飯島一孝ブログ「ゆうらしあ!」

ロシアを中心に旧ソ連・東欧に関するニュースや時事ネタを分かりやすく解説します。国際ニュースは意外と面白い!

プーチン首相、大統領復帰決定で北方領土問題の解決に期待!

2011年09月27日 10時54分24秒 | Weblog
 ロシアのプーチン首相は24日、最大与党「統一ロシア」の党大会で来春の大統領選への立候補を表明、4年ぶりに大統領に復帰することが事実上決まった。懸案の北方領土交渉を熟知するプーチン氏の復帰で、領土問題解決の可能性が高まるとみられるが、日本側がそれを受け入れる体制づくりを急がないと、再び解決のチャンスを逃してしまいかねない。

 プーチン氏が次期大統領選への立候補を決意したのは、後継者に指名したメドベージェフ大統領が期待通りの実績を上げられなかったからだ。大国・ロシアの復活を目指すプーチン氏としては、ここで大統領と首相が入れ替わり、強力な政策を進めなければロシアの発展が遅れるとの危機感を抱いたに違いない。

 今後も大統領と首相をワンセットとする双頭体制は維持されるが、メドベージェフ氏が内政、プーチン氏が外交を主に担当する形に変わるだろう。プーチン次期政権はこれまで通り、対外戦略を欧州からアジアにシフトする方針とみられ、来年9月、ロシアが議長国としてウラジオストクで開催するアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が第一関門となる。シベリア・極東開発に経済近代化の活路を求めるロシアは、日本に対しても石油・天然ガス開発への協力要請を活発化するとみられ、その過程で凍結状態の領土問題が再浮上することは間違いない。

 プーチン氏は2000年の大統領就任後、平和条約締結後の歯舞、色丹2島の返還を定めた日ソ共同宣言(1956年)を基に領土交渉することを受け入れ01年3月、森喜朗首相(当時)との間で「歯舞・色丹島の引渡し」と「国後、択捉島の帰属」を並行協議することで合意した。2島の引渡しを確認した上で、残る2島の帰属問題をめぐり日露双方が交渉のテーブルに就くという画期的な合意だった。

 だが、鈴木宗男事件が起きてうやむやとなり、日本政府の方針は再び「4島返還」路線に戻ってしまった。プーチン氏からすればハシゴを外された形になり、ロシア側の解決機運は一気に冷めたのである。

 法律家であるプーチン氏は法治国家として国家間の条約を重視している。中国をはじめ、周辺諸国との領土問題を次々解決し、残るは日本との交渉だけとなっている。強気一辺倒のメドベージェフ氏と違って硬軟織り交ぜた難しい交渉になろうが、プーチン氏が決断すればロシア国内の愛国派も納得しよう。

 対する日本政府は民主党の野田政権が発足したばかりで、当面は対米、対中問題にかかりきりになろう。だが、プーチン新政権発足時は領土問題解決の最大のチャンスである。今からそれに備えて政権基盤を固め、長期的な戦略を練る必要がある。その中で、4島一括返還などの非妥協的な考えを払拭し、解決可能な方針を検討すべきだ。今度こそ解決を先送りすれば、北方領土の解決は永遠に失われかねない。

 (この記事は新聞記者OB、学者、フリーライターら約100人の同人でつくるネット新聞「メディアウォッチ100」88号=9月26日発行=に掲載したものを再録しました)





 
 


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中国の台頭が日露関係に大きな影を落としている現状を直視しよう!

2011年09月23日 10時04分51秒 | Weblog
 昨年秋のメドベージェフ大統領による北方領土・国後島訪問以降、ロシアは極東の軍事力を強化したり、日本周辺の軍事演習や監視活動を活発化させている。日本国内では「日本に圧力をかけている」との見方が強まっているが、モスクワの識者らに聞いたところ、台頭する中国への脅威が大きな理由であることがうかがえた。

 先週、日露学術報道専門家会議日本側代表団(座長・下斗米伸夫法政大学教授)の一員としてモスクワを訪れ、東アジア研究者、政治評論家、ジャーナリストらと意見を交換した。中国研究者が多かったこともあるが、中国の経済的、軍事的な力が圧倒的に高まっていることを強調し、中国と対立しないことを大前提に中国に協力していく必要性を指摘する人が多かった。

 民主派の論客として知られるトレーニン・カーネギー財団モスクワセンター所長は「(中国との対立は)軍事的な面から見たら戦略的な悪夢としかいいようがない」と語るとともに、中国が東アジアからユーラシアにまでターゲットを広げてきていることを重視。「ロシアが中国と対立したとき、ロシアの同盟国が一国もない“一騎打ち”になることを恐れている」と指摘した。中国の脅威が現実になりつつあることを示唆した発言と受け取れた。

 また、ロシアの上海協力機構研究の第一人者であるルキン・モスクワ国際関係大学教授は「中国はロシアにとって戦略的パートナーで、偉大な友人になっている。反中国をベースに友好関係を作ることには反対だ」と語り、日本よりも中国との関係を重視していく考えを示した。中国の台頭に影響されてか、中国研究者の鼻息が荒いのが印象的だった。

 ロシアの政治家にはこのところ、日本を軽視するような発言が目立っている。昨年7月、ラブロフ外相がハバロフスクで行なった演説で、ロシアにとってのアジア太平洋地域における協力国のリストから日本を除外する発言を行なったのがその典型だ。我々がモスクワで会った識者のなかにも、日本よりも中国を重視する意見が多かったが、それは日本よりも台頭著しい中国の脅威に対応するほうが先決との思いからだと受け取れた。つまり、日本を軽視しているのではなく、日本は当面は放っておいても大丈夫との安心感からだと思われる。

 日本側としては、ロシア側の動きにいちいち目くじら立てるのではなく、その動きの背景を冷静に分析する必要がある。ロシアは来年3月の大統領選まで「政治の季節」が続くので、それまで対日外交などで大きな動きはないだろう。そこで、来年夏以降に備えて今はじっくり戦略を考える時期である。日本政府はこの時期にロシア、中国、米国などの思惑をじっくり検討し、長期的な対露戦略を立てるべきだ。
 
 

 
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ロシアのプーチン首相が来春、大統領に復帰の可能性高まる!?

2011年09月19日 09時48分48秒 | Weblog
 雨の日が多く、木々の緑が色づき始めたロシアで、来春の大統領選をめぐる動きが活発になりつつある。そんなさなか、再選を目指すメドベージェフ大統領に厳しい世論調査結果が出た。有力紙コメルサントが14日、「メドベージェフ大統領の業績、回答者の47%が回答保留」という見出しで報道したもので、大統領の再選に黄信号が灯ったとの見方が出ている。

 全露世論調査センターが実施した調査によると、メドベージェフ大統領の1期目の業績を尋ねたところ、一番多かった答えは「「回答保留」、つまり目立った業績が浮かばないというもので、47%を占めた。しかも「業績と呼べるものはない」と答えた人が23%もあり、これを合わせると70%に達する。わずかに「大統領の業績」としてあがったものは社会保障部門7%、外交6%などにとどまった。

 この調査結果に、ロシア共産党のある幹部は「統計的には(大統領の業績は)誤差のレベル」と皮肉り、野党「公正ロシア」の幹部は「メドベージェフ大統領はプーチン首相にすべて負んぶしているからだ」と述べ、大統領は事実上、首相の部下であることを匂わせていた。

 先週、日露学術報道専門家会議の一員としてモスクワを訪れ、政治評論家やジャーナリストにインタビューしたところ、現政権について「メドベージェフはプーチン・チームの一員にすぎない」とし、実権を握っているのはプーチン首相と断言する人がほとんどだった。そのうえで、中立系ラジオ局「モスクワのこだま」のベネジクトフ編集長は次期大統領選について「プーチン首相が当選する可能性は70%、第3の候補が当選する確率は20%、メドベージェフ大統領再選の可能性は10%だ」と語った。

 また、リベラル派のシェフツォーワ・カーネギー財団上席研究員も「プーチン・チームが誰になるかは関係なく、プーチンがもう一度大統領に戻って連続2期12年(大統領の任期は現在4年だが、次から1期6年になる)務める可能性が高まっている」と見ている。今後の政治状況については「現在の体制はソ連時代に比べて権力を強制するメカニズムがないので、深刻な停滞状態に直面し、弾圧を強めるしかなくなる」と悲観的な見通しを示した。
 
 その一方、ルキヤノフ「グローバル政治の中のロシア」誌編集長は「プーチンは国民が期待する決定を好まないところがあり、最終的には違う決定になる可能性が高い」と述べ、大統領に復帰するよりも、今のまま首相にとどまって大統領を「お飾り」にする確率が高いと予測している。

 結局、現在のプーチン・チームに対抗する勢力はなく、プーチンが大統領に復帰して統治するか、首相にとどまって大統領を替えるかの二者択一との見方が大勢だった。プーチンは大統領に当選した00年以来、すでに12年近く権力の座にあるが、さらに2期12年実権を握れば、18年間共産党書記長を務め、「停滞の時代」と言われたブレジネフ政権を上回ることになる。

 こうした雰囲気が色濃くなっていて、若者やインテリの間で閉塞感が強まっているように感じる。一方では、「(反体制デモのような)直接行動に参加する意思があるか」との質問に、21%の人が「ある」と答えたという世論調査結果もある。政権側の対応によっては今後、政治不安が高まる可能性もあり、年末の下院総選挙、さらに来年3月の大統領選と続く「政治の季節」は目を離せない。
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「メドベージェフはロシアのリー・クアンユーになるべき」かどうか!?

2011年09月07日 14時02分21秒 | Weblog
 メドベージェフ大統領をシンガポールの初代首相で「開発独裁」を体現したリー・クアンユーになぞらえて「メドベージェフはロシアのリー・クアンユーになるべきだ」とする論文が5日付けのロシア有力紙ベードモスチに掲載され、話題になっている。

 この論文の作者は、メドベージェフ系のシンクタンク「現代発展研究所」のイーゴリ・ユルゲンス代表ら。大統領主導の経済現代化(近代化)を達成するためには、権威主義的な政治体制下で開発独裁を実行し、経済の繁栄を実現したリー・クアンユーのようになるべきだと主張、メドベージェフ大統領は来春の大統領選に立候補すべきだと結論づけている。

 7日付けの英字紙モスコー・タイムズに掲載された論文によると、ロシアでは一度も近代国家が形成されたことがなく、政治・経済制度は20世紀に2度(1917年と1991年)自らの重みで崩壊した。帝政ロシアも共産主義国家も他の閉鎖的体制と同じように、国民の必要性を理解せず、予期せぬ経済的トラブルや危機への圧力に打ち勝てなかった。

 一方では自由市場が出現し、中間階級が成長、ネット社会が急激に広がっているが、ロシアの政治体制はまだ半開きの状態で、エリートたちの権力独占を脅かすほどには至っていない。過剰な封建的統制の結果として現代化の試みはことごとく失敗していると断言している。

 実際に、近代化の歴史の中には権威主義的指導者による個人的な命令で成功した例がいくつかあるとし、シンガポールのリー・クアンユーやトルコのアタチュルクを名指ししている。そしてロシアが現在直面している手ごわい障害として不効率な政府、お粗末な制度と国民の政府不信があると指摘、投票による国民の信頼と成功する現代化計画をもち、実行する意思を有する指導者のみがこれを解決できると主張している。

 そのうえで、論文は①メドベージェフ大統領をできるだけ早く大統領候補として公表する。プーチン首相はメドベージェフ支持を公にし、対立候補を立てない②メドベージェフが政権側の唯一人の候補と発表されたら、与党「統一ロシア」はメドベージェフを全面的に支持する、の2条件を順守するよう求めている。

 この論文に対し、民主派のラティニナ女史はモスコー・タイムズ紙で「リー・クアンユーは50年以上公職に就いた伝説的な人物で、メドベージェフとは共通点がない。しかも彼は民主主義者でもない」と言い切り、作者のユルゲンス氏を「皮肉屋になったのか」とヤユしている。

 この論文には、ロシアの悲願である現代化を推進するにはメドベージェフ大統領の再選が不可欠との気負いと、なかなか立候補者を決めないプーチン首相への焦りが強く現れている。メドベージェフの右腕と言われるユルゲンス氏からすれば当然だが、リー・クアンユーと同一視するには余りにも時代と背景が違いすぎる。

 こうした親メドベージェフ派の前のめり状態が選挙戦にどう影響するのか。プーチン陣営はどう対応するのか。いずれにしろ、大統領選をめぐる両陣営の対立が今後さらにエスカレートするのは必至だろう。

 

 
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9月23日開会の与党「統一ロシア」大会で大統領候補が決まるのか!

2011年09月02日 10時49分53秒 | Weblog
 ロシアは夏休み明けの9月から本格的な「選挙の季節」に入る。その先頭を切る与党「統一ロシア」の党大会が23日から2日間の予定で開かれる。この大会で来年春の大統領選の与党候補が決まるかどうかが最大の焦点だ。

 メドベージェフ大統領は1日、リゾート地ソチで記者団に対し、9月の党大会に出席し、演説することを明らかにした。そして「すべては合意された通りに進むだろう」と語り、プーチン首相と協議し、2人の合意の上で進めていくことを示唆した。
  
 この大会で次期大統領選の候補者が決まるかどうかに関心が集まっているが、クレムリン関係者はメドベージェフかプーチンのどちらかが立候補の意思を明らかにすると予測している。コメルサント紙によると、メドベージェフが出馬の意向を述べるとみている。

 だが、専門家の多くは年末の下院選挙の結果を見てから大統領候補を決めるとの見方をしている。メドベージェフは再選に向け早く名乗りを上げようと焦り気味だが、プーチンは立候補するとしてもゆっくり決断したほうが有利と見ているからだ。前回(08年)の時も、プーチンは下院選の結果を見て12月下旬にメドベージェフを候補に指名している。

 さて、今回はどうなるのか。ロシア政界ではプーチンが再び大統領選に打って出るとの見方が少なくないが、これに対し、ゴルバチョフ元ソ連大統領はすでにプーチンの秩序回復の役割は終わったとして、メドベージェフの再選を支持する発言をしている。プーチン自身がどう考えているか不明だが、今回立候補しないとしても依然首相として残る可能性もある。そうなると引き続きプーチンが実権を握り続けることになる。
 
 当面は政界の動きを見守るしかないが、プーチンは予想外の奇策を使うかもしれない。メドベージェフに代わる第三の候補を擁立する可能性すらある。これをメドベージェフがどう抑えるのか。虚虚実実の駆け引きをじっくり見させてもらおう。
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