飯島一孝ブログ「ゆうらしあ!」

ロシアを中心に旧ソ連・東欧に関するニュースや時事ネタを分かりやすく解説します。国際ニュースは意外と面白い!

どうしたらロシアとウクライナの戦争を止められるのか?

2022年04月23日 14時35分01秒 | Weblog
ロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始してから2ヶ月たつが、いまだにプーチン大統領はウクライナ東南部を中心に残酷な戦闘を続けている。これに対し、ウクライナのゼレンスキー大統領も、停戦案が受け入れられまで戦い抜く決意を示している。この戦争を終結させるためには、まずプーチン大統領の性格と思惑を突き止めなければならない。そこで、ロシアの専門家である東郷和彦・元外務省欧亜局長と亀山郁夫・前東京外国語大学学長の発言から検討してみたい。

2人の発言は、いづれも最近の毎日新聞夕刊に掲載されているので、それを読みながら考えてみた(4・15、4・22の夕刊を参照)。東郷さんは外交官としてソ連課長、欧亜局長、オランダ大使などを歴任したロシア外交の専門家である。その結論は「ロシアは強いリーダーによる統治」であり、ロシア国民もそれを求めて来たので「アングロサクソンの作り上げた民主主義の制度とは相入れない」と断言する。

プーチン大統領は2000年の就任直前に発表した論文で、自らの使命を次のように定めている。「ソ連崩壊後の10年間でロシアは三等国になってしまった。だが、ロシア国民は三等国に甘んじる国民ではない。ロシアは強くて豊かで多様な価値を持つ国だから、そういう国に変えていく」と主張する。さらに、ソ連崩壊後、ワルシャワ条約機構が解体されたので、それに対抗するNATO(北大西洋条約機構)も解体されるべきなのに、逆にウクライナとジョージアの加盟を原則OKとした。このため、プーチン氏は我慢のレッドラインを超えてしまったというのだ。

一方、亀山さんはロシア文学が専門で、文豪ドストエフスキーの研究で知られている。亀山さんは「今回の戦争から受けている衝撃は『カラマーゾフの兄弟』に出てくる「神がなければ、すべては許される」という言葉でしょうか。この言葉はウクライナのキーウ(キエフ)郊外ブチャで起こった虐殺の事実にも深く通じている」と断じる。その上で、亀山さんは「私が恐れているのは、西側による経済制裁が逆効果を生むことです。制裁すれば市民の不満が高じ、プーチン政権は自壊するというのが西側のシナリオですが、「反戦」から「愛国心」に変転する可能性も決して少なくない」と言い切る。

さらに、東郷さんはプーチン氏が首相だった頃、小渕恵三首相(当時)との会談に同席した時のことを思い起こした。プーチン氏はその時、テロリストへの断固たる決意を述べていて「彼は必要とあらば武力を使う。これは絶対に忘れてはならない。もっと怖いのはその時にプーチン氏がどう出るか、誰にも分からないことです」と指摘した。そのため東郷さんは「一刻も早く停戦すべきだ」と力説し、プーチン氏もウクライナも負けにならない連結点を探すよう提案した。

東郷さんは日本外交にも言及し、「和平について日本は独自に動けるはずです。ゼレンスキー氏と米国に対して意見すべきだ。プーチン氏を第三次世界大戦の瀬戸際にまで追い詰めていいのかと」。今回の軍事侵攻で日本政府は、米国の後を追っているだけというのが大方の見方だろう。外相経験者の岸田首相はもっとリーダーシップを示すべきだ。今こそ、日本外交の存在感を世界に示す絶好のチャンスではないか。(この項終わり)




単行本『国境を超えたウクライナ人』を読んで!

2022年04月07日 17時32分25秒 | Weblog
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ロシアとウクライナの戦闘が始まってから、間もなく2ヶ月になろうとしているが、依然として停戦の見通しが立っていない。こうした最中に、ウクライナ人の著者による単行本『国境を超えたウクライナ人』が群像社から出版された。外国に飛び出し、それぞれの分野で活躍した10人の生き方、考え方を描いており、ウクライナ人の思考傾向をつかむのに大いに参考になりそうだ。

著者のオリガ・ホメンコさんは、首都キーウ(キエフ)生まれ。キエフ国立大学文学部を卒業後、来日し、東京大学大学院地域文化研究科で博士号を取得した。その後、、ハーバード大学ウクライナ研究所客員研究員、キエフ経済大学助教授を経て、現在はキエフ・モヒラ・ビジネススクールの助教授を務めている。日本語に通じていて、『ウクライナから愛をこめて』などの著書がある。

ホメンコさんによると、ウクライナは日本と違って海という自然の壁に囲まれていない平地なので、常に自分たちの土地を守る必要があった。古くは遊牧民がうろうろしていた地で、中世には東からやってきたタタール・モンゴルに占領されたし、トルコ、ポーランド、ロシアなどに占領された過去がある。ウクライナ人は「私の家は一番端っこ」という言い方をよくするが、そこには自由に暮らしたいからほっといてほしいという思いも込められているという。

ウクライナにとり「国境」は東と西で全く違い、西の国境は堅固だったが、東はそれほどしっかりしたものではなかった。トルコ領まで広がっていたコサックがいい例で、拠点をロシアによって破壊されると、コサックはドン川からさらに極東にまで移って行った。それは、ロシア帝国の裏を突いて、その影響力から抜け出し、自由に生活できる「国境」のない方向に動いて行った結果とも言える。

ウクライナの地図は16世紀にできているが、19世紀までは他の国によって作られた地図が使われていた。厳しい環境の中では、国境を無視するか、それを乗り越えるかという二者択一しかなかった。権力者が決めたルールを「追い越す」のもうまくなった。不自由を自由に変えるのが得意なのはウクライナ人の気質だともいう。

この本で取り上げられた10人中9人はウクライナ生まれで、国境を超えて異郷の地で活躍し、大きな実績を残した。どの人物も柔軟性、コミュニケーション力などを兼ね備えた人たちだったが、国境というものの存在感のため、緊張感が和らぐことがなく、そこからウクライナ人の特質も生まれてきた、とホメンコさんは分析している。

ウクライナで生まれて日本にやってきた人の中では、昭和の大横綱、大鵬幸喜が一番有名である。彼の父親は、ウクライナから樺太にやってきた。ホメンコさんは最後に「この本で紹介した人はそれほど有名ではないかもしれないが、国境を超えたウクライナ人として、どうしても私が日本に伝えたい人たちである」と書いている。この本を読めば、きっとその意味を理解してもらえるだろう。
 (群像社刊、定価1500円+税、ISBN978-4-910100-22-7 C0022) 

ロシアとウクライナは、どうしたら停戦できるのか?

2022年04月01日 17時45分26秒 | Weblog
ロシアがウクライナに侵攻してから5週間経ったが、ロシアは攻めあえぎ、予想以上に苦戦している。プーチン大統領は明らかにウクライナの力を過小評価し、政権上層部は混乱状態に陥っているとも言われている。一方のウクライナは、首都キーウ(キエフ)周辺地域を奪還、反撃に転じているが、このまま停戦にこぎつけられるだろうか。今後の両国の展開を、明らかになっている情報を元に考えてみた。

ロシアの侵攻から1カ月の段階で、ウクライナはロシアが求める「中立化」を条件付きで受け入れる提案をした。この提案は、米英仏露中などがウクライナの安全を担保する多国間条約の締結を条件に、北大西洋条約機構(NATO)加盟を断念するというものだ。これに対し、ロシアはウクライナの首都周辺から軍隊を撤収し、今後は東部や南部での戦闘に集中する方針とみられる。

そもそもプーチン大統領は、なぜこれほどウクライナを敵視するのだろうか。ロシアとウクライナは隣国であり、国民も同じスラブ系民族である。そのため、ずっと以前から兄弟のような関係とされてきた。その関係が一変したのは、1991年のソ連崩壊がきっかけだという。ソ連崩壊時に米国は、NATOを拡大しないと約束しながら、その後、拡大方針を続け、ロシアの弟分といわれるウクライナにまで触手を伸ばしているからだ。

プーチン大統領は2008年にブッシュ米大統領に対し、「ウクライナは国ですらない。それを知るべきだ」と強調したとされる。ウクライナを「国ですらない」と米大統領に述べたとすれば異常な発言とも言える。その想いが反米につながり、さらに隣国のウクライナにまで影響を及ぼすとなれば、ウクライナはロシアか、米国のどちらかの影響下に入るしかないことになる。そうなると、ウクライナを巡って米国とロシアが軍事衝突するしかないという結論になる。

一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は「ウクライナはすでに8年に渡るウクライナ東部での戦争から学んだ。信じられるのは具体的な成果だけだ」として、ロシアによる攻撃の停止を促している。だが、ロシアは劣勢を挽回するため生物・化学兵器を使用するのではないかとの見方も出ていて、ウクライナは警戒を強めている。

憂慮されるのは、このまま戦闘が続けば戦闘員はもちろん、民間人の死者が爆発的に増え、400万人といわれる難民がさらに増えることだ。すでにロシア軍の撤収地域から多数の民間人と見られる遺体が確認されていて、国際社会から強い批判を受けている。われわれは同じ人類として、これ以上不幸な子ども達や市民を増やしたくない気持ちでいっぱいである。とにかくロシア、ウクライナとも戦闘をいったん停止して欲しい。それから双方の指導者が直接会って、今後の対応を真剣に検討すべきだ。これ以上犠牲者を増やすのは、人類として恥ずかしいというしかない。
 (この項終わり)