頭の中は魑魅魍魎

いつの間にやらブックレビューばかり

『悪の引用句辞典』鹿島茂

2013-08-30 | books
フランスの文学と社会が専門の大学教授による、古今東西さまざまな言葉の引用とその解説と、そこから転じた時事問題に関する意見、日本社会に対する洞察がある。

さまざまな引用があるけれど、引用そのものよりも著者の言葉の方が面白い。

パスカルの引用から→賭博にハマるのは、職務という「熱中対象」を失いつつあるからという話に転じていったり。(なるほど)

右翼の大物頭山満の思想を要約した(私の大好きな)夢野久作の引用から→日本社会=自我パイ一人食い不許可社会=相互監視社会=ゆるい規範だけあればいい。西洋=自我パイ一人食いOK社会、なので自分の身体も魂も自分のものと考えるために、秩序維持のため、社会契約=法律が必要。日本は不許可社会として設計されていたのに、西洋式が輸入されてしまった。で、自我と自我は対立するのが当然という西洋の前提を直視できず、対立が起こりそうだと問題を先送りにして、軋轢を避けてきた。結果、「面倒なことには一切関わりたくない」というのが社会一般の「思想」となってしまって、日本の危機を招いた。(なるほどなるほど。西洋の「自由と責任」のセット販売を、わが国では自由のみ享受しようとしてうまくいかないと思っていたけれど、こういう表現は明快。さすが)

大学が「顧客満足度」の高いことを目指そうとして、いきなり役に立ちそうな、学部、学科、科目を増やしている。面倒くさいことは避ける「子供基準」を持つ学生は、こういう科目や学科を好む。こういう「顧客満足度」の高い学部、学科に進んだ学生は(給料が高いなどの)「顧客満足度」の高い企業へ就職しようとする。顧客として満足するために。しかし就職したら、顧客を「満足させる」側に回らないといけないという現実に直面し、「自分のやりたいことができない」と言ってやめる。「お客様は神様です」という発想は教育の現場においては、教育崩壊を引き起こす。(うーむ。確かに)

好きなものはイメージに左右されるから簡単に変わるけれど、嫌いなものは生理的なものを元にするから変わりにくい。伴侶を選ぶときには、好きなものより嫌いなものが一致する人を選べ。(言われてみれば確かにそうだなー)

建前では」「差」がない社会にいじめは起きる。人為的に「差」のない共同体をつくろうとすると、いじめは起きるというパラドックスが存在する。(確かに確かに)

著者の本はほとんど読んだことがないのだけれど、これから色々読みたいなーと思った。「渋沢栄一」の伝記らしきものも出してるそうだ。これから読もうかな。

では、また。

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