飯島一孝ブログ「ゆうらしあ!」

ロシアを中心に旧ソ連・東欧に関するニュースや時事ネタを分かりやすく解説します。国際ニュースは意外と面白い!

ロシア当局、野党指導者ウダリツォフを起訴したが逮捕せず!?

2012年10月27日 14時01分36秒 | Weblog
 
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 ロシア連邦検察庁の捜査委員会は26日、反プーチン派の指導者で野党勢力「左派戦線」のウダリツォフ代表を騒動準備の罪で起訴した。だが、共犯の仲間2人とは違って逮捕は免れた。この異例な取り扱いに野党勢力内でも、当局側の真意を測りかねている。

 ウダリツォフ代表は、昨年秋以降の反プーチン政権デモを組織した指導者の一人で、ブロガーのナバリヌイ弁護士と並ぶ有名人である。今回の起訴事実は、ウダリツォフ代表ら3人が親米国のグルジアから資金援助を受けてプーチン政権の転覆を画策したとされる。この事件ではすでに野党勢力の2人が逮捕・起訴されている。

 ウダリツォフ代表は26日、当局側から呼び出しを受け、弁護士と一緒に捜査委員会の取調室に入った。代表は容疑を否認したが、起訴を告げられた。この後、代表は逮捕されると思っていたが、当局は現在地を離れず、言動を慎むとの誓約書を書かせて帰宅させた。このあと、当局は「代表が騒動準備に加わったとの十分な証拠がある」との声明を発表したが、逮捕しなかった理由についてはコメントを拒否した。

 この理由についてウダリツォフ代表は「権力側は私と(逮捕された)2人を仲違いさせようとしているからだ。私の方が悪いのに、逮捕されないのはおかしいと思わせようとしているのではないか」と語った。仲間の反応を見ると、権力側の狙いは一部成功したとの見方も出ている。

 さらに、ウダリツォフ代表は記者団に「権力側は私に誓約書を書かせたことで、私が抗議活動に参加する自由を奪った。彼らは今後いつでも私を逮捕できる。私はこれからも抗議運動に参加するが、最大限危険防止に努めなければならない」と述べた。代表は事実上行動の自由を制限されたことになり、権力側にとっては一定の成果につながることは間違いない。

 ウダリツォフ代表は共産党左派グループに属し、反プーチン運動で頭角を現した。ナバリヌイ弁護士はどちらかというとリベラル派で、大都市で人気があるのに対し、ウダリツォフ代表は地方で圧倒的な人気を誇っている。今後運動が地方に波及するためには、ウダリツォフ代表は欠かせない人物とみられている。

 政権側はプーチン大統領の就任後、反プーチン運動の指導者を締め出す作戦を展開しており、すでにナバリヌイ弁護士を7月末、国有会社から資金を盗んだ罪で起訴、女性キャスターのクセニア・サプチャクさんも脱税で検挙されている。これにウダリツォフ代表も加わったわけで、運動は今後大きな制約を受けることになりそうだ。(この項おわり)


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ロシア国民は大統領を頂点とする超権力国家を望んでいる!?

2012年10月22日 15時12分55秒 | Weblog
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 ロシアの三権、つまり大統領を頂点とする行政、立法、司法のうち、大統領権力が超強大で、立法・司法権力はそれに完全に抑えられているとみる国民が6割を超えていることが世論調査の結果から明らかになった。さらに、メディアやビジネスまでもこうした垂直型権力に従属していて、「権力分立は存在しない」と大多数の国民はみているのだ。

 この調査は、有力な世論調査機関レバダ・センターが9月下旬、全国で1600人を対象に実施した。その結果が22日付けのコメルサント紙(電子版)に掲載された。驚いたことに、権力機関で最も自主性がないのは国会だそうだ。ロシアの国会も二院制(上院、下院)だが、72%の人が「国会は大統領権力に抑えられている」と答えている。自主性があると答えた人はわずか12%である。

 三権のもうひとつの柱である司法についても、64%が「連邦と地方の権力に抑えられている」と答え、それに反対の意見は19%だった。西側諸国で「第四の権力」といわれるメディアも、「大統領と政府の権力に抑えられている」と見る人が71%にのぼり、自立していると見る人は14%にとどまっている。ビジネスに関しても65%が従属状態にあると見ている。

 この調査結果について、レバダ・センターのグラジダンキン副所長は「大統領権力以外の国家機関は一様に信頼度が低く、大統領が他の機関をコントロールし、監督し、調整することを正しいと国民の大半がみなしている」と分析している。実際、別の調査でも、62%が「決定機関は大統領、あるいは政府であるべきだ」と答えているという。

 また、科学アカデミー調査研究所のブイゾフ上級研究員は「国民の大半はプーチン流システムを効率的とは見ていない。それは垂直型権力だからではなく、秩序維持に役立っていないとみているからだ。国民の多くは今の大統領中心の権力はまだ弱すぎるとして、検閲などを実施してもっと強化すべきだと考えている」と語っている。

 つまり、国民の大半は大統領を最も信頼し、もっと強力な権力を握ることを望んでいるというのである。今でさえ、リベラル派から「大統領は独裁的だ」との批判が強いが、多くの国民はさらに強力な大統領を望んでいるという。こうした「強い指導者待望論」は今後、市民社会の発展とともに変わるのだろうか。日本でもこうした待望論が広まりつつある現状をみると、「対岸の火事」とは思えなくなる。(この項おわり)




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ロシアの識者に尖閣対立、北方領土問題を聞いた!

2012年10月10日 09時40分41秒 | Weblog
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 (モスクワで開催した日露学術報道専門家会議とモスクワ国際関係大学共催のシンポジウム)

 9月中旬、日露学術報道専門家会議(座長・下斗米伸夫法政大教授)の一員としてロシアを訪問、多くの識者と会見した。われわれの最大の関心事は、尖閣諸島をめぐる日中対立の行方と、北方領土問題への影響だった。ロシアの識者が、こうした問題についてどう考えているかをまとめてみた。

 われわれがモスクワを訪れたのは、折しも尖閣諸島をめぐる日中の対立がピークを迎え、中国で反日デモが荒れ狂っている時だった。尖閣問題についてのロシア側の関心も高く、われわれの、ともすればストレートな質問に対して率直に答えてくれた。

 最初に会見したのは中国問題専門家のバジャノフ外交アカデミー所長。この組織は、ロシア外務省の附属機関だけに微妙な立場だったが、「個人的な意見」と前置きしながら、すべての質問に答えてくれた。まずバジャノフ氏は「領土問題に対してロシアは中立的な立場を守るのが原則だ。ロシアが干渉したら、日本とも中国とも仲が悪くなってしまうからだ」と述べ、第三者の関与を戒めた。

 続けて同氏は、ロシアの最大の課題である極東開発に言及し、「ロシアは日中関係が悪化することに賛成ではない。なぜなら、日本も中国も極東・シベリアに関心があり、最も有力な協力者だからだ。日中の対立が続くと、両国の協力が得られず、開発が遅れてしまう恐れがある」と、日中対立の早期解決を求める考えを示した。

また、北方領土問題に関して「中国がロシアびいきの意見を持っているわけではない」と、日本側の懸念を打ち消し、「この問題に対する中国の立場は気になるが、第三者には干渉されたくない」と言い切り、あくまで日露間の話し合いで解決すべきとの考えを強調した。

 さらに、日中が対立する尖閣問題についてバジャノフ氏は「この問題を研究すればするほど難しいことがわかる。それぞれの立場を聞くと、正しいと思えるので結論が出ない」と述べ、次の世代に解決を委ねるしかないとの考えを支持。そのうえで「両国はお互いに挑発的とみられるような激しい行動は取らないほうがいい」と釘を刺した。

 モスクワ滞在中、モスクワ国際関係大学で日露学術報道専門家会議と同大学の共催で開いたシンポジウムには、日本側から五百旗頭真・前防衛大学長ら、ロシア側からルーキン・ロシア外交アカデミー副学長らが出席、アジア・太平洋地域の安保問題などについて討論した。ルーキン氏は「(日中関係は)今とても危険な状況だ。中国は日本に圧力をかければ柔軟になると思い、日本は(尖閣問題で)絶対譲れないと思っている」と指摘、事態の早期収拾を求めた。

 一方、五百旗頭氏は今回の日中対立について「日本政府は昔の関東軍のようなことが起きないよう(尖閣諸島を)国が買い上げることにしたが、中国はこれを逆の意味に取った」と述べ、日中の間で認識のギャップが起き、そのまま事態が進行したことが深刻化した原因だと説明した。

 ところで、プーチン大統領が3期目の大統領選前、北方領土解決への意欲を示したものの、その後、具体的な交渉は行われず、事態は進んでいない。ロシア側の識者に聞いても、明るい展望は聞かれなかった。中でも、シェフツォーワ・カーネギー・モスクワセンター主任研究員は「今プーチン氏は自分が生き延びるためにだけ活動している状態で、北方領土交渉で譲歩できる状況にない」と悲観的な見通しを語った。

 また、世論調査機関レバダ・センターのクドゥコフ所長は「これまで20年間、北方領土問題で調査しているが、90%以上の人々が領土返還に反対している。日本に対する国民感情は良好だが、領土問題は全く別の問題と捉えている」と分析、今後も世論に変化はないとみている。

 では、北方領土問題はお先真っ暗かというと必ずしもそうではない。日本通の外交評論家タブロフスキー氏は、シンポジウムで「いま日本では南からツナミが押し寄せているが、北からは涼しい風が吹いている。北方領土問題も解決の機運があり、フィフティ・フィフティで解決するかも知れない」と発言した。具体的な根拠は聞けなかったが、われわれの期待をなんとかつなぎとめてくれた一言だった。(この項おわり)






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プーチン大統領、還暦に。これからの運命を占う!

2012年10月06日 15時49分13秒 | Weblog
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  (日露学術報道専門家会議の会見に応じるシェフツォーワさん)

 プーチン大統領は10月7日、満60歳の誕生日を迎えた。今年5月、大統領に復帰してから5カ月たつが、かつてのカリスマ性は姿を消し、「普通の大統領になった」との声も聞かれる。9月中旬、日露学術報道専門家会議(座長・下斗米伸夫法政大教授)の一員としてモスクワを訪問、多くの識者と会見したので、それをもとにプーチン大統領の今後を占ってみよう。

 モスクワでは、シェフツォーワ・カーネギー・モスクワセンター主任研究員、ミンチェンコ・コンサルティング会長、オレーシキン大統領府市民社会・人権問題促進評議会員、クドゥコフ・レバダ・センター所長らにインタビューした。この中で、3期目のプーチン政権に最も楽観的だったのは、政治コンサルタントのミンチェンコ氏。「プーチン氏の国政運営はタンデム(双頭体制)方式から旧ソ連共産党政治局方式に戻った」とする報告書をまとめた同氏は「国民の不満が高まる中で3期目を迎えたが、外部にあわせて動くのに慣れているのでうまくやるだろう」と語り、今期6年間は安泰とみている。だが、4期目については「(大統領選に立候補する)確率は低いと思う。エリートも社会もそこまで受け入れないだろう」と述べた。

 改革派で、自ら反プーチン集会に参加しているオレーシキン氏は「プーチン政権は今後2,3年はもつだろう。なぜならシロビキ(軍・情報機関幹部)を率いていて、具体的な反対派がいないからだ。だが、それからは政権の力が落ち、社会は停滞するだろう」と悲観的な見方を示した。また、次期大統領選について「プーチン氏は最後まで居座ろうとするだろう。そのため、グルジア戦争のような武力行使をして国民の愛国心に訴え、支持率を上げる非常手段に出るかもしれない」と警戒している。

 同じ改革派で、民主主義を重視するシェフツォーワさんも「プーチン氏はいつまでも権力の座に残ろうとするだろう」と、自ら退任する見方を否定した。ただ、プーチン氏だけが次期政権から在任中の責任に対する“免罪符”を受けようとすれば「側近たちが自己保身のため、プーチン氏を倒すこともあり得る」と述べていたのが印象的だった。

 シェフツォーワさんは当面のプーチン政権について「プーチン氏は(3期目の大統領として)新しい国に戻ったが、新しい形で統制する用意ができていない。ロシア正教会など保守的基盤の支持を得て、敵を思い出させようとしているが、すでに権力の力が落ち、近代化できない状態だ。このため下からの動き、つまり革命が必要な状況になっている」と手厳しく分析。さらに、裁判が機能しないなど国家が退化し、自殺やアルコール中毒の増加で社会的メカニズムも退化していると指摘した。

 では、対する野党勢力はどうなのだろうか。野党には既成政党と新興勢力の二つの流れがあるが、昨年秋からの反プーチン運動では新興勢力の活動が目立っている。反プーチン運動に加わっているオレーシキン氏は「反プーチン運動は大都市に限定されていて、スローガンも国民に理解されにくい。さらに、公正な選挙が行われないと法的な手段が取れない。これから地方に運動を拡大していかなければならないが、そうなると民主主義よりも経済的要求が中心になる。うまく連帯できるかどうかがカギだ」と運動の難しさを強調していた。

 ロシアの三大世論調査機関の一つ、レバダ・センターのクドゥコフ所長は、プーチン氏の支持率低下傾向が依然続いており「プーチン氏が国家安定の保証になっているとの考えから、強制的な政治が発展のブレーキになっているとの見方に世論が変わってきた」と指摘する。そのうえ、独立した裁判、報道の自由、公正な選挙が行われていないため、市場経済が機能しないばかりか、中小企業がやっていけない状況になっていると嘆いていた。

 昨年秋からの反プーチン運動で中核になったのは中流階層、あるいは中間層と呼ばれる人々だ。教育、所得、消費の各水準が一定程度になっている階層を指すというが、明確な基準はないようだ。いずれにしろ、今のロシアを実際に支えている人たちの要求に応えなければ、ロシアの真の発展はない。プーチン大統領がどこまで彼らに歩み寄るか、そこに政権の今後の命運がかかっているといっても過言ではないだろう。(この項おわり)
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プーチン大統領ゆかりの場所を訪ねて③

2012年10月03日 09時42分51秒 | Weblog


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 (ラスプーチンが暗殺されたことで知られるユスポフ宮殿の入口)

 プーチン大統領(59)が1990年から96年まで勤務していたサンクトペテルブルク市庁舎周辺には、旧KGB(国家保安委員会)の建物が立ち並んでいる。高くて窓のない建物がほとんどで、中はうかがい知れないが、地元の人たちによると、取調室から留置場まで、全ての施設が揃っているという。

 ある建物の庭には、KGBの前身であるチェーカー初代議長、ジェルジンスキーの銅像が立っていた。モスクワのKGB本部前にあった彼の銅像は、保守派によるクーデターが失敗に終わった91年8月、多数の市民によって倒されたが、ここではまだ無傷で残っているのを見て、正直驚いた。

 プーチン氏は、日本で言えば高校時代にKGBで働きたいと思ったと告白している。その理由として、スパイ映画や小説に影響されたと語っているが、この街の雰囲気も少なからず影響を与えている気がした。

 帝政ロシア末期の有名人というと、怪僧ラスプーチンがいる。ニコライ二世の皇后アレクサンドラの絶対的信任を得て、政治にまで影響力を振るうようになった人物で、真偽取り混ぜて様々な逸話がある。そのラスプーチンが暗殺されたユスポフ宮殿があるというので訪れた。

 プーチン氏にゆかりがあるのかと言われると心もとないが、ペテルブルクつながり、ということでお許し願いたい。この宮殿はイサク聖堂近くのモイカ川沿いに立っている。19世紀初め、タタール人が祖先の貴族ユスポフ公がこの宮殿を手に入れ、大規模な改装工事を行なったという。最もインパクトのある部屋はイスラム宮殿を思わせる「儀礼の間」だ。ガイドの人が、ここで司馬遼太郎の小説「坂の上の雲」のテレビドラマの撮影が行われたと話していた。

 ところで、暗殺が行われたのは1916年12月17日。当時、ユスポフ公は20代後半だったというが、ラスプーチンを宴会に招き、毒を持った食事を出したが、効かなかった。そこで銃で撃ち、殴打を繰り返して氷の穴から川に投げ込んだ。3日後に死体を検分したところ、死因は毒でも銃によるものでもなく、溺死だったとされる。超能力のせいか、体が頑丈だったからか。いずれにしろ、不死身の怪物だったらしい。

 毒を持った食事を振舞ったという地下室は、エクスカーションによる見学でしか見られないというので今回は残念ながら拝見できなかった。それでも、タタール人の血を引く貴族で、イスラム宮殿風の大きな部屋があり、ラスプーチン暗殺という世紀の事件現場にふさわしい雰囲気は感じ取れた。

 ここで、モスクワで流行っているというアネクドート(小話)を紹介したい。
「100年ほど前、ロシアを牛耳っていたのはラスプーチンという怪僧だった」
「今は誰が牛耳っているの?」
「プーチンだよ」
「じゃ、50年後は誰?」
「チンだよ」
 ここで笑えなかった人に説明すると、チンとは中国人の苗字である。50年後には、ロシアは中国人に牛耳られているのでは、というロシア人の心配を表した小話である。やっと、ラスプーチンとプーチンがつながった。お後がよろしいようで。 (この項おわり)
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