頭の中は魑魅魍魎

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滝田洋二郎監督のアカデミー賞受賞スピーチは通じない

2009-02-26 | days

十子さんの 「おくりびと」「つみきのいえ」アカデミー賞受賞スピーチ へのコメントレスを書こうかと思ったら長くなりそうなので記事にした。ここは英語ブログでも何でもないので、単に趣味で以下の記事は書かせて頂く。正確さについても保証はできず。


発音なんてヒドくても通じればとりあえずいい。発音がキレイであれば相手のことより、自分が自信を持って話せるのでなおいい。が私の外国語に対するスタンス。

件の滝田監督のスピーチを聞いてみた。以下がYouTubeの動画。







私が聞き取ったのは以下の通り

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Thank You To All The Academy.
Thank You To Everybody Who Helped Me This Film.
I Am Very Very Happy.
I Am Here Because Of Films.
This Is A New Departure For Me.
We Will Be Back, I Hope.
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全く事前に準備をしていなくてその場の思いつきで何とか言ってみたという感じだ。会場の反応をよく聞いてみたが、どうやら英語が通じていないっぽい。Yahooのニュースでは「流ちょうな英語でスピーチ」と表現されていた。流ちょうねえ・・・・・・


1.thank の使い方

十子さんが「thank ○○ forなら知ってるけどtoは?」と書かれていたが、thanks to~で「~のおかげ」とか「~のせいで」という意味がある。例えば、Thanks to you, I got fired.(あなたのおかげで(せいで)クビになっちまったよ)とか。forは~に関してという意味で使うので Thank you for the Christmas card. クリスマスカードをありがとう(クリスマスカードに関して、貴方に感謝)

さて滝田監督の言い回しでは Thank の後に誰に感謝しているかその対象が Youであるとしている。「貴方に対して感謝している」と冒頭の2語で言ってしまったのだ。したがって言い回しとしてはその後にforを使えば Thank You For~で「~に関して貴方に感謝している」という文に持っていける。ところがそこにToを入れてしまった瞬間通じない英語になってしまったのだ。無理やり訳すと「アカデミーの全てのメンバーのおかげで貴方に感謝しています(???)」

※ 余談 英語を日本語に直すときには日本語的にするために「後ろから訳す」というような作業をする。しかし日本語に直さないのならそのまま英語は前からただ耳に入るだけ。脳内で後ろから訳すなどという作業はしてはいけないのだ。つまり最初の2語でThank you と言った段階で聞く方は「ああ俺たちに対して感謝してるんだな。ふむふむ。で、俺たちがした何に対して感謝してるのだ?」とその先を聞くモードになるのだ。その後にtoが来てなんじゃこりゃになってしまった。またさらに余談だが関係代名詞は日本人が大好きでよく使う表現であるが、これは2つの文章を一つにまとめて「一つの文章を長くする」効果があるため、なんだか分からなくなる可能性大。

2.help の使い方

helpの後にobject(目的語)を持ってきて、その後に 動詞を持ってきて○○が××するのを助けるという表現がある help + O + (to)do しかし滝田表現ではこの動詞がない。 helped me this film まあ、意味が通じないと断じることは出来ない(日常会話なら通じないと想像するが、場所がアカデミー賞なのでこの映画を「作るのに」助けてくれた人みなに感謝する、と解釈してくれる可能性はある)なおこの動詞にtoを付けるの付けないのもどちらも正しい英語であるが、話し言葉ではtoは省略されていることが多い。

1行目と2行目は私なら、以下のように直す。

I would like to give my sincere thanks to all the members of the Academy and all the people who helped me make this film, "Departures."
(あるいはMy special thanks go to all the members of the Academy...の方がいい?どう?)


3.because of の使い方

because of をこのような使い方をするのは私は寡聞にして知らない。The meeting was cancelled because of rain.(ミーティングは雨のため中止になった)Nakasone resigned because of advanced age.(中曽根は老齢のため辞職した)というような「原因・理由」を示したいときに使う。滝田さんは映画が原因でここにいると言っている。たぶん映画というもののおかげで私は今この場所にいることが出来ると言いたいのだろう。これは100%の自信を持って言えることではないが、because ofの後に来る言葉は、何かを引き起こして当然と考えられるような言葉が来ると思う。老齢→辞職 雨→中止 のような。しかし 映画→ここにいる と直接原因・結果の関係にあるとは言えず、例えば「映画の発明が」とか「過去の偉人が映画というものを作ってくれたおかげで」とか「過去に私がさんざ映画を見たので」というような原因・理由があってではなかろうか。しかし私には因果関係がよく分からないので直せない。

※ 追記
( 敢えて直す方法をアメリカ人にきいてみた。「because ofを物事の因果関係が歴然な時に使うという性質を逆手にとって、映画は自分の全てであると強調する文脈だと、自分にとっては空気をすうのと同じくらい自然な事であるという暗黙の了解のもとに成立します」とのことで、

I AM HERE BECAUSE OF FILMS.  IT IS THE VERY THING THAT HAS NURTURED ME TO BECOME THIS ONE FORTUNATE MAN WHO'S BEEN GRANTED OF TONIGHT'S HONOR.

と直してくれた。)



なおfilmsと特にtheを付けていないのは特定のどの映画ということではなく「映画一般」という意味で使っていると思う。


以上、ほんとに趣味で記事を書かせて頂いた。コメントを下さった十子さんにはこの場を借りて繰り返し感謝。

滝田監督に何も含意はなく、ただ一つの例として取り上げさせて頂いた。日本映画の益々の発展と、滝田監督の益々の成功をお祈り申し上げる。


え?日本語すら怪しいお前に言われたくないって?




コメント (2)    この記事についてブログを書く
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2 コメント

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ありがとうございました。 (十子)
2009-02-26 21:44:46
こちらこそご丁寧な記事を書いて頂き、胸のつかえが下りました。
誰もここに触れていないので、自分がおかしいのかと不安になっておりました。
やはり文法的におかしいですよね。
これならまだしも「Thank you my pencil」 の様に言った方が良かったのですよね。

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こちらこそ (ふる)
2009-02-27 12:43:45
★十子さん、

ありがとうございました。
楽しんで記事を書かせていただきました。
Thak You, My Pencilは笑いを取れるところだと
思ったのですが、笑い声は聞こえませんでしたね。

まあしかし英語のスピーチをすることが映画監督の仕事では
ありませんし、いい映画を撮ってもらえばそれでいいわけですから
私の記事など実に些細な、重箱に隅を突いているだけの瑣末な物で御座います。
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