※カンの鋭い人は注意。※映画の核に触れる部分もあります。
鑑賞ご予定の方は、その後で読んでいただいた方がより楽しめるかも。
(原題:Das Leben des Anderen)
----これって来年度のアカデミー賞の
ドイツ映画代表なんだよね?
フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク?
まったく知らない監督だけど?
「うん。ぼくも知らなかった。まだ33歳の新人らしい。
でもドイツからは『ヒトラー~最期の12日間~』『戦場のアリア』と、
2年連続で骨太な映画がアメリカに乗り込んでいる。
だからこの映画もある程度のレベルは行くんじゃないかなとの予感はあったけど、
まさかここまでの興奮を与えてくれるとは
このキービジュアルからは想像もできなかった」
----確か、左下にヘッドホンをした男の人がいて、
右上にはピアノを前にして
恋人みたいなカップルがいる絵柄だよね?
これってニャんのこと?
「うん。じゃあ、まず物語を話すことにしよう。
舞台は1948年、東西冷戦下、東ドイツのベルリン。
ヘッドホンの男は国家保安省(シュタージ)に勤めるヴィ-スラー。
彼は、劇作家のドライマンと舞台女優である恋人のクリスタが
反体制的であるという証拠を掴むように命じられる。
キービジュアルの上に配置されているのは
このドライマンとクリスタだ」
----なぜ彼らが目をつけられたの?
「どこの国でもそうだけど、
芸術家というのは当局の思惑を超えた活動をする。
自分の内面の声に耳を傾けるからだね。
同じように宗教家も神の声に耳を傾けるわけだけど、
彼らの場合は少し特殊な事情があった。
国家保安省のヘムプフ大臣がクリスタに対して
性的欲望を抱いてしまうんだ。
彼の意を受けた国家保安省の文化部長は
そこでふたりの監視をヴィースラーに命じる。
わずか20分足らずでドライマンの家に盗聴装置を
仕掛ける国家保安省のメンバーたち。
かくして彼らの生活はすべてヴィースラーに筒抜けになってしまう。
仲間たちとのパーティでの会話はおろか、
ドライマンとクリスタのセックスに至るまで…」
----怖いね。自分の私生活が全て知られてしまうなんて。
「そうなんだよね。
しかもこのヴィースラーが実にイヤな性格で、
クリスタが大臣の車の中で体を奪われたこと気づくや、
その現場をドライマンに目撃させ、
ふたりの間に波風を立てようとする」
----うわあ。最悪の男だ。
「ところが、
盗聴を重ねるうち、
ヴィースラーに、ある変化が起こる。
自由な彼らの空気に影響され、
自分の生活に混乱が生まれるんだ。
そのもやもやを娼婦を呼んでまぎらわせたり、
ドライマンの部屋からブレヒトを持ち出して読んだり。
そんなある日、当局から活動を禁止されていた
演出家イェルカが自殺するという事件が起こる。
その日、ドライマンは彼からプレゼントされていた
“善き人のためのソナタ”を弾く。
それを聞いているうちにヴィースラーの目から
ひとすじの涙が流れる。
イェルカいわく
この曲は『本気で聞いた者は、悪人になれない』」
----ニャるほど。ヴィースラーは
その言葉も盗聴で知っているわけだから、
心を大きく揺り動かされるよね。
「そうなんだ。
映画が真にオモシロくなるのはここから。
イェルカの死にショックを受けたドライマンは
国家が発表していない
東ドイツでの恐ろしく高い自殺率を西側メディアに報道させようと動き始める。
一方、クリスタは大臣と密会しようとして
それに気づいたドライマンと気まずい関係になる。
映画は、盗聴されていることに気づいていない
ドライマンたち芸術家グループに対して、
自由や芸術に目覚めたヴィースラーが
どう行動を起こすか、
その過程をスリリングに映し出してゆく」
----ということは、映画はまだまだ続くんだ。
長いお話だね?
「うん。最初は138分と聞いて
正直、腰が引けたけど、
まったくその長さを感じさせない。
ぼく自身、最初は登場人物一人ひとりの顔、
それにそれぞれの役柄を把握しきれなくて、
大丈夫かなとも思ったけど、
中盤から後半にかけては
それこそ前のめりになってスクリーンを見つめていたね。
映画は観る者の<読み>を翻弄するかのように
どんどん先へ先へと突っ走っていく」
----一歩先も読めないの?
「少なくともぼくはそうだったね。
映画を観ている時って、
観客は普通『こうなってほしいな』という
物語展開の予測を無意識ながらも立てるよね。
それは普段の自分の考え方、そして生き方から生まれてくる。
でもこの映画の場合、
クリスタの立ち位置が微妙。
大臣に身を委ねることを
彼女はほんとうに嫌がっているのか?
自分の身の安全確保のためには
それもやむなしと思っているのではないか?
その描き方のさじ加減と、観る人の信条。
このふたつの絡み合いによって
いわゆる<望みうる展開>は大きく違ってくる。
クライマックスでクレスタは
ドライマン密告の決断を迫られるわけだけど、
そこで観客は、彼女の行動がどっちに転ぶのか読みきれない。
と言うよりも
どちらに転ぶのが望ましいのかは
それこそ観る人の判断基準によって変わってくるわけだ。
これは、ほんとうにスリリングな体験だったね」
----ニャるほど、密告、裏切りもテーマとして描かれてくるんだね?
「そう。
実はこのヴィースラーを演じたウルリッヒ・ミューエ自身も
国家保安省に監視を受けていたらしい。
しかも自分の妻であり女優のイェニー・グロルマンに
10数年間も密告されていたということを
なんと2001年に知ったのだとか。
その記録は254ページにもわたるファイルがあるんだって。
もっとも夫人は国家保安省が偽のファイルを作ったと
主張しているんだけどね」
----う~ん。それもありそうな話だニャあ。
「映画的には旧東ドイツの再現も見モノだね。
“異様な静けさ”の雰囲気を表すために
音声には
なんとデジタル録音ではなくアナログ音が使われている。
とにかくもう一度は観たい映画だね」
(byえいwithフォーン)
※絶対にもう一度観たい度
人気blogランキングもよろしく
☆「CINEMA INDEX」☆「ラムの大通り」タイトル索引
(他のタイトルはこちらをクリック→)
※画像はドイツ・オフィシャルサイトの壁紙です。
鑑賞ご予定の方は、その後で読んでいただいた方がより楽しめるかも。
(原題:Das Leben des Anderen)
----これって来年度のアカデミー賞の
ドイツ映画代表なんだよね?
フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク?
まったく知らない監督だけど?
「うん。ぼくも知らなかった。まだ33歳の新人らしい。
でもドイツからは『ヒトラー~最期の12日間~』『戦場のアリア』と、
2年連続で骨太な映画がアメリカに乗り込んでいる。
だからこの映画もある程度のレベルは行くんじゃないかなとの予感はあったけど、
まさかここまでの興奮を与えてくれるとは
このキービジュアルからは想像もできなかった」
----確か、左下にヘッドホンをした男の人がいて、
右上にはピアノを前にして
恋人みたいなカップルがいる絵柄だよね?
これってニャんのこと?
「うん。じゃあ、まず物語を話すことにしよう。
舞台は1948年、東西冷戦下、東ドイツのベルリン。
ヘッドホンの男は国家保安省(シュタージ)に勤めるヴィ-スラー。
彼は、劇作家のドライマンと舞台女優である恋人のクリスタが
反体制的であるという証拠を掴むように命じられる。
キービジュアルの上に配置されているのは
このドライマンとクリスタだ」
----なぜ彼らが目をつけられたの?
「どこの国でもそうだけど、
芸術家というのは当局の思惑を超えた活動をする。
自分の内面の声に耳を傾けるからだね。
同じように宗教家も神の声に耳を傾けるわけだけど、
彼らの場合は少し特殊な事情があった。
国家保安省のヘムプフ大臣がクリスタに対して
性的欲望を抱いてしまうんだ。
彼の意を受けた国家保安省の文化部長は
そこでふたりの監視をヴィースラーに命じる。
わずか20分足らずでドライマンの家に盗聴装置を
仕掛ける国家保安省のメンバーたち。
かくして彼らの生活はすべてヴィースラーに筒抜けになってしまう。
仲間たちとのパーティでの会話はおろか、
ドライマンとクリスタのセックスに至るまで…」
----怖いね。自分の私生活が全て知られてしまうなんて。
「そうなんだよね。
しかもこのヴィースラーが実にイヤな性格で、
クリスタが大臣の車の中で体を奪われたこと気づくや、
その現場をドライマンに目撃させ、
ふたりの間に波風を立てようとする」
----うわあ。最悪の男だ。
「ところが、
盗聴を重ねるうち、
ヴィースラーに、ある変化が起こる。
自由な彼らの空気に影響され、
自分の生活に混乱が生まれるんだ。
そのもやもやを娼婦を呼んでまぎらわせたり、
ドライマンの部屋からブレヒトを持ち出して読んだり。
そんなある日、当局から活動を禁止されていた
演出家イェルカが自殺するという事件が起こる。
その日、ドライマンは彼からプレゼントされていた
“善き人のためのソナタ”を弾く。
それを聞いているうちにヴィースラーの目から
ひとすじの涙が流れる。
イェルカいわく
この曲は『本気で聞いた者は、悪人になれない』」
----ニャるほど。ヴィースラーは
その言葉も盗聴で知っているわけだから、
心を大きく揺り動かされるよね。
「そうなんだ。
映画が真にオモシロくなるのはここから。
イェルカの死にショックを受けたドライマンは
国家が発表していない
東ドイツでの恐ろしく高い自殺率を西側メディアに報道させようと動き始める。
一方、クリスタは大臣と密会しようとして
それに気づいたドライマンと気まずい関係になる。
映画は、盗聴されていることに気づいていない
ドライマンたち芸術家グループに対して、
自由や芸術に目覚めたヴィースラーが
どう行動を起こすか、
その過程をスリリングに映し出してゆく」
----ということは、映画はまだまだ続くんだ。
長いお話だね?
「うん。最初は138分と聞いて
正直、腰が引けたけど、
まったくその長さを感じさせない。
ぼく自身、最初は登場人物一人ひとりの顔、
それにそれぞれの役柄を把握しきれなくて、
大丈夫かなとも思ったけど、
中盤から後半にかけては
それこそ前のめりになってスクリーンを見つめていたね。
映画は観る者の<読み>を翻弄するかのように
どんどん先へ先へと突っ走っていく」
----一歩先も読めないの?
「少なくともぼくはそうだったね。
映画を観ている時って、
観客は普通『こうなってほしいな』という
物語展開の予測を無意識ながらも立てるよね。
それは普段の自分の考え方、そして生き方から生まれてくる。
でもこの映画の場合、
クリスタの立ち位置が微妙。
大臣に身を委ねることを
彼女はほんとうに嫌がっているのか?
自分の身の安全確保のためには
それもやむなしと思っているのではないか?
その描き方のさじ加減と、観る人の信条。
このふたつの絡み合いによって
いわゆる<望みうる展開>は大きく違ってくる。
クライマックスでクレスタは
ドライマン密告の決断を迫られるわけだけど、
そこで観客は、彼女の行動がどっちに転ぶのか読みきれない。
と言うよりも
どちらに転ぶのが望ましいのかは
それこそ観る人の判断基準によって変わってくるわけだ。
これは、ほんとうにスリリングな体験だったね」
----ニャるほど、密告、裏切りもテーマとして描かれてくるんだね?
「そう。
実はこのヴィースラーを演じたウルリッヒ・ミューエ自身も
国家保安省に監視を受けていたらしい。
しかも自分の妻であり女優のイェニー・グロルマンに
10数年間も密告されていたということを
なんと2001年に知ったのだとか。
その記録は254ページにもわたるファイルがあるんだって。
もっとも夫人は国家保安省が偽のファイルを作ったと
主張しているんだけどね」
----う~ん。それもありそうな話だニャあ。
「映画的には旧東ドイツの再現も見モノだね。
“異様な静けさ”の雰囲気を表すために
音声には
なんとデジタル録音ではなくアナログ音が使われている。
とにかくもう一度は観たい映画だね」
(byえいwithフォーン)
※絶対にもう一度観たい度
人気blogランキングもよろしく
☆「CINEMA INDEX」☆「ラムの大通り」タイトル索引
(他のタイトルはこちらをクリック→)
※画像はドイツ・オフィシャルサイトの壁紙です。