飯島一孝ブログ「ゆうらしあ!」

ロシアを中心に旧ソ連・東欧に関するニュースや時事ネタを分かりやすく解説します。国際ニュースは意外と面白い!

露紙、露大統領の北方領土訪問反対を唱える日本側を皮肉る

2010年09月30日 10時15分49秒 | Weblog
 ロシアのメドベージェフ大統領が北方領土を近く訪問すると明言したことに対し、日本政府は29日、訪問を避けるようロシア側に強く申し入れた。こうした動きについてロシア紙は「日露間に新たなスキャンダルが起きている」と、日本側の過剰な反応をヤユしている。

 30日付けの有力紙コメルサント(電子版)は「メドベージェフ大統領を島々(北方領土)へ行かせまいとしている」との見出しでこの問題を報道している。それによると、日本のメディアは大統領が中国訪問の帰途に北方領土を訪問する計画を上海に到着した時から報道し、この騒動が起きてすぐ菅直人首相が記者団に「領土問題への日本の姿勢は不変」との公式立場を表明したと伝えている。

 さらに、記事の中で、菅首相は9月中旬の内閣改造時の会見では領土問題について「日本の姿勢はこの10年間変わっていない」と述べただけなのに、今回はあっという間に日露間のスキャンダルになっている、と振幅の大きさを皮肉っている。そのうえで、大統領が北方領土訪問を延期したのは、悪天候のせいで航空機が飛べなかっただけだとしている。

 また、ロシア政府の要人がこれまでに何人も訪問を計画したが、実現できなかったのは天候のせいだと述べ、最近ではラブロフ外相が07年に訪問しただけだと報じている。さらに今回の大統領発言に対し、日本政府は政治的波乱が起きたかのように対応し、直ちに仙谷官房長官が記者会見で大統領の領土訪問に否定的な考えを示したと書いている。

 コメルサント紙は続いてロシアの識者2人のコメントを掲載。まずクナーゼ元外務次官は「日本政府の今回の対応は戦術的に間違いだった。領土問題の解決を遠くに押しやっただけだ。クリル島(北方領土)訪問は大統領にとって今後重要な意味を持ってくるだろう」と語り、北方領土問題へのマイナス面を強調した。

 また、ストレリツォフ・モスクワ国際関係大学教員は「大統領がクリル島を訪問することは憲法の保証人として異例なことではない。もし大統領が訪問を拒否したとすれば、日本への不当な妥協と非難されるだろう。現時点で領土問題は2国間の問題ではなく、日本の内政問題だ」と述べた。

 こうした論調から、大統領の北方領土訪問計画を日本側が騒ぎ立てるのはおかしいとのロシア側の姿勢がはっきりと読み取れる。それとともに、大統領が自ら訪問し、問題の島々の現実をこの目で見ようという積極性もうかがえる。日本側は大統領訪問を政府もメディアも「領土返還要求をけん制する狙い」と決め付ける傾向があるが、それは言い過ぎではないか。もっと冷静に受け止めるべきではないだろうか。 
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ロシア情勢2010現地報告⑤欧米との関係はどうなる?

2010年09月27日 09時52分07秒 | Weblog
 米国大統領がオバマ氏に代わってから、ロシアと欧米の関係は対立から協調に変化している。だが、欧米とロシアは安全保障や民主主義の考え方に微妙な違いがあり、今後も様々なあつれきが起こりそうだ。日露学術報道専門家会議一行はロシアの識者にインタビューし、欧米との関係の見通しなどを聞いた。(写真はインタビューに答える政治評論家のニコノフ氏)

 ロシア政権寄りの政治評論家ニコノフ氏は、ロシア世界基金の代表も務めている。「米露関係について伺いたい」との我々の質問に対し、こんなエピソードを話してくれた。

 「メドベージェフ大統領とオバマ大統領との関係はユニークだ。メドベージェフ大統領は昨年7月、モスクワを訪問したオバマ大統領を昼食会に招待した。私も招かれたが、その席でメドベージェフ大統領はオバマ氏について『冷戦思考をしない、米国で初めての大統領だ』と賞賛した」
 
 両大統領はともに40代の若さで当選、08年のほぼ同時期に就任していて、お互いに信頼しあっていることを感じさせる良い話である。

 ニコノフ氏は米露関係が「オバマ大統領の就任で積極的な関係になった」と評価。その成果として①ロシアはアフガニスタンでの米軍の輸送に協力②米国は旧ソ連諸国への干渉を中止③米国は東欧へのミサイル防衛(MD)システム配備計画を修正、などをあげた。だが、米国が依然としてグルジアに武器を供給していることに対しては不満を表明した。

 その一方で、オバマ大統領の支持率が低下している点を指摘し、「メドベージェフ大統領も(12年の次期大統領選で)プーチン首相が再立候補すれば再選が難しくなる。2人とも1期限りで終わるのではないか」との見通しを語った。

 また、ロシアと欧州との関係については「ロシアの貿易の6割は欧州との取引だ」と述べ、欧露間の貿易が拡大していることを強調した。その半面、「ロシアは欧州に思いを寄せているが、ロシアが広すぎて欧州と統合できない」と語り、欧州連合(EU)などへの加盟は事実上無理との認識を示した。

 ニコノフ氏は、かつてソ連指導部の中枢を占め、外相も務めたことがあるモロトフの孫にあたる。街頭闘争に登場する火炎瓶がモロトフ・カクテルと呼ばれる理由を聞かれると「ソ連・フィンランド戦争(1939-40年)当時、ソ連のトップはモロトフだったので、フィンランド人は祖父の名を火炎瓶に付け、ソ連軍に投げつけた」と丁寧に説明してくれた。学生時代、キャンパスで火炎瓶が飛び交った団塊世代からの質問だった。

 我々一行は、ソ連時代から米国研究で知られる「米国カナダ研究所」のクレメニューク副所長にもインタビューした。副所長もブッシュ政権からオバマ政権に代わり「ロシア政府も米国と一緒に働くことが出来るようになった」と述べ、新政権の誕生を歓迎した。

 だが、米国が進めている対アフガニスタン戦争については「旧ソ連同様、敗北を喫するだろう。周辺のパキスタン情勢も不安定で、米国はこれらの地域で厳しい対応を迫られる」と述べた。また、ロシアの今後について副所長は「冷戦終了後のプロセスはまだ終わっていない。いかにロシアが国際社会に関与していくかが問題だ」と語り、今後も西側との関係には紆余曲折があるとの見通しを述べた。

 メドベージェフ大統領は今、モスクワ近郊に研究開発機関を集積する「ロシア版シリコンバレー」計画を進めている。国家の近代化を目指す目玉事業で、成否の鍵を握っているのは欧米や日本からの投資だ。欧米側はメドベージェフ再選を見込んで積極的だが、日本側はいまのところ慎重で、あまり乗り気を見せていない。この際、日本も欧米と同様、ロシアの将来性に期待し、協力する姿勢を示すべきではないだろうか。(この項終わり)



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ロシア情勢2010現地報告④どうなる?中国との関係

2010年09月24日 09時14分59秒 | Weblog
  中国は年内に日本を抜いて世界2位のGDP(国内総生産)大国になるのは確実で、その存在感は日増しに大きくなっている。ロシアはそんな中国をどう見ているのか、そしてどう対応しようとしているのか。日露学術報道専門家会議一行はロシアの識者にインタビューし、ロシア側の見方を聞いた。(写真はモスクワ中心部に立つ、スターリン建築のロシア外務省)

  「ロシアでは露中関係について3つの考え方があるのです」。対中国外交の専門家、エブゲーニー・バジャノフ外交アカデミー副学長はそう言って説明を始めた。1つ目は中国と同盟を結ぶべきだという考え方。2つ目は、中国はロシアにとって一番危ない国だから警戒しなければいけないとする考え方。3つ目は、中国にパートナーとして協力すべきだが、同盟関係にまでしてはいけないという考え方の3つだという。その上で副学長は、第3の考え方が現在のロシア首脳の考え方で、近い将来変更はしないと確信していると述べた。
  
  中露関係はこのところ順調で「準同盟関係にある」との見方も出ている。その理由として副学長は①ソ連崩壊後、国境問題など両国間の懸案を早めに解決した②米国の一極化世界に反対し、多極化世界を目指すことを首脳間で合意していたことなどをあげた。

  その一方、バジャノフ副学長は中国がいつかロシアを支配するという見方が出ていて、世論調査でも中国と日本のどちらが好戦的かとの質問に「中国」と答える人が60%にのぼっているという(ちなみに日本は4%)。中国に対する脅威がロシア人の間に広がっていることを示している。

  さらに副学長は、今こんなジョークが学生の間で流行していると明かした。
 「2050年、モスクワに『中国とフィンランドの国境は異常なし』との連絡が入った」
つまり、中国は40年後にはロシアを自国に組み込んでしまうというブラック・ジョークだというのだ。

  また、副学長は好調な中国の市場経済について「中国人は社会主義というのは名前だけで、実際は資本主義だといっている」と語り、中国の経済モデルはロシアのレベルを超えたので後戻りはないと指摘した。さらに民主化についてもロシアより先に進む可能性があると述べた。

  こうしたことから副学長は、中国の協力を得てシベリア・極東の開発を行うのが一番の対応策になるとの考えを示し、その結果として「この地域の人口が増えれば、中国が好戦的になっても地域の安全を維持できる」と語った。

  今の日露中の関係を象徴するような話を副学長から聞いた。1940-50年代は中ソは同盟国で日ソ(ロシア)は敵対していたが、それでも中国語を学ぼうという学生はおらず、みな日本語を選択した。ところが今は逆になり、成金の子供たちもみな中国語を学んでいるという。

  私たちは上院のポドレソフ外交副委員長にも話を聞いた。彼は「中国を脅威と思っているか」との質問に「脅威という言葉を使いたくない」と言いつつ「中国が発展し、ロシアに対してどういう政策を取るかについて私たちはみな心配している」と率直に語ったのが印象に残った。

  日本政府は今、尖閣諸島沖での衝突事件を巡って強硬路線をとる中国政府への対応に苦慮している。大国・中国にどう対応したらいいのか、中国に脅威を抱きながら”蜜月関係“を維持するロシア政府のしたたかさに学ぶべきではないだろうか。


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ロシア情勢2010現地報告③日露関係に変化はあるか?

2010年09月21日 08時59分36秒 | Weblog
 9月初め、日本は首相交代か否かを問う民主党代表選挙の渦中にあったが、この時期にロシアではヤロスラブリ世界政治フォーラムが開かれ、鳩山由紀夫前首相、森喜朗元首相ら有力政治家がロシア入りし、メドベージェフ大統領、プーチン首相らと会談した。日露学術報道専門家会議でも日露関係が焦点の一つになった。(写真は新設され、明るくなったシェレメーチェボ空港ターミナル内のパスポートコントロール)

 政権寄りの政治評論家ニコノフ氏は我々との会見で日露関係について「両国の関係は今ダイナミックに進んでいて、とくにサハリン開発プロジェクトでの協力は理想的だ」と高く評価した。ところが、最大の懸案である北方領土問題に話が移ると「政治的な立場は変化がない。どう答えたらいいか困っている」と、とたんに口が重くなった。彼の口ぶりにも、まさに“政冷経熱”といわれる今の日露関係が象徴的に表われていた。

 今回のロシア側要人との間で議論になったのは、ロシアが今年7月に新たに国の記念日にした9月2日の「第二次世界大戦終結の日」の制定の意図だった。日本側は第二次大戦での北方領土の占拠を正当化する動きと受け止める見方が強いが、ロシア外務省で対日問題を担当するラティポフ第三アジア局副局長は「今回の記念日制定は日本とまったく関係ない。ロシアの過去をもう一度見直そうと祭日を作っただけだ」と述べた。

 戦後、スターリンは9月3日を「対日戦勝記念日」に指定した。だが、その後形骸化したため、ソ連崩壊後に記念日からはずされたが、サハリン州など極東の地方議会から記念日復活を求める請願が出されていた。エリツィン大統領時代には下院が法案を採択したものの、大統領が署名を拒否していた。

 ロシア国家としては毎年5月9日の対ドイツ戦勝記念日を大々的に祝っている。しかし、極東は対独戦とはあまり関係がないこともあって、対日戦勝利の記念日復活を求める声が強まっていた。今回の法案は当初、「対日戦勝記念日」となっていたが、日本側の反発に配慮して「第二次世界大戦終結の日」に変更された経緯がある。

 一方、北方領土問題については、ロシアの世論は依然として厳しい状況だ。大手世論調査機関・レバダセンターによると、91年から毎年のようにこの問題で世論調査を行っているが、返還反対が増加傾向にあり、昨年の調査では返還賛成8%に対し、反対は82%だった。回答保留は10%。

 では、解決は不可能かというと、必ずしもそうではないよいう意見が返ってくる。中立系のラジオ放送局「エホ・モスクブイ」(モスクワのこだま)のベネジクトフ編集長は「解決には妥協的なアプローチが必要だ」と言い切る。ただ、交渉が長期化しており、「ロシア政府はいま、領土問題を優先的課題とはみていない。いずれにしろ簡単には解決しない」と語っていた。

 領土問題を解決するには、なによりも日本政府が本腰を入れて取り組む決意が必要だ。ロシアのメドベージェフ政権は資源依存からハイテク国家への転換を目指し、アジア太平洋地域に熱い視線を注いでいる。日本は今千載一遇のチャンスであり、政界、財界がこぞってロシア側の意向を受け止める必要がある。そうしなければ中国に漁夫の利をさらわれてしまう。菅直人首相は党内闘争から脱却し、日露関係を立て直すため早急に行動を起こすべきだ。

  
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ロシア情勢2010現地報告②民主勢力は再起できるか?

2010年09月17日 09時46分26秒 | Weblog
 ロシアでは来年暮れの下院選、12年の大統領選を控えて「政治の季節」に入りつつある。大統領選の行方とともに注目されているのは、下院選で民主勢力が再起できるかどうかだ。前回(07年)の下院選では、小選挙区制が廃止され、比例区だけになったうえ、政党が議席を獲得できる最低得票率が5%から7%に引き上げられ、議席獲得はならなかった。プーチン首相が党首を務める与党「統一ロシア」は憲法改正が可能な3分の2の議席を獲得した。

 そこで日露学術報道専門家会議一行は、エリツィン大統領時代に第一副首相を務め、民主派の旗手といわれたボリス・ネムツォフ氏(50)にモスクワ市内でインタビューし、民主勢力の実情などを聞いた。(写真はインタビューに答えるネムツォフ氏=右)

 ラフな格好で我々の前に現れたネムツォフ氏。日焼けして精悍な印象は以前と変わらなかった。「プーチン首相によって事実上政治活動を禁止されているので街頭で活動するしかない」と言い切り、集会やデモでこの1カ月半の間に3回逮捕されたと明らかにした。

 「ロシアには言論の自由も正当な選挙もない。権力を持っているのはプーチンの政党だけで、あとは悲惨な状態だ。我々がプーチンに取られた権限を取り戻すには街頭行動しかない」。開口一番、こういってプーチン支配体制を厳しく批判した。

 「プーチン首相の支持率が高いということは人気があるからではないか。なぜそれに反対するのか」という辛口の質問に対し、ネムツォフ氏は「テレビなどマスメディアはすべてプーチンの統制下にある。プーチンがいつも70%の支持があるのは、プロパガンダ・マシーンがついているからだ。我々野党活動家はブラックリストに載っていて、テレビにも出られない」と反論した。


  今ロシアでは、民主勢力を支持する人はごく少数派だ。世論調査でも民主派政党を支持する人は1割程度しかいない。大手世論調査機関レバダ・センターのグドコフ代表はその理由について「(エリツィン時代の)改革がうまくいかなかったからだ。このため民主派の多くは国民から西側のスパイとみなされ、急速に支持を失った」と分析する。

 民主勢力が減った理由を質問されるとネムツォフ氏は「今の体制ではマスメディアを与党に握られていて、野党はテレビを通じて有権者に訴えられない状態だ。プーチンが成功したのは石油が高騰したお陰で、運がいいからだ。プーチンが次期大統領選で勝てば24年まで政権を握ることになり、国民にとってまさに悲劇だ」と強調した。

 さらに、メドベージェフ大統領の評価を聞くと「プーチンの秘書であり、運転手であるに過ぎない。しいて言えばブロガーだ。プーチンがいなくては何も出来ない」と手厳しくやっつけた。すべてはプーチン首相が悪いという論法だ。

 「では、プーチン首相が2期12年大統領を務めている間は民主勢力は権力を握れないのか」との質問が飛ぶと「民主勢力はインターネットを使って支持者を少しずつ増やしている。私の支持者も今は少ないが、倍々ゲームで増えていく」と語ったものの、明確な展望は示されなかった。

 17日付けのコメルサント紙(電子版)によると、ネムツォフ氏、カシヤノフ元首相ら民主派の有力者4人は民主勢力を連合して下院選と大統領選を闘うことで合意した。大統領選では統一候補を擁立する方針だという。だが、これまでもこうした試みは何回もあったが、各党派の意見がまとまらず、いずれも実現までには至らなかった。今度こそ、民主勢力が一致団結し、有権者に明るい展望を示せるか。民主派が再起できるかどうかは、その1点にかかっている。
 
 
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ロシア情勢2010現地報告①どうなる?2012年の大統領選

2010年09月14日 09時54分34秒 | Weblog
 今夏、未曾有の猛暑に見舞われ、森林火災や穀物不足に悩まされたロシアだが、その影で地殻変動が起きていないだろうか。日本に最も近くて遠い国・ロシアを日露学術報道専門家会議の一員として1週間見て回った。その見聞録をシリーズでお伝えする。(写真は今年2月のバンクーバー冬季五輪選手団の公式キャラクター、青いチェブラーシカ人形=略称、青チェブ)

 シリーズ1回目は、ロシアのジャーナリストが「12年問題」と呼ぶ次期大統領選の見通しだ。メドベージェフ大統領がすんなり再選されるのか、それとも人気抜群のプーチン首相が大統領に返り咲くのか。モスクワで何人かの識者に話を聞いたが、一様にプーチン氏が再度大統領に復帰するとの見方を示していた。

 ソ連時代のモロトフ外相の孫で政権寄りの政治評論家ニコノフ氏は次期大統領選の見通しについて「99%、メドベージェフかプーチンになると思う」と述べ、第3の候補はありえないと指摘した。2人のうちどちらに、より可能性があるかについては「プーチンの可能性が70%以上ある」と、プーチン氏復帰を予想した。

 さらに、「その根拠は?」と畳み掛けると①人気投票でいつもプーチン氏が勝っている②大統領の任期は次から4年から6年に延長されるが、これはプーチン氏を想定した延長③外国のロシア研究家たちと懇談する「バルダイ会議」で、自分からフランクリン・ルーズベルトが米大統領を4期務めたことを強調、などをあげた。

 数少ない中立系ラジオ局「エホ・モスクブイ」(モスクワのこだま)のベネジクトフ編集長は、現在もプーチン氏が事実上大統領として重要な決定を行っており、メドベージェフ氏は大統領職ではなく、副大統領職を務めているとの見方を示した。そのうえで、12年にはプーチン首相が大統領に復帰し、メドベージェフ氏は憲法裁、最高裁などを統合した裁判所の長官になる可能性を示唆した。

 さらに編集長は、プーチン氏が12年になっても政界を引退しない理由について「ロシアは経済だけではなく、テロの脅威や若者の過激主義などの問題を抱えており、引退できないと考えているからだ」と述べた。

 大統領を2期8年務めたプーチン氏は08年の前回大統領選で大学の後輩・メドベージェフ第一副首相を後継者に指名、当選させた。そして自らは格下の首相に就任、二人体制で国家を運営する仕組み(双頭体制と呼ばれている)を作った。憲法で大統領は連続2期までと定めているので、プーチン氏が次善の策としてこの仕組みを作ったと編集長はみている。
 
 大手世論調査機関レバダ・センターのグドコフ代表は「伝統的にロシア人は強い指導者を支持しており、今大統領選が行われれば有権者の4割前後がプーチンに投票する」と語った。そしてプーチン氏が当選すれば2期12年、つまり24年までプーチン氏が最高権力者として残るとの見方を示した。

 また、プーチン氏の人気が依然高い理由について「(ソ連崩壊後の)90年代に(市場経済への移行などで)苦しんだ国民に『安定の時期が来た』と繰り返し、国民に希望を与えたからだ」と説明した。

 一方、プーチン氏は以前から次期大統領選について「メドベージェフ大統領と協議して決める」と述べていて、今年のバルダイ会議でも「まだ(この件で)話すのは早すぎる。今は自分の仕事をこなす時期だ」と語るにとどめた。

 プーチン氏は現実主義者で、状況を見ながらぎりぎりまで待って決断しており、今回も大統領選直前まで本心を明かさないだろう。ただ、彼は熱烈な愛国主義者で、大国ロシアの復活を最優先している。メドベージェフ大統領との双頭体制でも「安定成長を望むプーチンと、変化を主張するメドベージェフがバランスをとりながら役割分担している」(ルキン・モスクワ国際関係大学教授)ことから、大統領選までこのままの状況が続くとみられる。

 そうであるなら、大きな変動が起きない限り、12年以降も現在の双頭体制をそのまま継続することもありうるのではないだろうか。12年にプーチン氏が大統領に復帰するとの識者の見方に簡単に乗れないのも、プーチン氏自身、「大方の予想を覆す男」だからだ。

 もう一つの要素は、47歳の若さで大統領になったプーチン氏も、12年には60歳を迎えることだ。今も柔道で鍛えた裸身をメディアに流し、若さを強調しているが、60代になってもその若さを維持できるかどうか。ロシア人男性の平均寿命は今でも60歳前後と他国に比べて短い。ロシア政治は年齢との戦いでもある。








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メドベージェフ大統領とプーチン首相の「静かな戦い」が開始!

2010年09月04日 09時42分36秒 | Weblog
 ロシアでは今夏、猛暑から始まった森林火災や小麦禁輸で予想外の事態となったが、9月に入りようやく落ち着きを取り戻してきた。そんな中、政界では2012年の次期大統領選を視野に入れたメドベージェフ大統領とプーチン首相の「静かな戦い」が早くも始まっているという。

 こんな政界の内情を取材した記事が1日付けの独立新聞(電子版)に掲載された。それによると、飛んだ災難に見舞われた森林火災後、大統領と首相は法案改正案をぶち上げたり、メディアに露出したりして、それぞれイメージ・アップの作戦に取り組んでいるようだ。

 ここでも目立つ動きをしているのは、大統領を後輩に譲ってもなお実権を握っているとされるプーチン首相だ。夏休みに念願の極東に出かけた首相はボートでクジラを追いかけたり、マンモスの骨を見学した。その後、黄色の国産車を自分で運転、ハバロフスクからチタまで4日間のドライブを楽しんだ。

 だが、首相はただドライブするだけではなく、途中、テレビや新聞のインタビューに次々応じ、若さとやる気を大いにアピールした。これほど一度にたくさんのメディア取材を受けたのは2期8年間の大統領時代にもなかったというから、狙いがあるのは間違いない。

 一方のメドベージェフ大統領は森林火災対策や外国要人との応接に当たったが、首相に一歩後れを取っている感じだ。それでも警察の不祥事をきっかけに名称をロシア革命時の「ミリツィア」から帝政時代の「ポリツィア」に変更する改正案を提案するなど、地道に制度改革に取り組んでいる。大統領府ではいま「有権者を魅了する権威主義的なカリスマ性を獲得できないか」と真剣に検討しているという。

 クレムリン関係者は大統領陣営が劣勢を逆転するための方策についてこう語る。
「大統領が次期大統領選を有利に進めるためには、残りの任期2年では実現できないイニシアチブを見つけることが肝心だ」。まさに水面下で主導権争いが展開されているのだ。

 政治評論家のマカルキン氏は「大統領と首相はお互いに違う土俵で活動している。これはともに競争を避けようとしているからだ」と見ている。お互いに得意分野で得点を重ね、大統領選に向けてできるだけ支持率を稼ごうという作戦らしい。だが、プーチン首相がどれだけ本気で再出馬を考えているかは疑問だ。二人の間の緊張感をあおり、いい意味でのライバルを演じて大統領と首相の双頭体制を維持するというのが本音なのでは。(ブログは筆者が海外旅行のためしばらく休載します)
 
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