飯島一孝ブログ「ゆうらしあ!」

ロシアを中心に旧ソ連・東欧に関するニュースや時事ネタを分かりやすく解説します。国際ニュースは意外と面白い!

英国のEUを巡る国民投票から我々が教訓にすべきこと

2016年06月26日 22時42分07秒 | Weblog
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 EUからの離脱の是非を問う英国の国民投票は、離脱派の勝利に終わり、世界の経済に悪影響を与える結果となった。我が国でも憲法改正の是非をめぐる国民投票がささやかれているときだけに、対岸の火事と思っていたら大やけどを負うことになりかねない。今回のケースから我々にとっての教訓を考えてみたい。

 まず第一に、国民投票という手段についてである。通常、一つの問題に絞って国民の意思を問う形式なので、結果がはっきり出てくる。その意味では、国民に分かりやすい形式ではあるが、過去の他国の例をみると、理論よりも感情に走りがちで、じっくり議論して決めるというテーマにはふさわしいとは言えない。今回の例でも、理性的に考えれば離脱が経済的にマイナスであることは明らかなのに、「エモーションがエコノミーに勝った」という結果に終わった。これを提案したキャメロン英首相もきっと後悔しているに違いない。

 第二に、今回の国民投票では、若者対老人という世代間の対立をあおりすぎたきらいがある。実際に20代から30代の若者は大半が離脱に反対し、60代以上の高齢者の多くが賛成票を投じた。こうした図式が独り歩きし、若者対老人の対立を必要以上に強調する結果になったのではないだろうか。離脱賛成派にもそれ相応の理由はあるが、老人が英国の過去の栄光を取り戻そうとして「英国の主権復活」をあおりすぎた罪は免れないだろう。

 第三に、諸外国からの移民急増を大げさに考えすぎ、英国民の失業者が明日にでも街にあふれるという危機感を生んだように思う。だが、英国への移民は旧東欧からの移民が多く、英語を勉強して英国に溶け込もうとしているまじめな人々が多いという。いきなり中東の移民が押し寄せるという状況とは違う。むしろ、移民排斥が過度に強まれば、英国内の労働力不足につながることは明らかである。

 以上の3点は、日本の状況にも適応できるだろう。まず、国民投票という形式は「長いものには巻かれろ」というような国民性では、政府の思う通りになってしまい勝ちである。とりわけ日本人は感情に流されやすい傾向が強いだけに、重要問題を決めるのに国民投票という形式はふさわしくないと思う。安倍内閣が推進している憲法改正は国会が改正を議決すれば、最終的には国民投票で決められることになっている。だが、よほど質問の書き方に気を付けるなどの配慮をしないと、国民の意思をミスリードする可能性がある。

 そのほか、世代間対立や外国人労働者受け入れ問題も色々な要素が混じっているだけに、簡単に国民投票で決めるいうわけにはいかない。理論的な国民といわれる英国人でも今回のような結果になっただけに、我々は徹底的に議論を重ね、国会論議で決めるべきではないだろうか。(この項おわり)
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日露首脳が北方領土問題で切り札に使う「新アプローチ」で解決できるのか?

2016年06月23日 15時13分12秒 | Weblog
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日露両国政府による日露平和条約締結交渉は6月22日、東京都内の飯倉公館で開かれた。5月の日露首脳会談で合意した「新アプローチ」を基に6時間協議したというが、新アプローチの内容については今回も記者団には一切明らかにされなかった。

北方領土交渉は戦後何十年も続けられているが、両国首脳から何度同じようなアプローチがあったことか。結局、いずれも交渉の前進にはつながらなかった。今回もこれまでと同じ轍を踏まないという保障はない。

安倍首相は5月の首脳会談で「2国間の視点だけでなく、グローバルな視点を考慮した上で未来志向の考えにたって交渉していく新しいアプローチが必要だ」と強調し、これにプーチン大統領も同意したとされる。

だが、具体的に何を指すかについては北方四島の具体的な「返還手法説」,経済協力を積極的に行う「環境整備説」など諸説あり、両国政府ともこの内容についてはだんまりのままである。安倍首相は前回の会談で8項目に及ぶ幅広い対露経済協力プランを説明しており、これをもとに返還に向けてロシア側の譲歩を引き出そうというのが日本側の本音だろう。

この日の会談は6時間に及んだものの、経済協力については議論にならなかったという。そうだとずれば、本論に向けた協議の枠組みで両国政府の意見が食い違っているのかもしれない。

いずれにしろ、一度や二度の交渉で戦後70年間に渡った領土交渉のねじれが解消するわけがない。日本政府は次回、モスクワで交渉を再開し、9月に予定されているウラジオストクでの首脳会談につなげる戦略である。最終的には両首脳の差しの会談で決着させることになるが、それは早くても年末のプーチン大統領の訪日時だろう。

だが、それまでにロシアがウクライナから強引に奪ったクリミア半島を初めとするウクライナ紛争が決着することが最低条件だ。プーチン大統領がクリミア半島を返すことは考えられないだけに根本的な解決は難しい。そうなると、日本政府が米国などの反対を押し切って北方領土問題を解決することは事実上出来ないだろう。

安倍政権は消費税問題で衆参同日選挙を実施できなかったので、北方領土問題で外交得点をあげ、一気に同日選をやろうとしているとの説がある。それができるかどうかは、まさに国際情勢いかんにかかっている。北方領土問題はまたも国際情勢によって解決を先送りされてしまうのだろうか。(この項終わり)
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日露首脳が合意した北方領土をめぐる「新アプローチ」を探る!

2016年06月01日 22時21分02秒 | Weblog
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安倍晋三首相がプーチン大統領と5月6日、ロシア南部のソチで会談した際、両首脳が北方領土交渉で合意したという「新アプローチ」を巡って論議を呼んでいる。日露双方の政府が中身を明らかにしていないため、重要な内容を含んでいるのでは、との臆測が広がっている。

 首脳会談以降の日本の新聞の論調を見ると、新アプローチは日本の経済協力と北方領土との取引を提案したものという見方が強い。首脳会談で安倍首相が示したとされる8項目の提案を含んでいて、プーチン大統領もこれを評価していると伝えられている。

その一方、安倍首相がプーチン大統領とサシで話し合った35分間に、領土問題でこれまでと違う提案をしたとの説も出ている(朝日新聞の「記者有論」参照)。日本側はこれまで「北方四島が日本に帰属するものだと認めてくれれば、実際にはすぐ返してくれなくてもいい」と主張してきたが、ここにきて「四島の帰属の確認」にもこだわらない考えをロシア側に伝えたというのである。

いずれにしろ、領土交渉の成否はプーチン大統領の胸三寸にかかっているため、領土問題を解決するには大規模な対露協力を提案するか、日本側の領土要求のハードルを下げるしか手はないだろう。そのうえで相手を交渉のテーブルにつかせ、説得するしか交渉の道はない。

そのためにはまず、安倍首相が国民の信頼を得ていることが最低の条件といえる。昨今の首相の言動を見ると、悲願の憲法改正に前のめりになり、国民をだましてでも改正に突っ走ろうという姿勢が見え隠れする。こういう状態では、安倍首相を信頼しろといわれても、とても信頼できないだろう。安易な妥協も、国益を軽視した作戦も、ともに国家の将来を危くしかねないからである。
(この項終わり)

 



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