飯島一孝ブログ「ゆうらしあ!」

ロシアを中心に旧ソ連・東欧に関するニュースや時事ネタを分かりやすく解説します。国際ニュースは意外と面白い!

もう30年経つのか、旧ソ連の保守派クーデター未遂事件!

2021年08月20日 17時04分30秒 | Weblog
当時、モスクワで毎日新聞特派員として取材していた私が、記念すべきこの日を忘れるとは!他社の報道を見て、この日を思い出した自分が情けなくなった。何しろ、モスクワ特派員として現地に到着して1カ月以内に起きた大事件である。そして、この日からソ連は消滅に向かって走り出し、年末には70数年の歴史を持つ国家を消してしまったのだから。

1991年8月19日午前6時(モスクワ時間)、ソ連のテレビは突然、通常番組を中止し、バレー組曲「白鳥の湖」を流し始めた。ゴルバチョフ・ソ連大統領の健康状態が容易ならざる状態にあることを暗示していた。モスクワと東京の時差は5時間だったので、第一報が毎日東京本社に飛び込んだのは正午すぎ。外信部の夕刊デスクがモスクワ支局に連絡、直ちに原稿を送るよう指示してきた。

このとき我が家では妻と子ども2人がモスクワに到着した直後で、東京から船便で荷物が届いた翌日だった。支局長からの電話で叩き起こされた私は、「街の様子を見てきてくれ」という声で早朝の街に飛び出した。「何か変化があるとすれば、国家指導者がいるクレムリンだろう」。眠気まなこで車に乗り、クレムリンの入り口にある「赤の広場」に着いたが、いつもと変わらぬように見えた。赤の広場の入り口で警戒中の警官に聞いたが、「変化なし」と答えるだけだった。

いったん支局に戻ると、エリツィン・ロシア共和国大統領が緊急記者会見を行うという連絡が入り、ロシア政府ビルへ向かった。午前11時、会見場に現れたエリツィンは「保守派によるクーデターだ。国際社会にロシア政府のアピールを伝えて欲しい」と要請。その後、外に出ると、いつの間にか現れたソ連軍の戦車約10台が政府ビルを取り囲むように停まっていた。そこにエリツィンが現れ、戦車に飛び乗ると、集まった市民に「クーデターは国家に対する反逆だ。ゼネストなどで抵抗して欲しい」と訴えた。
 
こうしてクーデターの幕が上がったが、保守派は国民の支持を得られず、わずか3日間で敗北した。この結果、エリツィン率いる民主派が共産党勢力を追い出し、ロシアの民主化が始まったのである。だが、30年後に行われたロシアでの世論調査では、その意味を正しく知っている人は21%のみで、「初めて知った」と答えた人が15%もいた、と20日付けのロシア有力紙「コメルサント」は伝えている。

クーデターのとき、ソ連大統領だったゴルバチョフは今も元気で、エリツィンから2000年に政権を受け継ぎ、独裁的統治を続けているプーチン・ロシア大統領を批判している。だが、エリツィンはすでに亡く、エリツィンが目指した民主化も思うように進んでいない。この30年は、ロシア国民にとってまさしく「光陰矢の如し」だったのだろう。(この項終わり)                                         
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ベラルーシの女子陸上選手、本国の弾圧恐れポーランドへ亡命!

2021年08月03日 08時39分49秒 | Weblog
東京五輪のベラルーシ代表で、女子陸上競技の短距離に出場する予定だったクリスチナ・ティマノウスカヤ選手(24)がコーチ陣を批判したとして強制的に帰国を命じられた。これに対し、同選手は「帰国すれば投獄の恐れがある」として亡命を希望。ポーランドが人道目的でビザを発給し、8月4日、亡命先のポーランド入りした。

タス通信などによると、クリスチナ選手は陸上の100、200メートルに出場する予定だったが、1600メートルリレーに出場予定の選手のうち、2人がドーピング検査を十分行わず、出場を認められなかった。このため、コーチ陣は代わりにクリスチナ選手を出場させると決めた。これに対し、クリスチナ選手は「その種目の経験がないのに、一方的に決められた」とコーチ陣を批判した。その後、同選手は「強制的に帰国を命じられた」と訴え、羽田空港で航空機への搭乗を拒否した。

クリスチナ選手が帰国を拒否したのは、本国に帰国すれば投獄されるとの強い危機感を抱いたからだろう。その背景には、昨年8月からルカシェンコ大統領と民主派との間で、大統領選の結果をめぐって激しい対立が続き、3万人以上の人が拘束されていることがあげられる。クリスチナ選手は、大統領による民主派への容赦のない弾圧を恐れており、帰国すると投獄されるだけでなく、さらなる災難が降りかかってくることを危惧しているに違いない。

報道によると、ベラルーシの国内五輪委員会会長はルカシェンコ大統領の長男が務めているという。大統領は事実上、独裁者であり、国家機関は全て抑えていると見られる。それだけに、クリスチナ選手の不安の深刻さがうかがえる。これに対し、EU(欧州連合)は「ベラルーシのアスリートを本国へ送還させる試みは、ベラルーシでのさらなる弾圧の証拠だ」との声明を出し、ベラルーシ政府に警告を発している。

ベラルーシのルカシェンコ政権と民主派の対立は依然として解決のメドがたっていない。欧州で独裁政権が今も続いているのは、欧州のみならず、世界の国々の無関心さが要因とも言える。今回のクリスチナ選手の亡命を契機に、世界各国がこの問題に向き合う必要がある。それこそオリンピックの正しい意義と言えるのではないだろうか。(この項終わり)

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