ついには医者から暖かいフランスの南部で療養することを求められる。
 療養しながらも制作活動を開始していたモディリアーニは何時もパリのジャンヌに手紙を書き送っていたが、一向に返事が来ない。しかし、突然ジャンヌが現れる。2人の間にやっと幸せな時が訪れるかと思われたが、モディリアーニの個展は客が入らないうえに、絵画の内容が猥褻だと警察から踏み込まれる始末。止められないアルコールは増えるばかり。しかも、彼のプライドが邪魔してアメリカ人の画商からの美味しい要求も断ってしまう。
 しかしながら、モディリアーニの絵画を昔から評価していた画商モレル(リノ・ヴァンチュラ)は彼の動向を常にチェックしており、あるタイミングを見計らって一気に彼の作品を買い漁ろうとしていたのだが・・・

 アル中にして、女性を殴り、しかもカネが無い。それなのに何でこんなに女性にモテるのかがよく理解できないのだが、売れてないにしても画家というのは女性を惹きつける何かがあるらしい。もしかしたら女性モデル達は、真剣な画家の眼差しに弱いのか?と考えたりした。
 死んでから作品が評価される画家というのは多いが、まさにモディリアーニもその1人である。彼がゴッホの事を語りながら芸術家の苦悩を語るシーンがある。ゴッホも今でこそ最も知られている画家の1人であるが生前はモディリアーニと同様に評価されず、その生き様は衝撃的。ゴッホは行動に苛立ちや苦悩を表に出すことができたが、本作のモディリアーニはジャンヌという女性と暮らしているためか、愛する彼女の手前、怒りや苦悩を表に出すことが出来ず、ひたすら酒に逃げる毎日。ゴッホに比べて、どこか暗さを感じさせる。
 さて、本作が逸品な点としてエンディングが挙げられるだろう。画商モレルがモディリアーニの作品を買い漁ろうとする時の、ジャンヌの笑顔。本作の後日談になるがモディリアーニが死んだ翌日にジャンヌが自殺したことを知って観ると、エンディングが更に際立っていることが分かるだろう。
 ちなみに本作のモディリアーニを演じたジェラール・フィリップは当時のフランスの大スター。しかしながら彼も36歳という若さで夭折をしている。そのことも知っておくと更に本作を興味深く観れるし、天才であることの脆さを改めて知ることができるだろう。
 フランス映画を観たいと思っている人、モディリアーニに興味がある人、余韻が残る映画を観たい人・・・等などに今回はモンパルナスの灯をお勧め映画に挙げておこう

 監督はジャック・ベッケル。ヌーヴェルバーグ到来前のフランスを代表する監督。肉体の冠、フレンチギャング映画の傑現金に手を出すな、脱獄映画の傑作等がお勧め







 

 







 


 

 

 
 
 

 

 
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映画 マネー・ショート 華麗なる大逆転(2015) 経済に詳しい人なら・・・

2023年08月01日 | 映画(ま行)
 世の中には凄い人が居るというのを改めて感じさせてくれるのが今回紹介する映画マネー・ショート 華麗なる大逆転。世界中を大不況に陥らさせたリーマン・ショックによって、多くの人が貧困に叩き落とされた。アメリカの金融システムだけに止まらず、グローバリズム経済の欠点をモロに痛感したのはアメリカ人だけでなく、世界中の人が痛感した。しかし、そんな金融システムを逆手にとって大儲けをした人間が居る。彼らは多くの人がどん底に陥ってしまった中で、どのような手段を使ったのか。
 ちなみに本作は経済をテーマにした映画だから、経済用語がこれでもかと容赦なく出てくる。所々で重要な経済用語についての説明はセレブな登場人物達が分かり易く説明してくれるのだが、経済に詳しくない人は1回説明されただけでは理解できない。よって、本作を観る前にリーマンショックにおける基本的な経済用語は事前に勉強してから臨む必要がある。
 例えば超基本的なところではサブプライムローン、そしてショート空売り)、MBS(モーゲージ債)、CDO(債務担保証書)、CDS(クレジッド・デフォルト・スワップ)ぐらいの経済用語を抑えておけば良いだろう。
 ちなみに空売りについて少々説明しておこう。俺は株をしないので知らなかったのだが、株で利益を出すためにはその銘柄を安く買って、高値で売るしか方法がないと思っていた。しかし、本作を観て知ったのだが、高い時に買って、安くなった時に買い戻した時の差額が利益になる方法が空売り(厳密には違うかもしれないが)。俺が思っていたのと逆の発想で、株価が下がった時に利益が出るなんて全く知らなかった。しかしながら、この方法のデメリットは株価が下がらずに上がってしまった場合は、保険料を支払わなければならないこと。本作でも空売りを実行した主人公がこの保険料で苦しむシーンが出てくる。

 早速だが、テンポ良く、ポップなシーンを散りばめられるストーリーの紹介を。
 身なりが証券マンとは程遠いようなTシャツ、短パン、裸足の姿で出社している金融トレーダーのマイケル(クリスチャン・ベイル)。彼は信頼度の格付けが最高のAAAランクの金融商品の中に極めて信頼度の低いサブプライムローンが紛れこんでいることを見抜き、多額の金を使って空売りを仕掛ける。周囲はそんなマイケルを変人扱いするが、彼の動きを察知した者の中にはごく少数だが、なるほど~と!同じく空売りを仕掛ける者もいた。彼らのモチベーションは金持ちになることもあるが、歪な構造における金融システムへの挑戦でもあったのだが・・・

 副題に『華麗なる逆転』とあるので痛快なラストシーンを想像する人が多いかもしれないが、観る前から誰もが金融危機を描いていることを知っているので喜べないし、その憂き目にあった当事者は複雑な気持ちになるだろう。金融崩壊をかぎ取る主な登場人物がマイケル(クリスチャン・ベイル)、大手投資会社の傘下に入っている会社のトレーダーであるマーク(スティーヴ・カレル)、銀行員のジャレッド(ライアン・ゴズリング)、元トレーダーのベン(ブラッド・ピット)、主にこの4人。よく考えたらこの4人は職柄的には金融崩壊が起きれば自分が困ったり、どこか心に傷を抱えていたりするのが、本作を少しばかり深みのある作品にしている。
 この中でも俺はスティーヴ・カレル演じるマークに興味が惹かれた。マークには兄が居たのだが、カネのせいで自殺してしまっている。彼は清廉にしてピュアな人間であり、兄の死から立ち直れないでいるし、また自分の仕事にも懐疑的であり、しかも貧乏な人や返済能力がない人に対しても、どんどん住宅ローンを組ます金融関係の人間に怒りを感じている。そのお陰で彼の毒舌、怒鳴り声を挙げる等は日常茶飯事。しかし、彼もいざという時に苦悩する。実は俺も生き馬の目を抜くような人間と同じではないか?。祖国アメリカの崩壊を願っている自分は間違っているのではないか?。このあたりのジレンマに悩む姿は爽快感は無いが、バブルでやりたい放題の浮かれた人間との温度差を感じられ、人間ドラマ的な要素を感じられる。

 そしてベン(ブラッド・ピット)の出番は多くないが、ウォール街に嫌気がさし大手の投資会社を辞めた元トレーダーにも興味が惹かれる。ベンは金融業界に興味を持った若い二人を手助けをする役回りを演じる。ベンが若い二人が喜んでいるのを一喝するシーンがあるが、この男もまたマークと同じことを考えていたことが分かる。そして、若い二人が不安に悩まされながらも最後に大金持ちになった時に、ベンに対して疑問をぶつける。「どうして僕たちの手伝いをしてくれたんですか」。それに対するベンの答えが格好良い。「金持ちになりたいんだろ」。色々と印象的な台詞が多いが映画だが、俺はこの台詞が一番心に染みた。

 本作は色々なことを観ている者に示唆してくれる。どんどんバブルが膨れ上がることに気付かずに浮かれまくっている人間の馬鹿さの空気を感じられるし、あの時の反省を今こそしなければならないと思わさせられる。そして、マイケル(クリスチャン・ベイル)からは我慢強さもそうだが、それ以上にいつバブルが弾けるかのタイミングをある程度は見抜いていたこと。これが凄い。どんどん住宅の価格が上昇している時代にいずれバブルが弾けることを予想し、それが近い将来だということに気付いた点。それでも予想に反する株価の動きがあったりで苦しむこともあるが、彼の揺るぎない信念が大儲けをもたらす。

 他にも色々と金融業界を他の業界に変えて考えさせられたり、先行き不透明な世界において私は20年後のことを考えているなんていい加減なことを言うことの罪の深さを感じたり、机上の論理と現実の世界におけるギャップを感じることの大切さを考えさせられたり、人間は同じことの過ちを繰り返す生き物だと改めて教えられたり・・・等など、色々と感じられる。
 経済に詳しい人、経済にそれほど詳しくなくても難しい用語を気にせずに見れる人(これが一番適した本作の見方かな?)、アメリカのジョークに造詣が深い人、金持ちになりたい野心を持っている人、リーマンショックから未だに抜け出せない人・・・等などに今回は映画マネー・ショート 華麗なる大逆転をお勧め映画として挙げておこう

 監督は社会派的な作品でもコメディに作り変えてしまうのが得意なアダム・マッケイ俺たちニュースキャスター、元アメリカ副大統領のディック・チェイニーを描いたバイスがお勧め






 
 
 

 
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映画 アメリカン・ドリーマー 理想の代償(2014) 石油業界の闇

2023年07月29日 | 映画(あ行)
 本作は夢が溢れるようなタイトルが付けられているが、原題はA Most Violent Year。直訳すれば『最も暴力的な年』といったところ。さて今回紹介するアメリカン・ドリーマー 理想の代償だが、1981年のニューヨークが舞台。この当時はまだ俺は愛くるしい小学生だったのだが、すでにこの頃からニューヨークは治安が悪いと聞かされていた。本作を観ていてもニュースが流れるシーンが非常に多いのだが、その中で聞かれるのが多くの発砲事件。それも日常茶飯事的に発生していたことを映画はリアルに伝えてくれる。
 まあ、暴力が日常茶飯事的に行われ、目にしたり、被害に遭ったりするような世界において、まずは自分の身を守るために銃の一丁ぐらいは持っておこうか、なんて思ったりするのが普通のような気がするが、本作の石油会社を経営する主人公は銃を持つことを極度に嫌い、また石油を運ぶタンクローリーの運転手にも銃を持たすことは許さない。それによって自社のタンクローリーが強奪され、何万バレルかの石油の損失に頭を悩ませながらも、銃を持つことには絶対に反対。しかしながら会社を成長させようとすればするほど、嫉妬を買い損失が酷くなる。理想と現実のギャップを主人公がどうやって埋めていくのかというのが本作の大きな見所だろう。

 暴力には非暴力でなんて、偉大なるインドの指導者であるガンジーを思い出させる主人公の悩みと葛藤のストーリー紹介を。
 1981年のニューヨーク。移民であるアベル(オスカー・アイザック)は石油会社を立ち上げて10年ほどになるが既に成功者として知られていた。しかしながら、彼は更なる会社の成長のために、イーストリバーに面している石油貯蔵庫がある土地をユダヤ人から買おうとする。そして全財産を頭金として突っ込み、残りは銀行からの融資で賄おうとしていた。
 ところがその途端に、自社のタンクローリーが襲撃されて石油ごと持ち逃げされる事件が連発する。物流組合の会長や会社の経理を担当している妻アンナ(ジェシカ・チャスティン)からは違法ながらもドライバーの自衛のために銃を持つことを提案されるが、何の疾しいことのない健全なる会社運営をすることを信念とするアベルはその案を却下。アベルはその対策として検事に話を持ち掛けるのだが、何と会社の脱税や価格操作を指摘されてしまい、挙句の果てには家宅捜索まで受けてしまう始末。
 しかも、そのことがライバルの同業者達にバレて話が広まり、しかも銀行からの融資も止めれてしまいそうになってしまい・・・

 他社のライバル同業者達とは一線を画して公明正大 に取り組み、健全に会社を運営することを信念としていたのに、まさかの不正追及を食らってしまう展開は、ただ今お騒がせ中のビッグモーター社を思い出してしまった。正直なところビッグモーターの前社長の会見はなんだか更なる疑念が深まったが。
 しかし、本作で描かれる石油業界のドロドロとした利権絡みの出来事が当たり前のように描かれていることに驚く。石油を売るだけなのに銃撃されたり、銃を持った男に家宅侵入されてしまう等の嫌がらせの数々。そんな世界において自衛のための銃を持つことを拒否し、そんな悪質な業界の中で公正な競争にこだわるアベルのやり方は、一見ひ弱すぎる態度に思える。そんな男が最後に究極の選択を迫られることになるのだが、その行動は果たして是か非か。生きるか死ぬかの弱肉強食のアメリカ社会の厳しさを観ていて思い知らされた。
 俺みたいに常に自分の信じるモラルに従って生きていくことに息苦しさを感じている人、アメリカ社会の厳しさを見たい人、ビッグモーターの前社長の会見に怒りを覚えた人、自分の働いている会社が不正をしていることに気付いている人等に今回は映画アメリカン・ドリーマー 理想の代償をお勧めに挙げておこう

 監督はJ・C・チャンダー。まだ監督作品は少ないですが長編デビュー作品のマージン・コールはお勧め







 
 
 

 

 
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映画 若草の萌えるころ(1968) 青春映画ですが・・・

2023年07月26日 | 映画(わ行)
 原題をいじくって、ロクでもない邦題で公開される外国映画があるが、今回紹介する映画若草の萌えるころがまさにそれ。この邦題のおかげで本作の魅力まで損なわれてしまった。ちなみに原題はTante Zita。意味はフランス語で『ジタ叔母さん』。確かにこの原題を知ると、このまま邦題として使う気など起こらないのもわかる。まあ、俺だったら『優しかった叔母さん』なんて邦題を付けたかな。
 本作は邦題のタイトル名からして青春映画のように思う人が多いだろう。確かにそのような側面はある。しかしながら青春映画だけで片づけてしまうと、観終わった後に全く感動が無い映画。むしろ原題が『ジタ叔母さん』だということを知ってから観ると、少しばかり感動を得られる。
 
 早速だが、ストーリーの紹介を。
 少女にピアノを教えていたオバサンが、レッスンを終えて少女が帰った後に昔の悪夢を思い出してしまい倒れてしまう。そこへ帰ってきてオバサンが倒れているのに気づいたのがアニー(ジョアンナ・シムカス)。倒れていたのはアニーにとっては母親よりも大好きなジタ叔母(カティーナ・パクシー)さんだったのだ。アニーの素早い対応のおかげでその場はなんとかジタ叔母さんは助かるが、脳梗塞を患い、麻痺は残り、喋れない状況に陥ってしまった。
 それ以来、アニーは何事もやる気が起きず彼氏との仲も気まずいものになっていく。心配で夜も眠れないアニーは、真夜中にもかかわらず外へ飛び出してしまい・・・

 アニーを演じるジョアンナ・シムカスが若くて美人。この人は後に黒人俳優の名優シドニー・ポワチエと結婚するが、こんな女性が真夜中に思い付きで外に飛び出したら危ない。ちょっとばかりイケメンのストーカーをしていたら、そのまま賑やかなバーに入ると見知らぬオッサンからナンパされるし、バーから1人で出ると浮浪者に襲われそうになった挙句に自分も警察へ連れていかれるし、警察署からそのまま家に帰れば良いのに再度バーに戻ってしまいイケメンと知り合いになれたのは良いが、不良に危うく絡まれたり・・・等、ロクでもない展開が途中はダラダラ続く。非常にはた迷惑な行動を起こしてしまうように観ていて面倒くさいが、ジョアンナ・シムカスが美人なので男性には目の保養になるし、その様なシーンも用意されているのが嬉しい。
 しかし、本作が素晴らしいのがラストシーン。ここで原題を思い出すとイライラするような展開を思わず忘れてしまい、実は若き女性の一晩で経験する不安、恐怖、そして素敵な恋が情緒的に描かれていることに気付くだろう。
 まあ、メンタルが弱っている時に観て気力が湧いてくるような映画ではないが、男ならジョアンナ・シムカスを見て目の保養に、女性ならば更に感性が豊かになれる?映画として今回は若草の萌えるころをお勧め映画に挙げておこう

 監督はロベール・アンリコ。青春的なタッチで描く作風が気持ちいい。本作と同じくジョアンナ・シムカスとアラン・ドロン、リノ・ヴァンチュラ共演のアドベンチャー、青春映画の趣をもった冒険者たち、ジャン=ポール・ベルモンドがレーサー崩れからマフィアの大物へ成り上がろうとするオー!Ho!、そして妻子を殺されたオジサンが復讐の鬼と化す追想がお勧め







 
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映画 黄金の腕(1955) 麻薬がテーマですが・・・

2023年07月24日 | 映画(あ行)
 1960年代までのアメリカ映画においてヘイズ・コードと呼ばれる色々と規制される項目があった。例えば、裸、ベッドシーン等等。その中には麻薬をテーマにした作品もヘイズ・コードに引っ掛かるが、そんなタブーをぶち破って制作された映画が今回紹介する黄金の腕。本当に世の中には悪い奴がたくさん居るが、本作も薬漬けから抜け出して人生を一からやり直そうとするフランク・シナトラ演じる主人公の脚を引っ張る奴が登場する。とことん弱みに付け込んで利益を貪ろうとする悪党は何時の世にも居るのが本作を観ればわかる。

 さて、麻薬を断ち切れない意志の弱い男だけでなく、他にも弱い人間が登場するストーリーの紹介を。
 六カ月の療養生活を終えて故郷に戻ってきたフランキー(フランク・シナトラ)。彼は『黄金の腕』と異名を付けられるほどの凄腕ディーラー(トランプを配る親のこと)として、この町の近辺では有名人であったのだが、彼は新しい生活を進もうと療養生活中にドラムを覚えドラマーとして生きていく決心をしていた。しかし、『黄金の腕』を持つフランキーを昔の仲間が待ち構えており、彼らは麻薬をチラつかせながら、ディーラーへの道へ引きずり込もうとする。
 フランキーは妻のゾシュ(エリノア・パーカー)が待つアパートに戻るが、彼女は車椅子の生活を強いられていた。それはフランキーの飲酒運転が原因の事故であり、それでもゾシュはフランキーを愛しており、フランキーも自らの過ちに対する贖罪からゾシュの面倒を一生見るつもりでいた。しかし、ゾシュはドラマーを目指すフランキーに対し将来性を見出すことが出来ずに、ディーラーとしての道に戻って欲しいと願い、そんなフランキーを責める。
 やり場のないフランキーは再び麻薬に手を染めてしまい、再びゾシュの願い通りにディーラーとしての道を歩き出すのだが・・・

 せっかく新しい人生を切り開こうとしているフランキーに襲い掛かる踏んだり蹴ったりの事態。かつての賭博仲間だけでなく、妻のゾシュも純粋にフランキーの事を愛しているのかと思ってたら、実は結構な悩みの種であったり、ドラマーになるための面接も前日から当日にかけての徹夜でのトランプ賭博を強要されるわ、薬切れの禁断症状に襲われたりで、もちろんドラマーになるためのテストは手が震えて大失敗。しかも、人殺しの疑いまで掛けられる始末。すっかり神様からも見放されてしまったかのような絶望感が漂うが、そこは悪党が居れば、困った時に助けてくれる善人もいる世の中。本作を観ていると改めて、どんな困難な目に遭っても決して諦めてはいけないと思わせる。
 実は俺が本作で気に入ったのがストーリーよりも全編に流れる格好良いジャズ音楽。ストーリーだけだったらワザワザ本作を紹介することは無かった。薬物をテーマにした映画と格好良い音楽の組み合わせがこれ程までに相性が良いとは我ながら驚いた。そして、タイトルバックが非常にお洒落。この時代にこれ程までに凝ったデザイン性を感じさせるタイトルバックはあまり記憶に無いぐらいの出来栄えであり、ストーリーが始まる前から惹きつけられる映画だ。
 ストーリーと音楽が見事にハマっている映画を観たい人、麻薬の怖さを知りたい人、中身よりもタイトルバックに興味がある人、ボロボロになる人間を見たい人等に今回は黄金の腕をお勧め映画に挙げておこう

 監督は社会派映画の良品を連発するオットー・プレミンジャー。本作なんかはヘイズ・コードをぶち破るあたりは面目躍如たる作品ですが、他には法廷劇の或る殺人、現代版(1960年の作品ですが)十戒(じゅっかい)とでも言うべき作品の栄光への脱出がお勧め

 
 
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映画 ザ・ギフト(2015) 贈り物攻撃です

2023年07月18日 | 映画(さ行)
 7月7日は七夕の日、ではあるが他にギフトの日としても制定されている。俺は七夕の日は短冊に願い事を書くのに必死でプレゼントを贈ることなど全く頭に無かった。しかし、ギフトの日だったと聞いて俺の頭に浮かんできたのが、タイトル名通りズバリである、今回紹介する映画ザ・ギフト。正直なところ肝心の7月7日からだいぶ日が経ってしまったの感は否めないが。
 俺は面倒臭がりの人間だから、贈り物を考える時間が苦痛なのだが、貰う方なら何でもオッケー。それでも時々だが、まるで空気が読めていないような、ありがた迷惑な贈り物を貰う時もあったりした。さて、本作のストーリーがまさにそれ。最初は俺も貰って嬉しい白ワインだったのが、次第にエスカレートしていき最後にもらうプレゼントは・・・

 何だか嬉しくなるようなタイトル名だが、観終わった後にショックのどん底に叩きのめされるストーリーの紹介を。
 金銭的にも何の不安もない夫のサイモン(ジェイソン・ベイトマン)と妻のロビン(レベッカ・ホール)はシカゴに住んでいたのだが、とある理由でサイモンの故郷であったロサンゼルスに引っ越してきた。家はでかいガラス張りでそこから見える風景は美しく、家の入口には池があり、豪邸そのもの。近くの店で夫婦で買い物をしていると、かつてサイモンと高校の同級生だったゴードン(ジョエル・エドガートン)から声を掛けられる。お互いが25年振りの再会だったのだが、サイモンにとってゴードンとは特別仲が良かった訳ではなかったのでそれほどの感激がはなかった。しかし、それ以来ゴードンから最初こそ白ワインを贈り物として家に贈られたのは良かったのだが、次の日にはいきなり池に鯉が数匹自分たちが居ない間に贈られており、それだけで止まらず次第にゴードンのエスカレートしていく贈り物に夫婦はヤバい気配を感じるのだが・・・

 高校時代に仲が良かった訳でもないのに、どんどん贈り物を届けてきて、しかも決まって夫のサイモンが不在で、ロビンが1人で在宅の時に現れるゴードン。しかも、家が豪邸でガラス張りだから家の外から中がスケスケで見えている感じがするし、ロビンを演じるレベッカ・ホールだが身長が高くて抜群のスタイルをしていて超美人。これは如何にもヤバいことが起きそうだと観ていてドキドキしていたが、当の本人であるロビンは人が良過ぎるところがあり、平気でゴードンを家の中に居れてしまうし、サイモンがアイツは高校時代から少しばかりヤバい奴だったぞなんてアドバイスされても、人付き合いが苦手そうなゴードンに対して同情していて話し相手に進んでなりたがるなど、まるで聖母マリア様のような優しい心で接している。
 しかし、本作のテーマの一つとして因縁、謝罪、欺瞞、そして仕返しといったものが挙げられる。ゴードンが不気味そうな雰囲気を終始醸し出しているのと反対に、サイモンは良き旦那であり、出世はするし妻からすれば最高過ぎる夫。しかし、先ほど述べたテーマがあからさまになった時に、悲劇が訪れる。そして、ゴードンからの最後の贈り物が届いた時には夫婦ともども、観ている我々もショックに襲われる。いや、ショックだけで収まるようなレベルでは無いっか?!クライマックスへ行くまでの構成が抜群で、より一層サスペンス感を盛り上げるのが良い。
 サイコがかりなサスペンスを観たい人、サイモンの気持ちになって観ることができる人、豪邸に住みたい人・・・等に今回は映画ザ・ギフトをお勧めしておこう

 監督は本作で不気味なゴードンを演じるジョエル・エドガードン。本作で監督としての才能を見せつけていますが、まだ若いので今後の監督作品も期待できそうです。







 
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映画 ニュールンベルグ裁判(1961) 戦後ナチスドイツを裁く軍事裁判

2023年07月17日 | 映画(な行)
 俺なんかは茶番劇だと思っている第二次世界後の敗戦国である日本の当時の指導者達を裁いた東京裁判。あの裁判のおかげで我が国ニッポンは未だに戦後の自虐史観から抜け出せずにいるのが現状。敗戦国は日本だけでなくドイツもまた然り。ドイツにおける第二次世界大戦中において、戦争責任に問われたナチスドイツの指導者を裁く司法裁判の行方を描いた作品が今回紹介する映画ニュールンベルグ裁判。両裁判とも戦勝国側が一方的に敗戦国側を裁くという図式だが、果たしてそのようなことで公平な裁判が本当に行われたのかどうか?
 現代の我々の多くは、ナチスドイツと聞くだけで悪魔の如く凶悪な集団のように思えてしまったりするし、その様に教えられたし、またそのような本や映画を読まされたし、観てきた。しかし、もう一度自分に問いかける。一体、アドルフ・ヒットラーという人類史上始まって以来の大悪党を産んでしまった原因は何なのか?ユダヤ人大虐殺は弁解の余地のない程の残酷な仕打ちだが、しかし彼が第二次世界大戦を引き起こした要因において、他国には責任はないのか?物事を一方通行で観てしまうと本質を見誤ることがある。その点を少々なりとも理解するのに本作は良い教科書だ。
 ストーリーの紹介をする前に少しばかり説明を付け加えておこう。1933年にナチスがドイツの政権を担当することになる。それも選挙によってだ。どこぞの国は暴力革命で政府が誕生したりするが、ヒットラーを最高指導者とするナチスは民主主義による手続きを経て誕生したのだ。ナチス政権が誕生する前にはワイマール憲法というのが存在している。この憲法は我が国日本の旧憲法だけでなく、世界的に模範とされる憲法とされている。
 しかしながら、ヒットラーを中心としたナチスは1935年に権力を逆手にとって自らの野望を剥き出しにした法律を改変する。その内の一つが断種法。アーリア人以外の民族の浄化を目的としていたヒットラーはユダヤ人を無理矢理に避妊手術を受けさせるような法律を作ってしまった。その犠牲者としてモンゴメリー・クリフトが出演している。
 そして本作にはもう一つ重要な案件の裁判としてフェルデンシュタイン事件。これはナチス政権時代の出来事で、当時16歳のアーリア人の少女アイリーン=ホフマン(この役をジュディー・ガーランドが演じている)がユダヤ人であるフェルデンシュタインと肉体関係が有ったのか無かったのか?という裁判。ナチス政権下の裁判においては最初から有罪ありきの裁判であり、ロクな裁判も行われずにユダヤ人であるフェルデンシュタインは死刑、アリリーン=ホフマンは2年の懲役刑が言い渡される。
 このナチス政権時代に行われた、この二つの案件に対して有罪判決を出した当時の4名の判事をアメリカ軍の検察が告訴し、それに対してドイツ人の弁護士が迎え撃とうとするのが本作の大きなメインテーマ。

 長々とした前振りはこれぐらいにしておいてストーリーの紹介を。
 1945年にアメリカを中心とする連合国が勝利して第二次世界大戦が終わる。1948年にドイツのニュールンベルグでナチスドイツの犯罪に関わった人物の裁判が行われていた。その内の一つである司法裁判において裁判長を務めるダン(スペンサー・トレイシー)がアメリカからやって来る。
 被告席にはナチス政権時に「断種法裁判」と「フェルデンシュタイン事件」に関わった当時の4人の判事が居たのだが、その中にはワイマール憲法の起草にも携わった世界的法律家として名高く、ナチス政権下で法務大臣を務めていたヤニング(バート・ランカスター)も座っていた。
 彼ら4人を訴えたのがアメリカ軍のやり手の検事であるローソン大佐(リチャード・ウィドマーク)、そして彼と激しくやり合うドイツの弁護士でありヤニングのことを前々から尊敬していた若き弁護士ロルフ(マクシミリアン・シェル)。裁判の行方は巧みな論法でロルフが有利で進んでいたのだが、ローソン大佐がナチスドイツの残虐行為の記録映像を法廷内で公開してから空気は一気にローソン大佐へと変わる。それでも祖国ドイツの誇りを守るために奮闘するロルフ弁護士だったのだが、裁判中にヤニングが自ら有罪を認める発言をしてしまい・・・

 被告席に座っている4人のナチス政権下での判決振りがもの凄く酷い。ナチスの利に適わない人間を法廷に引っ張り出して、サッサと死刑判決。俺なんかはこれは酷いの一言でその先の言葉が出てこないのだが、ロルフの弁護が非常に巧みなだけでなく、色々と考えさせられた。異常な政治体制下において、どこまで人間は正しい判断ができるのか?。特に本作はドイツ人から祖国という言葉がよく出てくる。当時のヒットラーが出現するまではドイツ人は貧困を強いられていた。そんなドイツ人が絶望の中に希望を見出したのがアドルフ・ヒットラー。現在の感覚では考えられないが、彼の演説によって多くのドイツ国民は勇気づけられ、心酔した。実際にヒットラーは戦争で連戦連勝でヨーロッパの殆どの国を統治下に治め、ドイツ国民を貧しさから救った。そして、当時のドイツ人達はあのようなユダヤ人大虐殺が行われていたとは殆どが知らないわけだ。
 そして実はずっと喋らないでいたヤニングだが、彼が証言台で語ったことが非常に考えさせられる。彼はヒットラーを嫌っていたのだが、絶望的な状況に陥っているドイツを立て直すにはヒットラーの力が必要だと。しかし、それは一過性のことであり、いずれはヒットラーも表舞台から消えるだろうと。しかしながらヤニングの予想は大きく外れてしまい、とんでもない記録映像を観てしまった。ヤニングだけでなく、他の被告人もヒットラーを支持することで祖国ドイツ復活を願っていたし、また政治状況からヒットラーを支持するしか仕方なかったのではないか?。自分の立場を守るか、それとも自らの立場を捨ててまでヒットラーに対して背信行為を行えるか、これは今だったら答えは簡単に出せるが、その当時の人にとってはどちらが正解かの答えを出させるのは非常に酷だと思える。
 そして法廷内での裁判官が議論してくる中で出てくるが国際法か国家法のどちらが優先されるかの問題。よく考えたら当時のドイツの状況だったら国家法が優先されるよな~なんて思った俺はアホなのか?この被告席の4人は無罪じゃね~なんて思ったのだが・・・。このように考えさせられるから勝者の一方的な価値を押し付けて法廷で裁くことの難しさを痛感させられる。
 他にも東西冷戦による政治的駆け引きが出てくるシーンがあったり、ヤニングが最後に見せる表情はどういうことだったの?なんて考えさせられたり、それ以外にも色々なテーマが含まれている作品。今まで書いた出演者以外にもマレーネ・ディードリッヒが非常に考えさせられるシーンに出てきたり、豪華出演陣の映画の割にそれぞれが素晴らしい演技を見せているために誰もが印象的。
 そして、俺が最も心が震えたのが、まさかのマクシミリアン・シェル演じるロルフの最終弁論。ナチスに忠誠を誓っている被告を弁護する奴の言うことなんか出鱈目ばかりだろうと当初は思っていたのが、最後の最後にこんなに的を射た演説を聞かされるとは夢にも思わなかった。「この被告席の4人が有罪ならば戦争で金儲けをしたアメリカ人も有罪だ」。これをアメリカの裁判官にぶちまけるのだが、本当に気持ち良かった。アメリカの方が第二次世界大戦でもっと悪いことをしているだろう。
 それにしても本作はハリウッドが製作したわけだが、本作のような内容の映画を撮ってしまうアメリカのリベラルの凄さをまざまざと見せつけられた気がする。いかに日本のリベラルが日本の役に立たないかが本作によって浮き彫りにされてしまったことが非常に皮肉に思えた。
 3時間の長丁場だが、色々と考えさせられ勉強させられる映画。観ている最中は心が揺れ動きっ放しだったのだが、東京裁判を経験している日本も本作の内容は無関係では済まされない。色々と何気ない台詞の中にも含蓄があったりで、何回も観たくなる映画として今回はニュールンベルグ裁判をお勧め映画に挙げておこう

 監督はスタンリー・クレイマー。社会派映画の傑作が本作以外にも多数。人種差別の愚かさを黒人と白人の逃避行という形で描いた手錠のままの脱獄、原爆の恐怖を意外性を持って描いた渚にてあたりがお勧めです


 
 
 

 
 
 

 

 


 
 
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映画 質屋(1964) ひたすら空虚な主人公

2023年07月14日 | 映画(さ行)
 今の人々にとってホローコスト(ユダヤ人大虐殺)と言っても、ずい分と昔のような気がするだろう。しかし、本作が公開された1964年と言えば多くのユダヤ人にとってホローコストに対する恐怖を拭いされていない時代。今回紹介する映画質屋はユダヤ人大虐殺をテーマにし、ナチスによるホローコストを生き延びた主人公のお話し。家族や仲間が目の前でナチスに殺され、自らは生き残った罪悪感に苛まされながら質屋を営みながら生活している。しかし、彼はあの日以来すっかり感情を無くしてしまったようで訪れるお客さんに対して常にぶっきら棒で接し、事あるごとに脳裏に家族がナチスに殺されたり、ユダヤ人の強制収容所やそこに運ばれるギュウギュウ詰めの列車や、仲間を見殺しにしてしまった出来事などがフラッシュバックされ、あの時の恐怖が頭から離れないでいる。そんな彼が信じれるのはカネだけだったのだが・・・

 前半はひたすら陰気臭い質屋のオジサンの様子を見せられるが、後半は少しだけ盛り上がる?ストーリーの紹介を。
 ドイツ系ユダヤ人のソル・ナザーマン(ロッド・スタイガー)は郊外の住宅地で亡き妻の妹の家族と一緒に暮らしており、そこからニューヨークの貧民街で黒人のロドリゲス(ブロック・ピーターズ)の支援を受けて質屋を営んでいた。もう一人の店員はラテン系の少年で母親と2人暮らしのヘズス(ハイメ・サンチェス)。彼はソルとは逆によくしゃべり、将来は自分でも店を構える夢を持っていた。そして非常に物知りなソルから色々と学ぼうとしていた。しかしながら、物知りなソルと色々と哲学的な話をしたいために訪れるお客や、彼に好意を寄せる青年福祉局の夫人マリリン(ジェラルディン・フィッツジェラルド)のようなお客さんも訪れたりするのだが、その様な人達に対しても彼は心を決して開こうとしなかった。
 そんなある日のこと。質屋の経営は実のところ赤字経営。スポンサーであるロドリゲスが赤字の補填と店の改装のための5,000ドルを部下を通してソルに渡し、しっかりと金庫に保管する。しかし、ソルはヘズスの恋人であり娼婦のメイベル(セルマー・オリヴァー)が店を訪れたことを切っ掛けに、ロドリゲスが売春や賭博に手を染めるこの街の暗黒街のボスであることを知ってしまう。ソルはロドリゲスの所へ自ら乗り込んで行き、お前のカネなんか受け取れないと凄んでみせるのだが・・・

 ソルだが常に表情は暗く、殆ど喋らないし、見た目もオッサンそのもの。こんな人に親しく話しかけようとする人が居るわけないだろうと振り返った今も思ってしまう。この映画でソルとロドリゲスが口論しているシーンがあるが、ユダヤ人のことを「私達」と訳されているが、この時に急に猛烈と語り出すソルがユダヤ人の歴史を話してくれるし、そしてなぜユダヤ人は金儲けが上手なのか説明してくれる。この場面は今も巻き戻して見たいと思うぐらい俺的には興味が惹かれた。
 不愛想なソルだが、今でもユダヤ人の収容所で見殺しにしてしまった親友に対する負い目、自分だけが生き残ってしまった事に対する懺悔の想いからかもしれないが、親友の妻のテッシー(マルケータ・キンブレム)や一緒に暮らしていて病弱なお父さんの面倒を見続ける等、義理堅い面もある。しかし、そのような面倒が見られるのも誰のお陰なのかをじっくりと考えた時にソルが受けるショックの大きさの度合いが、観ている我々にも少々わかってしまう。今までカネしか信用できなかったソルの信念が脆くも崩れ去るのだが、これは辛い。俺も色々な飲み会でピンハネをされたのだが、そいつからカネを返してもらおうかと考えた時があったりしたが、そのおカネがもしかしたら市民の税金が紛れ込んでいるかもしれないと思うと、返してもらう気が失せた。
 すっかり人間もカネも信用できなくなってしまったソルだが、果たして彼の苦悩は晴れることがあるのか?キッツイ結末が待っているが、ほんの一瞬だが彼を癒すような希望の灯が点される。
 クインシー・ジョーンズの音楽はニューヨークの雰囲気にばっちりだし、モノクロとセピア調の画面の使い分けは見事だし、ストーリー展開は流石の一言。楽しい気分になりたい時に観る映画ではないが、人間のトラウマ、後悔、悲哀といった心の闇をえぐり出すような作品が好きな人に今回は映画質屋をお勧めに挙げておこう

 監督はシドニー・ルメット。社会派作品の名作を多く生み出した巨匠として映画界にその名は燦燦と輝き続ける。彼を有名にした十二人の怒れる男、原爆への恐怖を描いた未知への飛行、テレビ業界の裏側を描いたネットワーク、猛烈な軍隊批判をした・・・等などお勧め多数です。

 


 
 
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映画 ストーカー(1979) アンドレイ・タルコフスキー監督作品です

2023年07月11日 | 映画(さ行)
 タイトル名から犯罪映画を想像する人が多いと思うが、この映画が公開された当時は今で言うストーカーという言葉の意味では定着されていなかった。ちなみに今回紹介する映画ストーカーはソ連映画であり、アンドレイ・タルコフスキー監督作品。この監督の作品と聞いて心が躍らない人には正直なところお勧めし難いとアドバイスしておこう。
 彼の映画はよく難解だと言われるが、確かに本作もその部類にはいる。大まかなストーリーは、ある目的地へ3人が突き進む、って話。それだけ聞くとアドベンチャー映画っぽく聞こえて楽しめそうな期待を持たせるかもしれないが、ハッキリ言ってスリル、サスペンスを本作に求めると全くの肩透かしを食らってしまう。妙にテンポはとろいし、グダグダとした会話のシーンが多々あったり、盛り上がるようなシーンも無く、タルコフスキー監督作品にしては綺麗な自然の描写が全くない。しかも2時間半の上映時間と聞くと結構長いと思う人には忍耐力を要求される。

 ダメダメ映画かと思わさせておいて、なかなか深読みしがいのあるストーリーの紹介を。
 昔のことだが、某国の某地域において、その場所に隕石が落ちて、村全体が全滅する事態が発生。政府は軍隊をその場所へ派遣するのだが、そのまま軍隊は帰ってこなかった。それ以来、その場所はゾーンと呼ばれ、政府によって立ち入り禁止区域になってしまう。
 ある日の事、ストーカーと呼ばれる男(アレクサンドル・ガイダノフスキー)が妻の静止を振り切り早朝に出かけていく。ストーカーは違法であるゾーンへの侵入者であり、ゾーンへ行きたいという人を伴って連れて行く案内人である。ストーカーが言うにはゾーンには何でも願いが叶うと呼ばれる部屋があり、今日は教授と呼ばれる男(ニコライ・グリニコ)と作家と呼ばれる男(アナトリー・ソローニーツィン)を連れてゾーンへ行こうとしていた。
 立ち入り禁止区域で監視人からの猛烈な銃撃をかいくぐり、3人はゾーンへ到達する。そこは草原が広がっておりボロボロの軍用機や建築物があった。ストーカーの案内でいよいよ部屋へ行こうとするのだが、そこへ行くまでに様々な罠があり、ストーカーが言うには命を落としてしまう人も居たようだ。3人は仲間割れをしたり、また一緒になったりしながらも自らの望みを叶えるために部屋まで、あと一歩の所までやって来るのだが・・・

 この3人が危険な目をしてまでゾーンへ行こうとする理由は何か?ストーカーは現実世界に絶望してしまっている人を1人でも多く救うためにゾーンへの案内人として向かうのだが、彼は部屋には入ろうとしない。作家と呼ばれる男は、どうやら最近はスランプで書くことを苦痛に感じているためにインスピレーションを得るためにソーンへ向かう。そして、教授と呼ばれる男だが彼がゾーンへ向かう理由は部屋に入ろうとする直前にわかるのだが、これはネタバレを伏せておこう。さて、ゾーンは3人に対して、どのような影響を与えるのか、それとも◦••!
 前述したが退屈な進行の割に非常に哲学めいた台詞や抽象物が意味深。俺が勝手に頭の中で巡らせたことを書くと、隕石って原爆なのか、部屋って教会のこと、途中から現れて3人に付いてくる犬ってキリストのモチーフ?、ラストシーンでストーカーの娘が見せる超能力って人間の浅ましさを皮肉ってる?等。
 そして俺が最も感じた事は、人生に絶望を感じている人に対する癒し、救済。観る人によっては、そんなハッピーな内容だったっけ?となるのも不思議ではない。しかし、人生なんて誰しも困難や苦しいことがあるんだと思えると、俺なんかは急に生きる気力が湧いてきた。
 ハリウッドの娯楽映画に慣れきってしまった人には少々ハードルが高い気もするが、今回は映画ストーカーをお勧めに挙げておこう❗️

 監督は映像の詩人とも称されるアンドレイ•タルコフスキー。ストーリー性がしっかりあるという意味で僕の村は戦場だった、SF映画の金字塔惑星ソラリス、個人的に最も好きなノスタルジアをお勧めに挙げておこう❗️


 

 
 



 




 
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映画 過去を逃れて(1947) もの凄い悪女です

2023年07月10日 | 映画(か行)
 サスペンス映画を盛り上げる要素の一つに悪女の存在が挙げられるだろう。美人な悪女であるほど惚れてしまうのは悲しい男の性なのか。そういう意味では今回紹介する映画過去を逃れてはとんでもなく凄い悪女が登場する。悪女によって男が破滅していくようなサスペンス映画の分類として、よくフィルムノワールという言葉が使われるが、本作はその代表作と言っても良いだろう。フィルムノワール作品には本当にモノクロの画像がよく似合う。白黒の陰影が鬱蒼とした雰囲気を醸し出し、想像力を掻き立て、カラーでは出来ないような演出が観る者を惹きつける。

 早速だが、決して褒められたものではない自分を愛してくれる女のために、過去と決別しようと対決に飛び込んでいく男の運命を描いたストーリの紹介を。
 今ではジェフ(ロバート・ミッチャム)は片田舎のガソリンスタンドで働き、アン(ヴァージニア・ヒューストン)という恋人と慎ましく暮らしていた。しかし、そこへジョー(ポール・ヴァレンタイン)が訪れてきて、2人の生活は一変する。
 自分の正体を今まで隠していたジェフはアンに自分の過去を語り出す。それは、かつて自分はニューヨークで相棒のフィッシャー(スティーヴ・ブロディ)と組んで私立探偵を営んでいたこと。そこでカジノを経営するウィット(カーク・ダグラス)から、40,000ドルを持ち逃げされた恋人であるキャシー(ジェーン・グリア)を探して来いと強制的に依頼される。
 ジェフは僅かな手掛かりをもとにメキシコのアカプルコで、キャシーを見つける。実物を目にすると輝くばかりの美しさでジェフはすっかり自分の仕事を忘れてしまいキャシーと愛し合うようになったばかりか、40,000ドルの持ち逃げを否定される。
 そして、ウィットとその部下であるジョーが、突然アカプルコにジェフを突然訪ねてきた。難とかその場をごまかしたジェフは、キャシーと一緒にサンフランシスコへ逃げて、なるべく目立たないように行動する。
 しかし、その場も安泰ではなく相棒であるフィッシャーがウィットから命令を受けてジェフを探し出し、キャシーと一緒に居るところを見られてしまう。分け前を寄こせというフィッシャーとジェフが争いを始めた時に、キャシーは隙を見て銃を取り出しフィッシャーを射殺。その合間を見てキャシーはジェフの車で逃亡してしまう。
 そんな暗い過去をジェフはアンに語り、アンとの愛を再確認したジェフは新しい人生を始めるためにウィットと会ってキリをつけようと彼の所へ向かうが、そこで出会うはずのないキャシーが居るのを見てしまい・・・

 どこへ隠れても、なぜか直ぐに場所がバレてしまうジェフ(ロバート・ミッチャム)の運の悪さに笑ってしまいそうになるが、そんな笑いそうになるのを吹き飛ばしてくれるのが、美人で男が放っておけない魅力を醸し出すキャシー(ジェーン・グリア)の悪女ぶり。彼女も色々な意味で何度もピンチに陥りそうになるのだが、口から出まかせの言い訳が高田純次もビックリの適当さ。何度も「私が愛しているのはあなたよ」なんて言葉で、すぐに男はだまされてしまう。キャシーが狡猾なのではなくて、男がチョロすぎてピンチを脱しているというのが本当のところ。しかし、この悪女が凄いのは口八丁が尽きたと思ったら、最後の手段に打って出るところ。俺も手当たり次第に女性を追いかけたら、痛い目に遭うことを痛感させられた。
 キャシーの悪女振りだけでなく、対比する関係として聖女のようなアンもしっかり描かれているので、過去を清算しようとするジェフの決心にも説得力、格好良さを感じさせるのも良い。何かと予想外の出来事が次々と起きてくるので楽しんで観れる。1940年代のハリウッドで大流行りだったフィルムノワール作品の中でも秀逸な出来の良さだということで今回は過去を逃れてをお勧め映画に挙げておこう。
 ちなみに本作は1984年にテイラー・ハックフォード監督でカリブの熱い夜でリメイクされるぐらいの名作。こちらの方は本作よりも女性のファムファタール度がだいぶ落ちているし、元私立探偵が、クビを宣告されたフットボウラーなど多くの変更点があったりするので、どちらを先に観てても楽しめます。







 


 

 
 
 
 
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映画 その男ゾルバ(1964) 楽天的に生きる強さ

2023年07月06日 | 映画(か行)
 俺みたいな神経が細くて生真面目な人間は何かと損をすることが多くある。俺と同様の人ならば同じような想いを感じている人が多いだろう。特に羨ましく感じるのが、俺と真逆のタイプの人。特に悩みも無さそうで、女性を見かけたら直ぐに声をかけたり、人と関りを持つのに躊躇しなくて、少しばかり図々しいような人。俺なんかは特に人見知りの性格で、人と仲良くなるのに時間が掛かる。
 さて、そんな真逆のタイプの男を見れる映画が今回紹介する映画その男ゾルバ。堅物の男をアラン・ベイツが演じ、逆に陽気で楽天的な男を名優アンソニー・クインが演じる。
 本作はそんな2人を通して、文化や風習の違い、生と死、衝突を通して人の生きる意味を考えさせられる作品だ。

 それでは、自分の性格を変えたいなんて思わせるストーリーの紹介を。
 亡き父が遺産として残したギリシャのクレタ島にあり、今では閉鎖している亜炭炭鉱を再開させようと英国人作家であるバジル(アラン・ベイツ)は現地へ向かおうとしている。その道中で、どことなく粗野な風貌をしている男が話しかけてきた。その男の名はアレックス・ゾルバ(アンソニー・クイン)。話してみると、この男がなかなか楽しい奴。しかも採掘現場の経験もあり、バジルは彼を現場監督として雇うことに決めてクレタ島へ向かう。
 2人はクレタ島の安宿で泊まることにするが、そこの女主人であり愛想の良いホーテンス(リラ・ケドロヴァ)と女好きのゾルバは直ぐに仲良くなってしまう。一方、バジルの方はこの安宿に来る途中で見かけた美しい未亡人(イレーネ・パパス)のことを気に入るのだが、ゾルバにけしかけられながらも声すらかけられずにいた。
 亜炭採掘の仕事が現地の人を使ってもなかなか上手くいかなかったのだが、ゾルバは森で覆われた大自然を見て林業の方へ仕事をシフトしようとする。そのための道具を買うためにゾルバはバジルからカネを預かり街へ出かけ5日間ほどクレタ島から離れる。
 しかし、5日間の約束を破ってゾルバが若い女と遊んだりして、なかなか帰ってこないことに苛立ったバジルは、その勢いに任せてついに未亡人をゲット。今まで村の言い寄る男連中に対して完全無視していた未亡人だったが、その情報はいち早く村中に伝わってしまう。そのことが切っ掛けで未亡人は一気に村中の人間を敵に回してしまい、バジルの援軍に駆けつけたゾルバだったが、その甲斐もなく未亡人は殺されてしまう。
 ゾルバも成り行きでホーテンスと結婚することになるが、すでに病に侵されていたホーテンスも程なく死亡。しかも、村人達は彼女が死ぬの待っていて、死んだ瞬間にホーテンスの持っている高級品を一つも残らずかっさらってしまい、ゾルバは残されたオウムだけを連れて去っていく。
 いよいよ新しく乗り出した林業の仕事の設備が整い、村中の人を集めて完成祝いをする。しかし、山の上で切った材木を滑らして下まで運搬しようとするのだが、ゾルバの考えた設備はそのスピードや重さといった物理的要素に耐えられずに全部ぶっこわれてしまい・・・

 クレタ島の村人達の閉鎖性及び群集心理に恐ろしさを感じさせられるシーンが目立つ場面もある。しかし、ゾルバがバジルの事を仕事関係中は「ボス」と呼びながらも、それ以外では友達として振る舞う、そのサジ加減が巧みでゾルバのバジルへの尊敬と友情のバランスの良さに感動した。見た目はバジルの方が作家で優等生に見えるが、小汚くて怖そうに見えるゾルバの人間への想いは愛に溢れている。それはバジルに対してだけではなく、すべての人間に対してであり、自分自身に対してもそのように振る舞えるのが非常に羨ましい。
 どんな悲惨な目に遭っても、自らが犯してしまった失敗でも大笑いし、豪快に踊り続けるゾルバのような人間こそ人生の勝者なのかな~なんて俺には思えた。ギリシャを舞台にした映画、普段は細かいことに気が散ってしまいなかなか行動出来ない人、すぐにクヨクヨする人、ノー天気に生きることに憧れる人等に今回はその男ゾルバをお勧めに挙げておこう

 監督はギリシャ人のマイケル・カコニヤス。実はこの監督のことは全く知りません。お勧めの作品があれば逆に教えて欲しいです




 
 
 
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映画 ミュージックボックス(1989) 法廷&ホローコスト

2023年07月03日 | 映画(ま行)
 ハリウッドお得意の法廷映画だが、それにプラスアルファとしてユダヤ人大虐殺をテーマに描いたのが今回紹介する映画ミュージックボックス。戦争犯罪人の汚名を着せられたお父さんの無罪を証明するために、弁護士の娘が無罪を勝ち取るために奮闘するストーリー。本作は更に一歩先に驚きの展開が待っている。
 娘は弁護士だから被告の無罪を勝ち取ろうと一生懸命に頑張ろうとするのは当たり前のことだ。しかも父親の弁護士になったからには更にその想いは強くなるのは当然のことだろう。しかし、本作では父親の弁護をするからには当然ながら自分の知らなかった父親のことを調べなければならず、しかも調べれば調べるほど、または勝手に父親の真実の姿が浮き彫りになってくる。理想と現実、過去と現在の狭間に悩まされ、そしてナチスが行ったホローコスト(ユダヤ人に対する大虐殺)の酷さを現実として突きつけられた時、果たしてこのまま見逃すことができるのか?という悩みに苛れる。俺なんかは今でこそ聖人君子と見られている人格者であるが、現在の俺に騙されている人は果たして俺の過去の数々の悪行を知った時に、今でも俺を聖人君子として見ることができるのか?

 人というのは観る視点が変わるだけで これだけ見方が変わるのかを痛感させられるストーリーの紹介を。
 父親のマイク(アーミン・ミューラー=スタール)はハンガリーからの移民で、男手一つで苦労しながら息子と娘のアン(ジェシカ・ラング)を育ててきており、今ではその甲斐もあってアンは優秀な弁護士として活躍しており、家族はそれぞれが独立しながらも何不自由のない生活をアメリカで送っていた。
 しかし、ある日のこと。マイクがアメリカ政府から訴えられる。最初こそは簡単に人間違いぐらいだと思っていたアンだったのだが、内容が戦時中のハンガリーにおいてのユダヤ人虐殺の首謀者としてハンガリー政府からの身柄引き渡しとして父親が挙がっていることにアンはびっくり。今まで自分にとっては善良な父親であることしか知らないアンは父親の無実を信じて弁護を引き受けることを決意し、アメリカ政府と法廷で対決する。
 さて、裁判が始まってからは出るわ、出るわのマイクにとっての不利になる証言の数々。しかも、父親のハンガリー時代に聞かされていた生活が嘘だったことを知らされ、アメリカに来てからも自分の知らないところで父親が怪しい行動をしていたことを知ってしまう。それでも相手側の証人のスキを見つけることに長けているアンは裁判を有利に進めていき、無罪を勝ち取るところまで手が届きそうになるのだが・・・

 アンと相対するアメリカ側の検察が能力不足のおかげで辛うじてマイクが助かっているように見えてしまったのが残念。検察側がマイクがハンガリーで行ってきたことの酷さを矢継ぎ早に証人を引っ張り出して来てアピールしているだけ。ハンガリーでもかつてはユダヤ人虐殺が行われていて、その残酷さは伝わったが、それがマイクを有罪にする証拠にならないのが俺でもわかってしまった。
 アンにとっても、この裁判は心配していたよりも案外チョロいと感じたのかもしれないが、しかし被告人である父親の弁護士、娘という立場を離れて考えた時に、やはり父親は本当にケダモノだったのではないかと考えてしまう。人間のみならずある事象を色々な角度を変えて見ると、実は善悪の判断をつけるのかどれだけ難しいか本作を観ればちょっとぐらいは理解できる。
 さて、タイトル名の「ミュージックボックス」だが本作と何の関係があるのかと思われるかもしれないが、裁判で出される証拠品よりも重要な物として出てくるので、これは映画を観てのお楽しみに。
 サスペンスフルだし、家族の絆について考えさせられるし、アンが最後に取った行動の是非、ハンガリーの綺麗な風景、建築物が観れるし、まだこの映画が公開された1989年といえば米ソ冷戦の終末だったし、ハンガリーって前は共産党国家だったよな~なんて歴史を振り返ることができる。社会派映画でありながらエンタメであるように色々な内容が含まれる映画ミュージックボックスを今回はお勧めに挙げておこう

 監督はギリシア人のコスタ=ガブラス。本国ギリシャでもZという社会派映画を撮ってますがこれはお勧め。オリバー・ストーン監督のJFKは明らかにこの作品を模倣してます。ハリウッドに渡ってからも社会派映画の監督としての面目躍如の作品を撮り続ける。本作以外にも、ジャック・レモン、シシー・スペイセク共演のミッシング、ダスティン・ホフマン、ジョン・トラヴォルタ共演のマッド・シティがお勧めです。








 

 
 
 

 
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映画 めまい(1958) 途中までホラーかと思いましたが・・・ 

2023年06月30日 | 映画(ま行)
 最近は年齢のせいなのか立ち上がる時に、よくクラっとしてしまう。ア~めまいがすると思っていたのだが、どうやら立ち眩みと間違っていたらしい。さて、俺とは違ってめまいがして悩んでいる人は多いだろうな~と思わさせられた映画が今回紹介する映画めまい。本作の主人公の設定が高所恐怖症で、高い所から下を見てしまうと、眩暈(めまい)をおこしてしまう元刑事。本作の面白いところとして眩暈の表現の仕方が挙げられるだろう。冒頭のタイトルバックの眩暈を感じさせる描写が、実験的でいきなり惹きつけられる。他にも眩暈の表現方法が面白くて、この表現方法が後の映画にも多く使われているように後世に大きな影響を与えていることが本作を観ればよくわかる。

 さて、めまいというタイトルがあまりにもシンプル過ぎるが、ヒッチコック監督作品の中でも非常に実験精神が旺盛に感じさせるストーリーの紹介を。
 スコティ刑事(ジェームズ・スチュアート)は屋根の上を逃げる犯人を同僚の警察と一緒に追いかけていたのだが、犯人が楽々と飛び越えていく屋根から屋根をスコティはジャンプ力が足りずに、宙ぶらりんの状態になってしまう。その時に同僚の警察が犯人を追うのを止めて、スコティを助けようとするのだが誤って転落死。スコティは、そのショックから高所恐怖症による眩暈に襲われ、警察を辞職する。
 そんなスコティに昔の友人であるエルスター(トム・ヘルモア)から連絡がくる。彼の会社へ行って話を聞くと、「嫁さんのマデリン(キム・ノヴァク)の行動がどうも怪しい」とのこと。そして、マデリンの尾行をお願いされてしまう。
 スコティも刑事を辞めて時間を持て余していたので興味本位で驚くぐらい美人で眩しいぐらいの金髪であるマデリンの尾行を開始するのだが、とっくに亡くなっているカルロッタと書かれている墓標を訪れたり、美術館で一枚の絵をずっと観ていると思っていたら奇妙なことに絵のモデルが髪型から首飾りまでマデリンと同じ物をしていたり、他にも奇妙な行動を多く目にしていた。
 スコティは更に詳しくマデリンのことをエルスターから聞き出そうとすると、どうやら絵のモデルはカルロッタであり、しかも彼女はマデリンの祖祖母に当たる人物で自殺してしまったことを知らされる。しかもマデリンは時々気を失っては生前のことを語り出したり、死んでしまうのではないかと不安がったりで精神状態がオカシクなっており、彼女にカルロッタの霊が憑りついているのではないかとエルスターはマジで心配していた。
 更にスコティはマデリンの尾行を続けていると、海辺で彼女はしばらく立ち尽くしていたのだが、いきなり海に飛び込んで投身自殺を図ってしまう。その場に居たスコティはマデリンを助けて悩んだ挙句に自分の家へ連れて帰る。こうやってお互いのことを知っていく内に、2人の間には恋愛感情が芽生えるのだがスコティが更にマデリンの深層心理を探ろうとするのだが、そのことによってマデリンが教会の最上階から飛び降り自殺してしまうという最悪の結果を招いてしまい・・・

 いつもより長々と文章を書いた挙句に、ネタ晴らしまでしてしまったようなストーリー紹介になってしまったが、ここで映画が終わってしまうと悪霊に憑りつかれて自殺に導かれる単なるホラー映画になってしまう。しかし、この後からの展開が俺には結構ウケた。死んでしまった愛する女性が無くなったことに端を発するスコティのぶっ壊れぶりが凄い。ここのネタ晴らしは流石にこの映画の面白さを損ねてしまうので、映画を観て是非確認して欲しい。
 ストーリー紹介のところは、スコティが元刑事の割に尾行が下手過ぎたり、笑わしているのか怖がらせているのか反応に困るようなシーンが多く出てきたり、何だかテンポが俺には悪いように思えたりしたのだが、こんな落ちがじゃなくて、オチがつくとは俺の想像を超えた。
 不安を煽るような音楽や映像テクニックは非常に効果的だし、小道具の使い方の演出なんかはいかにも手馴れている感じをさせるあたりは、流石はヒッチコック監督だと思わせる。とにかく得体が不明のマデリンを演じるキム・ノヴァクがめちゃくちゃ綺麗。彼女の他の作品も何本か観ているが、本作の彼女はそれらとは別人か!?と思わせるぐらいの綺麗でミステリアス。ヒッチコック監督は女優を綺麗に撮ることに長けている。
 ヒッチコック作品の中でも本作は有名な方だが、なぜか本作を観ていない人、現実離れしたサスペンス映画を観たい人、細かい部分は気にならない人、少しばかり凝った作り込みがされた映画を観たい人、綺麗な女性を観たい人などに今回は映画めまいをお勧めに挙げておこう

 前述したように監督はサスペンスの神様と呼ばれたアルフレッド・ヒッチコック。今でもサスペンスタッチの映画は古今東西において多く撮られていますが、どれもヒッチコック監督の作品の影響を受けてしまっている感じがします。個人的に彼の好きな映画を3本だけ挙げると、北北西に進路を取れハリーの災難見知らぬ乗客、次点がバルカン超特急ってところです











 

  
 
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映画 ライトスタッフ(1983) 正しき資質とは?

2023年06月29日 | 映画(ら行)
 そういえば最近投稿した超音ジェット機だが、あの映画は、まだ超えられないでいた音速の壁であるマッハ1の速度に到達しようとする航空関係の人々の人間模様を描いたストーリー。そんな作品をみて俺の頭の中にパッと閃いたのが今回紹介する映画ライトスタッフだ。
 人類史上において、初めてマッハ1の音速の壁をぶち破った飛行士はチャック・イェガーだと言われている(1947年のこと)。その後も次々とマッハ1超えの記録を目指し続けた彼の生き様。そんな彼と対比するように宇宙飛行士の7人が国家プロジェクトマーキュリー計画に携わる様子を描いているのが本作だ。
 ちなみにライトスタッフ(right stuff)とは『正しき資質』のこと。本作の場合はパイロット達における正しき資質とは何なのか?を観ている者に問いかける。

 それでは飛行士たちの勇気、プライド以上の物であるライトスタッフのストーリーを紹介しよう。
 1947年の砂漠のど真ん中におけるエドワーズ空軍基地において、チャック・イェガー(サム・シェパード)が人類史上において初めてマッハ1の壁を突破することに成功する。誰が最初に音速の壁を破るか注目していたマスコミは大騒ぎするし、次々とチャック・イェガー自身が自分の記録を塗り替えていくのに伴いマスコミの報道は過熱し、各地からパイロット達がチャック・イェガーに挑むためにやってくるのだが、その中にはガス(フレッド・ウォード)、ゴードン(デニス・クエイド)の姿もあった。
 やがてソ連が人工衛星スプートニクス1号の打ち上げに成功したとの報告がホワイトハウスに入ってくる。ソ連に先を越されたことにショックを受けたアメリカの大統領や議員、官僚たちはアメリカ高級宇宙局(NASA)を立ち上げ、各地から宇宙飛行士を募るのだった。その募集はエドワーズ空軍基地にも及ぶのだが、チャック・イェガーは大卒ではないために宇宙飛行士になる資格がなかったのだが、ガス、ゴードンは宇宙飛行士になることを目指し、他にも各分野から選ばれ、ガス、ゴードンを含め7人が宇宙飛行士として合格し、失敗続きのアメリカのロケット打ち上げテストが繰り返されるのを見て宇宙飛行士の7人は苛立ち、不満を募らせながらも人類で初めての宇宙へ飛び立つことを目指し訓練に励むのだが、しかしながらソ連のガガーリンによって有人宇宙飛行において、またもや先を越されるのだが・・・

 米ソによる宇宙開発は最初の頃はアメリカの負けっぱなし。本作においてもアメリカのロケットの打ち上げの失敗の様子が実際の映像を使って見せてくれる。ソ連に追いつけ、追い越せと宇宙開発に躍起になっている様子を見ると国威発揚映画かと思えたりするのだが、実際には7人の宇宙飛行士の命を無視しているようなNASAやマキューリー計画に関わるアメリカの偉いさんの馬鹿さに驚かさせられる。現場を全く知らない人間の考えることの浅はかさを想うと、祖国に尽くそうと命を懸ける宇宙飛行士たちが気の毒になるし、これでは不安が大きすぎて宇宙へ行こうなんて俺だったら思えない。
 そして、チャック・イェガーの方だがマッハ1を目指し、次々自己記録を更新したり新たなライバルの出現があったりでマスコミからヒーロー扱いされていたのに、マキューリー計画が始まり、動き出すとマスコミはチャック・イェガーには見向きもしないし、政府も大幅に予算をカット。世間からの注目を浴びなくなってしまう。しかし、それでも飛びづづけるチャック・イェガーが格好良い。その姿は、まるで時代に乗り遅れた西部劇のガンマンみたいであるが、己の持っている正しき資質を信じ続ける姿は最後まで格好良い。
 馬鹿な偉いさん連中に命を預けながらも、己が持つ正しき資質を信じて宇宙船に乗り込む宇宙飛行士たちも格好良い。彼らの想いには偉いさん連中の我が儘、私利私欲も入り込む余地がない。我が日本の宇宙飛行士若田光一さんって格好良いんだ、なんて本作を観直してから気づいた。
 飛行士の奥さんたちの心情を巧みに描かれているし、心が震えるような音楽が素晴らしい。音楽を担当しているのは誰かと調べたら、あのロッキーシリーズで有名なビル・コンティだったと知って納得。
 少し不満があるとすれば3時間の長時間映画であること。冒頭から泣かせたり、熱くなるような名シーンが連発するのだが、宇宙飛行士になろうと訓練するシーンがコメディ色が強くなってしまったのが、ちょっと残念。もう少しその辺をばっさりカットするか、もっと熱いシーンを目指すなりして欲しかった。まあ、それも個人的な意見に過ぎないのだが。
 そんな訳で宇宙への憧れが強い人、飛行機が好きな人、心が熱くなるような映画を観たい人、どこか不器用に生きる男たちに格好良さを感じる人に今回はライトスタッフをお勧め映画に挙げておこう

 監督はフィリップ・カウフマン。本作の他に存在の耐えられない軽さクイルズといった表現の自由をテーマにしたような作品が個人的には心に残っておりお勧めです。
 


 
 




 
 
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