飯島一孝ブログ「ゆうらしあ!」

ロシアを中心に旧ソ連・東欧に関するニュースや時事ネタを分かりやすく解説します。国際ニュースは意外と面白い!

チェルノブイリ原発事故で小児がん患者の治療・研究を続けてきたロシア人医師が日本人に“恩返し”の来日!

2011年11月25日 12時47分45秒 | Weblog
 「チェルノブイリ原発事故のとき、最初に支援に来たのは日本の医師たちで、色々助言をしてくれた。今回は私たちの経験を日本側に提供したい」。ロシア国立小児血液・腫瘍・免疫研究センター長のアレクサンドル・ルミャンツェフ医師は22日、東京・内幸町の日本記者クラブで講演し、来日への思いを語った。

 この研究センターは、日本で言えば国立小児がんセンターで、原発事故で被爆した約10万人の子どもたちのデータを蓄積し、6000人以上を治療してきた。ルミャンツェフ医師は25年前の事故当時、現地で治療にあたり、その後も患者の治療をする傍ら、治療データの分析や人体への影響などを調査してきた。今回は以前から交流のある千葉県がんセンターの中川原章センター長に働きかけて来日が実現、18日に千葉市内で開催されたシンポジウムで研究成果を報告した。

 日本記者クラブでの講演では、パワーポイントを使いながら、1986年から2006年にかけての子どもの甲状腺がんの地域別発生率や死亡した子どもと大人の諸臓器における放射性物質セシウム137の濃度を詳しく説明した。放射線量の非常に高いロシア・ブリャンスク地域では、被ばく児の甲状腺がん発生率は10万人当たり8・5人で、被ばくしなかった児童の平均発生率0.4人を大きく上回った。また、ベラルーシのゴメリ地域で死亡した人の臓器別調査では、大人の場合、セシウム137の濃度は臓器ごとに大きな差異はなかったが、子どもでは甲状腺での濃度が他の臓器と比べ、桁外れに高かった。

 ルミャンツェフ医師は25年間の調査・研究で分かったこととして①小児甲状腺がんは被ばく後、4、5年後に発症②甲状腺がんの発生しやすい被ばく年齢は3歳以下と15歳から18歳にピークがある③被ばく後、6年から発生が増加し、13年にピークとなり、28年まで継続する、などをあげた。小児甲状腺がんが多発した理由として同医師は「もともとヨウ素不足の地域で、事故後、ヨウ素を吸収しようとして放射性ヨウ素を吸収しすぎた。日本では、ヨウ素が多く含まれている海草類を食べるので、甲状腺がんがそれほど深刻な事態にならないかもしれない」と述べた。

 講演後の質疑応答で、チェルノブイリ事故での甲状腺がんによる子どもの死者数を聞かれたのに対し、「きちんとした数字はない。ほとんどの場合、がんの転移があるので特定しにくい。ただ、甲状腺がんは早期に発見すれば治療できる」と答えた。また、今後の小児がん対策について「今一番の問題は、放射性物質の危険性を自分で探ることができず、誰も正しい情報を与えてくれないことだ。それには25年間研究してきた人の意見を聞くことが一番確実だ」と指摘し、具体的な予防策として①衣服ををきちんと洗濯し、家に入る前に手洗いを励行する②野菜や果物はきちんと洗う③ビタミンやミネラルを毎日摂取する、などをあげた。

 さらに、ルミャンツェフ医師は危険を予知できないことからストレスや心身症が生じる「チェルノブイリ症候群」への対策も重要だと述べ、カウンセラーら専門家を集めて予防策を取るよう提案した。続けて、放射線量の計測や食品や飲料水の汚染度調査を継続して行う必要性を強調。「私たちの経験を日本側に戻すことによって、私たちが見つけられなかった低放射線量の問題も分かってくると思う」と、今後とも日露が協力して被ばく対策を進めるよう提言した。 

 ルミャンツェフ医師はベテラン医師らしく、淡々と研究成果を発表したが、日本のメディアに対し「我々が25年間にわたり積み重ねてきた経験を日本に広めていただきたい」と述べたくだりでは、声に力が入った。長年の治療と研究に裏打ちされた経験が、日本で生かされるよう願う気持ちが強く感じられた。
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メドベージェフ・ロシア大統領、野田首相と初会談、「政治」より「経済」優先を強調!

2011年11月14日 09時55分14秒 | Weblog
 野田首相とメドベージェフ大統領との初の首脳会談が12日、米ハワイ・ホノルルのホテルで行われた。大統領は「日露間の政治対話の発展を歓迎する」と述べながら、「経済貿易関係が近年、最高のレベルに達していることに満足している」と、日本との経済協力を優先する姿勢を強調した。会談後、記者団に「北方領土問題でヒステリックになるべきではない」と語り、領土問題に固執する日本側をやや感情的に批判した。

 首脳会談のやり取りは、日本外務省のレクチャーでしかわからないが、それによると、野田首相がまず「領土問題を解決し、平和条約を締結する必要性がある。交渉は日露両国で達成された諸合意に基づき行う必要がある」と述べ、両首脳は領土問題の解決の必要性を再認識し、“静かな環境”で解決に向けて実質的な議論を進めることで一致した、とされる。

 だが、タス通信によると、大統領は会談後、記者団(大半はロシア人記者団か)に対して「このテーマ(北方領土問題)を大げさに取り上げ、ヒステリックになるべきではない」と述べたうえ、クリル諸島(北方領土)はロシア領であり、大統領には北方領土を訪問する根拠と権利があることを強調した。大統領は昨年11月の国後島訪問で、日本側から強く批判されたことを今もネにもっているようだ。

 続けて大統領は「日本の投資家がクリル諸島を訪問し、日本の専門家が共同開発のため、クリル諸島にやってくることに反対しない」と述べ、日本との共同開発については推進する意向を示した。さらに「政治は経済の後を進むべきだ。なぜなら、経済は我々の生活の基礎となるが、政治はしばしば生活を悪くするからだ」と述べた。これが日露関係において経済を優先する理由というのだろうか。

 大統領が政治を必要以上に悪く捉え、経済を持ち上げるのには違和感を感じる。国家を代表し、外交を統括する大統領の発言というより、経済を中心に内政を担当する首相の発言のようにみえる。対日関係でヒステリックになっているのは、むしろメドベージェフ氏なのではないだろうか。メドベージェフ氏にとって、北方領土問題は一種のトラウマなのかもしれない。
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ロシア・プーチン首相の支持率が2割もダウン、12月の下院選挙に黄信号!!

2011年11月09日 10時03分09秒 | Weblog
 ロシアの次期大統領選を占う下院選挙まであと3週間余りとなったが、大統領選に立候補するプーチン首相の支持率が61%に下がったことが分かった。昨年まで80%前後の支持率を誇っていたが、この1年間に20%近くも下がったことになる。政権与党の支持率も大幅にダウンし、プーチン首相、メドベージェフ大統領の二人三脚で進めてきた双頭政権体制に黄信号がともった。

 ロシアの世論調査機関・レバダ・センターが10月終わりから11月初めにかけて行なった調査で明らかになった。8日のコメルサント紙(電子版)によると、12月4日の下院選挙で与党の「統一ロシア」に投票すると答えた人は51%にとどまった。2週間前の調査では60%が投票すると答えており、この間に1割近くが他党の支持に回ったことになる。この数字から得票率を割り出すと、全議席(450)が比例代表制なので獲得議席は252で、3分の2を獲得した4年前の選挙時(315議席)に比べ、大幅に議席を減らすことになる。

 逆に野党の共産党、自由民主党に投票すると答えた人は前回調査よりも3%増え、議席数に換算すると共産党は99議席(前回選挙では57)、自由民主党は67議席(前回は40)となる見通し。同じく野党の「公正ロシア」も議席獲得に必要な得票率7%に達しそうだ。リベラル派のヤブロコは4%で、今回も議席獲得は難しい情勢だ。

 注目の双頭政権の支持率では、プーチン首相、メドベージェフ大統領ともダウンしていて、とくに次期首相を約束されているメドベージェフ大統領が57%にまで落ち込んだのが目立つ。1年前には77%だったのでちょうど20%下がったことになる。プーチン首相も61%で、これまでずっと70ー80%の支持率を誇ってきただけに「地すべり的な低下」と見られている。

 なぜ、これほど支持率が下がったのか。レバダ・センターのグラジダンキン副社長は「9月下旬の与党大会で首相と大統領が交代することが決まったが、すでに選挙前に事実上交代が行われていることに有権者が怒っているのかもしれない」と見ている。また、政権側は給料や年金のアップを選挙の公約にしているが、些細な上昇にとどまるとの予測も影響しているとみられる。

 さらに、メドベージェフ大統領の支持率が大幅に低下したことについて副社長は「メドベージェフ大統領を支持したグループは、3年間の大統領の実績が期待はずれに終わったことから、支持者離れを起こしている」と分析し、双頭政権が衰退していることを指摘している。だが、双頭政権が直ちに崩壊するとは予測していない。

 野党側はこの調査結果について「与党に対する有権者の認識に大きな変化が起きている」と歓迎している。ヤブロコのミトロヒン代表は「与党の実際の支持率は世論調査の結果よりも低いと思う。われわれは下院選挙で与党の過半数割れを目指して戦いたい」と語っている。一方、与党幹部は「この調査結果でも、与党は下院の全議席の6割を占めることになる」と述べ、敗色濃厚との見方を否定している。

 この世論調査の結果からははっきりわからないが、プーチン氏はすでに2000年の大統領就任から12年間も最高権力者の地位にあり、さらに今後12年間国家を統治する可能性が強いことに国民の拒否反応が起きつつあるように思う。プーチン首相もそれを自覚しているからこそ、「全露国民戦線」を結成するなど、支持層の拡大に努力しているのだろう。だが、メドベージェフ大統領の支持率大幅低下も加わり、双頭政権が機能不全に陥っていることは明らかだ。プーチン首相は残された短い期間に、国民の幅広い支持を回復することができるだろうか。

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メドベージェフ露大統領は、インターネットをやりすぎてプーチン首相に再選を止められた!?

2011年11月03日 22時37分15秒 | Weblog
 このほどロシアで、国内IТ産業関係者が一堂に会する「インターネット週間フォーラム」が開かれた。その休憩時間中に、参加者の間で広まったアネクドート(小話)が話題になっている。プーチン首相がメドベージェフ大統領に、来春の大統領選への立候補を許さなかったのは、メドベージェフ氏がインターネットに時間をかけすぎているからだ、というのである。

 このアネクドートをモスコー・タイムズ紙で披露したのは、ビジネス専門誌編集長のアレクセイ・パンキン氏だ。同氏は「どのアネクドートにも真実が含まれていると言われる」と前置きし、「ロシア第一のブロガーといわれるメドベージェフ氏の名声も、彼の評判の役には立たなかったということだ」とコメントしている。

 メドベージェフ氏は早くからパソコンや携帯電話を使いこなし、ツイッターにも精通している。しかも、大統領としてのツイッターと個人用を併用し、しばしばその内容がロシアのメディアを飾っている。だが、いくらツイッターで発信しても国民の間で話題になることは少ない。なぜなら、ネットで国民が検索しているのは健康やスポーツが半数で、政治への関心は20%たらず。旅行情報よりも関心度が低いというのが世論調査の結果で分かっているからだ。

 もちろん、ロシアでもインターネットが急激に普及し、12歳以上の国民約6千万人が少なくとも月に1度使用し、約4千万人が毎日ウェブサイトを使っている。だが、ネットの記事を読んで社会問題に積極的になる人の数は限られているのだという。最も人気のあるブロガーの1人はゴミ一掃キャンペーンを提唱しているが、動員できる人は全国で1万6千人程度だという。

 一方、旧ソ連時代には1千万人もの人々が土曜日労働運動や地方の清掃運動に参加していた実績がある。主催は労働組合やコムソモール(青年団体)などの共産党組織で、彼らの努力で大人から子供までこうした運動に駆り立てていたのである。プーチン氏としてはこうした役割をメドベージェフ氏に期待していたのではないかとパンキン氏は推測している。

 しかし、プーチン氏はまだ、その役割をメドベージェフ氏が果たすことを諦めていないとみている。その証拠に、プーチン氏はメドベージェフ氏を12月の下院選挙の比例代表制名簿のトップに指名しているからだ。そうだとすれば、プーチン氏は少なくとも旧ソ連共産党の手法の復活を目指していることになる。彼が急造した「全ロシア国民戦線」も同じ発想だろう。

 肝心のメドベージェフ氏は、今回の大統領選候補者選びでリベラル派という看板を背負っているプーチン氏の分身であることが国民にバレてしまった。そうなった以上、若者やインテリの票を大量に集めることはできないだろう。プーチン氏の狙いは肩透かしを食う可能性が高い。そうなってもプーチン氏は大学の後輩のメドベージェフ氏を抱えていけるだろうか。すべては、下院選挙でプーチン首相率いる与党が前回の選挙同様、3分の2以上の議席を獲得できるかどうかにかかっている。

 
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