飯島一孝ブログ「ゆうらしあ!」

ロシアを中心に旧ソ連・東欧に関するニュースや時事ネタを分かりやすく解説します。国際ニュースは意外と面白い!

スピルバーグ監督の「ブリッジ・オブ・スパイ」を鑑賞して。

2016年02月20日 10時28分45秒 | Weblog

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遅ればせながらハリウッド映画「ブリッジ・オブ・スパイ」を見た。名監督のスピルバーグと名優のトム・ハンクスのコンビによる4作目の歴史もので、いつもながらリアルで説得力ある内容に感動した。と同時に、この映画で描かれている「冷戦」が再び「新冷戦」という表現で現実味を帯びている時だけに、色々考えさせられた。

この映画の舞台となった時代は、第二次大戦後、米ソ2大陣営による冷戦が始まって間もない1950年代から1960年代である。米国でソ連のスパイが逮捕され、その弁護をトム・ハンクス演じるドノバン弁護士が引き受けた。これだけでも勇気のいる仕事だが、さらにそのスパイとソ連に捕えられた米人パイロットを交換する交渉を引き受けたことから、まさに命がけの仕事になった。

折しも、大戦で東西に分断されたドイツで東ドイツ、つまりソ連側がベルリンの壁の建設を始める時期(1961年)にあたっていた。この壁は1989年に崩壊するまで続き、多数のドイツ人が東ドイツから西ドイツに逃げようとして命を落とすことになる。こうした時代に、実際にあった捕虜交換劇を映画化したものだけに、スリル アンド サスペンス満載の映画に仕上がっている。

ストーリーを書くと「ネタバレ」と言われかねないので、この辺でやめるが、米人弁護士とソ連のKGBとみられる大使館員とのやり取り、あるいはソ連と東ドイツの主従関係が明確にわかる会話を聞いていると、きわめて興味深い。冷戦といえば実際に戦闘を行う「熱戦」と違う感じがするが、「冷戦でも戦闘だ」という言葉と、実際に米人弁護士が列車の中からベルリンの壁を越えて逃げようとして射殺される場面を映し、戦争が現実に起きていることを示唆していた。

今まさに、ウクライナやシリアで「紛争」や「空爆」という名の戦争が起きている。今月13日にミュンヘンで開かれた安全保障会議に出席したロシアの元大統領であるメドベージェフ首相が、いみじくも「我々は新たな冷戦に陥っている」と発言している。だが、いまだにウクライナ紛争もシリア内戦も解決できず、多くの人々が犠牲になっているのだ。

スピルバーグ監督は終戦後の1946年生まれのユダヤ系米人である。冷戦時はティーンエイジャーで、「原爆が米国の都市に落とされた映画を見て、とても怖かったのを覚えている」と、映画のプログラムのインタビューに答えている。さらに監督は現代が抱える不安について、こう語っている。
「あの時代、人々はお互いに監視し合っていた。最近は多くの目が光っていて、飛びつくような重要な情報がない時でさえも監視し合っている」

この映画が描いている時代は、いわば冷戦の初期である。そういう意味では、米ソ間にもまだ牧歌的な人間関係が残っていたのではないか。それゆえに、捕虜交換もうまくいったような気がする。現代は電子機器も人間同士の監視もずっとハイレベル化している。それだけに、映画のような事態は起きないのではないか。そういう意味からも、新冷戦の今後を真剣に憂慮すべきだと思うのは私だけだろうか。(この項おわり)
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ロシアとの北方領土交渉で日本側に名案はあるのか?

2016年02月12日 23時27分13秒 | Weblog
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日露両国政府は15日、東京で外務次官級協議を開き、北方領土交渉の今後の段取りについて協議する。今年は奇しくも2島返還を取り決めた日ソ共同宣言(1956年)から満60年になる。安倍晋三首相は領土返還に力を入れており、成功すれば大きな外交得点になるが、ロシア側の厳しい姿勢を覆す策はあるのだろうか。

日露両国は首脳が相手国を交代で訪問することで合意していて、今年は昨年訪日できなかったプーチン大統領が日本に来る番である。そのためには準備が必要で、ロシアのラブロフ外相が今春にも来日し、岸田外相と会談しなければならない。そこで、今後の日程調整と交渉の段取りを決める必要が出てくる。

このところ、ロシア側の外交攻勢が目立ち、この先鋒を務めているのがラブロフ外相である。1月の年頭記者会見では、「(日本との)平和条約の締結は領土問題の解決と同義語ではない」と述べ、北方領土が第二次世界の結果、旧ソ連領になったと強調した。さらに、日ソ共同宣言で2島返還が明記されたことについて「『返還』ではなく、善意による『引き渡し』だ」と主張した。

これは、ロシアの常套手段で、交渉が本格化する前に、相手のハードルをできるだけ高くしておこうという作戦である。ロシアとすれば、共同宣言からビタ一文負けられないという意思表示なのだろう。

一方、4島返還という日本の元々の主張も国際法上、無理な注文であることを理解しておく必要がある。サンフランシスコ平和条約(1951年)で日本は4島のうち、国後、択捉の2島は領有権を放棄している。ロシアもこの点はしっかり把握しており、歯舞、色丹島以外は頑として返還を認めようとしないのである。

両国政府は今、「現実的な解決策を探る」ことで一致しており、2島プラスアルファーのアルファー部分をどうするかが最大の焦点といっても過言ではない。安倍首相も、2島返還を軸に解決しようとしているとの見方が強い。

だが、自民党は戦後長らく4島一括返還をかかげており、2島返還だけでは世論が納得しないだろう。この点、日本政府はどういう決着を考えているのだろうか。「さすが」と納得できる名案を政府に期待したいところだが。(この項おわり)
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