飯島一孝ブログ「ゆうらしあ!」

ロシアを中心に旧ソ連・東欧に関するニュースや時事ネタを分かりやすく解説します。国際ニュースは意外と面白い!

旧ソ連の「8月クーデター」から四半世紀を経て考える!

2016年08月22日 15時51分31秒 | Weblog

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1991年8月に旧ソ連で起きた、保守派によるクーデター未遂事件から25年が経過したと新聞報道で知り、当時モスクワでこの事件を取材したことを昨日のように思い出した。ソ連軍との衝突で反クーデター派の市民3人が犠牲になった8月21日、当時の参加者らが追悼集会を開いたが、その集会はテレビで放映されなかったという。ロシアの状況が当時とすっかり変わったなと改めて思い知らされた。

「8月クーデター」は、ソ連の保守派と民主派がポスト・ソ連の路線を巡って激しく争っている時期に、保守派が起死回生の実力行使に出たものである。ところが、当時のゴルバチョフ・ソ連大統領は保守派に乗らなかったばかりか、エリツィン・ロシア大統領が率いる民主派の強い抵抗に遭い、保守派の“天下”は3日で終わった。その引き金になったのが、市民3人の犠牲だった。

民主派はこの後、旧ソ連の実権を握り、ソ連解体に突き進んだ。つまり、8月クーデターはソ連解体の直接のきっかけになった事件で、民主派は毎年、3人の慰霊碑の前で追悼集会を開き、彼らの勇気を称えてきた。だが、プーチン大統領が登場してから民主派は国会議員も出せないほど、痛めつけられ、新生ロシア全体が保守派一色になっているといっても過言ではない。

この事件当時、私はモスクワ特派員になったばかりで、現場取材を担当していた。3人が死亡した時は、民主派が立てこもった最高会議ビル(現在の政府庁舎)を市民が「人間の鎖」作戦で幾重にも取り囲み、体を張ってソ連軍の攻撃から守ろうとしていた。私も取材中にその輪のなかに入り込み、軍隊が来たらどうしようと正直、震えていた。そのとき、3人は最高会議ビルに迫っていたソ連軍を止めようと、装甲車部隊に襲い掛かり、銃殺されたのだ。この英雄的な抵抗がなかったら、ソ連軍は最高会議ビルに突入して、流血の大惨事になったに違いない。そうなれば私もどうなっていたか、と思うと恐ろしくなる。

結局、ソ連軍はビルを囲んだ民主派の数の多さや、大規模な流血による国際世論の反発などを考慮して実力行使を断念、民主派に屈することになった。今でも「人間の鎖」に加わった若者たちの熱気を思い出し、「あの時の若者はどこへ行ってしまったのだろう」と思わずにはいられない。

その疑問を解消してくれるかも知れない下院総選挙が9月18日に行われる。450議席のうち現在、過半数の238議席を与党「統一ロシア」が占め、残りもプーチン大統領支持の「体制内野党」である。つまり、民主派はもちろん、反プーチン派も独立系議員もいない。まさに、オール与党体制なのである。

この体制を覆そうと、民主派の「人民自由党」や改革派の「ヤブロコ」が候補を立てているが、議席獲得の可能性は低いというのが大方の見方だ。与党の都合のいいような選挙の仕組みができているうえ、民主主義への国民の期待が薄れているためだ。25年前の市民の熱気は、あだ花だったのだろうか。
               (この項おわり)

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ロシア世論、北方領土問題で軟化の兆し、領土交渉進展も!

2016年08月06日 11時47分31秒 | Weblog
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安倍政権はロシアとの北方領土交渉に期待を寄せているが、最新のロシア世論調査で領土返還反対派が若干減ってきていることが分かった。その一方で、日露平和条約を締結し、日本との経済協力を推進するべきとの意見が徐々に増えていることも浮かび上がってきた。

ロシアの中立系世論調査機関「レバダ・センター」が8月5日に公表した北方領土に関する世論調査によると、調査は5月27~30日に全国で18歳以上の男女800人を対象に、家庭での聞き取り調査方式で行われた。その結果、返還賛成派は7%、反対派が78%だった。賛成派は5年前の調査に比べ、3ポイントアップし、反対派は12ポイント下がった。

また、プーチン大統領が日本に北方領土返還を決定した場合、大統領の支持率が上がるか、下がるかを質問したところ、「上がる」と答えた人は9%、「下がる」と答えた人は55%だった。12年前の調査と比べると、上がると答えた人は2ポイントアップし、下がると答えた人は5ポイント減っていた。「変わらない」と答えた人は23%で、前回調査より3ポイント増えている。つまり、支持率に大きな変動がないとの見方が増えているといえそうだ。

その一方、日露平和条約締結の重要性については「重要だ」と答えた人は48%にとどまり、7年前の調査より7ポイント減っている。逆に「重要でない」と答えた人は38%で、前回より8ポイント増えている。

さらに、ロシアにとって今、日本と平和条約を締結して借款と技術の供与を受けるか、北方領土を返還しないで置くか、どちらが大事かを質問している。これに対し、21%が前者を選び、現状維持派は56%だった。同様の質問は1992年にも行われ、平和条約締結派は15%、現状維持派は66%だった。締結派が6ポイントアップしているのに対し、維持派は10ポイント減っている。つまり、事実上返還に反対する意見が減っていることがうかがえる。

以上の結果から、北方領土を含む平和条約締結問題はロシアにとって、それほど重要な問題ではなくなり、プーチン大統領の支持率にも以前ほど影響しないとの見方が広がっているといえよう。もちろん、領土返還反対派が今も大勢を占めていることに変わりはないが、早く平和条約を結んで借款や技術協力を得たほうがいいとの実利派が徐々に増えていることが明確になった意味は小さくない。

プーチン大統領の訪日は年内に予定されており、実現すれば本格的な北方領土交渉が始まる可能性が高い。プーチン政権も世論を一番気にしていて、今回の調査結果は領土交渉にも反映されるに違いない。その意味では、戦後71年目にしてやっと領土問題の展望が開けることも十分考えられる。(この項おわり)
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“赤狩り”と戦ったハリウッドの脚本家トランボを描いた映画の現代的意味!

2016年08月01日 09時19分54秒 | Weblog

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先日、「ハリウッドに最も嫌われた男」というサブタイトルがついた米映画「トランボ」を鑑賞した。第二次大戦中から戦後の米ソの冷戦時代に、マッカーシー上院議員ら保守反動の政治家が共産主義者の摘発を目指した“赤狩り”により、仕事を奪われたり、投獄されたりした人々が多数に上った。その中で、圧力に負けず、投獄されながらも仲間たちを守ったダルトン・トランボの活躍を描いた映画である。

脚本家のトランボと言われても、知っている人は少ないだろう。だが、オードリー・ヘップバーンが可憐な王女役を演じた映画「ローマの休日」といえば、知らない人はいないだろう。この脚本を実際に書いたのはトランボだったが、当時は共産主義者のレッテルを貼られ、仕事ができなかった。このため、脚本家を友人の名前にして登録、報酬をもらって家族の生活を支えたのである。

トランボは若いころ、共産党員だったが、その当時は党員ではなかった。だが、保守反動派はハリウッドにも矛先を向け、10人の監督と脚本家を「ハリウッド・テン」と呼び、その中でもトランボを首謀者とみなしていた。そして議会から召喚状を送り、公聴会に引っ張りだして「君は共産主義者か否か」と追及。証言を拒否すると、議会侮辱罪で起訴したのである。

トランボが偉かったのは、映画人が赤狩りの弾圧に屈し、次々に日和っていったのに対し、断固抵抗し、表現者の大原則である表現の自由を守ろうとしたからだ。この映画の監督をしたジェイ・ローチ氏は「当時は少数派の意見を述べるだけでブラックリストに載り、刑務所へと送られた。トランボが語ったように、異論を認めるのが民主主義の基本なのにだ」とインタビューに答えている。同氏は、トランボが愛国心の強い作家であったことを強調し、「異端と愛国は両立するというのが本作のテーマだ」と言い切っている。

現代は冷戦時代のようなイデオロギーが対立する時代ではないが、わが国でも安倍政権になってから憲法改正や特別秘密保護法制定などで表現の自由を抑圧する傾向が強まっている。そういう意味では、第二次大戦後のような赤狩りの時代に似てきているともいえる。決して他人事ではないと思う。

この映画で面白いのは、刑務所を出た後、仕事を奪われたトランボが、仲間と協力しながら他人名義で脚本を書きまくって家族の生活を支えるところだ。有能だからこそ、できることではあるが、眠る時間を惜しんで、風呂場にまで仕事を持ち込んで書き続ける光景には見ていて笑ってしまった。

「米国ファースト」のトランプ氏が共和党の大統領候補になるなど、世界的に内向きの政治家が政権を握るケースが増えている。そうした政治家は国民を法律で縛って従わせる傾向にある。こうした世界の風潮に対し、この映画は警鐘を鳴らしているように思える。現代に生きる我々も、トランボの生きざまを見習うべきではないだろうか。(この項おわり)
              

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