飯島一孝ブログ「ゆうらしあ!」

ロシアを中心に旧ソ連・東欧に関するニュースや時事ネタを分かりやすく解説します。国際ニュースは意外と面白い!

ロシアとの北方領土交渉は“水入り”が必要ではないか?

2019年01月24日 14時25分21秒 | Weblog
安倍首相とプーチン大統領は1月22日、モスクワで首脳会談を行なったが、焦点の北方領土交渉では進展がないばかりか、入口から意見が合わなかったようだ。ロシアの有力紙コメルサントは「安倍首相は期待を抱いてやって来たが、全てが消えてしまった」という見出しをつけて首相の落胆ぶりを表していた。

会談は予定の2時間を約1時間オーバーし、領土問題を含む平和条約について十分協議したはずだが、会談後の共同記者発表でプーチン氏が言及したのは大半が日露の経済問題だった。特に日露貿易を活発化するため、貿易額を数年で1・5倍に増やすほか、液化天然ガス(LNG)プロジェクトへの協力を求めたもので、経済協力をごり押しする内容だった。

こうしたプーチン氏の発言についてコメルサント紙は「大統領は安倍首相に(日本側が要求するとみられる)2島への期待とははるかに違うということを露骨に理解させようとした」と書いていた。つまり、プーチン大統領ははじめから2島返還など考えていないことを安倍首相にはっきり示したということのようだ。

これだけ悪し様に言われては、安倍首相も腹がたったのではないだろうか。それでも首相は河野外相らに「(平和条約交渉を)さらに前進させるよう指示した」というが、このように入口論でつまづいているようでは前進は当分期待できない。

今回の交渉劇は、プーチン大統領が交渉担当に指名したラブロフ外相とタッグを組んで、日本側の期待度をできるだけ下げ、日ソ共同宣言の「2島マイナスアルファ」を狙っているに違いない。安倍首相は自ら「プーチン氏と私の間で決着させたい」と発言、自分の任期中に解決させたいと前のめりになっている。だが、プーチン氏の方が任期が2年長く、分が悪い。ロシア側はそこまで見通して強気になっているのだろう。

この際、しばらく冷却期間を置く"水入り”にしたらどうだろうか。安倍首相は2月中に外相会談を行って前進させるよう指示したというが、今のまま突き進んでも向こうの術中にハマるだけではないだろうか。敵は百戦錬磨のタフなネゴシエーターだ。こちらもじっくり戦略を練って進めるべきだろう。(この項終わり)

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日露外相会談;日本側はなぜ共同記者会見を拒否したのか?

2019年01月15日 15時56分27秒 | Weblog
日露外相による初の北方領土交渉が1月14日、モスクワで行われ、この後、ラブロフ露外相による記者会見が行われたが、河野外相は共同会見を拒否した。その代わり、河野外相は日本のメディアだけを招いてブリーフィングを行い、ロシアメディアは事実上、蚊帳の外に置かれた。

今回の外相会談は1月22日の日露首脳会談に向けて開かれたもので、いわば露払いのような会談だった。ラブロフ外相が会見で「(日露間には)重大な不一致がある」と指摘したように、最初から不協和音が続いたとみられる。特にロシア側が強く主張したのは「日本は第二次大戦で北方領土がロシア領(旧ソ連領)になったことを認めるべきだ」と言う“入口論”だ。当然ながら日本側はこれを認めず、ロシアの有力紙「コメルサント」が書いているように「ロシアと日本は不一致から始まった」と言う状態だった。

さらに、会談の結果を公表する共同記者会見を日本側が拒否、ロシアメディアを締め出した形で日本のメディアだけにブリーフィングをしたのだ。タス通信によると、共同記者会見には事前に日露のメディア約180人が登録していたが、分離会見になるとロシアのメディアと日本の大手メディアの一部しか出席しなかったと言う。

日本外務省はなぜ共同記者会見を拒否したのだろうか。確かに日本外務省はこういう形で記者発表するケースが多いが、相手側が共同会見を提案しているのに、それを拒否するのはおかしい。ロシア側に知られたくない内容があるのかと、逆に勘ぐられることになる。領土交渉には国益が絡み、微妙な問題が生じがちなのもわかるが、むしろ正々堂々と会見し、ロシアメディアを説得するような姿勢が求められるケースではないだろうか。

筆者も現役時代には、こうした外務省のブリーフィングという名目の会見に何度か出席したが、国民から真実を遠ざけようという行為にすぎないと思う。領土交渉はいかに国民の理解をえるかに成否がかかっていると言っても言い過ぎではない。まして日露が対立構造にある場合は積極的にロシアメディアに説明すべきではないのか。外務省がこういうスタンスを取り続けていては、ロシアばかりか、日本国民からもそっぽを向かれるのではないだろうか。(この項終わり)
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北方領土をめぐる日露交渉はどう決着するのか?

2019年01月01日 01時31分07秒 | Weblog
新年明けましておめでとうございます。今年もこの小さなブログをご愛顧のほど、よろしくお願いします。

さて、2019年は平成最後の年ですが、新年早々から70年越しの懸案である北方領土交渉が本格的に動きだします。まず年明けに河野外相が訪露してラブロフ外相と会談します。2人は日露領土交渉の「責任者」に任命されており、安倍首相とプーチン大統領との首脳会談のお膳立てをすることになります。つまり、首脳会談の時期など会談の段取りを打ち合わせするのが一番の目的です。

当面のヤマ場は、1月下旬に予定されている日露首脳会談です。すでに米ソ冷戦時代に取り決められた「日ソ共同宣言」(1956年)を基礎に交渉を開始することで合意していますが、宣言では「平和条約の締結後に、歯舞・色丹島を引き渡す」と書かれているだけで、プーチン大統領が主張しているように、2島をいつ、どういう態様で引き渡すかは決まっていません。日本側は当然、2島の主権付き返還を要求するでしょうが、プーチン大統領がどう出るか予断を許しません。

ロシア側は、米国が日米同盟を根拠に、返還された2島に軍事基地を建設するのでは、と懸念、米側の具体的な保証がなければ返還できないとの立場を主張する見通しです。その時、安倍首相はどう答えるのか。事前に米側との話し合いが必要ですが、トランプ大統領が簡単にOKするかどうかは不透明です。

もう一つ、大きな問題は、日本はこれまで「国後、択捉島も日本固有の領土」と主張してきましたが、その旗をあっさり降ろしていいのかという点です。これには戦後、「北方領土」というワードを考え出し、4島一括返還をずっと要求してきた日本の外務省が強く反対しています。河野外相が記者会見で質問を4回もパスしたのも、首相と外務省官僚との板挟みにあったからではないでしょうか。

安倍首相は歯舞・色丹島返還と、国後・択捉島の共同経済活動を組み合わせた「2島プラスアルファ」案での決着を目指していると言われています。だが、野党側は2島だけの返還では国民が納得しない、と反対の意向を示しています。この問題をどうまとめるかは、国内の世論統一のためにも大事です。

その上で、今年6月に日本で開催されるG20首脳会議に合わせて、プーチン大統領との首脳会談を設定し、大筋合意を目指すというのが日本側の目論見です。だが、それまでに日露だけでなく、日米との協議もまとまらなければ首相在任中の平和条約締結は厳しくなります。

旧ソ連とロシアの過去の歴史を調べると、ロシアは国際情勢が厳しくなり、なんらかの譲歩が迫られた時に負の決断をする傾向があります。今の情勢を見ると、ロシアは米国と軍事面で対立し、米国は中国と経済面で拮抗している状況です。そうなるとロシアだけでなく、米国も軍事面で譲れない情勢と言えます。つまり、日本にとって不利な情勢にあることは間違いありません。こんな時に安倍政権が北方領土交渉で前のめりになり過ぎると大ケガの元です。

要は安倍政権が、情勢を十分把握して対応できるかどうかです。政権浮揚のために目先の利益を優先するのではなく、国益を重視してじっくり決断しなければ、交渉上手のロシアの術中にはまってしまうでしょう。(この項終わり)
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