飯島一孝ブログ「ゆうらしあ!」

ロシアを中心に旧ソ連・東欧に関するニュースや時事ネタを分かりやすく解説します。国際ニュースは意外と面白い!

頻発する記者への襲撃事件防止のためロシア下院に特別法案上程!

2010年11月29日 11時19分17秒 | Weblog
 ロシアで記者が襲撃される事件が多発しているため、刑法とは別に新たな法案を議員立法で制定することになり、新法案が26日下院に上程された。刑事事件を取り締まる法律を記者に限定して作成するのは異例で、それだけ「言論の自由」が脅かされている現実を浮き彫りにしている。

 29日のモスコー・タイムズ紙(電子版)によると、法案では記者を殺害、あるいは重篤な傷害を負わせた者には6年から10年の懲役刑、軽傷を負わせた者にも2-5年の猶予刑とし、暴力以外の方法で取材を妨害をしたものには最高2年の懲役とする、となっている。 


 この法案作成のきっかけになったのは、ロシアの有力経済紙コメルサントのオレグ・カーシン記者が11月6日、何者かに襲われ、あごや指などを骨折する重傷を受けて入院する事件が起きたからだ。カーシン記者は今も入院中で、警察官が警護している。

 この事件後、メドベージェフ大統領は記者への襲撃を命じた人物を探し出し「社会的地位に関わらず」罰するべきだと述べ、記者が書いた記事で批判された役人が何者かに襲撃を命じたことを暗に匂わせていた。すでに犯人のモンタージュ写真が作られ、報道機関に配布されている。

 大統領府のフェドトフ人権会議議長によると、ロシアでは月に平均5件の記者襲撃事件が起きている。また、グラスノスチ(情報公開)防衛基金によると、今年だけで記者襲撃事件は少なくとも30件発生、そのうち8人が死亡している。ニューヨークに本部のある「ジャーナリスト保護委員会」の調べでは、ロシアで00年以降に起きた記者殺害事件のうち、アンナ・ポリトコフスカヤさんら19件が未解決のままだとされる。

 この法案についてロシアのジャーナリストの間では「記者の利益を守るのに役立つ」という肯定派と、「現行法で十分だ。犯罪を防ぐ最良の方法は犯罪者をきちんと罰することだ」という批判派に分かれている。どちらにせよ、記事を書いた記者を抹殺し、あるいは痛い目にあわせて「筆を折らせる」ということが当たり前のように行われている社会は異常である。リベラル派の大統領の奮起を促したい。
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ロシアはロシア人が考えるほど嫌われていない!?

2010年11月26日 12時38分44秒 | Weblog
 ロシアというと、なんとなく「世界の嫌われ者」というイメージがある。だが、そんなに嫌われているわけではない!ロシア人を鼓舞するような、ロシア人の手による論文あるいはエッセイがロシアの英字新聞モスコー・タイムズに掲載された。

 26日付けの電子版によると、ロシア外務省付属外交アカデミーのエブゲーニ・バジャノフ副学長が寄稿したもので、題して「誰もがロシアを嫌っているわけではない」。以下に概要を紹介したい。

 ロシアの政治学者はロシアと西側との間で何世紀も続く対立について話したがる。彼らの理論の一つは、西側はロシアの背後を突いて解放しようという試みに団結してきた、というものだ。一見正しいように思えるが、実際には西側諸国は何世紀にもわたってお互い同士の問題、主に戦争に費やしてきた。歴史書を紐解くと英国とフランス、フランスとドイツ…などのたくさんの戦争の年代記で埋まっている。

 西側で反ロシア感情を示す、最も知られている事実は、ナポレオンとヒトラーによる対露戦争である。これらはもともと欧州の「兄弟国」との対立から始まったもので、ロシアに対するものではない。欧州人たちは自分たち同士で何世紀もの間、争い続けているのだ。

 欧州の弱小国家、とくにロシアに接している国々は強力な隣人を恐れているが、それはロシアだけでなく、ドイツも同じである。そして今、世界は台頭しつつある中国とインドを恐れている。
 
 政治学者のもう一つの理論は、東も西もロシアを経済的な植民地にしようと狙っているというものだが、欧州諸国は第二次大戦後、植民地を放棄しており、ロシアを今さら奴隷化しようとしている国があると考えるのはばかげている。

 国際社会がロシアに対し抱いているイメージは、ロシア人が考えているより、ずっと良い。47カ国の世論調査をみても、ロシアのイメージは「極めてポジティブ」であり、実際に米国や中国に対するイメージよりも良いものだ。

 バジャノフ氏は、以上のように書いている。この文章を読んで、やはりロシア人は妄想癖が強く、自虐的なのだなと感じた。こういう人たちに対し、われわれはどう対応すべきなのか。「あなた方はいい人たちで、誰も怖がってなんかいませんよ」と、しょっちゅう慰めなければいけないのだろうか。メドベージェフ大統領と菅直人首相との先日の首脳会談のやり取りを思い浮かべながら、しばし考え込んだ。
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ロシアはNATOとミサイル防衛(MD)で協力することで合意したが…

2010年11月22日 11時04分28秒 | Weblog
 ロシアとNATOはともに相手を「仮想敵」と位置づけていたが、リスボンで開かれた首脳会議で「対立に終止符」を打ち、ミサイル防衛(MD)分野で協力することで合意した。「史上初めて双方が防衛のために協力し合うことになる」とラスムセンNATO事務総長は強調するが、そううまくいくかどうか。

 そもそも双方が角突き合わせていたのは、米国がミサイル防衛システムを東欧に配備する計画を打ち出したことからだった。米国はイランの長距離ミサイル対策だと主張したが、ロシアは「対ロシア包囲網だ」と反発、「新冷戦」とも言われる対立に発展していた。
  
 それが改善されたのは、オバマ米大統領が登場し、ブッシュ政権とは違った協調外交を打ち出してからだ。まず、MDの東欧配備計画を見直し、ロシアとの関係を「リセット」したのだ。今回の首脳会議でNATOはロシアを敵とみなさない、新たな戦略概念を採択し、ロシアと欧州でのMDで協力することにした。

 だが、メドベージェフ大統領は「ロシアの参加は完全な対等でなければならない。フルメンバーとして参加し、情報を交換し、問題解決に責任を持つのでなければ参加しない」と表明している。この条件を米国や欧州の国防責任者は本当に守れるのだろうか。これまでの経過を考えると、非常に難しい気がする。

 22日のモスコー・タイムズ紙(電子版)によると、早くもロシアの防衛関係者から様々な問題点が指摘されている。たとえば、イランの長距離ミサイル開発についての認識からして米国とロシアとでは異なっている。米国はイランの脅威は現実的と見ているが、ロシアは長距離ミサイルの完成にはまだ何年もかかると見ている。さらに重要なのは、米国はロシアにNATOのMDシステム使用に関する拒否権を決して与えないと見ているのだ。これでは対等とはいえず、ロシアが怒り出すのは間違いない。

 さらに、08年のグルジア戦争に関しても、今だに欧米とロシアの対立は消えていない。これまでの歴史を考えると、防衛協力は一朝一夕に出来るものではない。とくにソ連圏だったポーランドなどの対露不信感は根深いものがある。それにもかかわらず、欧米とロシアとの新たな関係に期待したい。それがアジアにも広がることを願いながら。
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ロシアで新年から「国内パスポート」が要らなくなる!!

2010年11月19日 11時30分17秒 | Weblog
 ロシア全土で来年1月1日から「国内パスポート」が廃止され、住民登録が簡素化されるという。19日のロシアの大衆紙コムソモリスカヤ・プラウダ(電子版)が伝えたもので、ロシア人にとっては一足早いクリスマス・プレゼントともいうべき朗報である。

 国内パスポートというのは日本人には分かりにくいが、海外へ行く場合だけでなく、国内でも16歳以上の市民全員に国内パスポートの携帯が義務付けられている。パスポートには、姓名、出生年月日、出生地、民族、職業などが明記され、顔写真がはられている。警官の職務質問や住所変更などの際には、このパスポートを提示しなければならない。

 国内パスポートは、ソ連初期の1932年に導入された。当時は第1次5ヵ年計画が始まった時期で、工業化が推進され、大量の農民が都市に流入した。その一方、穀物生産地帯で飢饉が発生し、農民の逃亡が相次いだ。このため農民の国内移動を制限し、工業化と農業のバランスをとるため国内旅券制度が導入されたのである。こうした困難な時期が過ぎてもこの制度は継続され、ソ連崩壊後も廃止されず国民の不興を買っていた。

 連邦移民局の話では、住民の移動や住所変更に伴う住民登録が簡易化され、郵便やインターネットで出来るようになる。このため長い時間、並んで待つ手間が省けるという。国内パスポートの廃止後、パスポートの替わりをどうするかはまだ未定だが、プラスチック製の身分証明カードを配布する案が検討されているという。これまで地方からモスクワへ流入する人たちの「住民登録」の煩雑さが大きな問題になっていたが、今後大幅に緩和されることは間違いないようだ。

 市民にとっては朗報だが、市民の流入増加が見込まれる大都市にとっては治安や環境の悪化という問題を背負い込むことになる。コムソモリスカヤ・プラウダ紙の紙上でも賛否両論が掲載されていて、最終決定までにはまだ時間がかかるかも知れない。
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日露首脳会談で日本側はロシア側に一方的に押しまくられた!?

2010年11月14日 10時33分59秒 | Weblog
 ロシアのメドベージェフ大統領と菅直人首相との首脳会談が13日、横浜で行われた。14日の日露の報道を比較すると、会談でのやり取りが日露双方でかなり違うようだ。日本側は大統領の北方領土訪問に遺憾の意を表明したが、ロシア側の「北方領土は現在も将来もロシア領だ」との強硬姿勢に押しまくられたというのが本当らしい。

 ロシアのインタファクス通信やコメルサント紙(電子版)によると、菅首相の遺憾の意表明に対し、大統領は「北方領土はロシアの領土であり、今後もそうだ」と反論した。ところが、日本外務省は日本側記者団へのブリーフィングではこの部分に言及せず、さらに「ロシア側の言及はさほど激しくなかった」(日経新聞)と説明したという。日本外務省のブリーフィングは事実を歪曲していると言っても過言ではない。

 さらに、ロシアの報道によると、大統領は菅発言に対し「感情的な発言や外交的なパフォーマンスはやめたほうがいい。なぜなら、問題の解決を助けるどころか、完全に逆効果だ」と批判した。そのうえで大統領は「日露平和条約問題へのアプローチを変えて経済を優先すべきだ」と提案した。これを受け菅首相も二国間関係では経済を優先させることに同意したという。

 ロシア側の報道が本当だとすれば、菅首相はメドベージェフ大統領に言いまくられ、政治と経済をリンクしようという日本側の基本方針を変更し、経済優先のロシア側主張を受け入れてしまったということになる。まさに日本側の完敗である。日本外務省も「これはまずい」と思って日本の記者団には事実を伝えられなかったのだろう。

 大統領は会談の最後に、菅首相をロシアに招待したいと提案したというが、このままの状態で進んだら、北方領土交渉は完全に棚上げされ、ロシア側から経済協力ばかり押し付けられることになりかねない。日本政府はそれでいいのだろうか。今こそ、対露戦略を抜本的に立て直さなければ、北方領土問題だけでなく、対露関係全体が一方的な関係になってしまう。日本政府の猛省を促したい。
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ロシア人スパイ大量逮捕の裏で暗躍した“裏切り者”が判明!?

2010年11月12日 11時26分25秒 | Weblog
 今夏、ロシア人スパイが米国で大量に逮捕され、その後米露政府の話し合いでスパイ交換が成立したが、その裏でロシア情報機関の“裏切り者”が暗躍していたことが明らかになった。ロシアの有力紙コメルサントがスクープしたもので、二重スパイを把握できなかったロシア対外情報局長官の責任問題に発展しそうだ。

 コメルサント紙(電子版)が11日報じた記事によると、ロシアを裏切ったのは対外情報局のシェルバコフ大佐。メドベージェフ大統領が訪米してオバマ大統領と会談した6月24日の3日前に米国へ飛び、ロシアの非合法エージェントのリストを米FBI幹部に手渡したという。それから3日後にロシア人スパイ10人が米側に逮捕された。

 シェルバコフ大佐は対外情報局米国部主任を長く務め、職業を持ちながらスパイ活動を行う非合法エージェントの取りまとめを担当していた。その半面、大佐の娘は「敵国」である米国に長期間住んでいたとされる。また、息子はロシア連邦薬剤監督局に勤務していたが、ロシア人スパイ一斉摘発の直前、米国へ逃走したという。

 実はプーチン首相が事件後、ロシア側に裏切り者がいることをメディアに漏らしていた(7月26日のこのブログを参照してください)。だが、首相はそれ以上言及せず、具体的な事実関係は分からなかった。今回、裏切り者が判明したことから、二重スパイを事前に摘発できなかったフラトコフ長官の責任を追求する声が議会などで強まっている。すでに長官が更迭され、後任にナルイシキン大統領府長官が就任するとのうわさも飛び交っている。だが、対外情報局はこの12月に創立90周年を迎えるため、更迭はこの記念日以降とみられている。

 今回のスパイ大量逮捕事件は、ロシアが今も多数のスパイを外国に派遣し、情報収集活動を行っていることを世界に知らせる結果になった。しかも、二重スパイの存在まで明るみに出て、ロシアはインテリジェンスの世界で恥をさらしたことになる。メドベージェフ大統領はこの「落とし前」をどうつけるのか。KGB出身で、フラトコフ氏を長官に任命したプーチン首相も内心穏やかではないだろう。
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メドベージェフ・ロシア大統領、集会取締法案に拒否権を発動!!

2010年11月08日 10時24分54秒 | Weblog
 日本側の反対を無視して北方領土を訪問し、強硬派のレッテルをおされつつあるメドベージェフ大統領だが、上下院が採択した集会取締法案に6日拒否権を発動した。民主派は「リベラル派の大統領の面目躍如」と歓迎しているが、これも選挙向けのパフォーマンスなのか?

 この法案は、集会やデモ行進の開催に制限を加えようというもので、具体的には①有罪を宣告された個人や政党が集会を組織することを禁じる②地方自治体が集会の開催を許可する前に集会の計画を広く知らせることを禁じる、などと定めている。

 この法案に対し、大統領は「集会、デモ行進、ピケ活動など、憲法で認められた市民の権利を妨げる規定だ」と指摘する覚書を上下院議長に送付した。議会側はこの指摘を受け、法案を修正する作業に入る。

 大統領の拒否権発動について専門家は「市民社会への大統領からのメッセージだ。今後議会で調整が行われ、強硬派とリベラル派の間で妥協を図ることになるだろう」とみている。

 ロシアでは、11年暮れからの「選挙の季節」を前に集会やデモ行進が頻発しており、これを当局が取り締まろうとしてトラブルが相次いでいる。議会側が採択した取締法は、様々な制限を加えることで集会そのものを減らそうという狙いがある。この成立を阻止しようとした大統領の拒否権発動は、強硬派のプーチン首相へのけん制とも受け取れる。この行動が内政にどんな波紋を起こすのか、注目したい。
 
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菅首相、北方領土解決に向け「強い意志を持って交渉」と明言したが…

2010年11月05日 10時32分05秒 | Weblog
 ロシアのメドベージェフ大統領が北方領土の国後島を国家元首として初めて訪問した問題で菅直人首相は4日、国会で「強い意志を持ってロシアとの間で領土問題の解決に向けて交渉を進めてまいりたい」と述べた。心強い言葉だが、言葉だけに終わらないよう見守っていきたい。

 首相の答弁の中で気になるのは、この件で一時帰国した河野雅治駐露大使から、今回の大統領訪問は「ロシア国内的要因が強い」との説明を受けたと述べた点だ。確かに今ロシアでは、次期大統領選を巡ってメドベージェフ大統領とプーチン首相との間で「どちらが立候補するか」が内政の焦点になっている。このため大統領が自分の存在感を示すために北方領土を訪問したという見方があるが、それが主な要因という見方は違うのではないか。

 メドベージェフ、プーチン両陣営が国内向けにパフォーマンスを競い合っている面はあるが、国家にとって重要な外交が絡む問題で、どちらか一方が勝手に行動しているとは思えない。もともと北方領土問題はプーチン首相が大統領時代から関与しており、2島返還を定めた日ソ共同宣言(1956年調印)に基づく解決を容認したのもプーチン首相である。

 大統領が国後島訪問に踏み切ったのは、日本政府高官の最近のロシア側を挑発するような言動に業を煮やしたことは明らかだ。とくに「不法占拠だ」と声高に発言した前原誠司外相や、「1年以内に解決する」と大風呂敷を広げた鳩山前首相が目立つ。領土交渉には長期的な戦略が必要だが、思いつきで発言し、相手の気持ちを逆なですることが多かった。要するに、真摯に交渉し、相手の譲歩を引き出すような姿勢に欠けていたことがロシア側を怒らせたといえよう。

 日本政府としては、相手を責める前に、まず自分の過去の言動を振り返って自問自答すべきだ。ロシアの国内情勢に責任を転嫁しようという態度こそ、改めるべきではないか。そうでなければ、根本的な解決にはならず、また同じ失敗を繰り返すことになる。

 菅首相は国会答弁で、「もう一度しっかり(領土)交渉に取り組む態勢をつくりたい」とも述べている。この発言は、領土交渉の態勢立て直しに言及したもので、大いに議論し、抜本的な見直しをしてほしい。今こそ政府は、この発言をその場限りに終わらせることなく、しっかり態勢を立て直し、対露戦略の見直しをするべき時だ。 
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メドベージェフ露大統領が北方領土訪問に踏み切った理由を分析!

2010年11月01日 09時49分36秒 | Weblog
 ロシアのメドベージェフ大統領は1日、歴代元首として初めて北方領土の国後島を訪問した。日本政府はこれまで「大統領が訪問すれば日露関係に重大な支障が生じる」と警告してきたが、相手を非難するだけでなく、こうした事態を招いた原因を十分検討すべきだろう。

 大統領の北方領土訪問計画は、中露が領土問題で協調する姿勢を打ち出した共同声明(9月27日)の直後に浮上した。だが、ロシア政府が共同声明と平行して検討を重ね、立てた計画というより、大統領あるいは大統領側近が思いつきで考え出した可能性が高い。ということは、ロシア側が北方領土を実効支配していることを内外に示すのが狙いではなく、最近の日本政府の優柔不断さをけん制するのが本当の狙いとみられる。

 ロシア側は、自民党政権下で日露両政府が「現実的解決」を打ち出し、双方が妥協する方向で進んできた領土交渉が、民主党政権になってから一歩も進んでいないことに苛立ちを感じている。とくに早期解決を宣言した鳩山前首相の退陣後、菅内閣が具体的な行動を起こさず、なんらの進展もないことに不満を抱いていることは間違いない。

 なかでもメドベージェフ・プーチン体制が内心怒っているのは、日本側が北方領土が日本の固有の領土であることを定めた「特措法」を成立(09年7月)させて以来、妥協を図るというスタンスを棚上げし、固有の領土という建て前を優先させていることだ。このためロシアの政権内に出ていた領土問題の解決機運が急速にしぼんでいるのが実情だ。

 だがしかし、いま経済協力を活発化させ、極東・シベリア開発に積極的に関与してほしいと望んでいるのは実はロシア側である。ロシア全体の近代化(あるいは現代化)を達成し、資源依存からハイテク国家へ転換するためには日本側の投資が欠かせないからだ。日本側が積極的姿勢を示さないため、仕方なく中国側の協力を求めざるを得ないというのがロシア側の本音だろう。

 いまここで日本側がするべきことは、ロシア側を声高に非難してさらに事態を悪化させることではなく、日露関係の戦略を練り直して首脳外交や経済界の交流を深め、ロシア側の意向を真正面から受け止めることだろう。領土交渉を成功させるには、相手の立場を十分尊重して相手を「その気」にさせることが不可欠だ。その原点に戻らなくては終戦から65年もたった領土問題は動かせない。 
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