飯島一孝ブログ「ゆうらしあ!」

ロシアを中心に旧ソ連・東欧に関するニュースや時事ネタを分かりやすく解説します。国際ニュースは意外と面白い!

ロシアの「報道の自由度」はアフリカのガンビア共和国並み!?

2010年04月30日 10時53分53秒 | Weblog
 国際人権擁護団体「フリーダム・ハウス」が29日発表した「報道の自由2010報告」で、ロシアは196ヵ国中、175位にランクされた。昨年より順番が一つ下がり、アフリカのガンビア共和国と同じレベルという。

 30日付けのロシアの有力紙コメルサント(電子版)は「ロシアの報道機関はガンビアと同じ条件で働いている」との見出しで報道の自由度の低さを伝えている。ガンビアはアフリカ西部にあり、軍政から民政に移管された国だ。また、この報告書の中で「ロシアは中国やベネズエラと同様に、今のところ比較的自由なインターネットを絶えず脅かしている」と警告していることを強調している。

 この人権擁護団体は1941年に創設され、米国政府などがスポンサーになっている。この報告書は1980年から毎年出され、世界の言論の自由度の指標として評価されている。同報告書によると、報道の自由のある国に住んでいる人々は世界中で6人に1人の割合だという。最も自由度の少ない国は、ミャンマー、キューバ、イラン、リビア、北朝鮮とされる。

 ロシアについて同報告書は「ジャーナリストの仕事にとって極めて困難な条件の国であり続けている。迫害の対象になったり、さらには殺害の恐れもあるため、ジャーナリストの側から自主検閲するケースが増えている」と指摘している。つまり、ジャーナリストは自己防衛のため、自ら筆を折っている状態だというのだ。

 この報告書についてロシア・ジャーナリスト同盟のボクダーノフ代表は「ロシアでは過去15年間に300人以上のジャーナリストが殺害されていて、ほとんどの場合、犯人も分からないままだ。社会もこの問題に関心が少なく、残念ながらジャーナリストはもはや権力に影響を与える勢力ではなくなっている」と嘆いている。

 ロシアの人権問題や権力の腐敗を厳しく追及し、プーチン政権からにらまれていたアンナ・ポリトコフスカヤ記者が殺害された事件は我々の記憶に新しい。だが、ロシアの世論は報道の自由に関心が薄く、政府批判が盛り上がらないのが現実だ。西側諸国が主要国首脳会議(G8)などの場でロシア政府に圧力を加えるとともに、基本的人権が保障される市民社会育成を側面から支援していく必要があるのではないだろうか。
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メドベージェフ露大統領、次期大統領選への立候補を宣言!?

2010年04月27日 07時36分34秒 | Weblog
 メドベージェフ大統領は26日からのノルウェー訪問を前にノルウェー紙とインタビューし、12年の次期大統領選に立候補するかどうかについて「大統領選に立候補することを排除しない」と語った。この発言は、控えめながら次期選挙に立候補することを宣言したものと受け取れる。

 大統領の任期は現在4年なので、メドベージェフ大統領は5月に折り返し点を迎える。この時期になると次期大統領選の立候補問題がクローズアップされるが、いまのところ有力候補と見られているのはメドベージェフ大統領と、前大統領のプーチン首相だけだ。現時点では当事者の発言を元に推測するしかないが、メドベージェフ大統領は今回の発言でこれまでより一歩前へ出たという印象だ。

 今回の大統領発言は、「この問題についてはいつも一様に、典型的に答えている」と前置きし、次のように続けている。「もし国家のために、そしてプーチンが国家元首となり、いま私が国家元首となって担っている現在の路線を維持するために必要なら(次期大統領選に)立候補することを排除しない」と述べている。そして、「大統領の業績が最低限、国民に受け入れられ、単なる感覚ではなく、結果を得ることを目指さなければならない」ことを立候補の条件としてあげ、「(最終的な判断は)パスモートゥリム(見ていてくださいの意味)」と述べた。

 大統領は直近の今年2月のフランス雑誌とのインタビューでは「先のことは誰もわからないが、責任のある人間であり、国家にとって何がベターなのかを(プーチン首相と)一緒に協議して決める」と述べ、あくまで首相の意向を聞いてから決めるというスタンスをとっていた。ところが、今回はプーチン首相にまったく言及していないことから、ロシアの有力新聞の間では「大統領は(立候補問題で)初めてプーチン首相抜きで語っている」との見方が出ている。

 その半面、大統領は立候補について「可能である」というはっきりした言い方をせず、「排除しない」つまり「可能性はある」という言い方にとどまっていることから、「立候補は明らかではなく、可能性は低い」(独立新聞の解説)との見方も依然強い。その裏には、プーチン首相がいまだに実権を握っていて、大統領はまだ首相の路線から一歩も出ていないという不満があるようだ。

 一方、プーチン首相は立候補問題について「誰が立候補するかは(メドベージェフと)2人で協議して決めるが、2人は同じ血が流れているのでどちらが立候補しても路線は変わらない」(昨年9月のバルダイ会議での発言)という立場を取り続けている。前回同様、大統領選直前の状況を見て判断するつもりらしい。

 2人とも双頭体制とも「タンデム体制」ともいわれる現政権がうまく機能していることを強調しているが、政権運営について強権的な首相とリベラルな大統領の違いが微妙に政策ににじみ出ていることも事実だ。どこまで折り合えるのか、いつまで協調路線が続くのか、まさに「パスモートゥリム(見ていてください)」だ。


 

 
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ロシアがキルギスのバキエフ政権打倒をそそのかした理由!

2010年04月22日 10時48分03秒 | Weblog
 中央アジアの小国キルギスのバキエフ政権が崩壊してから2週間経過し、ようやく政権打倒の真相が明るみに出てきた。政権崩壊以前からロシア政府の影がちらつき、早くからロシアの積極的な関与がうわさされていたが、その裏にはバキエフ大統領への激しい恨み・つらみがあったというのだ。

 ロシアの英字紙モスコー・タイムズによると、ロシア政府はバキエフ大統領に対し、強い恨みを抱いていた。なぜかというと、バキエフ大統領が昨年、メドベージェフ大統領に対し、米軍に貸与しているマナス空軍基地を閉鎖し、集団安保条約のための軍事訓練センターを設置すると約束しておきながら、それを守らなかったからだという。

 さらに、ロシア側が怒っているのは、ロシアから受け取った何億ドルもの資金をバキエフ氏と側近が横領し、キルギスで展開していたロシア企業の資産を押さえるために使ったからだという。このため、クレムリンは今回の政変の何ヶ月も前からキルギスの野党勢力と接触し、バキエフ退陣工作を秘密裏に支援していた。
  
 クレムリンとしては、バキエフ政権に対し徐々に圧力を加え、議会での抗議行動を強めてバキエフ大統領を退陣に追い込もうと考えていた。ところが、野党勢力は唐突に主要都市での街頭抗議行動を実施したため、クレムリンの思惑より早く政権が崩壊してしまったというわけだ。ロシア側の深謀遠慮が、現実の動きに押しつぶされてしまったというのが真相らしい。

 こうしたドタバタ状態で臨時政府を設立し、ロシア側と親しいローザ・オトゥンバエワ元外相を首相に押し立てたが、野党勢力をまとめきれず、全土掌握も進んでいないというのが現実だ。さらに、バキエフ氏に大統領辞任と交換に外国への出国を認めたが、ベラルーシの首都ミンスクに着いたバキエフ氏は依然、大統領を辞任しないと言い張っている。踏んだりけったりというわけだ。

 ロシアは西側の臨時政府に対する対応も気になるところだ。臨時政府は、米軍が駐留しているマナス空軍基地の貸与期間の1年延長を決めたが、米国とすれば中央アジアへの影響力が低下することは避けられず、困惑している状況だろう。欧州でも様子見状態が続いていて、臨時政府承認が遅れているというのが実情だ。

 ロシアとしても、いま欧米と事を構えるのは得策ではない。米国とは新核軍縮条約に調印したばかりで、肝心な議会の批准が残っている。中央アジアの大国であるウズベキスタンやカザフスタンの対応もはっきりしない。ロシアも飛んだ「火中の栗」を拾ったものだ。







 
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ミハルコフ監督の映画「太陽にやかれてⅡ」の試写会に6千人!

2010年04月19日 10時52分07秒 | Weblog
 ロシアの有名な映画監督ミハルコフ氏が製作し、アカデミー賞の外国語映画賞を受賞した「太陽にやかれて」の続編がこのほど完成、試写会が17日、大クレムリン宮殿で行われた。プーチン首相が支援していることもあって、試写会には政治家や旧ソ連軍兵士約6000人が詰め掛けたという。

 スターリン時代の粛清下の男女の愛をリアルに描いた「太陽にやかれて」は、1994年に上演された。ミハルコフ監督自身が主演したうえ、娘のナジェージダも6歳でデビューを飾った作品で、世界中でヒットした。もちろん日本でも上映され、私も見て感激した記憶がある。

 それから16年後、そのパートⅡが完成した。今回は二部作となっていて、配役は前作とほとんど同じ。5500万ドルの巨費を投じて第二次大戦の戦闘シーンなどがリアルに描き出されているという。前作で監督演じるコトフ大佐は最後に秘密警察に殺害されることが暗示されているが、実際には生き延びて第二作に登場、前線に投入される筋書きという。

 ミハルコフ監督といえば、ロシアでは名門の出で、父は詩人で劇作家、祖父は著名な画家である。本人は演劇学校から映画大学を出て、役者と監督を兼ねた作品多数を作っている。最近では「シベリアの理髪師」「12人の怒れる男」などを製作、洗練された演出で評判が高く、ロシアを代表する映画監督である。

 今回の映画についても「3時間の大作だが、一気に見た」「批判もあるだろうが、見る価値のある映画だ」など、試写会の評価もまずまずだ。その半面、プーチン首相の支援を得ている保守的な監督だけに改革派などから批判も出ている。この日の試写会には、プーチン首相も出席するとみられていたが、予想に反し欠席した。しかし、試写会後に監督に電話し、お祝いの言葉を伝えたという。

 この映画は今月22日から一般公開される。ミハルコフ監督は、もともと今年5月の対独戦勝65周年に合わせて製作したといい、「勝利にはいかに莫大なコストがかかるか、人々はいかに耐えたか、を知ってほしい」と語っている。今年の記念パレードには、スターリンの肖像も登場する予定になっており、初夏のモスクワは戦争回顧一色に覆われそうだ。
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鳩山首相は北方領土解決に向け基本方針を示せ!

2010年04月15日 10時16分48秒 | Weblog
 鳩山首相は13日、ワシントンの核安保サミット会場でメドベージェフ露大統領と会談し、北方領土問題の解決に向け首脳同士で精力的に協議を続けることで合意した。だが、首相がどういう形の決着を目指しているのかが見えてこない。首相在任中の解決を狙うなら、まず基本方針を国民に示して理解を得るべきだろう。

 今回の首脳会談はわずか25分という短いもので、ロシアのメディアも会談とは認めていないためか、ほとんど報道していない。それでも首相の解決への意欲はロシア側にも伝わったとみられ、メドベージェフ大統領から「「領土問題は難しい問題であるが、自分はこの問題から逃げるつもりはない」との言質を引き出した。そして年内に予定されている3回の首脳会談で協議を続けることを約束した。

 ただ、大統領も「両首脳間で静かな雰囲気の下でじっくり協議していきたい」と述べているだけで、解決させるとまでは言っていない。今回も含めて計3回首脳会談が行われているが、いずれも短時間の会談にとどまっていて、まだ領土問題に絞った本格的な協議は行われていない。その意味で、9月にロシア・ヤロスラブリで開かれる国際会議で日露首脳会談が行われれば、日本側にとって大きなチャンスとなろう。

 その際に問題になるのは、日本側がどういう解決を目指すかだ。政府の基本方針は北方四島の日本帰属を認めさせることだが、それが困難であることはこれまでの交渉ではっきりしている。では、どういう戦略で、どこまで譲歩を勝ち取ればいいのか、それをはっきりさせる必要がある。これまでの鳩山首相の発言からはロシア側の主張する歯舞、色丹の2島返還だけでは解決させないという輪郭が浮かび上がるが、では3島返還ならいいのか、2島返還プラス2島の共同管理ならいいのか、譲れるぎりぎりの線が明確でない。

 鳩山首相は、平和条約締結後の2島返還を取り決めた日ソ共同宣言(1956年)に署名した祖父一郎氏の遺志を継ぎたいと事あるごとに述べている。その一郎氏は『鳩山一郎回顧録』のなかで、共同宣言をめぐる日ソ交渉で最も心を砕いたのは2島返還後も、残る国後、択捉島の返還問題を継続審議することを共同宣言に盛り込むことだったと書いている。ソ連側は当時、いったんはそれを受け入れたが、翌日の会談で一転して認めない方針を示し、日本側はそれを受け入れたのである。しかし、一郎氏は「共同宣言に従っても国後、択捉がわが領土という主張をなお十分に行うことができると確信している」と書き、後世の人に全面解決を託している。

 首相就任が決まった直後の会見で、1年以内の北方領土解決を誓った鳩山首相だが、普天間基地問題や小沢一郎幹事長の辞任問題で内閣支持率が急速に低下し、いまや5月の普天間問題を乗り切れるかどうかという事態に至っている。首相がこのまま辞任したら、領土問題の解決は再び棚ざらしとなってしまう。ここは一番奮起して、領土問題解決への協力を国民に訴え、民主党政権に対する国民の信頼・期待を取り戻してほしいものである。そうでなくてはロシア側も領土問題解決に本気で取り組まないだろう。

 
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ロシアはポーランド政府機の墜落で関係の悪化を防げるか!

2010年04月12日 10時16分41秒 | Weblog
 「カチンの森事件」追悼式典に出席するためロシア・スモレンスクに向かっていたポーランド政府機が10日、着陸直前に墜落、カチンスキ大統領ら政府要人97人が全員死亡する惨事が起きた。現職の国家元首が航空事故で死亡すること自体、きわめて異例だが、さらに多数の政府要人が乗り合わせており、損害は計り知れない。

 ポーランドとロシアは同じスラブ民族だが、仲が悪いことで知られている。その原因の一つに、第二次大戦中にポーランド軍人ら2万人以上が当時のソ連秘密警察によって虐殺された「カチンの森」事件の戦後処理がある。旧ソ連は半世紀にわたって「ナチスの仕業」と関与を認めなかった。冷戦終了後、ゴルバチョフ政権は正式に事件への関与と責任を認めたが、ソ連を継承したロシアは今も戦争犯罪とは認めていない。今年は事件発生から満70年になることから、ロシア側がポーランド首脳を追悼式典に招待し、和解ムードを進めようとして、また新たな悲劇が起きてしまった。

 だが、事故後のロシア側の対応はすばやかった。メドベージェフ大統領はポーランド側が事故に関するすべての情報を得られるよう、ロシア政府の事故調査委員会に命じた。一方、プーチン首相は事故現場に駆けつけ、ポーランドから現場に到着したトゥスク首相を抱擁して弔意を表した。さらに、ロシア側は12日を国民追悼の日と決めた。

 とくにロシア側が重視しているのは、事故原因の究明だ。今のところ、政府機が濃霧の中、ロシア側管制官の指示を無視して着陸を強行、事故につながったとされている。だが、もしロシア側にとって都合の悪い事実が明らかになると、ポーランドの国民感情が一気に悪化するのは必至だ。このため、両国で事実上の共同調査を行う格好にして事態の悪化を食い止めようとの方針だ。

 ロシア側の思惑通りに事態が進むかどうか、予断は禁物だ。万が一、テロの疑いでも出てきたら、それまでの苦労は水の泡になってしまう。メドベージェフ政権にとっては、地下鉄連続自爆テロに続いてやっかいな“爆弾”を抱え込んだことになる。それにしても飛行機事故は怖い。一つの飛行機に一国の要人がまとまって乗るのは、やはり避けるべきだろう。
 
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キルギス政権崩壊はロシア側が仕掛けたのか?

2010年04月09日 10時45分06秒 | Weblog
 中央アジアの小国キルギスのバキエフ政権は反政府暴動により、あっけなく倒れた。米露の大統領が懸案の戦略核軍縮条約調印の日に合わせたように起きた崩壊劇。その裏には何があったのか。現地からはロシア側が仕掛けたとの見方が流れている。

 今回の政権崩壊は、前のアカエフ政権が倒れた05年の「チューリップ革命」と似ているが、決定的に違うのはロシア側の反応の早さである。プーチン首相は臨時政府樹立を宣言したオトゥンバエワ元外相に直ちに電話し、新政権を承認することを表明した。さらに、ロシア軍は空挺部隊150人をキルギスにあるロシア軍基地に派遣した。ロシア人を保護するためという大義名分だが、軍隊派遣がキルギス側に与える影響は想像以上に大きいものがある。

 ロシア側が仕掛けたとほのめかしているのは、反政府勢力に追放されたウセノフ首相である。追放直後、首相はインタファクス通信のインタビューで、ロシアのメディアが以前からキルギスの名誉を傷つけるような報道をしていたと指摘したうえ、「北部タラスでの反政府暴動に外部勢力が関与しているかどうかを調査する必要がある」と述べた。

 こうした見方を間接的に裏付けたのはバキエフ大統領だ。追放後、ロシアの中立系ラジオ「モスクワのこだま」のインタビューに答えて「外国勢力の介入なしに今回のような連携作戦は不可能だ」と語っている。だが、介入した国名については明らかにしなかった。

 もちろん、今回の政権崩壊が起きた背景には、アカエフ政権を倒して政権を握ったバキエフ氏が、アカエフ氏と同じように自分の息子を情報機関や経済機関の幹部に据えるなどの「親族重用」を押し進め、汚職・腐敗がひどくなったことがあるのは間違いない。ただ、それを逆手にとってロシア側が政権打倒を画策していたとすれば問題だ。

 もう一つ、ロシア側の関与をうかがわせるのは、臨時政府首相になったオトゥンバエワ元外相がロシアの現政権と親密な関係にあることだ。ソ連時代にロシアで外交官の教育を受けた経験もある。事前にロシア側と接触していたとしても不思議ではない。

 一方、米国もキルギスの空軍基地をアフガニスタンへの物資輸送拠点として借りているので、キルギス・バキエフ政権の動向には大きな関心を寄せていた。とくに基地の使用をめぐって臨時政府を構成する旧野党勢力が反対してきただけになおさらである。そのため今回の政変に関して「ロシアはキルギス獲得に勝利し、米国は負けた」との見方も出ている。ただ、臨時政権も米軍の基地使用を当面認めると明言しており、米国のアフガン政策に当面支障が出ることはなさそうだ。

 今回の政変へのロシア側の関与について、ロシア側は当然ながら強く否定している。だが、ロシア側が中央アジアで戦略的な位置にあるキルギスを米側から取り返したかったことは間違いない。オバマ政権が気を緩めていたスキを突いてロシアが“敵失”で勝ち取ったということかもしれない。
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ロシア連続自爆テロは、市民巻き添えの治安部隊への報復か?

2010年04月06日 09時31分11秒 | Weblog
 モスクワの地下鉄で3月29日に連続自爆テロが起きてから、ロシア南部の北カフカス地方で自爆テロが相次いでいる。4月5日にもチェチェン共和国の隣のイングーシ共和国で連続自爆テロが発生、警官ら2人が死亡した。一連のテロの特徴は、治安部隊や警察官が標的になっていることだ。彼らの狙いはいったい何なのだろうか。

 最初に起きた地下鉄連続テロの現場は、旧KGB本部(現在は連邦保安庁本部)の最寄り駅だったし、ダゲスタン共和国のキズリャルで起きたテロも警察官が標的だった。5日のイングーシ共和国のカラブラクでのテロも警察署で起きている。治安当局は「社会を不安に陥れるのがテロの目的」としているが、果たしてそれだけだろうか。

 そこで気になるのは、地下鉄自爆テロの犯行声明を出したチェチェン共和国独立派武装勢力指導者、ウマロフ司令官の発言だ。彼は地下鉄テロが起きた日に撮影されたというビデオ画像の中で、「(地下鉄攻撃は)連邦保安庁へのあいさつ」と述べた後、今回のテロは2月にイングーシ共和国で行われた武装勢力掃討作戦で巻き添えになって死亡した市民4人の報復と主張している。4人はたまたま野草を取りにきた人たちだったが、内務省部隊は事前に4人に警告せず、昨年11月に起きたネフスキー急行列車爆破事件の容疑者18人と一緒に殺害したという。

 モスコー・タイムズ紙によると、この4人は21歳以下の若者で、治安部隊の指揮官は意図的に4人を巻き添えにし、銃撃した上にナイフで身体を傷つけたとしている。遺体を検分した人権擁護団体のスポークスマンは「殺害の仕方は狂気の沙汰だった」と、その異常性を強調している。無実の人を巻き添えにした残虐な行為が住民の怒りを増幅した可能性は大きい。

 また、地下鉄パルク・クリトゥールイ駅で自爆テロを行ったとされる女性(17)は同じ北カフカス・ダゲスタン共和国のイスラム戦士マゴメドフの妻と判明、昨年暮れの治安部隊の作戦で死亡した夫の報復とみられている。自爆テロに駆り立てられる女性は、イスラム戦士の妻の場合が多く、治安部隊を標的に夫の恨みを晴らそうというケースが少なくない。

 治安当局は、一連の自爆テロは同一犯人グループの犯行と見ているが、まだ特定はされていないようだ。しかし、テロが治安部隊の見せしめを誘発し、それがまた新たなテロを呼ぶ「テロの連鎖」が続いていることは間違いない。この連鎖を断ち切るには、どうしたらいいのだろうか。


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ロシアは「テロリズムの時代」に逆戻りするのか?

2010年04月02日 09時57分54秒 | Weblog
 ロシアでは、モスクワ地下鉄連続自爆テロで39人の乗客が死亡して以来、ロシア南部の北カフカス地方で自爆テロが続発し、さらに十数人の死者が出ている。19世紀後半、爆弾テロが多発したアレクサンドルⅡ世時代のような「テロリズムの時代に突入した」(独立新聞)という見方も出ていて、メドベージェフ政権は深刻な社会不安に見舞われている。

 テロはいずれも北カフカスのイスラム系武装組織の犯行と見られている。地下鉄自爆テロに関しては、チェチェン共和国のウマロフ武装組織司令官が犯行声明を出しているが、内務省当局はこの声明に否定的だ。ウマロフ司令官は、これだけのテロを実行するだけの組織は持っていないと見ているのだ。ということは強力なテロ組織がほかにもあるということになる。

 メドベージェフ大統領は1日、北カフカス・ダゲスタン共和国の首都マハチカラに急遽、ヘリで乗りつけた。大統領は黒のジャケットにサングラスという格好でヘリから降り立った。そして共和国幹部や内務省高官を集めて緊急会議を開き、「テロリスト幹部を見つけ出し、厳罰に処する。そして神の王国に送ってやる」と、いつになく厳しい、庶民にもわかりやすい言葉で言い切った。

 ロシアの英字紙モスコー・タイムズは、大統領の服装も演説口調も大学の先輩であるプーチン首相の「借り物」だと指摘している。ロシアの指導者は強く、たくましい男というイメージが重要である。プーチン首相はそういうパファーマンスがお得意だ。大統領がそれをまねしたのも、必死でテロ対策に立ち向かっていることを示そうというのだろう。大統領はこの会議で、テロリストに対する武力による撲滅を明言している。その一方で、北カフカス地域の経済、教育、文化の発展にも努めることを明らかにしている。力だけではなく、地域の発展がテロ根絶に必要なことを強調するためである。

 大統領にとって、今回の連続自爆テロは就任後初めての大規模テロであると同時に、軍隊や内務省という実力組織を統括する大統領の指揮能力が初めて問われているともいえる。08年のグルジア戦争では、事実上プーチン首相が軍の指揮を取り、大統領は蚊帳の外に置かれた形だった。今回は初めから大統領が指揮を執っており、首相は脇役に回っている。まさに大統領の真価が問われる事態なのだ。

 問題は、リベラル派を標榜する大統領の手法がテロ対策に効果を発揮するかどうかだ。今のところ大統領は非常事態宣言を発令するなどの強硬手段や大規模な組織改革は行わず、内務省や地域の行政当局を叱咤激励し、事態を沈静化させる方針と見られる。だが、今後さらにテロが拡大すれば、強硬手段を取らざるを得なくなる。そうなると大統領の責任すら問われかねない。就任3年目を迎える大統領の正念場である。
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