飯島一孝ブログ「ゆうらしあ!」

ロシアを中心に旧ソ連・東欧に関するニュースや時事ネタを分かりやすく解説します。国際ニュースは意外と面白い!

「宿敵」ゴルバチョフとエリツィンの写真展がモスクワで同時期に開催!

2011年01月31日 11時00分43秒 | Weblog
 ソ連時代末期にともに争った「宿敵」ゴルバチョフ旧ソ連大統領とエリツィン・ロシア初代大統領(07年死去)の写真展がモスクワで会場は違うものの、同時期に開催された。ともに80歳を記念するものだが、雰囲気はかなり違ったものだったようだ。

 有力経済紙コメルサント(電子版)によると、2人の写真展は双方の記念財団の協力で「モスクワ写真の家」が開催した。写真展のタイトルはゴルバチョフの写真展が「ゴルバチョフ・ペレストロイカ」、エリツィンが「エリツィンと彼の時代」だった。 

 2人が「宿敵」といわれるのは、ゴルバチョフがエリツィンを地方の第一書記から中央政界に呼び、政治局員候補にまで引き上げたものの、路線をめぐって対立、エリツィンは失脚させられた。だが、選挙で当選して奇跡のカムバックを遂げ、ついにはゴルバチョフをソ連大統領の地位から引き摺り下ろしたからだ。

 こうした確執が起きたのも、2人の性格があまりに違いすぎたからだろう。ゴルバチョフがモスクワの最高学府を卒業した、生真面目な理論家なのに対し、エリツィンはガラッパチで直情径行型、いわゆるロシアのムジーク(農夫)的な人物だった。まさに正反対といっていいだろう。

 今回の写真展も、この記事を書いた記者によると、「類似点の少ない」写真展だったという。ゴルバチョフの方はデモや難民のような不幸な民衆の写真が多かったのに対し、エリツィンの方はポップコンサートで踊ったり、テニスをしたりという「立派なムジーク振りで、堂々としている」写真が多かったと書いている。ムジークには農夫以外に「野人、無作法者」という意味もある。

 両写真展の雰囲気が違う理由について記者は、状況の違いはもちろんだが、時代への認識の違いがあるのでは、と書いている。そして、ゴルバチョフが推進したペレストロイカ(立て直し)は「難しい変動の時代」であり、社会主義から市場経済に移行したエリツィン時代は「困難な90年代」だったと表現しているが、違いが分かりにくい。やはり2人の性格の違いが一番大きい要素ではないだろうか。

 翻ってどちらが偉大な政治家だったかというと、やはりゴルバチョフに軍配を上げざるを得ないだろう。政治的、経済的に行き詰ったソ連の改革に着手し、世界を冷戦から解放した功績は大きなものがある。だが、国民の人気という意味では圧倒的にエリツィンのほうが人気があった。良くも悪くも典型的なロシア人だった。

 私にとってもエリツィンの方が印象に残っている。モスクワ特派員時代、彼が大統領になる前からウォッチしてきたが、喜怒哀楽を隠さず、何をするか分からないところが面白かった。記者とすれば厄介な取材対象だが、不可解なところがロシアの、さらにはロシア人の魅力なのかもしれない。さて本人は今頃草葉の陰でなにをしているだろうか。ウオツカを飲みながら「相変わらずゴルバチョフはさえないね」とでも言っているのでは。
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ロシアの空港自爆テロ犯人は「チェチェンとは無関係」とプーチン首相!

2011年01月27日 10時47分59秒 | Weblog
 ロシアの首都モスクワのドモジェドボ国際空港で24日起きた自爆テロ事件の犯人は、当初予想されたチェチェン共和国のテロリストではなく、周辺地域のテロリストの可能性が強まっている。捜査当局は27日、ロシア出身の容疑者の顔写真を公開し、全国に指名手配した。

 指名手配されたのは、北カフカスに隣接するロシア南部・スタブロポリ地方を拠点にするテロ組織「ノガイ・バタリオン(ノガイ大隊)」の一員。ロシア生まれのビタリー・ラズドブトコ(32)で、イスラム教の原理主義ワッハーブ派の信者とされる。このテロ組織は昨年秋、治安当局に急襲され、仲間が逮捕、死亡したことから今回、報復に出たのではないかとみられている。

 これより先、プーチン首相は記者団に「私が得た情報によると、今回のテロはチェチェン共和国とは関係ないようだ」と語っている。このため犯人は、チェチェン周辺地域に住むイスラム系のテロリストとの見方が出ていた。

 爆発は空港ターミナル1階の国際線到着ロビーで起きたが、死亡した35人の中に手配された容疑者に似ている人物がみつからず、捜査当局は逃走中とみている。容疑者は昨年10月から行方がわからず、親戚はゲリラ組織に殺害された可能性があると話していたという。

 爆発により死亡した35人の身元はすでに確認され、このうち8人が外国人と判明している。外国人の内訳は、オーストリア人2人、タジク人2人、ウズベク人、ウクライナ人、ドイツ人、英国人各1人となっている。

 メドベージェフ大統領は、空港の警備が甘かったなどとして空港警備責任者ら4人を解任し、さらに調査を進めて責任者を処罰するとしている。年末の下院選、来年春の大統領選を視野に入れ、責任追及が自分に向かわないよう、「トカゲの尻尾切り」をする方針である。

 だが、ロシアの世論は秩序維持に敏感なだけに、今回の空港テロで大統領の支持率はかなり下がる可能性がある。すでに昨年暮れの赤の広場でのサッカーファンによる暴動の影響で大統領の支持率が下がっているとの報道もある。今回の事件でさらに下がると、大統領の再選に黄信号が出ないとも限らない。

 大統領は事件後のテレビインタビューで、来年の大統領選への立候補について「すべては今後の状況次第だ。私は年内に立候補するかどうか決めるが、国家にとって国民にとって正しいと判断すれば立候補する」と述べた。自ら立候補するかどうかを決めると明言したのは異例で、本腰を入れて再選問題に向き合う意思を内外に示したといえる。

 一方、再度大統領職に戻るかどうか注目されるプーチン首相は、当分の間、大統領の「お手並み拝見」となろう。テロ事件など安保・治安問題は大統領の直轄事項だからで、メドベージェフ大統領に対処能力がないと見切れば大統領の立候補を断念させ、自ら立候補することになる。両者の今後のせめぎあいを注視したい。
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レーニン廟の遺骸埋葬問題が年末の下院選の争点に浮上する?

2011年01月24日 12時31分45秒 | Weblog
 ロシア革命の指導者レーニンの遺骸は今もモスクワ中心部・赤の広場のレーニン廟に安置されているが、議会与党「統一ロシア」の議員が遺骸の埋葬問題を議論するよう提案し、波紋を呼んでいる。これまでも何度かこの問題は議論されてきたが、結論が出ないまま先送りされてきた。

 レーニンは1924年1月21日に死去したが、遺骸は本人が夢にも思わなかった永久保存措置を施され、赤の広場のレーニン廟に今なお安置され、公開されている。もっとも、遺骸の大半はサンクトペテルブルクの墓地に埋葬され、廟に実際に残っているのは1割程度とされる。

 今回改めて提案しているのはメジンスキー下院議員で、与党で議論し受け入れられれば下院で討論するよう求めている。これを受け、与党は先週末、公式サイトに同議員の意見を掲載、レーニン廟を撤去し、遺骸を墓地に埋葬することに賛成か反対かを投票するよう求めている。2日間の投票結果によると、約18万人が投票し、賛成が7割、反対が3割だった。

 この問題では何度も世論調査が行われているが、09年の調査では41%がレーニン廟での遺骸安置について「正しくない上、不自然だ」と回答、このままでいいという人は15%にとどまっていた。大勢は墓地埋葬派だが、政党の中で断固反対しているのは旧ソ連共産党の継承者を自認しているロシア共産党だ。今回の提案についても「すでにこの問題は決着済みだ。これを蒸し返そうという与党の試みは野党内を混乱させようという陰謀に他ならない」と決め付けている。

 一方、極右のジリノフスキー党首が率いる自由民主党は「政治的理由ではなく、人間的な観点から墓地埋葬案を支持する」として与党案に賛成している。また、改革派野党のネムツォフ元第一副首相も埋葬案を支持すると語っている。

 しかし、この問題を取り上げると、赤の広場に安置されている旧ソ連時代の英雄や無名戦士の遺骸撤去も論議することになり、大きな社会問題に発展すると危惧する声も出ている。

 与党内では、年末の下院選で目立った争点がないことから、この問題を争点にしようという動きもみられる。野党でいまだに大きな勢力を持っている共産党を追い落とすチャンスと見ているからだろう。与党の事実上の党首であるプーチン首相も、この問題には反対しないとの読みもあるようだ。

 今年12月には、ソ連共産党とソ連の解体から満20年を迎える。ロシアでは、いまだにソ連時代の遺物を引きずっていることが少なくない。その最たるものが、レーニン廟といえる。今年はこうした旧習から脱却するいい機会である。今も実権を握っているプーチン首相なら「ツルの一声」で解決するといっても過言ではないだろう。

 
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ロシアの実際の犯罪件数は公式統計の8倍もある!?

2011年01月17日 10時48分22秒 | Weblog
 ロシア全土の犯罪件数は公式統計の8倍以上もあり、ここ10年間に急激に増えている―。こんな驚くべき報告書が検察庁アカデミーの調査グループによって明らかになった。殺人事件も実際は公式統計より2・5倍も多いというのだ。

 17日付けのモスコー・タイムズ紙(電子版)によると、この報告書は840ページにのぼる分厚いもので、調査グループが10年間かけて調査・分析した。その内容の一部をご紹介しよう。

 昨年1年間にロシア全土で発生した犯罪総件数は公式統計では300万件となっているが、実際は2千600万件だった。犯罪件数は毎年2・4%づつ増えていて、2020年には年間3千万件に達するという。この違いは、公式統計が警察によって報告・公表されたものだけをカウントしているからだとしている。

 殺人事件を取り上げると、この「からくり」がはっきり分かる。公式統計では昨年の殺人件数は1万8200件となっているが、事件が公表されていないものを含めると4万6200件にのぼるという。しかし、実際はもっと多い。なぜなら、身元不明の遺体が7万7900体見つかっており、そのほかに行方不明者が4万8500人いるからだ。

 この調査を統括したイシャコフ・アカデミー教授は「すべて報告書に書いてある」としてコメントを拒否しているが、憲法裁判所のオフチンスキー裁判官顧問は「公式統計と実際とのギャップが大きいのは他の調査でも確認されていて、これらはほぼ同じ結果が出ている」と調査の信憑性を認めている。

 チャイカ検事総長も昨年4月、上院で犯罪報告を行った際、「09年の犯罪件数は08年より7ポイント減っているが、その中には警察が犯罪の登録を拒否したケースがある」と述べていた。つまり、警察が統計を意図的に操作していることを示唆したもので、その裏に警察の恣意的な「犯罪隠し」が見え隠れする。

 下院安保委員会のイリューヒン副委員長は「この報告書はほぼ完璧に治安の実態を反映している。報告されない犯罪件数は非常に多く、今後もこの状態が続くだろう」と語っている。メドベージェフ大統領も昨年11月、北カフカスの犯罪統計を批判し、「ナンセンス」と口走ったことがある。

 大統領は警察を含む治安機関全体が汚職にまみれていて非効率だとして改革に着手しているが、実態は想像以上にひどいようだ。フリー・ライターの福田ますみさんが現地で取材してまとめた『暗殺国家ロシア』(新潮社)には、「犯罪者集団に成り下がった」警察の現状が活写されている。一読をお勧めしたい。
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ロシアの巨匠ミハルコフ監督の新作「戦火のナージャ」を見て感動!!

2011年01月13日 13時04分50秒 | Weblog
 ロシアの巨匠ミハルコフ監督の新作「戦火のナージャ」を先日試写会で鑑賞した。1994年に製作され、アカデミー賞外国語映画賞を受賞した「太陽にやかれて」の続編というが、前作とはガラリと変わり、第二次世界大戦で最も激戦といわれる独ソ戦を描いた戦争物である。だが、激しい戦争の中でも牧歌的な雰囲気が漂い、「これぞ、ロシア!」といえる映画で、久々に感動した。

 ミハルコフ監督が脚本、俳優、監督の1人3役をこなし、相手役にも前作同様、ロシアを代表するオレグ・メンシコフを登場させているが、様変わりしているのは愛娘ナージャである。前作では6歳のあどけない少女だったが、今回は24歳になり、事実上の主役として大人の女性を演じている。

 乗っていた船がドイツ軍の戦闘機に攻撃されて沈没、真っ黒な海に投げ出され、機雷につかまって漂流したり、瓦礫の広がる戦場で死に瀕した若い兵隊を看護したり。さらには兵隊の必死の頼みを聞いて裸身をさらす・・・。まさに体当たりの演技を見せてくれる。

 こうしたシーンの間に、前作のいたいけな少女時代の映像が流れ、その牧歌的な雰囲気に癒される。監督と娘が登場するシーンが多いのが気になる人もいるかもしれないが、家族を思いやる気持ちを、今の時代こそ大切にしたいという監督のメッセージが伝わってくる。

 スピルバーグ監督の戦争映画「プライベート・ライアン」を観て、この映画のアイディアが浮かんだ、とミハルコフ監督は語っている。といっても、同じような作品をつくろうと思ったのではないことは明白だ。スピルバーグ監督と違って、随所にロシア的なユーモアや意外性をおり混ぜ、思わず笑ってしまう場面も多かった。いつの間にか、ミハルコフ・ワールドに引き込まれてしまったというのが実感だ。

 もちろん、戦争物だから悲惨な場面やスターリンの粛清を示唆する場面も少なくない。とくにスターリン批判のモチーフは前作同様、一貫して流れている。だが、それ以上にミハルコフ監督のヒューマニズムがあちこちにちりばめられ、ともすれば「怖い」あるいは「残忍だ」といわれるロシア人のイメージを見直させる映画にもなっている。

 この映画の上映開始は、今年のゴールデンウイーク(GW)で、本国ロシア以外で上映されるのは日本が最初だという。ロシアという、近くて遠い国を知るには、一番手ごろな教材だと思う。是非一度映画館に足を運んでみてほしい。あなたもきっとミハルコフ・ワールドのとりこになるでしょう。

 
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2011年の日本外交:菅政権は東アジア重視の政策を推進せよ!

2011年01月10日 10時56分04秒 | Weblog
 鳩山前政権は「対等な日米関係」とともに「アジア重視」を日本外交の中心にすえたが、菅政権は「対等な日米関係」も「アジア重視」もないがしろにしている。そして米国主導の「環太平洋戦略的経済パートナーシップ協定」(TPP)加盟に向けて突っ走っているようだが、それでいいのだろうか。

 鳩山前政権が打ち出した「東アジア共同体構想」はアジア重視の具体化の柱だったはずだ。言い換えれば、日米関係とバランスを取るためのアジア重視の表れだった。東アジア共同体構想が東南アジア諸国連合(ASEAN)各国から歓迎されたのも、アジアで米中の存在感と均衡を取りながら、アジアとの関係を深めていこうという日本側の姿勢が評価されたからだ。

 アジアの中でも東アジアは南シナ海、東シナ海などの海洋交易路でつながり、人口32億人の経済圏となっている。このアジアの活力を日本経済に取り込むとともに、友好関係を高め、中国に脅威を感じている人々と連携することは日本にとってプラスになる。日本が国連安保理常任理事国入りするためにも、アジア諸国の協力は欠かせない。

 今大きな論議を呼んでいるのは、日本が「環太平洋」と「東アジア」のどちらの組み合わせを取るかだ。菅政権は今年6月をメドにTPPに参加するかどうかを検討するとしているが、ヤミクモに「環太平洋」に向かっているというのが実態だろう。

 私の友人の篠原孝農水副大臣は、こうした菅政権の姿勢に対し「TPPは国の形をゆがめる」と自身のメールマガジンで警告を発している。民主党屈指の農政専門家である篠原氏によると、TPPに参加すると10年以内にすべての物品の関税をゼロにしなければならず、農林水産業は約5兆円の生産減になるという。現在約8兆円なので、生産は半分以下に減るというのだ。由々しき問題である。

 問題はそれだけではない。TPPは米国の対中封じ込め策の一環であり、これに加盟すると日本が米中の対立に巻き込まれることになる。今いたづらに中国と事を構えるようなことはすべきではない。米国に忠義立てするあまり、国の進路を誤らせるようなことは慎むべきだ。

 日本はまず、東アジア諸国と関税などの柔軟な自由貿易協定(FTA)を結び、そのネットワークを広げながら、アジア各国と友好・協力関係を広げていく方法をとるべきだ。最近の一部メディアの論調に乗って「バスに乗り遅れるな」とばかり、TPP加盟に向かって猛進するべきではない。
 
 菅政権がこうした軽挙妄動をするのも、きちんとした国家戦略がないからだ。じっくり検討し、国家百年の計を立ててから実行に移すべきだ。今年は卯年。ウサギのように長い耳で情報を把握し、慎重に行動すべき時だろう。
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2011年の日本外交:「対等な日米関係」の原点を追求せよ!

2011年01月07日 09時58分02秒 | Weblog
 日本外交の中心を占める日米関係をどう立て直すかが今年の大きな課題のひとつだが、菅政権の言動を見ていると「対等な日米関係」を追求する原点を放棄してしまっているとしか思えない。もう一度原点に帰って、日米同盟の深化と対等な日米関係を並行して進めるべきだ。

 民主党はマニフェストで「緊密で対等な日米関係を築く」を打ち出し、「主体的な外交戦略を構築した上で、米国と役割を分担しながら日本の責任を積極的に果たす」ことを目標に掲げていたはずだ。ところが、米軍普天間飛行場移設問題でつまづくと、菅政権は日米重視路線に軸足を移し、マニフェストはなかったかのような言動に終始している。

 日米同盟が日本外交の基軸であることは間違いないが、戦略を立てることから国防予算まですべて米国の言いなりになっているようでは日本外交は成り立たない。安保問題で米国にきちんと意見を言えなければ、中国やロシアに対抗できるわけがない。この間の民主党政権の対応は、完全に中露に見透かされているといえよう。

 普天間問題をめぐる日本政府の迷走が米側の対日不信を招いたことは否定しようはないが、日本政府だけの責任とみるのは酷だろう。米側がかたくなに日米合意の順守を押し付けていることも事態を悪化させている理由のひとつである。日本側は粘り強く普天間飛行場の海外移設を米側に求めていくべきではないか。

 さらに、日本側は朝鮮半島情勢の変化に備えて必要以上に米軍の支援を求める傾向にある。そのため米側に意見を言えない雰囲気になっているように感じられるが、米軍は自己の任務として警戒をしているのであり、日本側が萎縮する理由はない。「米軍に守ってもらっている」というような冷戦時代の発想を早く断ち切るべきだろう。

 菅政権は、在日米軍駐留経費の日本側負担(思いやり予算)削減問題を先送りし、現状維持の水準を向こう5年間変えない方針を打ち出したが、日本は米軍駐留費用の70%以上も負担していて、ドイツの約30%負担に比べても圧倒的に多い。この問題をきちんと見直さなければ、不平等関係は永久に続いてしまうことになる。

 米側がアジア太平洋の安全保障を日本側に押し付けてくるのは目に見えている。その半面、日本側の防衛態勢を米国に依存しなければ出来ないようなシステムにしている。これは明らかに対米従属の関係に他ならない。日米関係が真に対等な関係にならなければ、いつまでも日本は米国の役割の一部を補完する役を押し付けられることになる。

 菅首相は今春にも訪米し、安全保障を巡る日米共同声明を出す方針だ。その前に両国の外務、防衛担当閣僚らによる日米安全保障協議委員会(2プラス2)が行われる予定だが、こういう席で日米同盟を深化する方法論をきちんと議論してほしい。日本側の考えをしっかり伝えて、ボトムアップで新しい日米関係を築いてほしいものだ。

 そのためにも民主党自体がマニフェストの原点に帰って、日米関係の立て直しを図る決意を新たにすることからはじめなければならない。日米関係の立て直しは、生活立て直しとともに有権者が民主党に期待した基本政策だ。それを放棄するようでは有権者が民主党を見限っても仕方ないと腹をすえるべきだ。
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2011年の日本外交:中国、ロシアの攻勢にどう立ち向かうべきか?

2011年01月03日 10時09分07秒 | Weblog
 2010年は中国が「眠れる獅子」から「立ち上がる獅子」に変身し、アジア・太平洋地域で存在感を強めた年だった。ロシアも中国と同調しつつ、北方領土に国家元首として初めて足を踏み入れるなど、東方でのパフォーマンスをエスカレートさせた。その一方、「世界の警察官」を自負していた米国はこれまでの勢いをなくし、守りに回りつつある。2011年はこうした傾向が一層顕著になりそうだ。では、日本外交はこうした国々に対し、どう立ち向かえばいいのだろうか。

 2010年の大国の動きからはっきりしてきたのは、攻める中国とロシア、守る米国という構図である。そして攻防の主な標的となったのが領土と資源である。さらに重要なことは、攻める国々の基本的な発想は「ゲームのルール」によるということである。外交においては、多極主義世界の追求が彼らのルールであり、これは典型的なバランス・オブ・パワー(勢力均衡)の考え方である。つまり、一極世界の米国に対し、複数の極として対抗しようというのである。

 中国とロシアの共同歩調を示す基本原則が昨年9月、北京の中露首脳会談で署名された「全面的戦略協力パートナーシップ」をうたった共同宣言である。この中で、国家の主権、領土保全などの「核心的利益」で相互支持を強調する一方、資源での協力強化とアジア太平洋の地域協力をあげている。もうひとつの柱が第二次大戦終了65周年で、大戦で中露が勝利に大きく貢献したこと、大戦の歴史の改ざんに断固反対することを確認している。

 中国としては、この共同宣言を尖閣諸島などの領土紛争を抱える日本に対する共同戦線とみなし、漁船を海保の巡視艇に体当たりさせる「ゲームのルール」を適用してきたとの見方が出来る。ロシアとしても、この延長線上に大統領の北方領土訪問を位置づけていたとみられる。要するに、共同宣言の具体化の一環として尖閣諸島当て逃げ事件、元首の北方領土訪問が設定されたといってもいいだろう。

 これに対し、日本政府は外交に不慣れな民主党政権だったこともあり、いいように振り回された。尖閣当て逃げ事件では「一般の事件と同様に対処する」と明言しながら、逮捕・拘留直後に釈放、露大統領の北方領土訪問では「そんなことはありえない」と決め付けて寝首をかかれる結果となった。いずれも、両国の「ゲームのルール」に対応できない、お粗末な外交だった。

 中国の場合、経済大国の指標であるGDP(国内総生産)が日本を抜いて世界2位に浮上することが確実となり、大国意識が俄然高まっている。このため、日本に対する対抗意識が一気に表面化し、「ゲームのルール」で日本側を挑発しようとしたのではないだろうか。こうした手法はこれまでの中国側には見られなかった行動で、昨年春、日本近海を中国海軍が艦艇10隻を連ねて航行した路線の延長線上にある。

 一方、ロシアも金融危機の影響を受けたものの、経済成長が続き、大国復活を目指し、意気が上がっている。ただ、ロシアは中国の経済発展に強い警戒感を抱いていて、決して心を許しているわけではない。だが、米国に対抗するには中国との共闘が欠かせないため、共同戦線を取っているのが実状である。
 
 中国もロシアも2012年、政権交代期を迎える。中国では共産党大会が開かれ、最高指導者が胡錦祷氏から習近平氏に代わることになる。胡錦祷政権は今年1年続くが、貧富の格差が拡大し、国民の不満が一層高まる可能性がある。そうなると国民の目を国外に向けようと、領土問題などの対日政策で今年さらに強硬な措置をとるに違いない。

 また、ロシアでは今年暮れには下院選が行われ、来年3月には大統領選が実施される。今後メドベージェフ大統領とプーチン首相のどちらが大統領選に立候補するかを巡って激しい権力闘争が起こる可能性がある。そうなると国民の支持を得ようと、領土問題で一層厳しい条件を出してくることも十分考えられる。

 日本政府がこうした外交攻勢を跳ね返すにはどうしたらいいだろうか。まず、相手の言動からどういうゲームのルールを採用しているかを冷静に分析することが必要だ。冷戦思考やステレオタイプの発想を改め、リアリズムの観点から対応策を詰め、断固実行することが求められる。そのためには菅政権はこれまでの対応を反省し、外交官と一致協力して事に当たらないといけない。その態勢を築くには、まず思い切った人事の刷新が肝心だ。日本政府は成熟した国家として、中国やロシアの百戦錬磨の外交に負けない、大人の対応を是非見せてほしい。(終わり)


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