飯島一孝ブログ「ゆうらしあ!」

ロシアを中心に旧ソ連・東欧に関するニュースや時事ネタを分かりやすく解説します。国際ニュースは意外と面白い!

ベルリンの壁崩壊から20年、そしてロシアは・・・

2009年05月29日 22時57分40秒 | Weblog
 東西冷戦の象徴だったベルリンの壁が崩壊して20年目の今年、各界の識者や政治家が冷戦終結に関して様々な発言をしている。当時、ソ連の大統領だったゴルバチョフ氏と、ロシアの中立系「独立新聞」の編集長だったトレチャコフ氏の発言が興味深いので紹介したい。この際、冷戦の敗者とされているロシア側の見方を聞いてみよう。

 現在78歳のゴルバチョフ氏はモスクワでの会見で、「ベルリンの壁の崩壊で欧州は全世界にとって平穏でで安全なモデルになると期待したが、そうはならなかった。我々はすべきことをせず、20年を無駄に費やしてしまった」と悔やんだ。そして、東西対立の終了を全体の利益のために生かすよう検討せずに、ソ連を破り冷戦に勝利したと喜んでいただけだと西側を批判した。

 ゴルバチョフ氏は欧州では「ソ連解放の立役者」と評価されているが、ロシア国内ではソ連を崩壊させた人物として評判が悪い。本人も内心忸怩たるものがあるだろうが、西側が冷戦の勝利に酔って何もしなかったことへの不満を強調した。

 一方、トレチャコフ氏は外交・国防政策評議会へのアンケートで「ロシアは疑いもなく冷戦に敗北した。しかし、壊滅されたのではなく、半分自主的な降伏だった」と述べている。ところが、西側の指導層はロシアを冷戦に負けた国と決め付け無条件の勝利を渇望、事実上の降伏後も「ロシアの遺産」の分割に奔走し、”戦い”を続けたと手厳しく批判している。

 さらにトレチャコフ氏は、90年代初めの新世界秩序形成について「自らの歴史以外のすべての歴史の終えんを宣言する高慢な人たちとどうして合意できようか。その結果としてロシアは抵抗し、立ち上がった。そして、プーチンが現れたのだ」と指摘した。西側への強硬姿勢を貫くプーチン氏の登場は、ロシアが分裂あるいは消滅へと導かれる危険性を国民が認識したためだというのである。

 ロシアの代表的な論客の発言で、西側への怨念が20年たっても晴れていないことがわかる。いま米国の一極世界が壊れ、多極化に向かいつつあるといわれているが、「怒れるロシア」を新世界秩序にどう取り込むかが今後の課題である。

 
 
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ロシア絵画の高揚期を伝える国立トレチャコフ美術館展

2009年05月25日 11時19分24秒 | Weblog
 遅ればせながら先日、渋谷東急文化村で開かれているロシア国立トレチャコフ美術館展を見てきました。特派員としてモスクワ駐在中に何度か見に行きましたが、改めて鑑賞し「忘れえぬ女」(原題は「見知らぬ女」)をはじめ、ロシア革命前のロシア人を描いた肖像画に見とれました。

 人気のある展覧会だけに入場者が多かったものの、絵画と絵画の間のスペースに余裕があったので割合ゆっくり鑑賞することができました。個人的にはレーピンやシーシキンの風景画が好きなのですが、今回の展示作品の中では、チェーホフ、トルストイ、ツルゲーネフら文豪の肖像画が目立っていました。(ドストエフスキーの肖像画がなかったのが残念ですが)これらの肖像画を見ていると、作家の内面が浮き上がってくるような精神性を強く感じました。

 そのほか、取材旅行中のシーシキンの肖像画、レーピンが自分の娘を描いたもの、セロフが描いた同僚らしい人の肖像画などが印象的でした。いずれもリラックスした、あるがままの様子を描いていて、その人の人間性がよく分かるような気がしました。日本で肖像画というと、一張羅の洋服を着た、堅苦しいものが少なくないだけに、ロシア人のおおらかさを見た思いがしました。

 ロシアでは19世紀半ばからロシア革命に至る時代は、ドストエフスキーやトルストイらの文豪が輩出し、文学が花開いた時期ですが、絵画の世界でも写実派や印象派の画家が活躍した時代であることを改めて実感しました。この芸術性は旧ソ連時代に封印されたわけですが、今もロシア人に脈々と伝えられているに違いありません。今回の展覧会を見て、その思いを強くしました(この展覧会は6月7日まで毎日開催しています)。
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鳩山民主党新代表の北方領土解決への意欲に期待する!

2009年05月17日 11時19分29秒 | Weblog
 小沢一郎民主党代表の後任に鳩山由紀夫氏(62)が決まった。鳩山氏は日ソ共同宣言に調印した鳩山一郎首相(当時)の孫であり、本人も首相に就任したら北方領土問題解決に全力を尽くすと述べている。今度の総選挙に勝つことが前提だが、民主党政権を待望する世論が続けば鳩山氏が次期首相に就任、ロシアとの懸案解決に乗り出すことになる。

 鳩山氏が北方領土問題で脚光を浴びたのは、06年10月にモスクワで開かれた日ソ共同宣言50周年記念式典に、日本側代表として出席したときだ。当時、私もこの式典を間近で取材したが、日露の外交関係者多数が出席し、さながら日露友好の一大イベントとなった。この式典で鳩山氏は「50年前の共同宣言調印式で日本側代表として調印した鳩山一郎の孫です」とあいさつ、一郎氏は当時体調が悪く、モスクワに出かける際、「生きて帰れるかどうかわからない」と語っていたと述べ、悲壮な思いで旧ソ連との交渉に臨んだことを披露した。そして、冷戦が終了したのに領土問題が未解決な状態が続けば「両国にとって国益に反する」と強調し、共同宣言の原点に返って現実的なアプローチで解決するよう訴えた。

 鳩山氏は「宇宙人」というニックネームがあるように、とらえどころのない人のように思われているが、やると決めたらなんとしてもやり遂げるという決意の人だと思う。この芯の強さを発揮して総選挙を勝ち抜き、北方領土問題の解決に全力を挙げてほしい。今こそ団塊の世代の意地を見せる時ではないか。
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ロシア人の好きな「アイスクリーム」が消える?

2009年05月15日 14時46分02秒 | Weblog
 ロシア人は大のアイスクリーム好き。夏はもちろん、厳冬期でもアイスクリームを食べながら歩いている人が多い。そのロシアで今、アイスクリームの名称を変えるべきかどうかの論争が起きている。

 ロシア語でアイスクリームを「マロージェナエ」と呼ぶ。これは厳寒を意味するマロースから来ている。たいていの人はアイスクリームが牛乳からつくられると思っているが、実はロシアでは7割が植物油を使っていて、牛乳を使っているものは3割程度だという。

 このため、牛乳生産者で構成する「ロシア牛乳生産者組合」は日本の衆議院に当たる下院の農業委員会に対し、牛乳を使用していないアイスクリームの名称を変更するよう陳情した。植物油を使ったアイスクリームは牛乳使用に比べ20%も安く「本物の牛乳を使っていないものまでアイスクリームと呼ぶのはおかしい」と主張している。

 これに対し、メーカーや小売業者は名称変更には否定的だ。牛乳使用のものを従来通りアイスクリームと呼び、そのほかのものは「フローズン・クリーム」と呼ぶ案も出ているが「消費者には影響ないのでは」との意見も根強い。結局、アイスクリームのパッケージで区別する妥協案が採用されそうだという。

 以前、旧ソ連で「外国人が一番ほしがるものはなーに」というなぞなぞがあった。正解は「女性とアイスクリーム」だが、「いずれも外国には持って帰れない」というオチがついていた。今もアイスクリームは年間18億ドル(約1700億円)の売り上げがあるドル箱産業だが、大半は牛乳を使っていないというのは興ざめだ。
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7月の北方領土交渉は面積等分案をベースに!?

2009年05月13日 10時30分36秒 | Weblog
 来日したプーチン露首相と麻生首相との会談の結果、7月に行われるメドベージェフ大統領との首脳会談では、北方四島を面積で二等分する「面積等分案」を軸に領土交渉が行われる見通しになった。領土問題解決への道筋がほぼ固まったことで、最終決着への展望が開けてきた。

 プーチン首相は来日前のマスコミ3社との会見で、「対外関係は大統領の権限だ」と釘を刺していたので、来日後、領土問題でどこまで踏み込んだ発言をするか心配していた。ところが、会談後の共同記者会見で、記者団から「日本社会ではすでに四島返還ではなく、3・5島返還論が大勢になりつつあるが、あなたはこれについてどう思うか」との質問が出ると、プーチン首相は「我々は経済協力の発展のために平和条約締結協議をしているのではなく、平和条約問題を解決するために経済協力を発展させようとしている。メドベージェフ大統領との会談では、まさにあなたが言及した問題も含め、あらゆる選択肢を協議することになる」と答えた。この文脈では、明確に面積等分案が協議の対象に入っているといって間違いない。

 プーチン首相はこれまでも平和条約問題の解決の必要性を強調していたが、今回はさらに一歩進め、経済協力の発展も領土問題を解決するという目的のためだと指摘した。この問題を解決するためには「文化・経済・人道など全方面での日露関係の発展が必要」との考えを明確にしたもので、一部のマスコミが伝えているような「単なるリップサービス」とは思えない。メドベージェフ大統領とも話し合った上で、問題解決への政権としての決意を明らかにしたと思われる。

 そこで問題となるのは日本側の対応だ。国家の重要案件を解決するには、まず政権基盤を確立し、解決の基本方針を決定し、国民の理解を得る必要がある。なによりも麻生政権がぐらぐらしていてはどうしようもない。その意味では、ボールは日本側に投げ返されたとも言える。
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核兵器についての議論を解禁しよう!

2009年05月07日 10時55分56秒 | Weblog
 オバマ米大統領がプラハで「核廃絶」を提案してから各国から様々な反応が出ている。米国の「核の傘」に依存している日本でも、これを再考しようという意見も出始めている。日本は初の被爆国として核についての議論が出始めると、いつも「封印」しようというベクトルが働いてうやむやになりがちだが、日米同盟に疑念が出ている時期でもあり、徹底的に議論すべきではないだろうか。

 オバマ氏の提案に対して米国と並ぶ核大国・ロシアは、いくつもの条件を出して慎重な構えを見せている。その裏には、ロシアが通常戦力で西側に水をあけられているため、核兵器だけは今の戦力を維持したいとの本音が隠されている。このためロシアが核廃絶に踏み切ることは当分考えられない。

 総体的に核保有国は核廃絶論に冷たい反応を示している。中国のメディアは「空想的」あるいは「夢物語」と片付け、フランスさえも「核政策は主権の範囲」とかわしている。一方、非保有国からは支持の声が上がっているが、国際的に盛り上がるまでには至っていない。

 では日本はどうか。メディアでは毎日新聞が「新ニッポン論ーアメリカよ」第3部で核廃絶問題を取り上げ、国内論議を盛り上げようとしている。この中で元日本外交官が米シンクタンクの会議で「核の傘」の中身について米国と突っ込んだ議論を始めるべきだと訴えたと伝えているのが目を引いた。こういう議論を外交官だけに任せておくのではなく、学者やジャーナリストも含めて大いに議論すべきだ。

 とかく日本では「核を保有すべきかどうか」という極端な議論になりがちだが、もっと冷静に世界の状況を把握し、多極化世界に向かう中で日本の今後のあり方を見据えながら地道な議論を進めるべきだと思う。
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