飯島一孝ブログ「ゆうらしあ!」

ロシアを中心に旧ソ連・東欧に関するニュースや時事ネタを分かりやすく解説します。国際ニュースは意外と面白い!

中村喜和・一橋大名誉教授、日本トルストイ協会で講演!

2019年09月29日 09時50分35秒 | Weblog
 (写真を使いながら講演する中村喜和・一橋大学名誉教授。画面に映っているのはカナダの博物館にあるトルストイ像)

 ロシア文化研究の権威である中村喜和・一橋大学名誉教授は9月28日、東京・世田谷区の昭和女子大学で開かれた日本トルストイ協会の総会で講演した。テーマは、ロシア正教の典礼改革に反対してカナダに移住したドゥホボール教徒と、ロシアの文豪・トルストイとの交流をめぐる物語で、会員ら数十人が熱心に聞き入っていた。

 昭和女子大学は、レフ・トルストイの理想とする「愛と理解と調和」の教育に共感し、私塾「日本女子高等学院」を開講したのが始まり。2020年には学園創立100周年を迎えるため、昨年12月8日から17日まで光葉博物館でプレイベントとして、トルストイの玄孫(やしゃご)ナターリア・トルスタヤの絵画展を開催している。日本トルストイ協会は、トルストイの作品や実践活動を通じて自分自身や時代を見つめ直そうと設立され、年2回講演会(うち1回は兼総会)を開いている。

 講師の中村名誉教授は、ロシア文化史、日露文化交流史が専門で、『聖なるロシアを求めて』(平凡社)や『ロシアの空の下』(風行社)など、多数の著書や訳書がある。1999年にはロシア科学アカデミーから「ロモノーソフ記念金メダル」を受賞している。

 この日の講演のテーマは、中村教授がライフワークにしているロシア正教の分離派に関するもので、2001年に教授自身がカナダへ現地調査に出かけてその調査をもとに、写真を使いながら講演した。この問題の起源は、ロシア正教の総主教ニコンが1654年、宗教儀式の改革に手を付けたことに始まる。改革派は反対派を迫害したため、反対派は辺境の地に移住するなどしたが、その中の一部は海外に移住して自分たちの儀式を守り通した。今回のドゥホボール教徒は18世紀ごろ、ロシア南部に現れ、改革派にコーカサス地方に強制移住させられるなど、迫害を受けた。

 トルストイとの出会いは1894年、教派の代表者ベリーギンがモスクワの監獄でトルストイと面談したことから始まった。ベリーギンはカナダへの移住を計画していて、そのための費用をトルストイに依頼した。教派の願いに共感したトルストイは移住費用を捻出するため、長編小説「復活」を執筆、その印税を寄付したとされる。

 中村教授はカナダに住む友人を通じてバンクーバー周辺のドゥホボール教徒を紹介してもらい、約1週間滞在して彼らの生活ぶりや宗教活動などを調査した。教徒たちの祝日の儀式にも参加し、挨拶した。その模様は後日、現地の新聞記者の取材に応じて話をし、その記事が新聞に掲載されたという。ソ連時代末期には、教徒の間で祖国帰還運動が盛り上がり、代表がゴルバチョフ大統領に会い、祖国帰還を認可するよう要請し、大統領もそれを受け入れる予定だった。ところが、1991年のクーデター未遂事件で大統領がクリミア半島に軟禁され、帰還計画はご破算になったという。

 中村教授は「年配の教徒はいまでもロシア語を話し、故郷への熱い想いを訴えていた。カナダへの移住から100年以上経っても故郷へ帰りたいという思いが非常に強いのに驚いた」と語っていた。我が国の学会でも、ロシア革命への分離派教徒の影響力を巡って論争が起きている。宗教が人生に与える影響をほとんど感じたことのない筆者にとって非常に興味のあるテーマで、講演を拝聴しながら色々考えさせられた。(この項終わり)





 
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モスクワ市議選、与党「統一ロシア」が敗北し、野党側が大躍進!

2019年09月10日 09時10分26秒 | Weblog
 反プーチン勢力の抗議運動で注目を浴びたモスクワ市議選(定数45)の投票が9月8日に行われ、与党「統一ロシア」が前回の38議席から9議席に大幅に議席を減らし、事実上敗北した。今回の統一地方選は全体的に見ればプーチン大統領支持の与党が優勢だが、お膝元の首都で野党勢力が躍進する結果となり、政権維持に黄信号が灯った。

 現地からの報道によると、統一ロシアの議席獲得は9議席にとどまり、前回の38議席から大幅に減少した。象徴的だったのは、統一ロシアのモスクワ支部トップであるアンドレイ・メテルスキー候補が落選したことだ。これに対し、野党側は20議席を獲得した。このうち、民主派の「ヤブロコ」と左派の「公正ロシア」が、それぞれ3議席を獲得した。両党とも前回は当選者がゼロだっただけに、大躍進となった。野党の20議席は野党指導者、ナワリヌイ氏が率いる「賢い投票」の支持を受けており、今後ナワリヌイ氏の影響力が一層強まりそうだ。

 このほか、プーチン政権に是々非々の態度をとっている共産党が前回の5議席から13議席に大幅倍。また、自民党や「祖国」も議席を獲得しており、野党全体の議席は倍増した。このため、与党側から早くも議会解散の声が上がっており、今後の状況によっては再選挙となる可能性もある。

 今回の市議選をめぐる市民の抗議運動は、与党が野党や無所属派候補の締め出しを図ったのがきっかけだった。当初は、申請書類の不備を理由に立候補を届け出た233人のうち、57人もの立候補を認めなかった。激しい抗議運動を受けたものの、与党側は57人中、1人の立候補を認めただけで、56人は被選挙権を行使できなかった。抗議運動を受け、与党側は公認候補を立てず、無所属で立候補したが、当選者は前回の4分の1に止まった。

 モスクワはロシアの首都であり、インテリや各界の有力者が多数住んでいるだけに、国家の将来の針路を暗示する傾向が強い。今回の選挙結果に与党のみならず、プーチン大統領自身も衝撃を受けているに違いない。この結果をどう受け止め、今後の国政にどう反映させていくのか。プーチン大統領の人気が落ち気味のため、今後プーチン政権がどういう施策を展開していくのか、注目される。(この項終わり)
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モスクワ市議選、立候補を拒否された57人中、1人しか認められず!

2019年09月02日 11時42分39秒 | Weblog
 9月8日のモスクワ市議会選挙(定数45)をめぐり、立候補を拒否された57人が届出を受理するよう選管や裁判所に訴えていたが、8月末の時点でその後、届出を受理されたのは1人だけだった。それも野党の民主派政党「ヤブロコ」(りんごの意味)のミトローヒン代表だけで、その他の政党や独立系候補の立候補は認められないまま、投票日に突入しそうだ。

 9月2日付けのロシア有力紙コメルサント(電子版)によると、市議選の立候補は6月5日に締め切られ、その時点では233人が届け出た。ところが、市選管は必要とされる市民の署名などに問題があった、などとして57人の立候補を拒否した。これらは独立系や野党の候補が大半で、7月中旬から抗議運動を開始した。7月20日の集会には2万人以上が集まるなど、抗議の輪が広がり、市当局は7月27日、デモ参加者約1400人を拘束するなど、強硬な手段に打って出た。だが、抗議の勢いが収まらないため、当局側は無許可デモを呼びかけたとして著名な野党指導者、ナバリヌイ氏らを拘束した。

 一方、立候補を拒否された57人中、23人が市選管に異議申し立てを行った。これを受け、市選管は書類の再点検を行い、ミトローヒン候補だけ届出を受理したが、そのほかは再度拒否した。このため市裁判所に訴えた候補もいるが、今のところ受理を認められそうな候補はいないという。このため、9月8日の投票日には228人の候補者により、45議席が争われ、平均5倍の競争率になる見通しだ。

 9月8日のモスクワ市議選は、統一地方選挙の一環として行われ、ロシア全体の政治状況を左右しかねない重要な選挙だ。特に、高い支持率を誇ってきたプーチン大統領の人気に陰りが出ている時だけに、大統領への批判票がどこまで増えるか、注目される。独立系世論調査団体レバダセンターが7月に実施した調査では、1924年の次期大統領選へのプーチン氏の続投を望まない人が約4割に達しており、プーチン陣営は危機感を感じつつある。(この項終わり)

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