頭の中は魑魅魍魎

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大河ドラマ『凍てつく世界』ケン・フォレット

2016-01-19 | books
1933年、ロンドン、ロイドは大学生で労働党の青年同盟の役員をしている。母のエセルは国会議員。共に反ファシズム運動をしている。カーラはドイツの少女。母のモードはエセルの親友で、ベルリンの雑誌記者をしている。父のワルターは国会議員。兄のエリックはナチスにかぶれている。モードの兄フィッツは英国の伯爵。長男のボーイは親ファシスト…… というようなややこしい人間関係とヨーロッパを吹き荒れるファシズムの嵐。その嵐に翻弄される人々を描く…

第一次大戦を描いた「巨人たちの落日の続編。

登場人物が多いのと、無駄な描写がないので読むのに結構時間がかかった。しかも4巻もある。

しかししかし、面白い。本当に面白い。重厚長大な人間ドラマが読みたい人は読んだほうがいい。

カーラやエリックの家のメイドが産気づいてしまった。ヒトラー・ユーゲントの制服を着たままエリックは医師の元へ急ぐが、ユダヤ系の医師の奥さんは「よくそんな格好でここへ来れたものね。ユダヤ人の医師に助けを求めるの?」という台詞をぶつける。ユダヤ人を排斥するということが個人のレベルではどういうことなのか、考えさせる。

英国でもファシストと反ファシストの戦いがあったそうで、それが具体的に描かれていて、なるほどファシズムの熱波が襲ったのはドイツだけではないのかと思った。

ロイドが好きになってしまった女性は、ロイドを相手にしなかった。そして結婚してしまった。しかしロイドと親しくなってから、こんな風に思う。

ロイドは頬を預ける枕であり、浴槽を出たときに胸を拭くタオルであり、考えごとをするときにしゃぶる拳だった。

ああ。好きになるとはこういうことなのか。ありとあらゆる場面で必要とする、そんなことなのかも知れない。

ナチス・ドイツが敗戦した後、ソ連から赤軍の兵士たちが押し寄せて、略奪、強姦と言った暴虐三昧に耽る。物資も極端に不足する。アメリカ軍の将校の愛人になるドイツ人女性も出てくる。その女性が言う。

「ドイツの女性は辛い選択をしなくちゃならないのよ。わたしたちは十五年前にドイツの男たちが安易な選択をしたことのつけを払わされているのよ。わたしの父のように、ヒトラーが商売上の役に立つと考えたり、ハインリッヒの父親のように、全権委任法に賛成票を投じた男たちのね。父親の罪が娘たちに罰を与えているのよ」

歴史のお勉強に役に立つんだろうとは思うけれど、単純に物語として抜群に面白い小説だった。

凍てつく世界 I (SB文庫)凍てつく世界 II (SB文庫)凍てつく世界 III (SB文庫)凍てつく世界 IV (SB文庫)

今日の一曲

戦争の歌。Most of them dead, the rest of them dyingと歌うPink Floydで"When The Tigers Broke Free"



では、また。
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