飯島一孝ブログ「ゆうらしあ!」

ロシアを中心に旧ソ連・東欧に関するニュースや時事ネタを分かりやすく解説します。国際ニュースは意外と面白い!

ロシアの「外交官の卵」に陰謀論支持者が増えている!?

2010年05月27日 14時10分37秒 | Weblog
 ロシア人は昔から陰謀好きな国民だといわれている。だが、そういう傾向が「外交官の卵」の間で広がっているとすれば由々しきことである。以下はその傾向を心配するロシア外務省付属外交アカデミーのエブゲーニー・バザノフ副学長がモスコー・ニュース紙に寄稿した論文の概要である。

 それによると、外交アカデミーの学生たちが最も好んでいる陰謀論の一つは、2001年9月11日の米国同時多発テロの背後にジョージ・ブッシュ大統領(当時)とその親友がいるという説である。「なぜブッシュがそんな考えられないような犯罪に関与したのか」と聞くと、学生たちは「イラクを攻撃する口実が必要だったからだ」と答えたという。

 もちろん、この副学長はそんな陰謀論は「深く考えなくても、まったくでたらめだということは明らかだ」と全否定する。そして、米国の指導者が自国の経済やインフラを喜んで破壊するだろうか、そんなことはありえないと結論付ける。

 続けてバザノフ副学長は、この陰謀論を信じているのはロシアの学生と将来の外交官だけではないと指摘し、50代、60代の影響力のある識者多数が新聞やテレビを通じてこうした陰謀論を吹聴していると強調する。

 さらにこの副学長は、自分が体験したエピソードを持ち出して、こう述べている。ある軍事アナリストと先日会ったときに「最近モスクワで起きた地下鉄爆破テロの背後には米国がいる」と、まことしやかに話した。そこで副学長が「どこにそんな証拠があるのか」と質したら「テロは、ロシアが冬時間から夏時間に変更した直後に起きたからだ」と答えたという。

 副学長は最後に「こうした頭脳で、どうやってロシアの現代化ができるのだろうか」と嘆いている。メドベージェフ大統領がいま政策の旗印に掲げている「現代化」を実現していくには、陰謀論を信じるような頭の構造ではダメだといいたいのだろう。一理あるとは思うが、そういう見方もまた極論の一つのように思えるが。 
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ロシア・ボルガ川に架かった新しい橋がダンスをしている!!

2010年05月24日 10時25分40秒 | Weblog
 7キロもの長い橋が風に揺られてダンスをしている!!この映像がロシアのテレビで流れ、多くのロシア人が肝をつぶしたようだ。今のところ被害は出ていないが、技術立国を目指すメドベージェフ大統領にとっては由々しい事態である。

 この橋は、ロシア西部を流れるボルガ川下流に架かっている橋で、ボルゴグラード市にある。13年間かかってようやく8ヵ月前に完成したばかりの橋だ。それが20日午後、強風にあおられて揺れだし、走っていた車は1メートル近くもバウンドするなど大混乱に陥った。ほうほうの体で橋から抜け出したドライバーたちが近くの交番に押し寄せて騒ぎになった。

 「郊外の家に帰る途中、橋に差し掛かると車がボールのようにバウンドし始めた。どこかサスペンションが悪いのかと思った」。たまたまこの騒動に出くわしたドライバーは、ネットにこう書き込みした。まさに車がボールのように飛び跳ねた状態になったらしい。

 この原因について運輸省高官は「風速18メートルの風にあおられたからだ」と話している。専門家によると、突風がある共鳴ゾーンにぶつかると、こういう現象が起きることがあるという。いずれにしろ風が原因だとしている。

 だが、この橋はざっと4億ドルもの国家予算が投じられた、ロシアでも有数の「金のかかった橋」である。それが、風が吹いただけでこんなに揺れるといっても国民は納得しないだろう。橋の構造や建設方法に問題がなかったのだろうか。メドベージェフ大統領は騒動の翌日、担当部局に調査を命じた。原因が分かるまでは通行は禁止される。

 大統領は、石油と天然ガスに頼った経済から、ハイテク国家への転換を目指して官僚たちを叱咤激励している毎日だ。そこに技術力不足を露呈したかのような事件が起こったのだ。これはむしろ千載一遇のチャンスだ。政府として原因をきちんと究明し、技術の向上に役立ててほしいものだ。
 
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ロシアでも「飲んだら乗るな」の飲酒運転禁止法施行へ!

2010年05月20日 10時41分34秒 | Weblog
 “飲酒天国”といわれていたロシアでも、飲酒運転はもちろん、酒気帯び運転も許さない「飲酒運転禁止法」が施行される見通しになった。下院が19日、運転者の飲酒運転を全面的に禁止する法案を全会一致で採択する方針を決めたからだ。

 この法案は、昨年から飲酒の本格的規制に取り組んでいるメドベージェフ大統領が提案していたもの。現在は呼気1リットル中のアルコール濃度0・15ミリグラム未満、または血中1リットル中のアルコール濃度0・3グラム未満の、いわゆる酒気帯び運転については認められている。日本では、同じ数値での酒気帯び運転が禁止されており、ロシアもこの法案が採択されれば国際基準に合致することになる。

 この法案は3年半前にも提案されたが、当時は共産党など3野党の反対で否決されていた。今回賛成に回った「公正ロシア」のグドゥコフ副代表は「我々ロシア人の性格から見て、飲酒をワイングラス1杯またはビールジョッキ1杯に止めるのは難しいと思ったからだ」と弁明していた。

 なお、ケフィールなどの発酵飲料や薬には少量のアルコールが含まれている場合があるので、法案の細部を詰めるべきとの意見が出され、今後政府と協議しながら法案作成を進めることになった。この作業を終えてから最終的に法案が採択されれば、一斉に施行される。

 この法案に対し、ロシア自動車所有者連盟から「飲酒運転をしているドライバーの大半は責任追及を恐れず運転しているので、この法案は効果がないのではないか」などの反対意見が出されている。また、酒気帯び運転をしていて交通警官に見つかっても、警官から違反もみ消し料を請求されるだけではないか、と懸念する人も少なくない。

 大統領はこれまでに酒類の製造販売制限や再国有化を提案しているが、まだ実効が上がっているとはいえない状況だ。今回の法案も飲酒運転撲滅に効果が上がるかどうかは「神のみぞ知る」?
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ロシアとウクライナの関係は「雨降って地固まる」か!

2010年05月18日 13時46分19秒 | Weblog
 ロシアのメドベージェフ大統領は5月17日、2日間の日程でウクライナを公式訪問した。首都キエフで大統領歓迎式典が行われ、メドベージェフ大統領とヤヌコビッチ・ウクライナ大統領が無名戦士の墓に献花した。そのとたん、激しい雷雨に見舞われ、式典は中断、二人とも着替えをする羽目になった。

 この後、二人はさしの会談を行った。その冒頭、ヤヌコビッチ大統領が「こういう雨はお金につながるといわれている」と水を向けると、メドベージェフ大統領はこう答えた。
 「この雨が過去に起きた否定的なものを洗い流し、両国の善隣友好関係に良い基礎を与えてくれることを期待します」
 日本のことわざで言えば「雨降って地固まる」になればということだろう。以上がロシア有力紙コメルサントが18日付け電子版で報じた、さわりの部分である。

 確かに親露派のヤヌコビッチ大統領の前任者、親欧米派のユーシェンコ氏が大統領のときは、天然ガスの輸入価格などを巡って両国は激しく対立し、泥沼状態だった。ロシアの大統領がウクライナを訪問したのは5年前のプーチン氏の時以来で、メドベージェフ大統領はすでに大統領職を2年務めているが、今回が初の公式訪問だった。メドベージェフ氏はヤヌコビッチ氏が大統領になってからすでに6回も会談しているのに、である。

 それだけに今回はウクライナ側が大いに気を使い、野党側の抗議デモを一切禁止したほか、警官4千人を首都に配置するなど万全の措置を取ってメドベージェフ大統領を出迎えた。そこにこの雷雨である。両首脳の緊張感が一気に和らいだのではないだろうか。

 すでに4月21日にウクライナ・ハリコフで行われたメドベージェフ・ヤヌコビッチ会談で、懸案のロシア黒海艦隊の基地貸与期間延長と天然ガス輸入価格見直しで合意している。双方が妥協し合って合意に達したものだ。この日も両大統領は両国の国境画定、銀行間協定などの合意文書に署名している。

 ただ、天然ガス問題ではプーチン露首相が国営ガス事業の統合を提案、ウクライナ側は慎重な姿勢を示していて、合意までには時間がかかりそうだ。いずれにしろ、双方は何事も話し合いで解決する意向を示しており、ユーシェンコ政権時代とは様変わりしている。

 ソ連が崩壊して20年たち、ようやく両国も正常な関係になりつつある。だが、ロシアに反感あるいは嫌悪感を抱いている国民が半数近くいることをロシアは忘れてはならない。ロシア系、ウクライナ系の住民ともにウクライナに対する愛国意識は強いものがある。この琴線に触れると、ウクライナは一斉に反発するだろう。私は90年代に独立間もないウクライナ各地を取材して歩き、その思いを強くした。
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ロシアの政策転換求める外交文書がリークされた!?

2010年05月14日 12時59分02秒 | Weblog
 ロシアの強硬な外交政策を友好的な姿勢に転換するよう求める外交文書が意図的にリークされたとしてモスクワの外交関係者の間で騒ぎになっている。欧米諸国から投資を求めるには柔軟な路線にシフトするよう指示しており、メドベージェフ大統領の基本姿勢を踏襲した内容と見られる。

 この文書のタイトルは「ロシアの長期的発展の中で外交政策を効果的に使うプログラム」となっている。文書の概要は「ロシアの経済の目的を達成するためには、米国と欧州連合(EU)との関係をより良くすべきだ」というもの。この文書にはラブロフ外相の寄稿文が掲載され、この中で「外国の投資を呼び寄せるためには欧米のパートナーとEU全体と『現代的連携』を構築する必要がある」と指摘している。

 さらに、同文書は「ロシアの影響力を拒否する旧ソ連諸国から産業及びエネルギー資源を搾取するよう」求めている。とくにバルト三国を名指しして、EU諸国の投資意欲を呼ばないほど国家の資産価値が下がっていると指摘している。

 この文書は、メドベージェフ大統領が金融危機後、力説しているエネルギー資源依存の経済からハイテク産業中心の経済への転換に合致していて、それに沿って外交政策も変更するよう指示しているように受け取れる。この種の文書は、大統領が承認してから政府に回され、最終調整されるが、大統領府では大統領の承認はまだ出ていないとしている。

 ロシア政府の外交政策は大統領がまとめる「対外政策の概念」に基づいて実行される。最近では08年7月に発表されたものが外交指針になっている。その中では、国力の回復をバックに既存の国際秩序に代わる新体制構築に向けて、ロシアが大きな役割を果たしていくとの挑戦的な姿勢が基本となっている。だが、その直後に起きたグルジア戦争とリーマンショックで情勢が大きく変化しており、政策の見直しが求められている。

 政府の重要政策を政府関係者がリークする場合、たいていはその政策を覆そうとして行われることが多い。今回もそうだとしたら、メドベージェフ大統領の基本方針を変えさせよう、あるいは大統領の権威を貶めようという意図があるのではないか。12年の次期大統領選がロシア政界の射程距離に入りつつあり、またぞろ政権内部で権力闘争が始まったのかもしれない。
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対独戦勝65周年記念式典への首脳出席にロシア側が基準!?

2010年05月11日 10時17分47秒 | Weblog
 ロシアで9日、第二次世界大戦の対ナチス・ドイツ勝利65周年記念式典が行われ、モスクワの赤の広場では旧ソ連や「連合国」の軍人による軍事パレードも実施された。この式典に出席した外国首脳は21カ国にとどまったが、その裏にはロシア側の様々な思惑があったことが明らかになった。

 11日付けのロシア有力紙コメルサントによると、ロシアの指導部は今回の式典に出席する外国首脳に関し、新しい基準を設けた。第一の基準は、グルジアのサーカシビリ大統領以外の首脳の出席を歓迎するというのである。サーカシビリ大統領は08年の対ロシア戦争を指導したことから「出席は不適当」と判断した。大統領は実際に式典には参加せず、代わりに親ロシア派のブルジャナゼ前国会議長が出席した。

 第二に、メドベージェフ大統領は旧ソ連の独立国家共同体(CIS)首脳だけに招待状を出し、そのほかの首脳については出席を希望すれば認めるという方針を取った。つまり、その国のロシアに対する姿勢を問うコンクールのようになったのだという。当初、ロシア側は約40カ国首脳が出席するとみていたが、ふたを開けてみたら参加者はその半分にとどまったというわけだ。

 参加しなかった国で最大の国は米国だ。オバマ大統領は米国で開かれた核サミットでメドベージェフ大統領に欠席を伝え、代わりにバイデン副大統領を出席させる方針を決めた。また、英国のブラウン首相は議会選挙で多忙という理由で欠席を決め、英王室のチャールズ王子を派遣することにした。しかし、2人とも式典には参加しなかった。

 この裏には何があったのか。英国のガーディアン紙がその裏事情をすっぱ抜いた。それによると、プーチン首相が個人的にその2人の代理出席を拒否したのだという。その理由について同紙は、バイデン副大統領がサーカシビリ大統領と親密な関係があるからで、チャールズ王子に関しては、王子個人でなくプーチン首相の政敵である新興財閥のベレゾフスキー氏を英国が引き渡さないことに不満を持っているからだとみている。

 もちろん、この報道に対してプーチン首相の側近は「その情報はばかげている。実際とはまったくかけ離れている」と全面否定しているが、プーチン首相ならやりかねない。それにしても、式典参加者を受け入れるかどうかを招待国側が勝手に判断するというのはあまりにも尊大であり、相手に失礼である。本当にプーチン首相がそういう判断をしたとすれば、「あなたは何様」といいたくなる。

 第二次大戦でナチス・ドイツを破ったのは旧ソ連だけの功績ではない。米、英、仏など連合国全体の勝利である。確かに大戦で一番大きな被害を受けたのは旧ソ連だが、だからといって連合国の盟主のような態度を取るのは調子に乗りすぎというものだろう。今ロシアは、第二次大戦での旧ソ連の貢献を見直す動きが出ていることに神経を苛立たせているが、こういう態度を取れば欧州諸国の反発を買うだけだ。

 
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ロシアの汚職はそんなにひどいのか!?

2010年05月07日 09時49分43秒 | Weblog
 ロシアのメドベージェフ大統領が重要な課題の一つに上げているのが汚職対策だが、どの程度ひどいのか、今ひとつはっきりしない。そんな疑問に答えてくれる前下院議員、ウラジーミル・ルイシコフ氏の寄稿文を見つけた。その概要を報告したい。

「過去20年間、政府高官の誰も官僚のトップが個人の利益のために地位を利用したかどうかを議論していない。それを当たり前と思っている。彼らは全員堕落しているのだ」
 ルイシコフ氏は、5日付けのモスコー・タイムズ紙に掲載された寄稿文の冒頭に、ロシアの保守派イデオローグ、グレフ・パヴロフスキー氏のショッキングな談話を掲げ、「急所を突いたコメントだ」と高く評価している。

 続けてルイシコフ氏は「汚職国家」となった理由に付いて「ロシアは中国や日本と違って、ソ連崩壊後20年たつが、政府高官の一人も汚職の罪で起訴されていないからだ」と指摘している。このため政府の「汚職との闘い」のすべては結局のところ、単なる言葉や、意味のない対汚職戦略にすぎず、政府の大規模で構造的な汚職にインパクトを与えないような、偶発的な中小クラスの役人逮捕に終わっていると言い切っている。

 そしてルイシコフ氏は、過去四半世紀の間にロシアのGNP(国内総生産)の4分の1を奪うほどに汚職が増加したと指摘している。その金額は大雑把に言うと毎年3千億㌦にのぼるという。その結果、1999年の国際汚職透明度ランキングでは82位だったが、2009年には146位にダウンしたとしている。

 さらに、汚職の態様について「一言で言えば、官僚たちは国・自治体の予算や資産が見つかれば、どこでも盗んでしまう」と述べている。その具体例として、チェチェン共和国の役人たちは連邦政府から現金が届けば、そのうちの80%を直ちに自分たちのポケットに入れてしまう、という話を知人から聞いたと書いている。

 ところで、メドベージェフ大統領は就任以来、汚職対策を推進しているが、成果は上がっているのだろうか。ルイシコフ氏によると、09年に逮捕された役人は800人足らずで、全体の0.04%に過ぎない。それも中間管理職か低ランクの人たちばかりであるという。

 こうした事実を挙げながらルイシコフ氏は「クレムリン(政権指導部)が汚職との闘いに真剣に取り組み、政府高官の仲間同士で対決する闘いを始めなければ、世界有数の汚職国家であり続けるだろう」と警告している。

 ルイシコフ氏とは昨年秋、モスクワで会い、インタビューしたが、論旨が明快でリベラル派イデオローグの第一人者と実感した。彼の言うように、メドベージェフ大統領は汚職対策の法整備に取り組んでいるが、成果が上がらないのは一罰百戒となるような政府高官をやり玉に挙げていないからだろう。捜査陣を叱咤激励して大物を摘発しないと、単なる法律いじりに終わってしまう。今こそガツンとやらなければ!

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ロシアとノルウェーの海の境界紛争解決と北方領土との関係

2010年05月03日 17時17分01秒 | Weblog
 北極圏の大陸棚の境界をめぐり40年間争われてきたロシアとノルウェーの紛争が解決した。北方領土同様、ソ連時代から続いてきた領土紛争が、フィフティー・フィフティーの原則で解決できた意義は大きい。

 紛争が続いていた海域は、バレンツ海と北極海にある約17万5000平方キロで、日本の領土の半分近くもある。この海域は石油・天然ガスなど海底エネルギー資源が豊富な地域で、いま世界中の注目を集めている。メドベージェフ露大統領とストルテンベルグ・ノルウェー首相は4月27日に会談し、係争海域をほぼ2等分することで基本合意した。

 ロシアの有力紙コメルサントによると、この合意は両国の記者団にはまったく寝耳に水の出来事だった。両国政府とも秘密裡に領土交渉を進めてきたのだ。しかも、首脳会談後の記者会見で最初に会見したノルウェー首相はさして重要でない二国間協定の話題を先に説明し、「きわめて重要な歴史的な問題が解決した、歴史的な日」(首相の発言)に関する発表を後回しし、よりセンセーショナルな演出をした。

 思いがけぬ発表に度肝を抜かれ、しばらくは思うように質問できなかったノルウェーの記者団も、そのショックから立ち直ってメドベージェフ大統領にこう質問した。
 「どうして今回の合意を秘密にできたのか」
 その答えがまた振るっている。
 「ロシアにはご案内のように、深く潜行して秘密工作を行う伝統がある。だから、そういうことができたのです」

 両国政府が記者会見まで基本合意を秘密にしたのは、事前に明るみにでたらつぶされる恐れがあったからかもしれない。今回の交渉はメドベージェフ大統領が中心になって進めてきたもので、プーチン首相派のシロビキ(情報・治安機関出身の幹部層)による妨害工作を警戒しての措置の可能性がある。

 今回の基本合意の背景には、ロシアが北極圏の資源開発に不可欠な採掘技術をノルウェーから導入したいという思惑がある。そのため領土問題で妥協してでも技術という「実利」を獲得しようというロシア側の強い決意が垣間見える。資源を守るだけでなく、高度な技術を持たなければ今後の国際競争に打ち勝てないという、大統領派の長期戦略があるように思える。

 今回の紛争解決の仕方が直ちに日本との北方領土交渉に適用されるとは思えないが、ロシア側が高度な技術獲得のために領土問題で妥協したという事実は大きな意味がある。ロシアはいま極東・シベリア開発に全力を挙げており、先日来日したナルイシキン大統領府長官も、この意向を鳩山首相に伝え、日本側の協力を求めたとみられる。ロシア側の求める開発協力は、当然ながら環境や省エネ部門での日本の高度な技術を念頭においていることは明らかだ。

 メドベージェフ大統領はノルウェー訪問前、ノルウェー紙とのインタビューで、12年の次期大統領選に出馬する意思を示した。これは、いまだに実権を握っているとされるプーチン首相から自立への道を踏み出したことを意味する。そうだとすれば、ノルウェーとの紛争解決も、ロシアの外交姿勢がプーチン流の強硬路線から柔軟路線に変わりつつある兆候かもしれない。これは日本にとっても大きなチャンスである。年内に3回行われる予定の日露首脳会談が領土解決の大きな転機になる可能性は十分ある。
 
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