ロシアといえば、まず頭に浮かぶのはアルコール度数の強いウオツカというのが大半の日本人男性ではないだろうか。私もモスクワ駐在中に飲みすぎて二日酔いに懲りた経験が何度もある。ロシアでは人口の減少と離婚率の高さが問題になっているが、両方とも元凶はウオツカだという。正月に酒類を飲みすぎたという人も多いかもしれないが、おとそ気分も終わりというこの時期に、ロシアのウオツカと人口問題について考えてみたい。

この話題を取り上げたのは、たまたま今読んでいるロシア人エコノミスト、井本沙織さんの著書「ロシア人しか知らない本当のロシア」(日経プレミアシリーズ)に面白く書かれていたからだ。その内容のエキスをご披露したい。
ロシア人がアルコールをたくさん飲むかというとそれほどではない。一人当たりの年間消費量でいうと、10・6リットルで、英国とほぼ同じでフランスより少ない。違うのは英国の消費量の半分はビールだが、ロシアではウオツカなどのアルコール度数が高いスピリッツが70%以上を占めている点だ。
そこで人口減少問題だが、ロシアの場合は先進国に共通する出生率低下に加え、死亡率が異常に高い。これが平均寿命の後退と結びついている点が問題なのである。ロシア人の平均寿命は男性が58・98歳、女性が72・40歳で、男性の寿命は西アフリカのガーナと同水準である。なぜ男性の寿命が低下したのかというと、アルコールが関係する死亡が圧倒的だからだという。ロシア人の直接の死因のトップは心臓血管疾患で53%を占め、2番目は自殺・他殺などの外部要因による死亡で15%だ。要するに全体の三分の一はアルコール飲用が関係しているというのだ。
ロシア人男性の平均寿命の移り変わりをみると、1987年ごろから90年代半ばに急激に低下しており、旧ソ連の崩壊、新生ロシアの経済混乱期と一致する。そこで社会、経済的混乱が男性のストレスを高め、アルコール摂取の増加につながったとみているのだ。
では離婚とアルコールとの関連はどうか。2004年のロシアの離婚率(人口千人比で表す)は6・5で、日本の同じ年の離婚率2.5に比べて2倍以上である。ロシアでも70年代には離婚率は3・0だったので2倍以上に増えているのだ。その離婚の最大の要因はアルコール中毒で51%に上るという。2番目は両親と別居できる自分の住まいがないことで41%、3番目が収入が少なく家族を養えないことで29%という。これは世論調査の結果だが、アルコール中毒が原因と答えた人は17年間に33%から51%へ増加している。
中毒の原因はもちろんウオツカである。しかも、ウオツカの値段がソ連時代より新生ロシアになってから安くなっているのが問題という。ソ連末期のブレジネフ時代は1ヶ月の平均給料で0・5リットルのウオツカが35本しか買えなかったが、2006年には平均給料で137本ものウオツカが買えるようになった。社会主義の時代はもちろん政府が値段を決めていたわけだが、今は資本主義なので市場価格である。つまり、資本主義はアルコール中毒者を大量生産している、ということになる。「社会主義時代は良かった」という年配のロシア人の呟きが聞こえてきそうだ。