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『葡萄と郷愁』宮本輝

2012-04-21 | books

「葡萄と郷愁」宮本輝 光文社 1986年(文春文庫1995年 初出JJ1985年5月号~1986年5月号)

1985年10月17日たった一日。日本では女子大生純子は、英国留学中の村井に手紙で求婚される。ブダペストでは、女子大生アーギがアメリカ人女性に養子にならないかと頼まれる。東京とブダペストを交互に描き、決して交わらない二人の生き方、周囲の人たちを通して、幸せとは何か、決断するとは何かを描く…

いやいやいや。まいった。宮本輝未読山脈にこんなお宝があったとは。

厳格な、けれども家族全員が揃いも揃ってお人よしな家庭に育った悦子は、他人と自分を比較して、喜んだり哀しんだりするという女性特有の性癖を、あまり表に出さなかったからである。(文庫版9頁より引用)


いきなりぶちかましてくれる。自分と他人の比較が幸福の基準になるが女性だとは。なるほど。80パーセントぐらいうなづける。

ストーリーは、それぞれの女性がどんな決断を下すのかなのだが、それに至るプロセスに一見物語と無関係の人物が入れ代わり立ち代わり現れそれが何ともうまいのだ。

純子の大学の二年先輩で、会社を辞め離婚し外国に行っていた岡部とバッタリ会う。その岡部が見せてくれた手紙。それはしばらく一緒にモロッコで暮らしていた女が夫から受け取った手紙。文庫版だと157頁にある。

この手紙を読んだときに、脊髄に細く尖った針を射ち込まれたような気持になった。

たった一冊の薄めの文庫本の中に、実は色んな形の恋愛が詰め込まれている。これから恋愛をはじめようという人、もう恋愛からは引退した人双方にオススメしたい。

では、また。



葡萄と郷愁 (光文社文庫)
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