飯島一孝ブログ「ゆうらしあ!」

ロシアを中心に旧ソ連・東欧に関するニュースや時事ネタを分かりやすく解説します。国際ニュースは意外と面白い!

クリミア半島編入は北方領土交渉に有利になる!

2014年03月31日 01時15分29秒 | Weblog
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   ウクライナ南部・クリミア半島のロシア編入問題で日本政府は米欧と共同歩調を取り、岸田文雄外相の4月訪露中止を決めるなど、北方領土交渉に影響が出つつある。これに対し、ロシア外交筋は「クリミア半島と北方領土とは事情が異なる」として、領土交渉がメーンテーマとなるプーチン大統領の今秋訪日に向け、予定通り準備を続ける方針だ。このため、今秋の大統領訪日が実現するか否かは、日本政府が独自外交を行えるかどうかにかかってきた。

   プーチン大統領は18日の演説で、クリミア半島をロシアに編入する理由として①クリミアが国民の意識の中では常にロシアの不可分の一部だった②クリミア半島の住民だけでなく、国民の大多数が編入を支持している、の2点をあげている。ただ、クリミア半島がロシア固有の領土かどうかについては「国民も多くの社会活動家も何度となく、クリミアがロシア固有の領土であると言ってきた」と述べるに止め、固有の領土とは決めつけていない。

   この演説を受けてロシア外交筋は、北方領土交渉への影響について「クリミア半島は民族自決の問題だったので、北方領土問題とは事情が違う。今回の問題でプーチン大統領の支持率が上がっているので、むしろ日本(の領土交渉)にとって有利になるのではないか」と語っている。クリミヤ半島編入後、プーチン大統領の支持率は2008年のグルジア戦争以来の80%台に急上昇している。

   ロシア政治に詳しい下斗米伸夫・法大教授は、プーチン大統領が「ロシア固有の領土を取り戻した」という趣旨の発言をしたことから「必ずしも固有でない北方領土を手放してもナショナリストから批判される理由がなくなる。その意味では、プーチン氏は日本とのカードを切りやすくなった。チャンスは来つつある」と述べている。

   一方、元外務省主任分析官の佐藤優氏は「ロシアはクリミアのロシア系住民の保護を名目に軍事介入し、クリミア半島を編入している。仮に安倍政権とプーチン政権との間で北方領土問題が解決したとしても、同様にロシア系住民の保護を名目に介入されたら、なんの意味もない」として、今回の編入問題で北方領土交渉は白紙に戻るとみている。

   問題は日本政府がロシアへの制裁を続ける米欧諸国と、どこまで共同歩調を取るかだ。日本が共同歩調をとっている理由は、日米同盟と欧州との協力関係を保つためと、尖閣諸島の領有権争いをしている中国へのけん制のためである。その重要性は認めるが、いつまでもそれに固執していては、プーチン大統領の今秋訪日という最大の好機を逃すことになる。安倍政権は集団的自衛権問題に力を注ぐより、今こそ戦後処理の問題解決に専念すべきではないか。(この項おわり)


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戦い済んで…ウクライナの真の自立が試される!

2014年03月27日 10時54分56秒 | Weblog
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   EUとの統合をめぐる内紛からクリミヤ半島のロシア編入に至ったウクライナは、今後独立国家として真に自立できるかどうかの正念場を迎える。当面は5月25日の繰り上げ大統領選に向けて、憲法改正などの新たな国づくりをいかに進めていくかが焦点となる。

   ウクライナは元々ロシア語で「辺境」を意味するが、中世にここを支配したポーランドやリトアニアからみて辺境に位置していたからだ。ロシア帝国に編入されてからは「小ロシア」と呼ばれ、ソ連が成立すると文字通り、ロシアの弟分とみなされてきた。ソ連が崩壊して初めて自分たちの国を持てたのである。

   ウクライナはソ連から独立して23年目に入るが、この間、欧州とロシアの狭間でずっと揺れ続けてきた。昨年末からの政治危機はこの決着をつけるための“産みの苦しみ”といってもいいだろう。クリミヤ半島をロシアに奪われるという結果に終わったが、ロシアとの間でけじめをつけて真の独立国として再出発するいいチャンスともいえよう。

   ウクライナで仕事をした経験のある友人らに聞くと、ウクライナ人の優柔不断さを指摘する声が多い。つきあってみると人はいいが、物事をはっきり言わない、約束をしても守らない、などという声が少なくない。こういう性格が国家を運営する際にも出てくるのではないだろうか。

   もう一つ指摘されているのは、政府の幹部や要人に自分の利害に執着する人物が多いことだ。昨年暮れからの反政府デモでも、政府幹部らの汚職体質がやり玉に上がった。これはウクライナに限らないが、国家を運営する人々の志の低さも理由の一つかも知れない。

   ウクライナ新政権は、EUへの統合の一歩になる連合協定の政治部分についてEU側と調印を交わした。さらに、旧ソ連諸国で構成する独立国家共同体(CIS)から脱退することも決めた。いよいよ独り立ちして国家を再生させていくことになるが、この難事業をやり通せるかどうかが問われる。

   筆者も特派員時代の90年代にウクライナを何度も訪れ、政府要人ばかりでなく、若者たちとも話したが、みな進取の気性に富み、口々に新生国家への夢を話してくれた。こういう人たちが今、国家の中枢に入り、真の国づくりに励んでいるに違いない。フランスと同じくらいの面積と人口を持つウクライナの今後の再生に期待したい。(この項おわり)

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ウクライナ紛争は北方領土交渉にどう影響するのか?

2014年03月21日 16時26分16秒 | Weblog
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   ロシアは欧米諸国の厳しい批判を無視して、ウクライナ南部・クリミヤ半島を自国領に編入した。今回の紛争でロシアは第二次大戦後の世界の枠組みを一方的に崩したわけだが、これが許されるなら領土交渉は無意味になるとの見方もある。この紛争が今後の北方領土交渉にどう影響を考えてみたい。

   この紛争が起きた際、北方領土交渉に詳しい元外務省主任分析官、佐藤優氏は毎日新聞の取材にこう答えている。
「 ロシアがクリミヤに介入しているのは、クリミヤのロシア系住民の保護が名目です。その論理に従ってクリミヤがロシアに編入されるなら、仮に安倍政権とプーチン政権との間で北方領土問題が『解決』したとしてもなんの意味もないことになる。なぜなら、ロシア系住民がロシア政府に『日本のやり方に不満がある』と訴えた場合、ロシアは住民保護を名目に軍を介入させてくると見なければならないからです」

   つまり、国際法などを無視して領土を拡大させる国とは、どんな約束を交わしても履行される保証がないからだという。確かに、ロシアがクリミヤ編入を決めた後では北方領土交渉そのものが無意味になってしまうという考え方も一理ある。

   その一方、下斗米伸夫・法大教授(ロシア政治)は、プーチン大統領がクリミヤ編入を決めた会見で「ロシアの固有の領土」を取り戻したと言ったことを重視し、「必ずしも固有でない北方領土を手放してもナショナリストから批判される理由がなくなる。その意味では、プーチン氏は日本とのカードを切りやすくなった」と語り、むしろ好機だとみている。(21日付け毎日朝刊「ロシア、クリミヤ編入表明緊急座談会」)

   これに対し、黒川祐次・日大教授(国際政治)は「今の状態が続いていたら、(プーチン氏招請で)欧米にどういうメッセージを与えるのかを考えれば、招くのは難しい」と述べている。プーチン大統領は今秋来日することが決まっているが、黒川教授は今回の紛争で来日が危うくなる可能性を示唆している。

   安倍政権はプーチン大統領との今秋の首脳会談を「北方領土解決への重要な会談」とみなし、今回の紛争が北方領土問題に悪影響を与えないよう苦慮している。今のところ、米欧などと共同歩調を取りながらも、決定的に対立しないよう配慮しているが、今後の情勢によっては来日延期ということにもなりかねない。

   この座談会で宮家邦彦キヤノングローバル戦略研究所研究主幹は「日本が本当にプーチン大統領との関係を重視し始めれば、米国にとっては頭痛の種になる可能性はある」と述べている。米露関係がさらに悪化すると、日本が日米同盟か日露関係かのどちらかを選ばざるを得ない展開もあるということだろう。

   プーチン政権が今後、北方領土問題にどう対応するのか見えてこないが、クリミヤの編入を決めたことでロシア国民のナショナリズムが最高潮に達しているだけに、領土交渉は一層難しくなるだろう。いずれにしろ、日本政府は今後の情勢を注視するとともに、日本の国益を慎重に判断しながら行動せざるを得ない。まさに日本の外交力が問われる局面だ。(この項おわり)

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プーチン大統領、クリミヤ半島のロシア編入に踏み切る!

2014年03月18日 22時13分43秒 | Weblog

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   ウクライナ南部・クリミヤ半島の帰属をめぐりロシアと欧米が対立していた問題で、プーチン大統領は18日、ついにロシアへの編入に踏み切った。ロシアは欧米全体を敵に回しながらも国益優先を貫いたことになり、これを阻めなかった欧米側の無力さが露呈されたともいえる。

   プーチン大統領の元々の狙いは、親欧米に舵を切ったウクライナ新政権の阻止にあったと思われる。欧州との一体化が進めば、大統領が目指す“ロシア版EU”の「ユーラシア同盟」が破綻するからだ。このため大統領はロシア系住民が多いクリミヤ半島の自治権拡大をテコにしようと考えたのだろう。

   大統領は18日の演説で、クリミヤをロシアに編入した理由として①クリミヤはロシア固有の領土②ウクライナは強制的な同化政策をとっている③クリミヤの人々の9割以上がロシアへの編入を希望している、などをあげた。

   さらに、大統領は欧米がクリミヤのロシア編入を「国際法違反だ」と断罪していることに対し、セルビアからの独立を宣言したコソボと完全に同じだと指摘。「コソボのアルバニア人には許されたのに、なぜロシア人には許されないのか」と強く反論した。

   旧ユーゴの内戦でセルビアの自治州だったコソボは、セルビア側による虐殺を主張、これを受けてNATO軍が1999年、ロシアの反対を押し切ってセルビアを空爆した。その後、コソボは2008年に独立を宣言、これを欧米がそろって承認した経緯がある。これに対し、ロシアはクリミヤのロシア編入を批判する欧米諸国に対し「ダブルスタンダード(二重基準)だ」と反論してきた。NATO軍の空爆当時、首相だったプーチン大統領は、欧米の「横暴」にホゾをかんだだけに、その報復との思いが強いに違いない。

   プーチン大統領が今回強硬姿勢を貫いたのは、オバマ米政権の弱腰が見えていた上、欧米側も経済問題でロシアに強い態度をとれないことが分かっていたからだ。すでにロシアは西側の経済に深く結びついていて、経済制裁に及んでも効果を十分発揮できない状態にあった。

   大統領は常々、ソ連崩壊後の90年代を「屈辱の時代」と表現し、欧米と対等な関係構築を目指している。今回のウクライナ問題は、それを実現する好機だとみて思い切って強気の行動に出たのだろう。欧米側の敗北は否めず、プーチン大統領がシリアに続いて外交的勝利を挙げたと言っても過言ではない。(この項おわり)
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モスクワでロシアのクリミヤ編入巡り賛成・反対両派が集会・デモ!

2014年03月16日 15時53分17秒 | Weblog
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   ウクライナ南部・クリミヤ自治共和国のロシア編入を巡る住民投票前日の15日、モスクワでプーチン政権の対ウクライナ政策反対派と賛成派の集会・デモが行われた。警察の発表では、双方合わせて約1万8000人が参加したが、大きな混乱はなかった。

   ロシアのインタファクス通信によると、反対派のデモには約3000人が参加し、プーシキン広場からサハロフ通りまで行進した(「独立新聞」は写真などから少なくとも3万人は参加し、過去2年間で最大の集会になったと書いている)。野党の「ヤブロコ」などリベラル派の参加が多く、「平和の行進」と銘打ってクリミヤのロシア編入反対などを叫びながら行進した。

   サハロフ通りの集会では、ネムツォフ元第一副首相、反プーチン運動の指導者の1人、ヤーシン氏らが演説、プーチン政権のウクライナへの強硬姿勢を批判した。その後、①政権のウクライナ政策に反対する②隣国の問題に干渉しないよう要請する、などの決議を満場一致で採択した。デモ行進の際、ナチスの旗などを所持していた数人が拘束された。

   一方、プーチン政権支持派のデモには、与党「統一ロシア」や「ロシア将校運動」のメンバーら約1万5000人が参加、地下鉄トループナヤ駅から革命広場まで行進した。クリミヤのロシア編入を支持するとともに、「ウクライナの新政権にはネオ・ナチ主義者が加わっている」として新政権反対を主張した。

   プーチン政権のウクライナ政策を巡って賛成・反対派がそろってモスクワで集会・デモを行うのは珍しい。クリミヤでロシア編入の是非を問う住民投票が強行され、最悪の場合はスラブ民族同士が血を流し合う内戦に発展する恐れもあるからだ。これまで冷静な外交を続けてきたプーチン大統領が、このまま軍事衝突に向かって暴走するとは思いたくない。最後まで平和的解決を目指し、賢明な判断をするよう期待したい。(この項目おわり)

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ロシア野党、プーチン政権のウクライナ政策に反旗翻す!

2014年03月14日 18時35分44秒 | Weblog

   ロシアのプーチン政権はウクライナとの紛争で強硬姿勢を変えず、クリミヤのロシア編入を巡る住民投票(16日)をきっかけに内戦が始まるとの見方も出ている。こうした中、ロシア野党はプーチン政権の対ウクライナ政策に反対する集会・デモを15日、モスクワで開くことを決めた。野党側は5万人規模の参加者を見込んでいるが、参加者が予想を上回れば政権側に痛手となる可能性もある。

   14日付けのロシア紙「独立新聞」によると、この集会には野党「ヤブロコ」などリベラル派の政党や団体が多数参加する。さらに、ウクライナの首都キエフの独立広場で反政府デモを続けた旧ウクライナ野党幹部らも参加する予定。

   主催者側は約5万人の参加を計画している。15日午後1時に地下鉄チェーホフスカヤ駅出口に集合し、環状道路をサハロフ通りまでデモ行進し、そこで集会を開く。集会ではヤブロコのミトローヒン党首やネムツォフ元第一副首相らが演説する。中道派政党「市民プラットホーム」のプロホロワ代表も参加する予定。

   ネムツォフ元第一副首相は「ロシア社会はクリミヤ半島の政策をめぐって、多数派のプーチン政権支持者と少数派のウクライナ支持者とに分かれている」と、国論が二分されている状況を指摘。また、グドゥコフ元下院議員は「今多くの国民はクリミヤ編入をめぐって興奮状態にあるが、ソ連末期のアフガン侵攻がどのような結末を迎えたかをよく考えるべきだ」と警鐘を鳴らしている。

   世論調査機関レバダ・センターの最新の調査結果によると、クリミヤ半島へのロシア軍導入を支持する人は21%にとどまり、ロシアとウクライナの軍事衝突を心配している人が83%にのぼっているという。

   政治専門家グループのカラチェフ代表は今の世論状況について「国家が管理するテレビによる宣伝効果で大半の国民は政権側を支持しているが、正確な情報を得ている人は少ない。野党側が一般国民によく説明すれば、集会参加者は10万人以上に膨れ上がり、政権側の政策を変更できるかもしれない」と分析している。

   ロシアの野党勢力はこれまでウクライナ問題で積極的な行動を取ってこなかったが、内戦の可能性が出てきたため、危機感を感じてプーチン政権の対ウクライナ政策に反旗を翻すことを決めた。集会・デモの参加者が予想を大幅に上回れば、プーチン政権の強硬姿勢を変えられるかもしれない。(この項おわり)


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プーチン大統領はクリミヤ編入を望んでいない?

2014年03月08日 15時11分05秒 | Weblog

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   ロシアとウクライナの紛争は、クリミヤ半島のロシア編入に焦点が当てられているが、プーチン政権の狙いはロシア系住民の権利保護にあり、クリミヤ編入を望んでいないとの見方が出ている。確かにプーチン大統領は4日の会見でもそう語っているが、本心なのだろうか。

   この説を説いているのは、政治学者のセルゲイ・マルコフ氏。ロシアの英字紙モスコー・タイムズ(6日電子版)に「なぜウクライナで戦争が起きるのか」とのタイトルの一文を寄稿し「今緊急な問題はクリミヤではなく、ウクライナにいるロシア語を話す人々の権利を暴力や差別から守ることだ」と主張している。

   マカロフ氏は、プーチン政権がウクライナの今後を次のようにみていると説明する。それによると、ウクライナ新政権にはネオナチなどのメンバーが含まれ、繰り上げ大統領選(5月25日実施)を操作して、グルジアのサーカシビリ元大統領のような指導者を当選させる。「ウクライナのサーカシビリ」は、ロシア語話者に対する抑圧的キャンペーンを行ってロシア恐怖症を浸透させ、黒海艦隊をクリミヤ半島から立ち退かせる。

   そうすれば、ウクライナは容易に過激な反ロシア国家となり、政権転覆活動を正当化する口実になる。そして、ロシアに兵隊を派遣して地方の分離主義者とカフカスなどの反乱分子を結びつける。最終的にはプーチン大統領を退陣させ、欧米の傀儡政権を樹立する計画だという。

   こうしたウクライナの新政権による陰謀を防ぐため、マカロフ氏は①キエフに全政党からなる連立政権を樹立②ロシア語話者の地位を保証する民主憲法の成立③大統領選、議会選の早期実施、を実現するよう提案している。

   マカロフ氏はさらに、公式統計ではウクライナのロシア系住民は16%とされているが、実際は25%にのぼると指摘。また、最新の世論調査などから国民の75%がロシア語を話していると分析している。つまり、少数の人々が多数のロシア語話者に対し、自分たちの意思を押し付けていると結論づけている。

   以上のことからマカロフ氏は、ロシアがクリミヤ半島を編入する意思はないが、同時にロシア恐怖症の人々やナオナチ主義者がクリミヤ、ハリコフ、ドニエツクの人々を押さえ込むのを受け入れるつもりはない、と断言している。

   マカロフ氏はプーチン大統領に近く、大統領の考えを反映しているとみられる。大統領もクリミヤ編入は「考えていない」と述べつつ、「(クリミヤの将来は)住民自身が決定できる」と編入を容認する構えだ。

   こうした見方がプーチン政権の方針と一致するかどうかははっきりしないが、政権側がクリミヤだけを想定して米欧に対抗しているとは思えない。ウクライナをロシア陣営に引き止め、さらにはEUのロシア版ともいえる「ユーラシア同盟」を視野に入れていることは確かだろう。(この項おわり)
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プーチン大統領、ウクライナ危機で米欧側の制裁圧力に強気の姿勢崩さず!

2014年03月05日 11時27分57秒 | Weblog

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   プーチン大統領は4日、ウクライナの政変後、初めて記者会見し、クリミヤ半島への軍事介入を否定したが、クリミヤを事実上制圧したことは認めた。今後の対応によってはロシア軍が軍事介入する可能性を示唆し、米欧側の制裁圧力に屈しないとの強気の姿勢を示した。

   大統領はクリミヤ半島情勢が緊迫化して以来、沈黙を守っており、様々な憶測を呼んでいた。だが、モスクワ郊外の大統領別邸に内外の報道陣数十人を招いて開いた記者会見ではいつもの強気の姿勢を崩さず、自ら情勢をコントロールしているとの自信を見せた。

   この裏には、08年のグルジア戦争や最近のシリア内戦で米欧の圧力を跳ね除け、独自外交を成功させてきた「実績」が垣間見える。ロシア紙「独立新聞」(3日付け電子版)の記事などを総合すると、今回のウクライナ政変の舞台裏は以下のようだったとみられる。

   昨年11月、ウクライナのヤヌコビッチ大統領(当時)がEUへの統合の一歩となる「連合協定」への調印を延期。その後、ソチに滞在中のプーチン大統領を訪問してロシアから経済支援を取り付けた。ロシアにとって、ヤヌコビッチ政権がEUからロシアに軸足を戻した瞬間だった。このため、ロシア政府幹部は「プーチンが(EUを)出し抜いた」と快哉を叫んだという。

   シリアの化学兵器廃棄合意に続く外交の勝利に自信を深めたプーチン大統領は、外交責任者全員を呼んで「ウクライナ問題は私自身が取り仕切るので、今後は干渉しないように」と言い渡した。その後、ウクライナで反政府デモが激化し、ヤヌコビッチ氏は大統領職を追われたが、プーチン大統領はその間、ソチ五輪に専念していたため、打つ手がなかった。

   だが、大統領がつきっきりで面倒を見たソチ五輪は、心配されたテロの脅威を跳ね除けたうえ、ロシアは金メダル獲得数でもトップの成績をあげ、五輪は大成功に終わった。そこで大統領はウクライナ問題に再度専念し、クリミヤ半島にある黒海艦隊を切り札に使い、策略を実行に移したという。

   独立新聞のレチュコフ専門編集委員は「ソチ五輪の成功により、ロシアは強く、進歩的で技術力がある国として国際社会に戻ってきた。こうした高揚感の中で、プーチン大統領は今回も米国人やフランス人のようにやれるということを示した」と述べている。

   プーチン大統領はグルジア戦争当時と同様に、米国や欧州諸国に体を張ってでもウクライナを守ろうという雰囲気がないことを見越して強気な姿勢を取り続けていることは間違いない。これに対し、米欧側がどういう手を打ってくるのか。このままでは、ロシアが国益を盾に傍若無人な態度をとり続ける恐れがある。(この項おわり)
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ロシア国民の大半がウクライナでの軍事衝突回避を望んでいる!

2014年03月03日 12時00分22秒 | Weblog
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   プーチン大統領が1日、上院にロシア軍のウクライナ派遣を提案し上院が承認したため、軍事衝突の懸念が高まっている。だが、ロシア国民の3人に1人はウクライナに親戚や知人がいることから、世論調査機関関係者は国民の大半は軍事衝突を避け、話し合い解決を望んでいるとみている。

   3日付けのロシア紙「独立新聞」(電子版)は、世論調査機関レバダセンターの最新の調査結果を掲載。ウクライナの政治危機について「クーデターの試み」と答えた人が47%、「内戦が始まった」と見ている人が23%、「民衆の反乱」と見る人が7%だった。また、今回の事態に至った原因について「ウクライナ社会でナショナリズムが高まったため」と答えた人が32%、「ヤヌコビッチ前政権の腐敗体質にある」と見る人は17%だった。

   さらに、ウクライナ野党の激しいデモ攻勢を評価している人は20%以下で、63%が「イライラさせられた」「不快だ」と答えている。ただ、ウクライナに親戚や知人がいる人が多く、15%が「今後どうなるか心配だ」と答えている。

   この結果からグラジダンキン・レバダセンター副所長は「ロシア国民の多くは、軍事衝突を回避するべく、話し合いによる解決を期待している。そのため、ウクライナが今後法律を制定する際には、ロシア系住民に十分配慮するよう望んでいる」と分析している。

   また、別の世論調査機関「社会基金」の調査結果によると、ウクライナの紛争に関し、野党よりもヤヌコビッチ前大統領を支持する人が多かった。その一方、ウクライナに親戚や知人のいる人が多く、その人たちはヤヌコビッチ前大統領を支持するか、誰も支持しないという人が多かったという。

   一方、カーネギー財団モスクワセンターのマラシェンコ上級研究員は「プーチン大統領も欧米との間で共通の考えを探したいと望んでいる。大統領としても、ウクライナとクリミヤ半島がロシアの利害にとって最も重要な地域であることを欧米に理解して欲しいからだ」と語り、双方とも妥協が可能との見方を示した。

   今回の事態についてプーチン大統領が何を考えているのか、はっきりしないが、本人も本格的な軍事介入が得策とは思っていないだろう。ただ、オバマ米政権が内政重視に傾き、外交・安保に消極的な姿勢をとっていることから、強硬策にどう対応するか試しているのかもしれない。プーチン大統領報道官が再三述べているように「(軍事介入の)最終決定はまだしていない」のなら、軍事介入は是非とも思いとどまって欲しい。(この項おわり)

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プーチン大統領はクリミヤ半島のロシア帰属化を狙っている?

2014年03月01日 15時42分07秒 | Weblog
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ウクライナの政治危機は、親ロシア派のヤヌコビッチ政権が崩壊、野党主導による新政権が発足したことから、ロシア系住民が多いクリミヤ半島の分離・独立問題に焦点が移ってきた。クリミヤのロシア系住民はロシアとの統合を求めており、プーチン大統領もクリミヤのロシア帰属化を狙っているとの見方が出ている。

クリミヤは黒海に突き出た半島で、古くからロシア人の保養地として知られている。新潟県と長野県を合わせた地域に、約200万人が住んでいるが、その6割はロシア系住民だ。元々はオスマン・トルコ帝国の勢力下にあったが、18世紀後半に帝政ロシアが自国領に組み込み、黒海艦隊を編成した。

ソ連になってから、スターリン批判で知られるフルシチョフ共産党書記長がクリミヤ半島をロシア共和国からウクライナ共和国に編入した。第2次大戦で荒廃したウクライナにテコ入れするためといわれている。ところが、ソ連崩壊でウクライナが独立すると、少数派のロシア系住民による独立運動が激化し、一時は地方議会が独立を宣言する事態に発展した。

もうひとつの火種は、旧ソ連の黒海艦隊がクリミヤ半島に駐留していることだ。ロシアはウクライナから艦隊の母港、セバストポリ軍港を期限付きで借りていて、ヤヌコビッチ政権になってから42年まで25年間の租借期間延長で合意している。

今回の政治危機で親欧米派のウクライナ新政権が成立したことから、クリミヤのロシア系住民の間で新政権への不信感が高まり、再び分離・独立の動きが強まっている。地方議会はウクライナ大統領選の繰り上げ投票が行われる5月25日にクリミヤの地位に関する住民投票の実施を決めた(その後3月30日に繰り上げ)。

ロシアの中立系独立新聞は28日付けの電子版で、「プーチンのクリミヤ計画」と題する記事を掲載し、住民投票で分離・独立支持派が多数を占めるのを契機に、クリミヤ半島をロシア領に組み入れる計画を進めていると伝えている。

また、ロシア下院でも、プーチン大統領支持の公正ロシア党が住民投票の結果により国際条約抜きで外国の一部を自国領とする法案を提出した。これはクリミヤを想定して作成した法案で、プーチン政権と意見調整して提出したとみられている。

プーチン政権は08年8月のグルジア戦争でも、ロシア系住民の保護を理由にグルジア領に軍隊を導入、首都トビリシ近くまで攻め込んだ経緯がある。今回もクリミヤの独立問題を巡って、ロシアとウクライナとの軍事衝突が懸念されている。米国や欧州諸国が軍事衝突回避のため積極的に動かなければ、グルジア戦争の二の舞となりかねない情勢だ。(この項おわり)
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