飯島一孝ブログ「ゆうらしあ!」

ロシアを中心に旧ソ連・東欧に関するニュースや時事ネタを分かりやすく解説します。国際ニュースは意外と面白い!

冷戦終結から満30年、ロシア国民に落ち着きと自信増す!

2019年12月31日 23時24分58秒 | Weblog
 東西の冷戦に終止符を打ったのは1989年12月。あれから2年後にソ連が崩壊し、新生ロシアが生まれた。冷戦終結から今年は満30年を迎え、各地で様々な行事や催しが行われている。この間、ロシアは世界最大の共産国家・ソ連から、市場経済に方向転換し、以前より小ぶりな国家に生まれ変わった。では30年後の今日、人々の暮らしや意識はどう変わったのだろうか。

 ここで、18歳以上のロシア人1,600人を対象に12月18日に行われた「暮らしの満足度」に関する世論調査結果を見てみたい。タス通信が12月24日付けで配信したもので、自分の人生に満足している人が約80%になり、約20年前に比べ、17ポイントもアップしていたという。この調査結果から、何が読み取れるか考えてみたい。

 調査結果のポイントは、以下の5つにまとめられる。
 ⑴人生に満足していると答えた人は79%で、20年前に比べ、17ポイント上昇した。
 ⑵自分の周りの人との交流に満足していると答えた人が90%に上った。
 ⑶家族の経済状況に満足していると答えた人が46%で、約20年前より21ポイントアップした。
 ⑷自分の仕事に満足している人が60%、自分の健康状態に満足している人も62%いる。
 ⑸レジャーを楽しんでいると答えた人は70%にのぼる。

 この調査結果について、世論調査機関のフェドロフ代表は「20年前に比べて、仕事をめぐる環境が好転している。これは、経済状態が良くなっているだけでなく、仕事への満足度が影響している」とコメントしている。ロシアは依然、貧しい国で、人々は苦しい生活を送っているのではないかという世間の見方を覆す調査結果と言えよう。

 この調査は、電話インタビューで行われたと書かれていて、対面調査に比べ、信頼度はやや落ちるが、全体の傾向は表れていると思う。この調査結果から受ける印象は、人々の生活が落ち着いてきて、仕事にも自信を持って取り組んでいるということだ。筆者はソ連崩壊前から崩壊後、約5年間、モスクワで暮らしたが、その頃は社会主義から市場経済への移行期で、社会が不安定なうえ、経済状況が厳しく、人々の暮らしも荒れていた。全体として、米国を始め、西側諸国に負けたという屈辱感が強かった。

 現在もウクライナとの紛争が続き、西側からの経済制裁を受けているマイナス面があるが、生活にゆとりが出てきたことは間違いない。それが自分たちの自信につながり、レジャーを楽しむ余裕が出てきたのだろう。その一方で、プーチン政権は相変わらず米国との軍拡競争を推進しようとしている。そろそろロシアも、身の丈に合わせた国家戦略に改め、余裕を持った生き方に方向転換すべき時ではないだろうか。(この項終わり)
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プーチン大統領が北方領土で再び「引き分け」を持ち出した意図は?

2019年12月20日 16時00分16秒 | Weblog
 ロシアのプーチン大統領は19日、モスクワ市内で恒例の年末記者会見を行い、国内外の記者の質問に答えた。その中で、共同通信記者の質問に対し、日露平和条約交渉について「柔道で言う引き分けを目指しているが、まだ解決策は見つかっていない」と述べた。大統領が日露間の交渉に関し「引き分け」と言う表現を使ったのは、2012年の外国メディアとの会見以来で、改めて大統領がこの表現を持ち出した意図はなんだろうか。

 前回、「引き分け発言」をしたのは、2012年の大統領選で当選した直後で、大統領がいよいよ領土問題を解決しようと本腰を入れたのではないか、と言う観測が広がった。そうした流れの中で、「引き分け」とは領土交渉の対象になっている北方四島を半々に分けると言うことではないかとの憶測を呼び、日本国内で解決機運が高まった印象がある。安倍晋三首相周辺にもそうした雰囲気が広がったため、四島のうちの2島返還要求に動いた感じがする。

 だが、すでにこの1年の交渉で明らかになったように、ロシア側からは具体的な返還への回答は得られず、安倍政権の一方的な思い込みという結果に終わった。そして再び、プーチン大統領から「引き分け」という解決策が出たわけだ。ということは、大統領が考えている解決策は島の返還ではなく、まったく別の解決策だと考えざるを得ない。では、一体それは何なのかということになる。

 19日の会見でプーチン大統領が頻りに心配していたのは、北方領土を日本に返還したら、翌日にも米国がそこにミサイル基地を作るのではないかということである。米露両国が結んでいたINF(中距離核戦力)全廃条約は現在、失効しており、米国の地上発射型ミサイルが北方領土に配備される可能性があるからである。大統領は会見で「日本への配備の可能性が日本側からも、米国側からも聞こえて来る」と述べ、「明日にもミサイル基地が島に出現しない保証がどこにあるのか」と強調していた。

 もちろん、日本側もロシア側にそうした心配があることは十分承知していて、ロシア側に否定的見解を伝えている。だが、ロシア側からすれば、日米は軍事同盟を結んでいて、一体化しているので、口先だけの否定を信じるわけがない。では、本当にロシア側の心配を否定できるかというと、できないことも皆承知している。だが、ロシア側の真意がそこにあるとすれば、その問題を放置していては一向に解決しない。

 終戦から間もなく75年が経とうとしている。要は、北方領土問題をこのまま放置していいのかということである。日本側が本当に解決を望むなら、日米の関係を見直す必要がある。それをプーチン大統領は「引き分け」と表現しているのではないだろうか。(この項終わり)

 
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ロシアとウクライナ、年内の完全停戦で合意したが・・・

2019年12月10日 17時57分57秒 | Weblog
 ロシアとウクライナの紛争は、2014年以来、6年越しとなっているが、12月9日にパリで開かれたロシア、ウクライナ、仏、独の4カ国首脳による和平協議で年内の完全停戦で合意した。今春就任したウクライナのゼレンスキー大統領が紛争解決に積極的になり、プーチン大統領も話し合い路線に歩み寄ったため、2015年の停戦合意の実現に向け、再び動き出した。だが、最大の焦点だった親露派地域での地方選挙の実施で合意できなかったため、早急な全面解決は望めそうもない。

 ロシアとウクライナはスラブ民族同士で、元々兄弟のような関係だった。特に、ウクライナに石油資源がないこともあって、石油の豊富なロシアと協調していかなければ、国家が成り立たない状態だった。ところが、ソ連崩壊で兄弟関係の”重し”が消え、対等な立場になってから紛争が起きるようになった。その渦中に、ロシアがソ連時代にウクライナ領に入ったクリミヤ半島を取り返すべく、住民投票を実施し、それを受けてロシア領への編入を強行した。さらに、ウクライナ東部で親露派武装勢力がドネツク州などの自治体庁舎を占拠し、ウクライナ軍との戦闘に発展した。

 両国の緊張緩和が始まったのは、欧州との統合を急ぐ親欧米派のポロシェンコ・ウクライナ大統領が、今年4月の大統領選でコメディアン出身のゼレンスキー氏に敗れたのがきっかけだった。ゼレンスキー政権はロシアとの協調を図ろうと話し合い路線に転換、プーチン政権に働きかけてきた。そして、ウクライナは9月、お互いが拘束してきた兵士や政治犯の交換を提案、実現させた。さらに、ウクライナ東部の前線で一部兵力の撤退が進み、ロシアなど3カ国との首脳会談実現にこぎつけた。

 最大の課題である親露派地域での地方選挙は、2015年の停戦合意に基づくもので、これらの地域で「公正な選挙」が実施されたと確認されれば、その地域に「特別な地位」を与えるというものだ。だが、ウクライナ国内では、親露派に特別な地位を与えることへの反対が依然根強い。さらに、選挙実施前にゼレンスキー政権は武装組織やロシア軍の紛争地域からの退去を求めているため、文字通りの完全停戦が簡単に実現する状況ではない。両国は今後4ヶ月以内に協議再開を目指すことになるが、事態が打開できるかどうかは双方がどれほど歩み寄れるかにかかっている。両国大統領の本気度が問われる展開となりそうだ。(この項終わり)

 
 
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