飯島一孝ブログ「ゆうらしあ!」

ロシアを中心に旧ソ連・東欧に関するニュースや時事ネタを分かりやすく解説します。国際ニュースは意外と面白い!

リベラル系ラジオ局「モスクワのこだま」の名物編集長、役員を解任される!

2012年03月30日 20時23分59秒 | Weblog
ロシア大統領選を巡る報道で、プーチン首相ににらまれていたリベラル系ラジオ局「モスクワのこだま」の編集長らが臨時株主総会で役員を解任された。プーチン新政権発足を前にメディア規制を強める狙いとみられ、反プーチン派の出方が注目される。

 29日のインタファクス通信によると、解任されたのは、21年前の保守派クーデター未遂事件当時からラジオ局の編集長を務めていたベネジクトフ氏=写真=と、副編集長のバルフォロメーエフ氏。これにより、ラジオ局のジャーナリストの役員はいなくなった。このほか、ヤーシン高級経済学校長ら社外役員2人も解任された。後任の役員にはフェドチーノフ会長、セミョーノフ・スビャジインベスト社長らが選任された。

 ベネジクトフ氏はフアフアの白髪と早口の喋りで知られる超有名人。ラジオ局がソ連末期の90年に設立されて以来、一貫してリベラルな主張を展開し、モスクワのインテリから絶大な信頼を得てきた。91年にKGB議長らがクーデターを起した際、民主派が立てこもったホワイトハウス(旧ロシア最高会議)内で秘密裏に実況放送を続け、市民の貴重な情報源となったことは余りにも有名だ。

 今回の解任劇について副編集長のバルフォロメーエフ氏はツイッターで「これは政治的な解任だ。国家指導者がラジオ局の放送に不満を抱き、政権が統制している筆頭株主企業に『首輪を締めるよう』圧力をかけたのだ」と述べている。

 このラジオ局は現政権に批判的で、今回の大統領選でも野党指導者に自由に発言させ、プーチン首相に「朝から晩まで私に汚い言葉を浴びせている」と言わしめたほどだ。ラジオ局の筆頭株主は、政権の統制下にある天然ガス独占企業「ガスプロム」の系列会社ガスプロム・メディアで、今年1月からベネジクトフ氏らに早期退任を迫っていた。

 プーチン首相の広報官は今回の解任劇について「役員の交代は、ラジオ局ジャーナリストによる首相への批判とはまったく関係はない」と述べ、首相側の関与を否定している。だが、筆頭株主が政府の意向を考慮して解任に動いたことは明らかだ。

 筆者らモスクワ特派員経験者とロシア研究者は毎年秋、グループでモスクワを訪問し、識者にインタビューしているが、その中でも一番人気のあるのがベネジクトフ氏だ。ロシアの政界に詳しく、裏事情をわかりやすく説明してくれるからだ。昨年9月初めに我々がモスクワでインタビューした際、次期大統領選で誰が当選するかと聞くと「70%の確率でプーチンだ」と的確に予測していた。与党の党大会前でまだ候補者が誰になるかわからない時だった。その彼がメディア規制の犠牲者になるとは誠に残念だ。(この項おわり)

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北方領土交渉;兵藤長雄・元外務省欧亜局長にプーチン発言について聞いた!

2012年03月26日 15時01分21秒 | Weblog
プーチン首相がロシア大統領選直前に日本のメディアなどと会見した際、北方領土問題の解決に強い意欲を示した発言が注目されている。そこで東郷和彦・京都産業大学教授に続いて、今回は兵藤長雄・元外務省欧亜局長にプーチン発言をどうみるかを聞いた。同氏はソ連崩壊前後に外務省欧亜局長を務め、その後ポーランド、ベルギー大使を歴任、退官後は東京経済大学教授を務めた。

 プーチン氏は3月1日、外国人記者との会見で北方領土問題に自ら触れ、「日本との領土問題を最終的に解決したいと強く思っている」と述べた。そのうえで、平和条約締結後の2島引渡しを定めた日ソ共同宣言(1956年)をベースに「引き分け」という日本語を使い、受け入れ可能な妥協を日本側に呼びかけた。

 兵藤氏はまずプーチン発言の意味についてこう分析した。
 「1つは、プーチンは前から21世紀にはアジア太平洋が中核になると述べていた。だから彼はAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議のロシア開催を提案した。長い目で見ると、ロシアのフロンティアはアジアしかない。経済の高度化を狙うとすれば、日本と協力するしかないということだと思う。2つ目は、北方領土問題で、ロシアが避けて通れない問題だ。だが、彼の方で何か新しい提案があるか、というと以前と変わらない気がする」

 「プーチン氏は引き分けにしようと提案したが」と重ねて質問した。兵藤氏は「あらゆるチャンスをつかんで交渉を進めることに反対ではないが、もう50年経ったのだからなにがなんでも解決しなければいけないということはない」と、あくまで慎重に対応するよう求めた。そのうえで、プーチン発言の問題点をこう指摘した。

 「プーチンは、日ソ共同宣言には2島以外の(日本側の)要求はないと明言し、どういう条件で引き渡すのか、その後主権はどうなるかについても書いてないと言っている。そこまで厳しく考える必要があるかどうかはともかく、これが最後だ、いまこそ勝負すべきだという話には乗れない」

 「では、どういう形での決着がありうるのか」との質問にも「プーチンのリーダーシップがどの程度あるかわからないので、決着の話はまだ早い。大統領に就任してからプーチンの今後を見極める必要がある」と答え、日本に対する姿勢がさらに厳しくなる可能性もあると指摘した。

 また、兵藤氏はメドベージェフ大統領が2010年11月に国家元首として初めて国後島を訪問した理由について次のように語った。
 「きっかけを作ったのは、65年前に日本が降伏文書に調印した9月2日を『第二次世界大戦終結の日』として国の記念日に決めたことだと思う。ロシアは北方四島の所有を正当化するのに苦労していたが、戦争の過程で四島をとったということを言い出した。これは非常に大きな問題だと思うが、政府、マスコミなどの動きは鈍かった。あの時、日本政府は大使を引き上げるくらいの措置をとるべきだった」

 さらに兵藤氏は「プーチンも今の日本政府の姿勢が変わってきていることに気づいているはずだ。日本をおどせばロシアの思うように行くのではないかと思ってきている」と語り、日本政府に対し、弱腰外交にならないよう警告した。

 東郷教授のようにプーチン提案を積極的に受け止めて交渉に取り組むべきか、それとも兵藤氏の主張するように慎重に対応すべきか、両方の考え方があると思う。いずれにしろ、政府はロシア側の動きをじっくり見守りながら、日本側の対応をきちんと決める必要がある。いつまでも洞(ほら)が峠を決め込んで待っていては、相手の動きについていけない。(この項終わり)





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ロシア世論調査;西側の民主主義より、ロシア独自の国家体制を望む!

2012年03月20日 15時17分33秒 | Weblog
ロシア国民は民主主義をどうみているのか? 大統領選(3月4日)が終わり、不正選挙の抗議運動も一段落したところで、民主主義に関する世論調査結果が公表された。西側の民主主義を評価する人が増えている一方で、ロシア独自の国家制度を理想とする人が多いことが浮き彫りになった

 この調査は有力な世論調査機関レバダ・センターが実施したもので、その結果が20日付けのコメルサント紙(電子版)に掲載された。ロシアにとって、どの民主主義が良いかとの質問に、西側の民主主義と答えた人が28%、過去のソ連体制を良いとする人が27%とほぼ同率だった。ロシアの民主主義が良いと答えた人は20%にとどまった。2008年の調査と比べると、西側の民主主義をあげた人が13ポイント増え、旧ソ連型、ロシア型はともに減っている。

 どの経済体制が良いかとの質問で、一番多かったのは旧ソ連型システムで49%、次いで私有財産制が36%、残る15%は「選択できない」だった。将来の望ましい国家体制についての質問には、「完全に独自の制度と発展の道をもつ国家」と答えた人が41%で最も多く、次いで「西側モデルの国家」31%、社会主義国家21%の順だった。

 また、民主主義がロシアに存在するかどうかについて、「レベルは様々だが、存在する」と答えた人が48%、「まだ民主主義が確立していない」という人が31%、「民主主義が弱まってきた」と答えた人は14%だった。さらに、民主主義という言葉から何を連想するかとの質問に、47%が「言論・出版の自由」と答え、24%が「経済の繁栄」、18%が「国家指導者選び」と答えた。3つの回答のうち、言論・出版の自由と国家指導者選びが以前より増えているのが目立っている。

 この調査結果についてレバダ・センターのグラジダンキン副代表は「ロシアでは民主主義といっても西側型、ロシア型、社会主義型の3種類がある。そのため民主派野党は少数派の利害を考えるとともに、活力を落とさないよう行動を続けなければいけない」と、長期的な視点で活動するようアドバイスしている。

 昨年暮れの下院選の選挙不正疑惑をきっかけに、野党の呼びかけに応じてモスクワ市民が街頭行動に立ち上がり、一時は集会・デモの参加者が10万人前後にのぼった。ところが大統領選でプーチン首相が60%以上の得票率で3期目の大統領復帰を決めると、集会参加者はぐんと減ってきた。このまま運動はしぼんでしまうのか、それとも盛り返すのか。ロシアの民主主義自体が今問われているといえよう。(この項終わり)

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ロシアの民放テレビ、「反プーチン派集会開催に米国が協力」とする番組を放送、野党側が強く反発!

2012年03月17日 09時57分39秒 | Weblog
 ロシアの民放テレビ局「NТB」は15日夜、反プーチン派の抗議集会を「解剖する」という報道番組を放送。集会主催者が金を支払って参加者を集め、さらに米国国務省の協力まで得ていたとする内容だったことから大きな反響を呼び、野党側がテレビ局前などで抗議集会を開く騒ぎに発展した。

 17日のロシア有力紙コメルサント(電子版)などによると、問題の番組は「抗議の解剖」とのタイトルで36分間放送された。大統領選(3月4日)終了後の10日にモスクワで行われた不正選挙抗議集会で、主催者側は集会参加者が1万人以下にとどまる見通しになったことから、団体旅行者らに金を支払って集会に参加させたとする映像を流した。さらに、モスクワでの抗議行動は「米国国務省の介入なくしては実施できない」と指摘し、米国国務省が反プーチン派の集会開催に協力していたように受け取れる説明を流したとされる。

 これに対し、集会指導者らは「放送は全くのでたらめだ」と強く反発している。野党「国民自由党」共同指導者のネムツォフ元第一副首相は「ノルウェーでの演説場面は情報機関員が撮影した映像で、ロシアで登録されているビデオカメラによる撮影ではない」と述べ、政権側が制作に関与していることを示唆、NTBのボイコットを呼びかけた。野党側は17日午後、抗議集会を開くとともに、18日にもオスタンキノ・テレビ塔前で抗議集会を開くことを決めた。

 一方、NTBはコメントを拒否しているが、16日夕、ホームページでこの番組を「視聴者多数の希望により」18日夜の時間帯に再放送すると伝えた。政権側も沈黙を守っているが、NTBはじめ全国ネットのテレビ3局は政権側の統制を受けていることは周知の事実。このため、この番組の真偽や当局との関係をめぐって今後論議を呼ぶのは間違いない。

 プーチン首相は選挙期間中から「学生たちが米国から金をもらって抗議集会に参加している」などと述べ、米国政府が抗議運動に関与していることを示唆していた。NTBの番組は首相発言を裏付けたともいえるが、当局側がテレビ局に指示して番組を制作した可能性が高いとみられる。プーチン首相が大統領に復帰することが決まったため、政権側が強硬姿勢に転じたとの見方もでている。プーチン新大統領の5月就任を前に、早くも政権側が“野党つぶし”に動き出したのかもしれない。
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北方領土交渉;プーチン提案について東郷和彦・京都産業大学教授に聞いた!

2012年03月12日 10時04分14秒 | Weblog
 プーチン次期大統領はロシア大統領選直前、北方領土問題解決への強い意欲を語ったが、これをきちんと受け止めるべき政府・外務省の動きがあまり聞こえてこない。その一方、対露強硬論者は相変わらず「プーチンに騙されるな」などと否定的な論評を続けている。筆者はプーチン提案についてすでに3日のブログで取り上げているが、今回は元外務省欧亜局長・東郷和彦京都産業大学教授のインタビューを中心に、この問題を再度考えてみたい。

 プーチン氏は1日、外国人記者との会見で北方領土問題に自ら触れ、「日本との領土問題を最終的に解決したいと強く思っている」と述べた。そのうえで、平和条約締結後の2島引渡しを定めた日ソ共同宣言(1956年署名)をベースに「引き分け」という日本語を使い、受け入れ可能な妥協を日本側に呼びかけた。

 このプーチン提案が日本にとってどういう意味があるのか、長年北方領土交渉に携わってきた東郷和彦教授に聞いた。
 「プーチン氏は3期目の大統領を前に、日本との間で領土問題をはっきりさせ、日露の国境線を決めることを優先課題に入れたということです。しかも、彼は『引き分け』で決めようと言っている。つまり、ゼロ回答ではないということです。日本側がこの10年間、何もやらなかったときに、プーチン氏の方からここまで戻してきたのです」

 「今の状況はロシア側にやる気がなかったら、日本は打つ手がないのが実情です。このまま行ったら完全に領土は押し切られる。そういう時に彼は、それではロシアにとってよくないと、もう一度戻ってきたということです」

 東郷教授はさらに、今後の交渉の見通しについて次のように語った。
 「プーチン氏の交渉の基本線は、やっぱりイルクーツク声明(2001年)だと思う。つまり、日ソ共同宣言と(4島の帰属に関する交渉を認めた)東京宣言です。この声明では、国後、択捉島についても議論しましょうと言っている。交渉の出発点のとき、2島ポッキリだとは言わせない、ということです」すでに決まっている歯舞・色丹島の引渡しに加えて、残る国後、択捉島についても粘り強く交渉し、いかに4島返還に近づけるかが重要だというのだ。

 対露強硬論者が日ソ共同宣言をベースにした交渉の危険性や問題点を指摘していることについて東郷教授は「2島か、4島かの細かい話をする前に、やる気があるのか、ないのかということです。ロシア側は(北方4島を占領した)1945年から今日までに、(交渉への)やる気を何回か見せている。その窓が開いたときに突っ込む以外に我々には手段がない。その意味で今回は絶好のチャンスです」というのだ。東郷教授は外交官時代から熱血漢として知られているが、鈴木宗男衆院議員(当時)事件で退官を余儀なくされたあとも熱血ぶりは変わっていない。

 プーチン発言は大きな反響を呼び、8日の衆議院予算委員会でも「引き分け」を巡って議論になった。野田首相は「引き分けの意味は双方が納得できる結果ということだと思う。色丹島、歯舞群島の2島返還だから良いという話ならば引き分けにはならない」と述べた。2島を合わせても面積では全体の7%にすぎないため、引き分け論には程遠いという考えだ。

 では、どういう解決案が日本にとって最良なのか、その解決案を政府が早急に作成すべきだと東郷教授は言う。
 「今回のプーチン発言で述べていることは、ひとつは極東・シベリアの開発に日本が協力してくれということです。もうひとつは、領土問題では双方にとって引き分けになる解決案を考えてくれということです。だから日本がすべきことは、プーチン氏が大統領に就任する5月までの間にこの2つについての大筋の案を作れということです。プーチン氏は大統領就任と同時に『ハジメ』と言うわけですから、少なくとも5月の主要国首脳会議(G8)で野田首相がプーチン氏と会ったときには、それなりの腹積もりは持っていなければいけません」

 一方、ロシアのメディアも、プーチン発言をきっかけに日本で領土問題を巡る議論が再び活気づいてきたことを伝えている。プーチン氏の大統領復帰が決まり、ロシアでも領土問題解決の機運が高まる兆しが見えつつある。日本側もこの機運を盛り上げるよう、官民ともども力を合わせようではありませんか。(この項終わり)








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ロシア大統領選;プーチン首相、一発当選を決めたが、得票率7割に届かず、厳しいかじ取りに!

2012年03月05日 14時15分00秒 | Weblog
プーチン首相は4日深夜、モスクワの中心部、マネジ広場で支持者を前に勝利宣言したが、その目には涙がいっぱいたまっていた―。彼が泣き顔を公の場で見せたのは恐らく初めてではないか。今回の選挙は、彼が初めて味わった逆風の中での選挙で、目論見通り一発当選を決めたことが余程嬉しかったのだろう。

昨年暮れ、下院選挙で与党は得票率が50%以下に落ち込み、さらに不正選挙疑惑のダブルパンチを食い、プーチン氏は相当苦しんだに違いない。とくに不正選挙疑惑は下院選挙の正統性を揺るがすものだった。そこで大統領選では一発当選にとどまらず、70%以上の得票率を目標に掲げ、なりふり構わない選挙戦を展開してきた。

 その結果、勝ったことは勝ったものの、プーチン氏の得票率は63.7%にとどまり、再選された2004年の時の得票率71.3%どころか、前回(08年)のメドベージェフ氏当選の時の70.3%にも及ばなかった。現職大統領・メドベージェフ氏の強い再選願望を振り切ってまで立候補したプーチン氏にとっては「苦い勝利」で、「国父」とまで崇められたかつての威信は地に堕ちたといってもいい。

 今回は得票率とともに、不正選挙防止ができるかどうかが、もうひとつの焦点だった。プーチン首相は約400億円かけて約10万ヵ所の投票所にカメラを2台ずつ設置し、インターネットでどこからでも監視できるようにした。だが、一度にたくさんの投票用紙を投票箱に入れる「投げ込み」や、同一有権者が複数の投票所を回って投票する「メリーゴ-ラウンド」などの不正投票が多数見つかり、投票をすべて無効にせざるを得ない村まであったという。全国で不正投票がどの程度の件数になるかは不明だが、相当数に上ったことは間違いないようだ。
 
 その一方、プーチン氏は年金生活者や公務員の待遇改善、国防予算の増額などを次々に約束、その額は約77兆円にのぼり、ロシアの国内総生産(GDP)の半分に当たるとの試算もある。新政権がとても実現できない大盤振る舞いで、今後野党などから「約束違反だ」として抗議行動が高まる恐れがある。

 また、大統領選や下院選挙で明らかに「野党つぶし」といえる政党・候補者登録の厳しさや、民主主義に反する地方首長の任命制がヤリ玉に上がり、議会で制度改革の動きが出ているが、プーチン新大統領がこうした改革をどの程度受け入れるかは不透明だ。もし、改革の動きにブレーキをかけるようなら、民主化要求を強める野党との対立が一層激しくなるのは目に見えている。

 以上のように新政権にとって野党との抗争の火種がいくつもあるのが実情だ。こうした内政問題に加え、ミサイル防衛(MD)システムの東欧配備など、欧米との間で未解決の問題も少なくない。プーチン新大統領がこれまでのように外交問題に強硬姿勢で臨めば、再び西側との摩擦が強まるのは必至だ。

 選挙結果から、プーチン新大統領が憲法に定められた連続2期12年(1期の任期が4年から6年に延長)を務めるのは極めて困難だといえる。それを本人が十分自覚して、民意を実現するよう努力すれば6年間の任期は務まるだろう。だが、それ以上の長期政権を望んだら、市民意識が高まっている中流層の怒りを買い、任期を全うできない可能性が高くなる。その意味では「プーチン時代の終わり」がこれから始まると言っても言い過ぎではないだろう。(この項終わり)
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北方領土交渉;日本政府は解決への「最良のチャンス」を生かせるか?

2012年03月03日 14時55分38秒 | Weblog
ロシアの大統領選直前、日本など西側のメディアと会見したプーチン首相は、自分から北方領土問題を持ち出し、「最終的に解決することを強く望んでいる」と語った。一方で、日本側の譲歩を求めているが、プーチン氏がこれまでのしがらみを乗り越えて解決への強い意欲を示したことは間違いない。問題は、日本政府・外務省がこのチャンスを活かせるかどうかだ。

選挙の3日前に外国メディアと会見すること自体が異例だが、それだけ当選に自信があることを内外に印象づけ、余裕の勝利をつかもうというプーチン流の高等戦術だろう。素直に考えれば、再登板する以上、最初の3期目になんとか成果を上げたいという意思の表れともとれる。

プーチン発言を読むと、日本側からの質問を想定し、回答を練り上げてきた感じがする。冒頭に日本が元祖の柔道家であると述べ、日本側の好印象を引き出す。そして日本との貿易高が伸びていることを評価しつつも、対中貿易額と比較すればいかに少ないかを強調する。そのうえで、経済協力をさらに進めていく中で領土問題を解決していこうという、経済優先の対日戦略が描かれている。

 肝心な領土問題の解決方法についても、森喜朗首相当時、日本側が2島返還を定めた日ソ共同宣言(1956年)に立ち返るよう求め、ロシア側がそれを受け入れたのに、その後、再び日本側が4島返還路線に戻ったと批判している。そして柔道用語の「引き分け」を持ち出して日本側に妥協を迫る。タフ・ネゴシエイターの面目躍如と言えよう。

 日本政府は、このプーチン氏と再び切り結ばなければならないが、この問題が発生してからすでに66年も経っており、これ以上解決を遅らすわけにはいかないのも現実である。では、日本側としてどう対応すべきか。以下に3点を上げてみたい。

 第1に、日本にとってプーチン氏は最強だが、最良の交渉相手とも言える。領土交渉に一番通じていて、法律家として決着を付けるべきだと主張しているからだ。しかも、一時に比べ支持率は下がったとはいえ、政党や官僚だけでなく、領土問題解決に必須な軍隊をも説得できる力をもっている。大統領の任期が今回から6年に延びたのはむしろ好都合である。この間に何としても解決に結びつけたいところだ。

 第2に、領土交渉では解決の入口論でとどまらず、出口論を積極的に議論すべきだ。日本政府は現在、「4島の日本への帰属確認」を譲れない一線としているが、すでにロシア側に拒否されたもので、いつまでもそれに固執していれば解決が先送りされるだけだ。2島プラスアルファ、あるいは3島返還論も視野にいれて解決の道を模索すべきではないか。中国との領土問題だけでなく、最近のロシアの領土問題はいずれも「ウインウイン」の解決案、つまり、双方が譲歩する形で解決に至っている。

 第3に、これが一番肝心だが、日本政府が領土交渉に耐えられるよう、政権基盤を固めることである。最近の政権のように毎年交代していては、国家の尊厳に関わる領土交渉を持ちこたえられないだろう。それ以前に、ロシア側が本気で交渉に加わろうとしないだろう。

 国内には4島一括返還にこだわる意見も根強くあるが、両国に世論があり、国民の意向を無視しては交渉での解決はおぼつかない。そのためには政治家や外交官に任せるのではなく、国民自身が現実を直視して、この問題に対する議論を深める必要があると思う。できればロシアの国民ともこの問題で議論し、両国関係を発展させる方向で解決策を模索していくべきだ。長年ロシアをウオッチしてきた筆者としても、相互理解に貢献したいと考えている。(終わり)


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プーチン首相、「反プーチン派自ら不正選挙を計画」と発言、波紋が広がる!

2012年03月01日 18時02分52秒 | Weblog
3月4日のロシア大統領選を直前に控え、プーチン首相が反プーチン派を中傷あるいは威嚇するような発言を行い、波紋を広げている。リベラル派の野党などが一斉に反発しており、選挙運動の終盤で一波乱起きる可能性も出てきた。

 ロシアのインタファクス通信などによると、プーチン首相は29日、自身で設立した選挙運動組織「全ロシア国民戦線」の運動員らと会合を開いた際、「野党側は大統領選で不正投票を計画しており、それを不正選挙の証拠として提出するつもりだ」と発言した。さらに、首相は反プーチン派が指導者の中から「聖なる犠牲者」を探していると述べ、政権側の指導者が殺害される可能性を示唆したという。

 この発言は、野党側が自ら不正選挙を計画・実行し、政権側が行なったように見せかけ、選挙の無効化を画策しているというものだ。そのうえ、指導者暗殺まで計画しているという内容で、支持者の間に危機感を煽ろうという意図を感じさせる。これに対し、昨年暮れから下院選挙の不正抗議運動を中心的に推進してきたリベラル派などの組織は一斉に首相発言に反発する談話を出した。

 「左派戦線」のウダリツォフ代表は「政府の首相であり、大統領候補でもあるプーチン氏の声明は、無責任で挑発的な発言であり、社会を一層緊迫させるものだ。我々にはそのような計画はないし、ありえない。もしかしたら、権力の側がそういう計画を準備していることを隠そうとしているのではないか」と疑問を投げかけた。

 また、国民自由党共同代表のネムツォフ元第一副首相は「我々はプーチン首相の発言に真剣に対処しなければならない。首相がそうした犯罪が準備されていることを公言した場合、治安当局は犯罪を未然に防ぐ義務があるが、そうした行動をとらないとなると、首相自身が犯罪の共犯者ということになる」と厳しく批判した。

 プーチン首相の発言の真意は不明だが、投票日を前に選挙結果に非常に神経質になっていることは間違いない。首相陣営の目標は、1回目の投票で70%以上の得票率を獲得し、「一発当選」を勝ち取ることだが、一時は70%以上あった支持率がこのところ50-60%に落ち込んでいて、目標達成は微妙な情勢になっている。

 このため、首相は起死回生を狙って反プーチン派をおとしめる発言をしたのかもしれないが、いかにもKGB出身らしい、謀略的な感じの発言である。これでは野党ばかりでなく、国民のひんしゅくを買うのは明らかだ。今回の発言で首相の「一発当選」自体も怪しくなってきたとの見方が出ている。「口は災いの元」という格言はロシアにはないのだろうか。



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