プーチン氏が3期目の大統領に当選してからまもなく1年を迎えるが、過去2期8年間の大統領時代と同様、強権的な統治が続いている。こうした中で、治安機関による盗聴件数が過去5年間で約倍増したとの新聞記事を見つけた。これが本当だとすれば、ロシア社会の警察国家化が一段と進むことになろう。
この記事を掲載したのは、28日付けのロシア英字紙モスコー・タイムズ(電子版)だ。筆者はサイト・アナリストのイリーナ・ボローガンさんとアンドレイ・ソルダトフ氏で、『新貴族階級:ロシアの保安国家復活とKGBの正当性の持続』の共同著者でもある。
この記事によると、昨年1年間に電話の盗聴とネットの傍受を実施した件数は46万6000件にのぼる。07年にはこの件数は26万6000件だったので、この5年間に1・75倍増えたことになる。しかも、この間、盗聴が必要な事件は減っているのに、盗聴件数だけが急増しているのだ。
西側諸国では、米国同時多発テロが起きた01年9月の9・11事件以降に、治安機関に盗聴などの権限が大幅に認められているが、ロシアではテロが減ってきた07年以降に、こうした権限の拡大が容認された。とくにテロが多発したチェチェン共和国で、ロシア政府が対テロ作戦終了を宣言した09年以降も盗聴件数は増えているのである。
これは一体なぜなのだろうか。この背景には、裁判所が治安機関に対して盗聴などの活動を大幅に容認したことが挙げられる。こうした動きに拍車をかけたのが、2年前にスベルドロフスク州で起きた、ある事件への裁判所の判断だったという。当時、連邦保安庁の州支部が「ある議員が過激派への呼びかけを準備している」との情報を入手、裁判所に盗聴許可を申請した。議員は「事実無根だ」と主張して争ったが、敗訴に終わり、これ以降、情報だけで盗聴が認められる風潮ができたという。
この裁判は最高裁に持ち込まれ、2週間前に最高裁が下級審の決定を支持する判断を下した。この結果、この裁判が確定し、治安機関の盗聴権限拡大を容認する判例となった。現在、ロシアでは内務省、連邦保安庁、外国情報保安庁など八つの機関が盗聴活動を認められている。
最後に筆者は、「指導者たちが市民への監視を強めることにより、政府への信頼欠如に対応しようとしているのは明らかで、人々はこれらを止める力がないのが実情だ」と結論づけている。
プーチン氏は今年5月の大統領復帰以来、大規模デモ規制強化法案に続いて、外国から活動資金を得ている非政府組織(NGO)を「外国のエージャント」として登録を義務付ける法案、インターネットの有害サイトを規制する法案などを次々成立させ、秩序維持を強化してきた。この裏では、盗聴などの手段で要注意人物を監視してきたことになる。
プーチン政権が、こうした市民社会への締め付けを強めているのは、中間層を中心にした新しい政治勢力の出現に対応できず、力で押さえつけるしか方法がないからともいえる。これでは社会を硬直化・停滞させるだけで、根本的な解決にはならない。今こそ根本的な社会改革を進めないと、プーチン政権の明日はないだろう。(この項おわり)