頭の中は魑魅魍魎

いつの間にやらブックレビューばかり

『神様のカルテ3』夏川草介

2012-09-09 | books
「神様のカルテ3」夏川草介 小学館 2012年(初出Story Box+書き下ろし)

信州松本の市街地にある地域の基幹病院、本庄病院。ここに勤務する内科医栗原一止(いっと)30歳。美しく気立てのいい妻、同じアパートに住む不可思議な住人たち、同僚たち、そして様々な患者たち。「神様のカルテ」「神様のカルテ2」と変わらない世界がそこにある。

今回は、アル中や、孫が引き取ろうとしないおばあちゃん、看護主任の知り合いらしい患者、新たにやって来たミス・パーフェクトな内科医などなど…

期待を全く裏切らない。読む度に、栗原の生き方や考え方に洗われる思いがする。(私のように)新しく出た本をガチャガチャと読むよりも、夏目漱石を愛読し、「ジャン・クリストフ」の台詞を暗唱できる、こんな男になりたいものだ。いい歳して最近の芸能界がどうしたというようなこと詳しいよりも、大正時代の風俗に詳しい方がましだ。いやそれはちがうか。

たまに登場する薀蓄や教養の断片がいい。165頁に出て来るのは、墨子の言葉の「莫若法天」 物事を為すにおいては争わず、つねに公平である天の法則に従えということだそうだ。「天に則るに若くは莫し」 なるほど。

直接引用させてもらうと、

利便とは時間を測定する働きであり、風情とは時間の測定をやめる働きである。(288頁より引用)

「食の味を決めるのは、素材だけではありません。供する者の心遣いと食する者の心意気です。」(285頁より引用)


後者は、食事以外の色々な事にあてはまる。表現とは、伝える者の心遣いと読み取る者の心意気だとか。

ミス・パーフェクトな木幡医師の患者に冷たい挙動の謎が解けるラスト近辺も巧かった。

では、また。


神様のカルテ 3
コメント    この記事についてブログを書く
« 『東京プリズン』赤坂真理 | トップ | 『ソロモンの偽証 第I部 事... »

コメントを投稿