飯島一孝ブログ「ゆうらしあ!」

ロシアを中心に旧ソ連・東欧に関するニュースや時事ネタを分かりやすく解説します。国際ニュースは意外と面白い!

今回の首脳会談を長期的な日露関係を構築するきっかけにすべきだ!

2016年12月17日 11時13分04秒 | Weblog
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プーチン大統領訪日による日露首脳会談は、北方領土での共同経済活動を巡る交渉開始を決めただけで、北方領土問題の交渉そのものは進展がなかった。二階自民党幹事長が述べたように「国民の大半はがっかりしている」に違いない。だが、この結果は長期的に見ると、日露関係を抜本的に見直すチャンスでもある。安倍晋三首相はこの際、日米同盟も含めて日米露の関係見直しを図るべきではないか。

北方領土交渉に前のめりで取り組んだ安倍首相は、日露の共同経済行動受け入れを領土交渉開始の条件とされ、プーチン大統領の術中にはまってしまった。しかも、日本側の主張する、主権棚上げの「特別な制度」による共同活動ではなく、ロシアの主権を認めた上での共同活動という大枠をはめられてしまった。これでは日本側は認められるわけがなく、会談は行き詰ったに違いない。

そもそも北方領土は第二次大戦でソ連軍に占領され、それ以来、旧ソ連・ロシアの実効支配を受けてきた。戦争で奪われたものを平時の交渉で取り返すには、日本側が譲歩せざるを得ないのは明らかである。そこで、プーチン政権が日本側の足元を見て、共同経済活動を領土交渉開始の条件として要求してきたのである。これでは、安倍政権としてもこの条件を飲まざるを得ないのは当然である。

ここで問題になるのは、主権の扱いである。日露双方とも主権問題では簡単に折れるわけにはいかない。そこで安倍政権は主権を棚上げした「特別な制度」を提案したが、これも北方領土を実効支配しているロシアとしては譲れないところである。今後、この問題の交渉を両国間で行う事になったが、対症療法的な解決策では治らないだろう。これを機会に、安倍政権はロシアとの関係を拡大し、対米、対中との関係に劣らない積極的な関係に改めるべきである。

もう一つの問題は、平和条約交渉の際、プーチン大統領が安全保障問題を絡める意向を示唆した事である。ロシアにとって、北方領土があるオホーツク海周辺は核弾頭搭載の原潜を配備した安保戦略上、重要な地域である。北方四島のうち、1島でも日本に返還すれば、ロシアの安保戦略に変化が生じかねない。日米同盟が厳然として存在すれば、日本に島を返還すれば、そこに米軍の基地ができる可能性を排除しないからだ。

安倍政権は今後、この問題にどう向き合っていくのか。領土返還交渉を本気で行うなら、この問題で米新政権と協議する必要がある。場合によっては日米同盟自体の見直しにつながるかもしれない。安倍政権の本気度が問われる問題である。一方、米国のトランプ新大統領は「日本の安保ただ乗り論」を主張した経緯があり、日米同盟の見直しにより、逆に日本側が相当な対価を払う羽目になる可能性もある。

今回の日露首脳会談の結果、北方領土問題は日露間の問題にとどまらず、米国、さらには中国をも巻き込んだ国際問題に発展しかねない事態となりつつある。この際、安倍政権は対米従属の日米同盟を改め、独自性を持った外交ができるようにすべきだろう。そうでない限り、ロシアは日本を自立した独立国と認めず、本格的な領土交渉に乗ってこない恐れがある。そこまでやる気がなければ、安倍首相が考えている任期中の領土問題の解決は望めないだろう。(この項終わり)
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ソ連崩壊から四半世紀。変わらぬロシアとどう向き合うべきか?

2016年12月10日 09時52分59秒 | Weblog

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かつて米国から「悪の大国」と言われたソ連が1991年暮れに崩壊してから早四半世紀が立つ。この間、新生ロシアは市場経済に移行し、民主制度を構築したものの、ソ連時代の大国体質が時折顔を出し、西側諸国の反発を買っている。隣国である日本は、この国とどう付き合えばいいのだろうか。

筆者はソ連崩壊時、モスクワに駐在し社会主義大国・ソ連の落日をつぶさに観察した。人類初の社会主義大国は国民の支持を失い、統制経済が立ち行かなくなると、倒れるのはあっという間だった。70年余続いた共産党の支部から党員が次々姿を消し、幹部連中は国有財産をタダ同然で掠め取ったのだ。

ソ連崩壊の直前には国営商店の棚から商品が消え去り、我々外国人は外貨ショップで買うしかなかった。だが、ロシアの庶民はどっこい、生き残った。労働者は組合間の物資横流しで融通し合い、年金生活者は菜園付き簡易別荘(ダーチャ)で食いつないだ。外国人には餓死者が出ないのは不思議だったが、2度の世界大戦を乗り切った庶民の知恵は偉大だった。

市場経済への移行は早かった。ソ連崩壊のショックも癒えぬ翌年の正月3日には統制価格をほぼ一斉に自由化した。その途端、国営商店に商品が出回り始め、価格が一気に値上がりした。この悪名高きショック療法で庶民の暮らしはたちまち苦しくなり、社会が大混乱した。そのスキに乗じてマフィアが跋扈し、一時無法社会に陥った。

この混乱の中でも、社会に押し流されず、抵抗した庶民が少なくなかった。筆者が目撃したのは、泥酔した男がパン屋に入っていき、店員を怒鳴りつけ、オタオタしている間にパンを持ち逃げした光景だ。筆者はすぐ通りに出てみたが、顔の赤い男の姿は見えなかった。見えたのは、奥さんらしき女性と談笑しながら歩いている中年の男だけだった。その男が酔ったふりをしてパンを盗んだのは明らかだった。「さすが、役者が多い国だな」と感心したのを覚えている。

ロシアには大昔から近隣国家に支配され、痛めつけられた歴史がある。日本のような島国と違って、平原の国家の宿命かもしれない。中でも、ジンギスカンの末裔に約200年間も支配された「タタールのくびき」はロシア社会に大きな爪痕を残したが、外国人の抑圧をいかに最小化するかを身を以て体験したとも言える。こうしてロシア人は苦難を耐え抜くことと、抑圧から逃れるすべを学んだのである。今日本が直面しているのは、こうしたタフなロシア国民とどう向き合うのかという難題である。

プーチン大統領の訪日が決まった時には、北方領土をめぐる交渉への楽観論がにぎわったが、トランプ氏が米大統領選に勝利した頃から風向きが変わってきた。プーチン大統領を始め、ロシア高官は揃って日本への態度をトーンダウンさせている。今では北方領土での共同経済開発しか解決の道がないような雰囲気になっている。だが、交渉上手なロシア人に騙されてはいけない。これも、いかに交渉を有利に運ぶかの作戦の一つに違いない。

筆者の数少ない体験からしても、ロシアほど先が見えない国はない。逆にいうと、予想をしても結果的に間違うことが多かった。ロシアはまさに「予想できない国」である。と言って、要求を下げては相手の思うツボである。あくまで要求を貫き、主張すべきである。そうすれば、さすがのロシアも、根負けしてこちらの要求を受け入れるかもしれない。今まさに我々は、タフなネゴーシエイターを相手にしていることを自覚すべきだと思う。(この項終わり)


 
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