頭の中は魑魅魍魎

いつの間にやらブックレビューばかり

『仙台ぐらし』伊坂幸太郎

2012-03-26 | books

「仙台ぐらし」伊坂幸太郎 荒蝦夷 2012年

仙台の出版社の「仙台学」という雑誌に書いたエッセイ+書き下ろし短編小説。

タクシーの話や、外を歩いていると声をかけられる話、心配性な話、震災の前後の話など。
2011年8月「震災のこと」というタイトルではこんなことを書いている。

三月下旬、まだ小説を書く気分にはなれなかったにもかかわらず、何とか日常に戻ろう、と喫茶店でパソコンを叩いていたのだけれど、すると以前にもあったことのある男性が寄ってきて、「こんな大変ことが起きちゃったけれど」と言った。「また楽しいのを書いてくださいね」
うまくは言えないのだけれど、その時、僕は、「ああ、そうか」と思うことができた。「僕は、楽しい話を読みたいんだ」と気づかされた。
もしくは、ネットに溢れる原発事故に関する情報に疲弊し、「情報は僕を救ってくれない」と思ったことも関係しているかもしれない。様々な情報が世の中には氾濫している。本当のことも多いのかもしれない。ただ、だからと言って、震災以降の情報で「知っておいて良かった」と癒されたものはほとんどなかった。むしろ、心がくたびれ、陰鬱な気持ちになるものが多く、全く情報を気にせず生活をしていた人と僕とでいったい何の違いがあったかといえば、僕のほうが不安でおろおろしていたという、それだけのことではないか(164頁より引用)


確かに。

震災はもちろん、震災以外の諸々の情報。マスメディアが毎日発する莫大な量の情報のうち、「知ってよかった」と思う情報は極めて少ない。自分の職業やライフスタイルのよっても違うのだろうけど。

バラエティ番組が多い。生活に癒し、あるいは笑いを求めているのなら笑えるバラエティ番組は需要を満たす供給なんだろう。しかし、日本全国にはこんなに笑いたい人たちがいるのだろうか。え?ああ。アメトーーク観ながら書いてますよ。そうですよ。

脱線を元に戻すと、巻末の「ブックモビール」という短編小説がなかなか良かった。

では、また。



仙台ぐらし
伊坂幸太郎
荒蝦夷
コメント (4)    この記事についてブログを書く
« 断末魔 | トップ | 『世界史サミット 同時代を... »

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
情報 (パール)
2012-03-26 14:28:31
一年前の今頃、仙台では、まだ都市ガスが復旧していなくて、食料品の買い出しに並び、壊れた家具を大量に棄て、(余震が怖くて)服を着たまま寝てました。でも、あまり記憶がありません。

>「情報は僕を救ってくれない」
あの頃、新聞やテレビのニュース、インターネットの情報は、誰のために発信されたものなのだろうと思っていました。
>マスメディアが毎日発する莫大な量の情報
の中で、自分だけが取り残されているような気持ちでいました。
まず知りたかったのは、友人知人の安否、食料やガソリン、灯油が入手できるお店、ライフラインの再開状況…
でも、自分の毎日の営みが落ち着いてくると、被災地の細かい状況を見聞きすることを止めました…
自分がこんなに自分勝手な奴だと思い知りました。

あの日の後、自分の中の何が変わってしまったのか、自分自身が把握できずにいます。
同じ仙台に住む伊坂さんが何を思われたのかが知りたくて、図書館に予約しました。
まだまだ順番は回ってきません。
返信する
こんにちは (ふる)
2012-03-27 11:51:08
★パールさん、

私のようなふざけた者が申し上げられることはあまりありません。伊坂氏の言葉を借ります。

同じ「仙台ぐらし」の中にこんなことが書いてあります(153頁より引用)

>後になり、『仙台学』の編集者、土方さんから教えてもらうのだが、「大きな災害に遭った人は、その影響で、急に泣き出したり、怒りっぽくなったり、虚脱状態になったり、塞ぎ込んだりする」らしかった。「それは生き物の防御本能のようなものだから、そういう状態に自分はいる、と自覚しておくことが大事なのだ」と。

伊坂氏が書いている通り、ある種のパニックに陥った場合、普段と違うことをしてしまうのは当然ということなのでしょうね。でもそうであると自分で分かるのと分かっていないのとでは大違い、だと私もそう思います。

追伸:私と一緒に暮らすと付いてくる数少ない特典。読んだ本を「これ面白かったよ」と言って渡してもらえること。いや、冗談です。すみません。
返信する
感謝 (パール)
2012-03-27 21:16:00
「この本面白かったよ!」と言える人がいるのはとてもしあわせなことだと思います。
ふるさんのブログを読むと、そんなしあわせな気持ちを味わうことができます。
しかも、自分勝手なコメントに、お返事までいただきました。
ありがとうございます。

追伸:ふるさんの身近な方は、おしあわせですね。
返信する
こんにちは (ふる)
2012-03-29 11:39:23
★パールさん、

読書は本来、個人的な作業であると思うのですよ。

しかし、同時に読後に誰かと面白さを共有したり、こんなことが書いてあったと披露したり、あるいは議論のネタになったりと、インタラクティブな行為に繋がるものでもありますよね。

だからやめられないのでしょうかね。
返信する

コメントを投稿