頭の中は魑魅魍魎

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逆転はあるのか『天国でまた会おう』ピエール・ルメートル

2015-11-21 | books
「その女、アレックス」や「悲しみのイレーヌ」でミステリー好きの後頭部を鈍器で殴打するような衝撃を与えた作者なのだから、あの手の意外過ぎる意外性で翻弄するタイプのミステリーかと思うと、全然違う。

アルベールは第一次大戦に従軍し、ドイツと戦っていた。上官のプラデルは嫌な奴で、自分のことしか頭にない。ただ自分の手柄のためにプラデルがした恐ろしいことにアルベールは気づいた。するとアルベールはプラデルに殺されそうになる。穴に生き埋めにされるのだ。それを助けてくれたのは、ほとんど話もしたことのなかったエドゥアール。不運なことにエドゥアールはアルベールを助けてあげたために、自身が大きな怪我をしてしまう。プラデルには自分たちが死んだと思って欲しいので苦心して、戦地から引き上げることができた。しかしアルベールには金がない。そして命の恩人エドゥアールは実家には戻りたくないと言う。実家は大金持ちなのにも拘わらず… 

物語は、日々の生活に苦労をするアルベール、戦後成功したプラデル、エドゥアールが死んだと思っている彼の父親と姉の視線で描かれる。交錯するアルベールとプラデルの人生。幸福とは何なのか、成功とは何であるのか…

ううむ。大好物を頬張った小3の子のように読んでしまった。嫌な奴の造形、いい奴の造形。ジェフリー・アーチャーの「クリフトン3部作」と同じ系統の作品だと思う。第一次世界大戦という時代背景も少し似ている。二人が悪事に手を染めてしまうことになるというあたりも含めると、提示された謎が解けるカタルシスを味わうミステリーというよりも二人の行動の成否を味わう「冒険小説」と呼べばよいだろうか。(「時のみぞ知る クリフトン年代記第一部」「死もまた我等なり クリフトン年代記第二部」「裁きの鐘は クリフトン年代記第三部」「追風に帆を上げよ クリフトン年代記第四部」) 

エドゥアールのことなんて見捨てて暮らせば楽になれるのにと思わせるアルベール。実家を頼ればいいじゃないかよと思わせるエドゥアール。本当にお前は嫌な奴だなと思わせるプラデル。このもどかしさとか登場人物への感情移入のさせかたが尋常でないほど巧い。

近年もっとも日本で売れている外国人作家がピエール・ルメートルだそう。これだけ面白ければそりゃそうだろう。面白いものが売れるというのはやはりすごくいいことなんだろうと思う。(面白くないものが売れたり、売り方がうまいから売れるという場合と比べるとね。)

天国でまた会おう(上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)天国でまた会おう(下) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

今日の一曲

タイトルが天国と言えばベタベタにベタだけれど、天国への階段で。Led Zeppelinで"Stairway to Heaven"



20世紀の音楽トップ10に入れたい名曲だ。では、また。
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