頭の中は魑魅魍魎

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劇薬のような『坂の途中の家』角田光代

2016-01-25 | books
専業主婦の里紗子は、3歳の娘文香、夫の陽一郎と暮らす。文香は最近言うことをきかなくなっており、泣き叫ぶことも多く、とても困っている。陽一郎は悪い人ではないのだが、里紗子の気持ちをちゃんとわかってくれているわけでもない。そんな中、里紗子に裁判員の候補者に選ばれたという通知が来た。補充裁判員という形だが、裁判に参加させられることになった。事件は、母親が赤ちゃんを水を張った浴槽に落としてしまい、その子が亡くなってしまったという虐待死。証人として法廷で証言する人たちの話を聞いていると、自分と重なる部分があまりにも多く、他人事とは思えなくなる……

ううううむ。読んでいてつらくなるほどに、子育ての大変さが刺さる。子どもを産もうかどうしようかと悩む人が読んだら、産むのはやめようと考えてしまうのではないか。そんな劇薬のような小説だった。

つらい気分で読んでいたのだけれど、だんだん里紗子の内面や夫との、絶妙に気が合わない感じに没入していった。決して悪い人ではないのに、でも気遣いの向く方向がずれている。このずれ方が、リアルだしものすごく巧い。(配偶者や恋人を選ぶときに、収入や顔面、外形的な性格のような分かりやすい事柄だけじゃなくて、この小説で描かれているような、「気が合う」「気が合わない」をよく考えるとよいのだろうと思う。しかし結婚してみないと分からないほど、心の奥底に潜んでいることなのかも知れないけれど))

被告の女性に対してシンパシーを感じるのだけれど、他の裁判員の人たちはそれを分かってくれない。その気持ちのずれもまた、せつない。

人の内面を描く小説として、とても高いレベルの作品だった。

坂の途中の家

今日の一曲

結婚する、出産するのは人生の冒険。Coldplayで"Adventure Of A Lifetime"



では、また。
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