プーチン首相がロシア大統領選直前に日本のメディアなどと会見した際、北方領土問題の解決に強い意欲を示した発言が注目されている。そこで東郷和彦・京都産業大学教授に続いて、今回は兵藤長雄・元外務省欧亜局長にプーチン発言をどうみるかを聞いた。同氏はソ連崩壊前後に外務省欧亜局長を務め、その後ポーランド、ベルギー大使を歴任、退官後は東京経済大学教授を務めた。
プーチン氏は3月1日、外国人記者との会見で北方領土問題に自ら触れ、「日本との領土問題を最終的に解決したいと強く思っている」と述べた。そのうえで、平和条約締結後の2島引渡しを定めた日ソ共同宣言(1956年)をベースに「引き分け」という日本語を使い、受け入れ可能な妥協を日本側に呼びかけた。
兵藤氏はまずプーチン発言の意味についてこう分析した。
「1つは、プーチンは前から21世紀にはアジア太平洋が中核になると述べていた。だから彼はAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議のロシア開催を提案した。長い目で見ると、ロシアのフロンティアはアジアしかない。経済の高度化を狙うとすれば、日本と協力するしかないということだと思う。2つ目は、北方領土問題で、ロシアが避けて通れない問題だ。だが、彼の方で何か新しい提案があるか、というと以前と変わらない気がする」
「プーチン氏は引き分けにしようと提案したが」と重ねて質問した。兵藤氏は「あらゆるチャンスをつかんで交渉を進めることに反対ではないが、もう50年経ったのだからなにがなんでも解決しなければいけないということはない」と、あくまで慎重に対応するよう求めた。そのうえで、プーチン発言の問題点をこう指摘した。
「プーチンは、日ソ共同宣言には2島以外の(日本側の)要求はないと明言し、どういう条件で引き渡すのか、その後主権はどうなるかについても書いてないと言っている。そこまで厳しく考える必要があるかどうかはともかく、これが最後だ、いまこそ勝負すべきだという話には乗れない」
「では、どういう形での決着がありうるのか」との質問にも「プーチンのリーダーシップがどの程度あるかわからないので、決着の話はまだ早い。大統領に就任してからプーチンの今後を見極める必要がある」と答え、日本に対する姿勢がさらに厳しくなる可能性もあると指摘した。
また、兵藤氏はメドベージェフ大統領が2010年11月に国家元首として初めて国後島を訪問した理由について次のように語った。
「きっかけを作ったのは、65年前に日本が降伏文書に調印した9月2日を『第二次世界大戦終結の日』として国の記念日に決めたことだと思う。ロシアは北方四島の所有を正当化するのに苦労していたが、戦争の過程で四島をとったということを言い出した。これは非常に大きな問題だと思うが、政府、マスコミなどの動きは鈍かった。あの時、日本政府は大使を引き上げるくらいの措置をとるべきだった」
さらに兵藤氏は「プーチンも今の日本政府の姿勢が変わってきていることに気づいているはずだ。日本をおどせばロシアの思うように行くのではないかと思ってきている」と語り、日本政府に対し、弱腰外交にならないよう警告した。
東郷教授のようにプーチン提案を積極的に受け止めて交渉に取り組むべきか、それとも兵藤氏の主張するように慎重に対応すべきか、両方の考え方があると思う。いずれにしろ、政府はロシア側の動きをじっくり見守りながら、日本側の対応をきちんと決める必要がある。いつまでも洞(ほら)が峠を決め込んで待っていては、相手の動きについていけない。(この項終わり)
プーチン氏は3月1日、外国人記者との会見で北方領土問題に自ら触れ、「日本との領土問題を最終的に解決したいと強く思っている」と述べた。そのうえで、平和条約締結後の2島引渡しを定めた日ソ共同宣言(1956年)をベースに「引き分け」という日本語を使い、受け入れ可能な妥協を日本側に呼びかけた。
兵藤氏はまずプーチン発言の意味についてこう分析した。
「1つは、プーチンは前から21世紀にはアジア太平洋が中核になると述べていた。だから彼はAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議のロシア開催を提案した。長い目で見ると、ロシアのフロンティアはアジアしかない。経済の高度化を狙うとすれば、日本と協力するしかないということだと思う。2つ目は、北方領土問題で、ロシアが避けて通れない問題だ。だが、彼の方で何か新しい提案があるか、というと以前と変わらない気がする」
「プーチン氏は引き分けにしようと提案したが」と重ねて質問した。兵藤氏は「あらゆるチャンスをつかんで交渉を進めることに反対ではないが、もう50年経ったのだからなにがなんでも解決しなければいけないということはない」と、あくまで慎重に対応するよう求めた。そのうえで、プーチン発言の問題点をこう指摘した。
「プーチンは、日ソ共同宣言には2島以外の(日本側の)要求はないと明言し、どういう条件で引き渡すのか、その後主権はどうなるかについても書いてないと言っている。そこまで厳しく考える必要があるかどうかはともかく、これが最後だ、いまこそ勝負すべきだという話には乗れない」
「では、どういう形での決着がありうるのか」との質問にも「プーチンのリーダーシップがどの程度あるかわからないので、決着の話はまだ早い。大統領に就任してからプーチンの今後を見極める必要がある」と答え、日本に対する姿勢がさらに厳しくなる可能性もあると指摘した。
また、兵藤氏はメドベージェフ大統領が2010年11月に国家元首として初めて国後島を訪問した理由について次のように語った。
「きっかけを作ったのは、65年前に日本が降伏文書に調印した9月2日を『第二次世界大戦終結の日』として国の記念日に決めたことだと思う。ロシアは北方四島の所有を正当化するのに苦労していたが、戦争の過程で四島をとったということを言い出した。これは非常に大きな問題だと思うが、政府、マスコミなどの動きは鈍かった。あの時、日本政府は大使を引き上げるくらいの措置をとるべきだった」
さらに兵藤氏は「プーチンも今の日本政府の姿勢が変わってきていることに気づいているはずだ。日本をおどせばロシアの思うように行くのではないかと思ってきている」と語り、日本政府に対し、弱腰外交にならないよう警告した。
東郷教授のようにプーチン提案を積極的に受け止めて交渉に取り組むべきか、それとも兵藤氏の主張するように慎重に対応すべきか、両方の考え方があると思う。いずれにしろ、政府はロシア側の動きをじっくり見守りながら、日本側の対応をきちんと決める必要がある。いつまでも洞(ほら)が峠を決め込んで待っていては、相手の動きについていけない。(この項終わり)