飯島一孝ブログ「ゆうらしあ!」

ロシアを中心に旧ソ連・東欧に関するニュースや時事ネタを分かりやすく解説します。国際ニュースは意外と面白い!

プーチン大統領側近はノーベル平和賞受賞を期待していた!?

2013年10月26日 10時47分51秒 | Weblog
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   今年のノーベル平和賞はシリア化学兵器の廃棄を担当する化学兵器禁止機関(OPCW)に決まったが、プーチン大統領側近は大統領の受賞を本気で期待していたことが明るみに出た。米国がシリア空爆を計画、実施に移そうとしていた矢先に化学兵器廃棄を提案、アサド大統領を説得した功績から「シリアでの戦争を実際に防いだのは大統領」との思いが強かったようだ。

   この事実を明らかにしたのは、25日付けの英字紙モスコー・タイムズ(電子版)。その記事によると、ノーベル平和賞の受賞者が発表された時、大統領の支持者たちは「それはおかしい」と叫んだ。その一人、プシュコフ下院外交委員長は「化学兵器廃棄の監督官の努力を評価する決定はプーチン大統領にヒジ鉄を加える行為だ。米国の空爆計画を思いとどまらせ、シリア開戦を実際に防いだのは大統領だ」と述べたという。

   記事の中で、プーチン大統領は和平を推進したどころか、過去2年半の間に10万人もの内戦の犠牲者を出したアサド・シリア大統領の戦争犯罪に関与してきたと糾弾している。その理由として3点を指摘している。

   まず第一に、プーチン政権がアサド政権に戦闘機、ヘリ、スカッド・ミサイルなど数億ドルの兵器を販売し、市民への攻撃に使用されたことを上げている。第二に、プーチン政権は国連安保理でアサド政権を非難する決議に拒否権を3回も行使して採択を阻んだと指摘。第三に、プーチン大統領とその側近がニューヨーク・タイムズ紙上や国連の場を通じてアサド政権に関する様々な虚偽を振りまいたと断罪している。

   こうした事実から、モスコー・タイムズ紙はプーチン大統領がノーベル平和賞に値しないと決めつけた上、「もし大統領が受賞し、賞金125万ドル(約1億2000万円)をもらったら、ロシアの保守強硬派から大統領は“外国の工作者”のレッテルを貼られただろう」と書いている。プーチン政権が欧米系のNGO(非政府機関)を「スパイの手先」と敵視し、摘発していることを皮肉っている。

   この新聞は以前からプーチン大統領に批判的で、大統領をイタリアの権謀術数を駆使した政治家マキャベリになぞらえているのもわからないではない。だが、4年ぶりに復帰したものの、業績がなかった大統領にとって今回の和平提案は初めての得点といっても過言ではない。内政にばかり力を入れている安倍晋三首相も少しは大統領を見習ったらどうだろうか。(この項おわり)
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ウクライナ再訪;独立から22年。すっかり欧州の雰囲気だが・・・

2013年10月18日 17時12分30秒 | Weblog
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(キエフの独立広場で週末を楽しむ若者たち)
   9月にモスクワを訪問した帰り、ウクライナの首都キエフに寄ってきた。ウクライナ独立後の94年に取材で訪れて以来なので、約20年ぶりの訪問ということになる。キエフ市内はすっかりきれいになり、欧州の都市らしい雰囲気と風格を備えているように見えた。だが、内情を聞くと、依然として欧州に同一化できないジレンマを抱えているようだった。

   モスクワのシェレメーチェボ空港を離陸後、約1時間半でキエフのボリスピリ空港に着いた。我々が降りたターミナルDは、日本のODAの援助で計6億ドルを投入して昨年完成したばかりとのこと。欧米並みの近代的なターミナルで、どこか成田空港に似ている感じがした。

   空港からミニバンでキエフ市内に入ったが、中心街に近づくにつれ、高層マンションが現れ、郊外の田園風景が一変した。一番賑やかなフレシチャーチク通りに入ると、改装されたホテルやデパートが立ち並び、ショーウインドウには、欧米の最新ファッションが飾られていた。

   この通りの両側に、ソ連崩壊後できた独立広場があり、若者たちが思い思いに週末を楽しんでいた。私がモスクワから何度か取材に来た1991年には、広場周辺で独立を要求するウクライナ人のデモが頻繁に行われ、武装した治安部隊とにらみ合っていた。そんな緊迫した状況が信じられないような、穏やかな週末だった。

   ウクライナの独立から22年。ヤヌコビッチ政権はソ連時代、兄と呼ばれたロシアと手を切り、欧州連合(EU)への加盟に向け突っ走っているようにみえる。11月には自由貿易協定を含む連合協定に正式に調印、準加盟に踏み切る構えだ。だが、ロシアは様々な圧力をかけ、ベラルーシ、カザフスタンを加えた3カ国の関税同盟に引き込もうとしている。

   ウクライナはロシアとの時差を1時間とするなど、事あるごとに兄と対立している。「兄弟は他人の始まり」というが、両国はそれをことさら強調しているように見える。だが、ウクライナの市場経済はまだ発展途上にあり、とても西側との競争に勝てる状況とは思えない。EUに加盟しても、まだまだ苦難の時代が続きそうだ。

   それでも、ウクライナ人は信じる道を進むしかないと腹をくくっているに違いない。その成否は、米国など欧米諸国がどれだけ協力してくれるのか、あるいは辛抱強く待っていてくれるかにかかっている。ウクライナ人といっても、約2割はロシア系住民だが、今こそ、ウクライナ人は国民としての団結力を示す時だろう。(この項おわり)
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日本はロシアと、どうしたら親しくなれるのか?

2013年10月13日 11時53分53秒 | Weblog
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  (モスクワの赤の広場にやってきた子供たち=9月19日撮影)
   学者とジャーナリストの有志で構成する「日露学術報道専門家会議」の一員として9月中旬、モスクワを訪れ、ロシアの識者らと意見を交換した。話題の中心は、やはり日露関係は今後どうなるか、だった。古くて新しいテーマだが、お互いにもっと親しくなりたいと思いながら親しくなれない現状を打開したいという気持ちには変わりなかった。

   我々が会ったロシア人は多士済々だが、どちらかというと親日派と呼ばれる人が多かった。ジャーナリストでモスクワ国際関係大学上級研究員のアンドレイ・イワノフ氏もその一人だが、ロシア人の対日観をある意味で代弁していて興味深かった。

   イワノフ氏によると、ロシア社会で日本のイメージは肯定的に受け止められている。そのイメージは、ソ連時代に共産党機関紙「プラウダ」東京特派員だったオフチンニコフ氏らによって作られた。同氏が書いた単行本「一枝の桜――日本人とはなにか」(読売新聞社刊)は1971年にモスクワで出版されると、たちまちベストセラーになった。

   この本を手にとって読んでみると、社会主義の盟主と言われたソ連の、しかも党機関紙の記者が書いたものとはとても思えない内容だ。まさしく等身大の日本人の発想や考え方が描かれていて、日本人が今読んでもなるほどと納得させられる本である。

   イワノフ氏は、ソ連が崩壊し、ロシアが日本と同じ資本主義国になってからも、日本に興味を持っている人は少なくないという。その後、日本の企業がどんどんロシアに進出してきて、リーマン・ショックがあっても日露貿易が発展したことから、ロシア人の間に「(領土問題を解決して)平和条約を結ばなくても、経済協力は発展する」というイメージが生まれているという。

   北方領土解決のスローガンはこれまで「どちらも勝者でも敗者でもない形で解決しよう」というものだったが、今は「引分け」という表現に変わってきた。そこでイワノフ氏は「引分けに向かうためには(人口が多い米中の脅威に対して)人口が少ないロシアと日本が互いに協力すべきだ」と、日露間の協力を強化するよう提案した。

   最近のロシア事情を聞くと、村上春樹氏の小説はもちろん、日本のアニメ、さらには漫画も人気で、静かな日本ブームが起きているという。モスクワでは寿司やうどんの店も増えており、日本への関心はソ連時代と比べると雲泥の差らしい。当然、日本への親近感も増しているとみられる。

  一方、日本はというと旧ソ連から続く「ロシア嫌い」は依然として変わっていない。毎年行われている内閣府の「外交に関する世論調査」(昨年10月実施)によると、「親しみを感じる」と答えた人は19.5%と低く、同じく領土問題を抱える韓国(39.2%)と比べても半分以下だ。ロシアに「親しみを感じない」は76.5%と高率で、こうした傾向は調査を開始した1980年以降ほとんど変わっていない。

   これに対応するロシア側の調査はないが、親近感では明らかに「露高・日低」だろう。日本人の「ロシア嫌い」が根底で領土問題の解決を阻んでいる気がしてならない。日本人の意識を変えるにはどうしたらいいのか。北方領土解決に日本政府が本腰を入れて取り組むなら、まずこの問題を解決する必要がある。(この項おわり)

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民主派の論客トレーニン氏、シリア紛争解決の内幕を読み解く!

2013年10月09日 11時26分37秒 | Weblog
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   オバマ大統領とシリアを空爆の「危機」から救った立役者プーチン大統領。その背景をロシアの政治学者で民主派の論客でもあるドミトリー・トレーニン氏が読み解いた。同氏が8日付けの英字紙モスコー・タイムズに寄稿した文章から、抜粋する。

   この寄稿のタイトルは「ロシアの中東外交が花開く」。文字通り、シリア紛争の危機的状況を救ったプーチン大統領が、いかにしてシリアの化学兵器廃棄を提案、米国など西側とアサド大統領を説得したかを分析したものだ。以下は、この寄稿文の部分訳である。

   プーチン大統領の緊急の課題は、シリアの化学兵器問題でどうやって西側を説得するかだ。ソ連崩壊後の四半世紀、ロシアは米国の軍事介入に抗議したり、ワシントンの政策を妨害する道を模索するだけの「なんでも反対」、あるいは「やくたたず」な存在だった。ロシアはなぜ今回、シリアと米国の双方が受け入れられる解決案を提示できたのか。

   プーチン氏は、サンクトペテルブルクで開催されたG20首脳会議で、オバマ大統領を侮辱するか、救うかを考えあぐねていた。2人の間に個人的な関係はなく、すべては取引の問題だった。シリアへの米国の軍事攻撃を防ぐことがロシアの当面の目標だった。英国議会が軍事攻撃案を否決したことに驚いたが、オバマ大統領が米議会から軍事介入反対の回答を得る可能性が高まったと感じた。

   そこで、プーチン氏は化学兵器の国際管理・廃棄案でアサド大統領を説得するチャンスだと思った。シリア側にこの計画を提案する際、アサド大統領が道理のわかる人物であることにかけた。シリアにとって化学兵器はイスラエルや米国に対する唯一つの抑止力だった。米国の空爆との取引としては最適だった。

   プーチン氏はアサド大統領をロシアの盟友と考えたことはなかったが、中東の政治については十二分に心得ていた。化学兵器を差し出したうえ、西側に一方的な武力行使を許すわけにはいかなかった。そこでフランスの対シリア制裁決議案に対し、一方的な軍事介入を防ぐため、国連安保理の決議に基づくとの条項を入れさせた。

   プーチン氏にとってシリアは常にシリア以上のものではない。国連安保理で戦争と平和に関する重要な国際問題を決めるのは米国とその同盟国だけではなく、安保理常任理事国の五ヵ国だというルール作りを目指している。これは法外な要求で、失敗するかもしれないが、プーチン氏はリスクを犯す価値があると信じている。

   トレーニン氏は9月中旬に訪問した日露学術報道専門家会議の一行との会見で、「ロシアにとって米国は同盟国でも敵でもない。プーチン氏の対米外交は、対等な関係という協力の条件をめぐる闘いなのだ」と述べ、米国や欧州と対等な関係を追求する路線に転換したことを強調していた。それだけに、今回のシリア問題でプーチン大統領は「してやったり!」と快哉を叫んだに違いない。(この項おわり)
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北方領土を百年かけて引き渡す提案をしたトレーニン氏に聞く!

2013年10月04日 16時10分07秒 | Weblog
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  (質問に答えるトレーニン・カーネギー財団モスクワセンター長)
日露間の懸案である北方領土問題を百年かけて段階的に解決するとの提案をしたロシアの政治学者ドミトリー・トレーニン氏から、日露学術報道専門家会議の一員として、モスクワで今回の提案の真意や国内の反応を聞いた。

同氏はカーネギー財団モスクワセンターの所長を務め、民主派の論客として知られている。この提案は11年暮れ、論文として発表された。日本側が返還を求めている四島全てを百年かけて日本に引き渡すというもので、国内外で大きな反響を呼んだ。

具体的には、まずロシアが歯舞、色丹島を引渡し、50年後に残る国後、択捉島の主権を放棄。さらにその後50年間、4島を共同経済地域としながらロシア人住民の永住権を保障するという内容。プーチン大統領は2島引渡し以上には応じないとしており、日本側にとって大きな“援軍”といえる。

トレーニン氏は「この論文を書いたとき、祖国を裏切ったという批判が来ると思った。批判はあったものの、かなり弱い批判だった」と語った。さらに「プーチン大統領はシベリアと極東の開発にとって、日本との本当の協力が大事なことを理解している。そして領土問題を解決できる唯ひとりの政治家だ」と述べ、大統領に領土解決への期待を示した。

また、「この提案はロシアの世論とはかなりかけ離れているのではないか」との質問に、「保守派からの批判もいくつかあったが、内容はバラバラだった。保守派の影響力を過大に評価しないほうがいい」と指摘した。さらに、「プーチン大統領はシベリア・極東が中国の一部あるいは中国の支配下になることを心配している。そのため中国以外の国との協力が不可欠と考えている」と述べた。

一方で、プーチン大統領は北方領土問題の解決にあたって「引分け」を強調している。これについてジャーナリストのアンドレイ・イワノフ氏は保守系新聞「ザーフトラ」(ロシア語で明日)に「ソ連は(第二次世界大戦で)引分けのために(日本と)血を流して戦ったのか」という記事が掲載されたことを紹介。「(戦争の)勝者が引分けの話はしないという声が広がっている」と語り、大統領批判ともとれる意見がでていることを指摘した。

我々が会見した世論調査機関レバダ・センターのグドゥコフ所長は、北方四島の返還に反対する人がここ15年間、9割以上で変わらないことを指摘し「どの権力者も返還というリスクを犯す人はいない」と断言した。安倍晋三首相は領土返還交渉を本格化させる構えだが、よほどの覚悟がなければ国民が納得する成果は難しいことを肝に命じるべきだ。(この項おわり)
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台頭する中国とどう付き合っていくのか、ロシアの識者に聞く!

2013年10月01日 08時24分01秒 | Weblog
 
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   (質問に答えるマースロフ高等経済学院東洋学センター長)
このところ中国の台頭が著しく、経済だけでなく、政治や安保問題でも影響力を強めている。こうした動きを隣国のロシアはどう見ているのか。このほど日露学術報道専門家会議の一員としてモスクワを訪れ、アレクセイ・マースロフ高等経済学院東洋学センター長に聞いた。

この大学はソ連崩壊直後に創立され、高等教育を行うとともに、政府直属のシンクタンクとして活動している。2万人以上の学生が学び、100以上の研究機関が政府の経済戦略などをまとめている

マースロフ教授は、習近平氏が中国国家主席に就任してから中露関係は「友国同士の関係」に移り、両国は戦略的パートナーから、アジア以外で唯一の「親しい関係」になったと述べた。習主席は初めての外遊先としてロシアを選び、プーチン大統領を「古き良き友人」と呼んだという。

「友国関係」は、スターリンと毛沢東が指導者だった1950年代以来の表現で、両国が社会主義の主導権をめぐって争う前の蜜月時代に戻ったと言える。その具体例としてマースロフ教授は、中国への武器輸出再開と、シリア問題など国際紛争への共同対処をあげた。

その半面、マースロフ教授は露中間で新たな摩擦や軋轢が起きていると述べ、中でも旧ソ連圏の中央アジアが一番問題だと指摘した。習主席は9月、カザフスタン、ウズベキスタンなど中央アジア4カ国を訪問し、エネルギー資源のインフラ整備などに巨額の投資を約束した。

ロシアは中央アジアを自国の「勢力圏」と見ており、中国の経済的影響力がこの地域で強まることに警戒感を募らせている。だが、中国への脅威についてマースロフ教授は「一般人の警戒心はとくに極東で高まっているが、指導者レベルでは習政権が新しいビジョンをロシアに伝えることに成功した」と語った。

とはいえ、ロシアの指導者レベルでも中国への警戒感が弱まったわけではない。マースロフ教授は中国が国際紛争を解決する手段を持っていないのに、尖閣諸島などの領土紛争をエスカレートさせようとしていると指摘し、「危険な動きだ」とクギを刺した。

そのうえで、マースロフ教授は「中国にとって重要なのは国際問題での発言権を確保することだ。これまで中国は経済以外の国際問題を解決した経験がない。そのため中国はロシアの経験を学びたいのです」と語った。

これまで隠忍自重してきた中国が世界第2位の経済力を手にして、それにふさわしい政治力を求める時代に入った。こうした国とどう付き合っていくのか。これはロシアだけの問題ではない。日本こそ、タフな外交を展開しているロシアに、中国との付き合い方を学ぶべきではないだろうか。(この項終わり)







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