飯島一孝ブログ「ゆうらしあ!」

ロシアを中心に旧ソ連・東欧に関するニュースや時事ネタを分かりやすく解説します。国際ニュースは意外と面白い!

ロシアは北方領土問題も歴史認識にすり替える狙いか?

2015年10月28日 12時16分02秒 | Weblog
国際政治・外交 ブログランキングへ

ユネスコ世界記憶遺産に登録された第二次大戦後のシベリア抑留についてロシア政府は「日本のゆがんだ戦争認識のもとで資料の収集が行われた 」と批判している。一方、北方領土問題についてもロシア側は「日本がまず第二次大戦の結果(敗戦)を認めないと話が始まらない」と言い出している。ロシア側の最近の風潮を見ていると、歴史認識で日本側を追い込み、領土問題のハードルを高くしようとしているのは明らかだ。

ソ連崩壊後、初めて来日したエリツィン初代大統領は1993年、シベリア抑留を「スターリンの犯罪」と指摘し、日本に対し明確に謝罪した。ソ連当時、二島返還を定めた日ソ共同宣言(1956年)が現在も有効であると、口頭ではあるが初めて認めたのもエリツィン氏だった。

ところが、最近はラブロフ外相が「日本は大戦の結果を認めない世界唯一の国だ」と非難しているのを始め、出先の外交官まで「日本は公式的にも国民レベルでも、大戦で日本がソ連の戦略の犠牲になったとの認識がある。それを直さないと交渉は難しい」とまで語っている。

この背景には、プーチン政権が中国と一緒になって日本の最近の主張を「歴史修正主義」と批判し、国民に愛国主義を訴えようという意図があるからだろう。とくにプーチン政権は西側の経済制裁や原油安で経済が苦境に陥っているため、日本を叩くことで政権の求心力を維持しようという狙いさえ感じる。

今回の世界記憶遺産登録を巡っては、出先の外交官でさえ「ロシア政府がシベリア抑留資料にまでケチをつけるとは思わなかった」と驚いている程で、中央主導型で進められているようだ。こうなると、もし今北方領土交渉が日露の首脳間で行われたとしても、理性的な協議が行われるとは思えない。

安倍首相は相変わらず領土問題を解決し、日露平和条約の締結を急ごうとしているが、現在のようなロシアの状況が続く限り、双方が納得する解決ができるとは思えない。とりあえずウクライナ紛争が解決し、米露の対立が緩和されるまで辛抱強く待つのが得策だろう。急がば回れ、ということである。
                                                    
                                                             (この項おわり)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ロシア国民の7割がシリア空爆を支持しているというが…

2015年10月12日 15時16分52秒 | Weblog
国際政治・外交 ブログランキングへ

ロシアのプーチン政権は、内戦が続くシリアで9月末から空爆を行っているが、国民の7割が空爆を支持していることが明らかになった。中立系の世論調査機関レバダ・センターの最新の調査結果で分かった。その一方、旧ソ連が軍事介入し、撤退を余儀なくされたアフガニスタンの“二の舞”を心配する国民が多く、シリア紛争で米国との対立が深まっていることに懸念を抱いている国民も少なくない。

プーチン大統領が9月28日の国連総会で、過激派組織「イスラム国」(IS)などと戦う「反テロ連合」の創設を呼び掛けた2日後、ロシア軍が突然空爆に踏み切った。だが、標的はISではなく、米欧などが支援する反体制派勢力との見方が強まり、米国などとの亀裂が一層深まっている。

 今回の世論調査は、10月2日から5日にかけてロシアの46地域で1600人を対象に行われた。その調査結果によると、ロシアの空爆を正しいとみている人が72%にのぼり、正しくないとみている人は14%にとどまっている。空爆を行った理由については、「ISとシリアの反体制派勢力と戦っているアサド大統領を支援するため」とみている人が47%と一番多く、次いで「ロシアはそもそも軍事介入すべきではない」という人が28%だった。「ISとの戦いでは西側諸国と連携すべきだ」という人は8%足らずだった。

 一方、シリア紛争へのロシア介入について「アフガニスタン紛争の二の舞になる可能性がある」と見ている人が78%にのぼった。この紛争は、旧ソ連が1978年にアフガニスタンへ軍事介入し、「ソ連崩壊の引き金になった」との見方が強い。このため、ロシア軍の海外派遣を認めた上院決定を容認する人が46%いる半面、33%が反対している。今の体制では、表立って政権を批判できないが、本心では批判的な国民感情が透けて見える。
 
 また、米国との関係について「シリア紛争で米露が共通の理解を得ることができる」と、米露和解を期待する人が49%いる半面、「中東政治は米露関係を調整する結果をもたらさない」とみている人が30%いる。依然として過半数近くの人が“反西側感情”をもっていることを暗示している。

 プーチン大統領は空爆に踏み切った理由を「ISと戦うため」と明言したが、国民はアサド政権支援という大統領の本音を見抜いている。そのうえ、地上軍を大量に派遣して戦費がかさみ、ソ連経済を苦境に追い込んだアフニスタンの二の舞を懸念している点でも、ロシア国民の見方は的を得ている。プーチン大統領はこうした国民の声をしっかりと受け止め、西側との連携の道を模索すべきだろう。(この項おわり)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ロシアとの平和条約交渉は当分、「開店休業」状態か?

2015年10月02日 21時50分12秒 | Weblog

国際政治・外交 ブログランキングへ

安倍晋三首相は9月28日、ニューヨークでプーチン露大統領と会談し、平和条約締結交渉の前進を図ることで合意したとされる。だが、交渉をどう進めるのか、プーチン大統領はいつ日本に来るのか、など具体的な点になると、はっきりしない。

公表されたやり取りは会談の冒頭部分だけで、プーチン大統領は両国の貿易高が減ってきたことに懸念を表明し、安倍首相は自民党総裁再選を強調して平和条約交渉への意気込みを表明した。この“すれ違い発言”が示しているように、双方の会談への狙いがまったく違うことは明らかだ。

つまり、ロシア側は貿易を含む経済協力で日本が何をしてくれるのか、を明確に打ち出さないと平和条約交渉に本気で取り組めないということを示唆している。一方、日本側はロシアが領土交渉でどこまで譲歩するかが分からないと、経済協力の中身が詰まらないということになる。

最近のロシア側の言動を見ていると、「ボールは日本側にある」として、待ちの姿勢を続ける意向のようだ。となると日本側がいつ、どんなボールを投げるのかが焦点となるが、日本側にそれほどの名案があるとも思えない。そこで、手詰まり状態ということになる。

他方、ウクライナやシリア問題で米露が対立しており、日本が北方領土問題で米国の理解を求めるのは難しい情勢である。日本が今、ロシアへの経済協力に踏み切ろうとすれば、米国がいい顔をするわけがない。へたをすれば、日米同盟にひびが入りかねない。そのため、安倍首相も思い切った手を打てないでいる、との見方も出ている。

首脳会談で外務次官級協議を10月8日に行うことを確認したが、とりあえず交渉の流れを止めないという次善の策に過ぎない。米英など西側諸国がウクライナ紛争でロシアに対し、経済制裁を続けている限り、プーチン大統領の訪日は実現しそうもない。そうなると、首脳外交に頼る日本政府としては、国際情勢の変化待ちということにならざるをえないだろう。(この項おわり)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする