飯島一孝ブログ「ゆうらしあ!」

ロシアを中心に旧ソ連・東欧に関するニュースや時事ネタを分かりやすく解説します。国際ニュースは意外と面白い!

ロシアの治安機関による盗聴が過去5年間で倍増!?

2012年12月28日 16時49分35秒 | Weblog

 プーチン氏が3期目の大統領に当選してからまもなく1年を迎えるが、過去2期8年間の大統領時代と同様、強権的な統治が続いている。こうした中で、治安機関による盗聴件数が過去5年間で約倍増したとの新聞記事を見つけた。これが本当だとすれば、ロシア社会の警察国家化が一段と進むことになろう。

 この記事を掲載したのは、28日付けのロシア英字紙モスコー・タイムズ(電子版)だ。筆者はサイト・アナリストのイリーナ・ボローガンさんとアンドレイ・ソルダトフ氏で、『新貴族階級:ロシアの保安国家復活とKGBの正当性の持続』の共同著者でもある。

 この記事によると、昨年1年間に電話の盗聴とネットの傍受を実施した件数は46万6000件にのぼる。07年にはこの件数は26万6000件だったので、この5年間に1・75倍増えたことになる。しかも、この間、盗聴が必要な事件は減っているのに、盗聴件数だけが急増しているのだ。

 西側諸国では、米国同時多発テロが起きた01年9月の9・11事件以降に、治安機関に盗聴などの権限が大幅に認められているが、ロシアではテロが減ってきた07年以降に、こうした権限の拡大が容認された。とくにテロが多発したチェチェン共和国で、ロシア政府が対テロ作戦終了を宣言した09年以降も盗聴件数は増えているのである。

 これは一体なぜなのだろうか。この背景には、裁判所が治安機関に対して盗聴などの活動を大幅に容認したことが挙げられる。こうした動きに拍車をかけたのが、2年前にスベルドロフスク州で起きた、ある事件への裁判所の判断だったという。当時、連邦保安庁の州支部が「ある議員が過激派への呼びかけを準備している」との情報を入手、裁判所に盗聴許可を申請した。議員は「事実無根だ」と主張して争ったが、敗訴に終わり、これ以降、情報だけで盗聴が認められる風潮ができたという。

 この裁判は最高裁に持ち込まれ、2週間前に最高裁が下級審の決定を支持する判断を下した。この結果、この裁判が確定し、治安機関の盗聴権限拡大を容認する判例となった。現在、ロシアでは内務省、連邦保安庁、外国情報保安庁など八つの機関が盗聴活動を認められている。

 最後に筆者は、「指導者たちが市民への監視を強めることにより、政府への信頼欠如に対応しようとしているのは明らかで、人々はこれらを止める力がないのが実情だ」と結論づけている。

 プーチン氏は今年5月の大統領復帰以来、大規模デモ規制強化法案に続いて、外国から活動資金を得ている非政府組織(NGO)を「外国のエージャント」として登録を義務付ける法案、インターネットの有害サイトを規制する法案などを次々成立させ、秩序維持を強化してきた。この裏では、盗聴などの手段で要注意人物を監視してきたことになる。

 プーチン政権が、こうした市民社会への締め付けを強めているのは、中間層を中心にした新しい政治勢力の出現に対応できず、力で押さえつけるしか方法がないからともいえる。これでは社会を硬直化・停滞させるだけで、根本的な解決にはならない。今こそ根本的な社会改革を進めないと、プーチン政権の明日はないだろう。(この項おわり)
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プーチン大統領、安倍新政権との「領土対話」受けて立つ!

2012年12月21日 14時09分23秒 | Weblog
 
 プーチン大統領は20日の記者会見で、安倍自民党総裁が総選挙後に述べた「北方領土交渉開始提案」について自ら言及し、「建設的な対話にとても期待している」と表明した。この発言は、領土交渉を受けて立つことを明確に示したものと評価できる。日本政府は、この発言をきちんと受け止め、交渉開始に向け、早急に準備を進めるべきだ。

 大統領発言は、極東地域の記者がクリル諸島(北方領土)の開発問題を質問した際に飛び出した。いつもなら日本の記者が領土問題を質問し、それに答える形が一般的だが、今回大統領は聞かれてもいないのに自分から領土問題に言及した。それだけ北方領土を解決しようという強い意欲が感じられる。

 プーチン氏は、今年3月の大統領選直前に行われた外国人記者との会見で、自分から北方領土問題に触れ「日本との領土問題を最終的に解決したいと強く思っている」と述べていた。プーチン氏は大統領就任後もこの意思を持ち続け、日本の政権交代を機に安倍新政権と交渉に入る方針を示したといえる。

 もちろん、大統領は日本と旧ソ連の平和条約締結後の2島引渡しを定めた日ソ共同宣言(1956年)をベースに解決しようとしているので、日本の四島返還要求とは対立する。だが、その一方で受け入れ可能な妥協を呼びかけていて、具体的な解決策は交渉で見出そうという方針とみられる。

 最近ロシア国内でも北方領土問題を解決しようという動きがみられる。それも日本の主張を十分理解し、日本側も納得した形で解決しようという妥協案が出ている。ロシアの改革派論客の一人、トレーニン・カーネギー財団モスクワ所長が12月11日、サイトに発表した論文よると、ロシアは歯舞・色丹島を直ちに日本に引渡し、国後・択捉島は50年後に引渡すという「段階的四島返還論」を提言している。

 この考えは、先に2島を返還し、残る2島は50年間、特別の経済協力体制下に置き、そのあとに日本に返還するというもので、短期的に見ると「2島返還プラス共同管理」の変形である。だが、長期的には四島を返還するとしており、四島の主権さえ認めてくれたら返還・態様は後で決めればいいという日本政府の主張に近く、日本側も容認できる内容だ。

 トレーニン氏の主張は、ロシアの将来を考えると、アジア太平洋地域に積極的に関与すべきであり、それには日露関係の質的な改善が必要だ、そのためには北方領土問題の解決が欠かせないという趣旨だ。そうすればアジア太平洋地域が安定し、米国にとっても有益だとしている。

 翻って日本の状況を考えると、すでに2島先行返還論、3島返還論、面積等分論などの解決案が出ているが、すぐ政府によって否定され、国民的な議論ができていない。今こそ、我々が具体的な解決案を真剣に検討すべき時期に来ているのではないだろうか。(この項終わり)






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反プーチン派の集会・デモ、不発に終わる!

2012年12月16日 11時40分59秒 | Weblog

 プーチン政権に反対する野党の共闘組織「調整評議会」が呼びかけた15日の反政権デモ「自由の行進」は、モスクワ市当局が許可せず、治安当局の実力行使で不発に終わった。指導者ら40人以上が無許可デモを呼びかけたとして拘束され、昨年暮れから1年間続いてきた反プーチン運動は大きな曲がり角を迎えた。

 インタファクス通信や「ロシアの声」ラジオによると、この日モスクワは氷点下16度に下がったが、午後2時過ぎから都心のルビャンカ広場に主催者発表で5,6千人、警察調べで約700人が集まった。この広場は旧KGB前にあり、その一角に、スターリン粛清の犠牲者を悼むプレート「ソロベツキーの石」がある。参加者はこの前で「人間の鎖」をつくり、「政治犯に自由を!」と訴えた。

 このあと、広場周辺に集結した警察・治安部隊が集会の責任者らを次々に拘束、無許可集会を開催したとして取り調べた。この中には、ブロガーのナバリヌイ弁護士、ウダリツォフ左派戦線指導者、キャスターのサプチャクさんら、調整評議会の指導者が含まれている。拘束者は40人以上とされる。

 野党勢力はこの日に反プーチン集会1周年の大規模集会・デモを開催すると決め、市当局と集会の場所とデモのコースについて協議してきた。野党側は都心をデモしたあと、ルビャンカ広場で集会を開く計画の承認を求めたが、市側は都心での集会を認めず、物別れに終わっていた。

 市当局が強硬な姿勢を変えなかったのは、野党勢力の解体を狙う政権側の意向が反映しているとみられる。すでに政権側はナバリヌイ弁護士ら指導者をデモ規制法などで逮捕・起訴し、野党側の切り崩しを進めている。

 こうした中で、野党の間でも運動の路線をめぐって対立が起き、集会・デモに毎回数万人が集まったような、かつての勢いがなくなっている。とくに最近は中流層(中間層)の参加者が激減し、運動が収束しつつある。

 一方、プーチン政権も国防省の汚職が拡大するなど、統治機能の低下が目立っている。大統領個人の支持率も下がっていて、政権運営は今後厳しくなるだろう。政権側が強権的な姿勢を続ければ世論の反発が起き、野党側の出番が回ってくるに違いない。(この項おわり)
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露外交の優先地域・国は旧ソ連、欧州、米国の順で日本は名指しせず!

2012年12月14日 12時02分47秒 | Weblog

 ロシア外務省が作成した3期目のプーチン政権の外交方針が明らかになった。流動的な国際情勢が続く中で、ロシアは旧ソ連諸国との関係を最優先し、次いで欧州、米国、中国、インドの順に優先地域・国を列挙している。日本は名指ししておらず、重要なパートナーとはみなされていないようだ。

 14日付けのコメルサント紙(電子版)によると、この外交方針は、プーチン大統領の指示を受けて外務省が作成したもので、「ロシア外交の概念」というタイトルがついている。国際情勢はますます予測が困難になり、流動的になっていると分析し、こうした中でロシアは安定性を追求しなければならないと結論づけている。

 外交の手法として注目されるのは、ソフトパワーを有効に使うと明記していることだ。米国などでも軍事力に変わる手法としてソフトパワーがクローズアップされているが、ロシアがこれを明確に打ち出したのは初めてという。具体的には、ツイッターなどの新しい情報通信技術や人道的手法、古典的な外交手段などを使って、国家の公正な姿を創造することを目指している。

 地域的な優先度について外交方針では、旧ソ連諸国との統合を最優先すると述べ、独立国家共同体(CIS)、関税同盟、ユーラシア経済同盟などを重視するとしている。これは、プーチン大統領が就任前から主張している「ユーラシア同盟」の構築につながるものである。

 優先順位の2番目には欧州連合(EU)を挙げ、欧州の重要なパートナーとしてドイツ、フランス、イタリア、オランダの4カ国を名指ししている。続いて米国を取り上げ、両国の間で平等な核軍縮の保障と内政不干渉を含む国際ルールの順守を実現するとしている。その後に中国、インドを挙げ、両国との友好関係の発展を目標に掲げている。

 最後に、アジア太平洋地域を「世界の経済、政治の重心が移りつつある、最もダイナミックに発展している空間」と表現している。だが、日本をはじめ、アジアの具体的な国名までは挙げておらず、ロシアが今後、具体的にどういう外交を進めていくかははっきりしない。

 プーチン大統領は12日の年次教書演説で「21世紀の発展のベクトルは東だ」と言明し、経済の重点を欧州からアジア太平洋地域に移す方針を明確にした。また、日本との懸案の北方領土問題解決の意欲をすでに示しているが、この外交方針からは具体的な展望は見えてこない。大統領の意向が外務省にまで伝わっていないのか、それともそもそも日本を重視していないのだろうか。(この項おわり)
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メドベージェフ露首相、来春にも辞任の予測!

2012年12月09日 17時55分43秒 | Weblog

ロシアのメドベージェフ首相が来春にも辞任し、後任にはロゴージン副首相が就任するとの予測が出ている。プーチン政権内の権力闘争の結果、リベラル派が排除され、保守派が勢いを増すという見立てだ。一方、プーチン大統領はギリギリまで首相を温存するとの見方もあり、先行きは不透明だ。

 イズベスチヤ紙によると、グローバル問題研究所のミハイル・デリャーギン所長ら専門家グループが来年の政治状況の予測を報告書としてまとめた。「2013年、リベラル派の排除」とのタイトルが付けられ、「メドベージェフ内閣は数カ月後に交代する」と結論づけている。

 デリャーギン所長らは報告書の中で、汚職との闘いで正当化された政権内の権力闘争は規模が拡大し、予測不能の状態に陥り、政権にとって危険な性格を帯びていると指摘している。さらに、来年に入ると権力闘争は次第に減速するが、首相の側近が離れて行き、首相を守れないほど弱体化するとし、来年3,4月ごろメドベージェフ内閣は総辞職に追い込まれるだろうと予測している。

 また、報告書は、メドベージェフ首相の退陣が早まる要素として、スクルィーニク前農業相周辺のスキャンダルを上げている。その理由は、前農業相が首相に近いからで「まさに彼女が首相の政治家としての将来を握っている」と指摘している。

 さらに、デリャーギン所長らは、首相ポストの妥当な後継者として政治家の間で、ドミトリー・ロゴージン氏の名前が上がっていると指摘しつつ、「状況はまだ変わるかもしれない」と、断定は避けている。ロゴージン氏は保守派の指導者の一人で、次期首相候補としてしばしば取り沙汰されている。

 一方、大統領府の顧問だった政治評論家パブロフスキー氏は「クレムリンは近く首相退陣があると見ており、それを否定もしていない。問題は退陣の時期で、プーチン大統領はメドベージェフ首相に具体的な条件を提示するのではないか」と語っている。

 また、リベラル派のユルゲンス現代発展研究所長は「メドベージェフ首相がすぐ退陣するとは思わない。ただ、政権にとって深刻な事態が起きれば、プーチン大統領は首相に内閣の総辞職を求めるのではないか」と述べ、決定的な段階で首相に責任を取らせるとの見方を示した。

 セルジュコフ国防相の解任で明るみに出た汚職の蔓延で、プーチン大統領の支持率が昨年暮れのレベルにまで急低下している。政権の地盤沈下を食い止めるには、大統領を務めたメドベージェフ首相を解任するのが一番効果的だ。だが、そうなるとタンデム政権(双頭体制)は完全に崩壊し、政権は不安定になるだろう。プーチン政権の終わりの始まりになるかもしれない。(この項おわり)
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ロシアのメディアは衆院選をどう見ているのか?

2012年12月05日 11時35分20秒 | Weblog

 日本の進路を左右する衆院選が4日始まった。今回の選挙に対する外国の関心はいつになく高い。ロシアも例外でなく、民主党と自民党のトップ争いを注視している。日本通のゴロブニン・タス通信東京支局長が5日付けのコメルサント紙(電子版)に寄稿した記事を紹介したい。

 この記事には「領土問題が選挙の前面に出ている」との見出しがつけられ、「近隣諸国との関係が衆院選の主要なテーマの一つになっている」とコメントしている。リード部分では、野党側がロシアを含む外交について、民主党政権の外交力の無さを非難していると指摘している。

 記事では、まず野田佳彦首相、安倍晋三自民党総裁が、ともに東日本大震災で原発事故が起きた福島県で選挙運動の第一声をあげたことを取り上げている。それに続いて、最新の世論調査結果を紹介し、野田首相に民主党政権を押しつぶしかねない、政治的なツナミが押し寄せていると指摘している。

 ゴロブニン支局長は続けて、安倍総裁率いる自民党が政権を取り返そうとしており、民主党政権が選挙前に約束した公約を果たせなかったことがそれを助けていると書いている。また、民主党政権が外交で多くの衝突を起こし、同盟国の米国とも沖縄の米軍基地問題で何度か問題を起こしていると指摘している。

 さらに、ゴロブニン支局長は、中国と韓国との関係に言及し、「慢性化した領土問題が交戦寸前にまで進み、カタストロフィーと言っていいほどの状況だった」と分析。そして「日本は現在、ほぼ孤立した状態にあり、ロシアとの良好な関係を利用して現状を突破することを決めた」と書いている。

 記事によると、野田首相はロシアとの関係を発展させ、北方領土問題でなんらかの成果を得ようとしており、プーチン大統領との2度の会談を成功させ、12月の訪露で合意した。その後、訪露を実現するため、解散・総選挙をなんとか引き延ばそうと全力をあげたと指摘している。

 ところが、11月初めにロシア側が訪露を来年1月頃に延期できないかと打診。ロシア側はこの理由を「大統領の日程が厳しいため」と公表したが、日本のメディアは非公式に「スポーツによる外傷を治療するため」と伝えた。さらに、メディアは何度となく、ロシア側が野田政権の弱体化と展望のなさを考慮して延期したと報道した。これに対し、野田首相は先週、市長との会談で「12月訪露が実現しなかったのは、大統領の健康問題のせいだ」と語ったと伝えられ、その後官房長官が否定した。

 さらに、自民党が「民主党政権下でロシアとの関係は悪化し、メドベージェフ大統領(当時)の国後島訪問を未然に防げなかった」と批判していると書いている。ゴロブニン支局長は「自民党は政権を取り戻したら、ロシアを含む近隣諸国との関係を調整すると主張しているが、安部総裁自身、ナショナリストで中国との関係では強硬な姿勢を示している。安倍氏も今のところロシアとの関係については何も発言しておらず、はっきりしない」とし、安倍氏の外交力に疑問符を付けている。

 この記事からすると、ロシア側は自民党が政権を奪い返すとの世論調査結果に戸惑っている印象だ。安倍総裁のロシアに対するスタンスがはっきりしないため、自民党政権になったからといって関係がよくなるかどうか、確信が持てないからだろう。すべては選挙結果が出てから、というのがロシア側の本音だろう。(この項おわり)
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