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ウクライナ南部・クリミア半島のロシア編入問題で日本政府は米欧と共同歩調を取り、岸田文雄外相の4月訪露中止を決めるなど、北方領土交渉に影響が出つつある。これに対し、ロシア外交筋は「クリミア半島と北方領土とは事情が異なる」として、領土交渉がメーンテーマとなるプーチン大統領の今秋訪日に向け、予定通り準備を続ける方針だ。このため、今秋の大統領訪日が実現するか否かは、日本政府が独自外交を行えるかどうかにかかってきた。
プーチン大統領は18日の演説で、クリミア半島をロシアに編入する理由として①クリミアが国民の意識の中では常にロシアの不可分の一部だった②クリミア半島の住民だけでなく、国民の大多数が編入を支持している、の2点をあげている。ただ、クリミア半島がロシア固有の領土かどうかについては「国民も多くの社会活動家も何度となく、クリミアがロシア固有の領土であると言ってきた」と述べるに止め、固有の領土とは決めつけていない。
この演説を受けてロシア外交筋は、北方領土交渉への影響について「クリミア半島は民族自決の問題だったので、北方領土問題とは事情が違う。今回の問題でプーチン大統領の支持率が上がっているので、むしろ日本(の領土交渉)にとって有利になるのではないか」と語っている。クリミヤ半島編入後、プーチン大統領の支持率は2008年のグルジア戦争以来の80%台に急上昇している。
ロシア政治に詳しい下斗米伸夫・法大教授は、プーチン大統領が「ロシア固有の領土を取り戻した」という趣旨の発言をしたことから「必ずしも固有でない北方領土を手放してもナショナリストから批判される理由がなくなる。その意味では、プーチン氏は日本とのカードを切りやすくなった。チャンスは来つつある」と述べている。
一方、元外務省主任分析官の佐藤優氏は「ロシアはクリミアのロシア系住民の保護を名目に軍事介入し、クリミア半島を編入している。仮に安倍政権とプーチン政権との間で北方領土問題が解決したとしても、同様にロシア系住民の保護を名目に介入されたら、なんの意味もない」として、今回の編入問題で北方領土交渉は白紙に戻るとみている。
問題は日本政府がロシアへの制裁を続ける米欧諸国と、どこまで共同歩調を取るかだ。日本が共同歩調をとっている理由は、日米同盟と欧州との協力関係を保つためと、尖閣諸島の領有権争いをしている中国へのけん制のためである。その重要性は認めるが、いつまでもそれに固執していては、プーチン大統領の今秋訪日という最大の好機を逃すことになる。安倍政権は集団的自衛権問題に力を注ぐより、今こそ戦後処理の問題解決に専念すべきではないか。(この項おわり)