ラムの大通り

愛猫フォーンを相手に映画のお話。
主に劇場公開前の新作映画についておしゃべりしています。

『レッド・ファミリー』

2014-08-26 13:42:23 | 新作映画
(原題:Red Family)

「それでは今日は観たばかりの『レッド・ファミリー』のお話から」
----えっ?それってキム・ギドクの映画だよね。
世界では注目されているけど、
韓国ではなぜか興行的に恵まれないという…。
「うん。
韓国映画は最近、かなり鮮烈な映画を送りだしているけど、
このキム・ギドクは彼らとは別の地平に入る。
他の作家たちが、アクションや恋愛ものという
比較的わかりやすいジャンル・ムービーを手掛けているのに対して、
彼の作品はいつも一言では説明がしづらい魔術的な部分がある。
ただ、この映画では彼自身は製作・脚本・編集に回り、
監督は、長編ではこれが初となるイ・ジュヒョンが務めている。
でも、それが別の意味で、
キム・ギドクという作家の個性をより浮き彫りにしているんだ」

----どういうこと?
「うん。はっきり言って
ぼく自身はこの映画に
映像面ではドキッとさせられるようなところはさほどなかった。
ところが、クライマックスでは
涙がとめどなく流れてくるんだ」

----それは脚本が巧いということなのかニャ?
「それと、俳優の演技ね。
もちろん、これは監督が引き出したものでもあるワケだけど、
やはり、この映画は、作劇だろうなあ」

----そもそも、どんなお話ニャの?
「そうだね。
まずはそこから。
簡単に言うと、
北朝鮮から
ある平凡な一家を装って送り込まれた老若男女4人のスパイが、
隣に住む家族との交流の中で次第に人間的な感情に芽生えてゆく。
しかし…。
あっ、誤解がないように言うならば、
彼ら4人のスパイたちだって同じ人間。
もとより、ヒューマンな感情は持ちあわせている。
それは妻ベク・スンへ(キム・ユミ)役を演じている女性リーダーにしてもそう。
しかし、国に残してきた家族が人質状態。
つまり彼らが<北>の命令に従わなければ、
家族に害が及ぶ。
しかもその行動は、また別のグループによって監視されている。
だから、ふだんの言動にも気をつけなければならないんだ」

----その隣の家族って、どういう構成ニャの?
「おばあさんと、
夫婦。そして高校生の男の子。
ところがこの夫婦仲があまりよろしくない。
なかでも妻は浪費癖が激しく、
それを諌める夫には、
あんたの稼ぎが少ないからだと開き直る。
で、毎日のように衝突、喧嘩を繰り返している。
そんな隣人たちを見て
北からのスパイたちは、
これが資本主義社会の堕落の象徴だと、
初めはそう思う」

----しかし、それが変わっていくわけだニャ。
「うん。
そういう日常の些細なことで揉めること。
それが、ある意味、
気を使わないでいい“家族”の普通の姿…。
はっきりと口には出さないけど、
この4人のスパイたちにはその想いが次第に強まっていく。
だからこそ、
初めは同志の失敗を国に報告すると言いあっていた彼らも、
互いの家族のことを気にかける思いやりを持つようになる。
でも実はこれが彼らを窮地に陥れるワケだけどね」

----ニャにが起こったの?
「ある日、夫役チョン・ウ同志(キム・ジェホン)の妻が脱北。
それを知ったリーダーのベクは
国からの命令とは関係なく独断で、
韓国にいる、ある転向幹部の暗殺を実行。
手柄を立てることでその罪を軽減してもらおうとするんだ。
ところがそれが完全な裏目に出てしまう。
彼ら4人に下る自殺命令。
自分たちは仕方がないにしても国に残る家族だけはと助命するリーダー、ベク。
そこに下された非情なミッション…。
それは隣の家族を抹殺しろというもの」

----ひぇ~っ。
隣の人たちは関係ないじゃニャい?
「いやいや。
彼ら4人が軟弱になったのは、
隣の家族の影響があるからだと…。
簡単に言えばこういうことだ。
さあ、そこで4人のスパイが取った策とは?
映画はここが最も重要な部分。
このアイデアを考え出したキム・ギドク。
それにはもう、ただただ脱帽。
この映画、2013年の東京国際映画祭で観客賞を受賞
観た後、みんな目を真っ赤に腫らしていたとか」

----ふうむ。
でも、ラストが想像つかないニャあ。
「「そこなんだよ。
後味が悪いままに終わるのは、だれも嫌だよね。
そこでこの映画は、ある小さな“奇跡”を用意する。
その瞬間、ぼくはそんなに巧くいくの?
これは議論を呼びそうなラストだな--
と、最初はそう考えたんだけど、
いま思うにこれはキム・ギドク<希望><祈り>だね。
昨日、ツイッターでも紹介したけど、
ここでもう一回、そのギドクの言葉を紹介。
私自身が監督する映画は変わった題材の映画が多いですが、
「レッド・ファミリー」は温かく、感動的な映画です。
僕の映画は観なくても「レッド・ファミリー」は観ないと後悔します。
是非映画館の臨場感ある大きな画面で「レッド・ファミリー」の感動を感じてください。
この作品で利益が出れば、
北朝鮮の子どもたちを助けたいと思います
」(『レッド・ファミリー』プレスより抜粋)』」




フォーンの一言「最初はスパイ・コメディかと思ったのニャ」身を乗り出す

※キャッチコピーは「隣の芝生は、赤い」だ度

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猫ニュー

『愛しのゴースト』

2014-08-19 14:59:57 | 新作映画



----これって、『アナと雪の女王』を超える
大ヒットを記録したタイの幽霊映画だよね。
前にも似た現象があったような?
そのときも、確か大ヒットって騒がれた覚えが…。
「うん。『ナンナーク』だね。
あのときは“『タイタニック』を超える…”という触れ込みだった。
このお話、もとはといえば
『プラカノーンのメーナーク』というタイの昔話が基に。
そのお話とは、
プラカノーンの村で非業の死を遂げた女性ナークが、
戦場に赴いた夫への未練ゆえに悪霊となり、
おぞましい災いをもたらしたというモノ。
『ナンナーク』も、日本公開当時に観てはいるけど、
今回の方が、いろんな趣向を凝らしてあり、
遥かに楽しめたね」

----どういうところが違うの?
「前作はホラーにラブロマンスを交えた作り。
つまり原作に忠実ということなんだろうけど、
今回は、そこにミステリーと、スラップスティック・コメディが加わる」

----ミステリー?
ナークの死因に疑いありってこと?
「死因どころか、
ほんとうに死んでいるのはナークではなく、
夫のマーク、あるいはその友だちの方ではないか…。
と、物語の根本的な部分に関わってくる。
この描き方が実に巧くって、
冒頭近く、マークとその仲間が地獄のような戦場で
絶体絶命の危機に遭うシーンを挿入。
ところが次のカットでは、舟に乗って川を下り、
ナークの待つ村へ。
そこはシーンと静まりかえっていて、
それこそ、死後の世界のような不吉な空気が…。
観ている方も、
えっ、これってどっちが死んでいるの?
と、混乱してしまうんだ」

----ニャるほど。
ツイッターで
ミスリードが巧み」と言っていたのは、
そういうことだったか…。
それにしてもスラップスティックってのは?
「これはね。
マークの仲間に個性豊かな顔、そして性格の連中を揃えたこと。
なかでも最初に、ナークは幽霊なのでは?と疑った男は、
もっとも肝っ玉が小さい男。
びくびくしながらも、みんなの使いっぱしりで
ナークの元に行かなくてはならない。
さらには、ナークが美人なことから
隙あらば…と狙っているとんでもない男もいる。
そんな連中が、
マークを助けようとしたり、置きざりにして逃げようとしたり。
ついには、マークでもナークでもなく、
仲間内に幽霊がいるのでは…という騒ぎになってしまう。
で、みんなで小さなボートで脱出しようとするんだけど、
重量オーバーで沈みかけちゃう」

----あらら、どうするの?
「荷物を次々に捨て、
『赤ちゃん(ナークの)はダメ?』と聞く男も出てきたり…。
最後にはオールを捨て、ひと安心。
とはいかずに、みんなで手で漕いじゃう。」

----ほとんど、お笑いの世界だ(笑)。
「でも、
基本はマークとナークの愛。
果たしてだれが幽霊かということが明らかになった後の展開が
けっこう、しんみりしちゃう。
ある“真実の告白”を聞いた仲間たちも感動。
もっとも、その直前までは
寺の中で“霊幻道士”風のホラーコメディが展開されるんだけどね。
それと、ここは強調したいところなんだけど、
すべてが明らかになった後のエンドクレジットでの後日譚。
ここはほんとうに楽しい。
だれもが望むオチを用意してくれる。
懐かしさを誘うファンタジックな映像もGood!
これはもう一回観てもいいな」



フォーンの一言「カーニバルも出てくるらしいのニャ」身を乗り出す

※そう、お化け屋敷の中の幽霊というアイデアも楽しめた度

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猫ニュー

『記憶探偵と鍵のかかった少女』

2014-08-16 15:17:54 | 新作映画
※勘の鋭い人にはネタバレともなり得るかも。
ご覧になってから読まれることをおススメします。



(原題:Mindscape)



----『記憶探偵と鍵のかかった少女』。
変なタイトルだニャあ。
去年だっけ?それに似た感じの映画が…。
あっ、思い出した。『鑑定士と顔のない依頼人』だ。
でも“記憶探偵”ってニャによ。
「うむ。
じゃあ、そこから。
“記憶探偵”、それはひとことで言えば、
他人の記憶に潜入する特殊能力を持つ探偵”。
映画では、まずこの職業が生まれた背景について言及される。
『1970年代初頭、国防情報局は
超能力による諜報員の可能性を探って極秘実験に着手。
そこで人の記憶に入り、その体験を観察できるESP能力者を発見…』
というようにね」

----つまり、これはフィクションってことだニャ。
「そういうこと。
さらに映画は、
その記憶探偵がこの世界の中でどういう立ち位置にいるかも説明。
それによれば、
『記憶探偵の証言は証拠能力でDNAに劣るも、
ポリグラフ(嘘発見器)より信頼性は上。
詐欺だとの非難もあるが、
彼らは奥の未解決事件を解明してきた』」

----それは、また丁寧な説明…。
そんなの必要ニャの?
「うん。
それがこの手の映画の特徴。
あたかもフィルムノワールのような語り口で話が進んでいくものだから、
ついつい騙されやすいけど、
これは“いまのこの世界ではない、もうひとつの世界”。
極論すれば
パラレルワールド”のお話なんだ」

----あらら、それは少し言いすぎじゃニャいの。
急にSFチックな話に…。
「でも、突き詰めるとそういうこと。
ところがさっきも言ったように
語り口のせいで、
観ている方は
ついつい、そのことを忘れてしまう。
でも、これはオカルトホラーなどと同じで、
この世界の約束事を知った上で、
映画に臨まないと、
あちこちツッコミを入れたくなってしまう」

----ふうん。
で、その記憶探偵、
こんどはどんな事件に取り組むの?
「拒食症の少女アナ(タイッサ・ファーミガ)に、
食事をさせること」

----ニャんだそれ?(笑)
「簡単すぎる?
でもここがまた
この映画のもうひとつの“枠組み”作り。
マーク・ストロング扮する主人公ジョンは、
妻と息子を亡くした過去を持っていて、
その心の闇によって
自らの仕事に支障をきたしている。
経済的にも苦しく
持ち家を手放すかどうかというところまで
追いつめられているんだ。
そこで彼の上司セバスチャン(ブライアン・コックス)は、
彼に簡単な仕事を回したというワケ。
ところが実際にアナの記憶に潜入してみると、
彼女は信じられないような過去をいくつも抱えていた。
【継父からの虐待】【母親によって付けられた掌の傷】
【継父とメイドの不倫】【教師による性的虐待】
【クラスメイトの殺人未遂事件】…」

----そ、それは!?
「しかもいまアナは、
寄宿舎で手首を切ったことから
屋敷に連れ戻され、
専属看護師による24時間体制の監視下に置かれていた」

----それじゃあ、傷つくのも当たり前だ。
「だよね。
さて、アナがジョンに心を開き、
ようやく食事を摂ったのもつかの間、
看護師のジュディス(インディラ・ヴァルマ)が階段から転落して
重傷を負うという時間が起こる。
継父(リチャード・ディレイン)はアナが突き落としたのだという。
だが、アナによると
母親(サスキア・リーヴス)の財産を狙う継父が自分を施設に入れるための罠だという
さあ、果たして真相は?」

----やっと、本題に入ってきた。
でもフォーンは、もう先が読めたニャ。
フィルムノワールが軸だったら、
それに欠かせないのは“ファムファタル”。
「あらら。
そこまで言っちゃうか。
果たしてそのフォーンの推理が正しいかどうか?
いずれにしろ映画は、このあと、
とんでもない展開を見せていく。
それはそれで、ブライアン・デ・パルマのミステリーを観ているようで、
なかなかオモシロかったんだけど、
正直、よく分からないところも。
途中、主人公の前に姿を見せる謎の男の正体とか・・・。
そういう意味で、
一夜明けた今もかなりもやもやしている。
だれか後で、説明してほしいな。
いや、もう一回観てみるかな」

----うん。それがいいだろうニャ。
「あらら」



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※スペインの新鋭ホルへ・ドラド。本作でゴヤ賞新人監督賞ノミネートだ度

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『イントゥ・ザ・ストーム』

2014-08-05 14:07:43 | 新作映画
(原題:Into the Storm)



----いやあ。ほんとうに暑いニャあ。
10年前に、映画のお話を聞き始めた頃より、
さらに暑いみたい。
エルニーニョで冷夏と聞いていたけど、
もう信じられニャい。
「ほんと、このごろの天候はおかしいよね。
竜巻注意報なんかも出たりして、
子どもの頃、竜巻と言ったら
アメリカ、カンザスの話かと…」

----おっ、今日は『オズの魔法使』
「いやいや。
新作の『イントゥ・ザ・ストーム』

----ああ、あれか。
噂には聞いていたけど、
ニャんだか『ツイスター』の二番煎じのような…。
「うん。まさに。
基本設定はほとんどあれと変わらない。
『ツイスター』では、
シュ淫行は竜巻に極限まで近付く“竜巻研究者夫婦”。
一方、本作『イントゥ・ザ・ストーム』では
研究者というよりも、
その撮影によって大金を得ようとする“ストームチェイサー” が軸となる。
そこに、竜巻に襲われた町の人々の話が絡んでくる」

----『ツイスター』の夫婦は危機に瀕していたよね?
「そう。
しかし共に危機を乗り越えていく中で、
それは修復されていく。
同じようにこの映画でも<人間ドラマ>はいくつかある。
ストームチェイサーと並行して語られるのは、
卒業式のビデオ撮影を任された高校生と
彼が心ひそかに慕う女子高生の物語。
式の撮影を弟に任せて
工場跡地でレポート用の撮影を始めたふたりだが竜巻に遭い、
瓦礫の下に閉じ込められてしまう。
息子と連絡がつかなくなったことから、父親と弟は嵐の中へ。
途中、彼らはストームチェイサーのグループと合流。
だが、このストームチェイサーたちの間でも、
どこまで危険に身をさらすかをめぐって内輪もめが起きていた…」

----へぇ~っ。
プレスも観ないで、よくそこまで喋れたね。
「あっ、ほんとだ。
シンプルで覚えやすい話だったからだろうね」

----でも、やはり最大の見どころはビジュアルなんでしょ?
「うん。
竜巻のスケールがとにかくでかい。
『ツイスター』では牛とかが飛ばされていた記憶があるけど、
こちらはジャンボジェット。
竜巻の映像だけでなく、それによって壊されていく
町の風景とか、
ほんと、どうやって撮影したんだろうと…。
まあ、CGであることは間違いないんだけど、
あまりにも瑕疵なく描かれるものだから、
そこに映像の“重み”が感じられないという逆の現象が…」

----どういうこと?
「これは誤解されるかもしれないけど、
こういう映像って、
ドキュメンタリーでも、そんなにまで完璧に捉えられるものではない。
キャメラがまずその威力に立ち向かえない。
なのに、ここまで余すところなく描かれると、
まるで“箱庭”の中を覗いているような、
そんな不思議な気になるんだ。
いや、これは悪い意味で言っているワケじゃないよ。
たとえば、同じ超人的パワーを手にしても
リチャード・ドナーの『スーパーマン』と、
昨年公開された『クロニクル』では肌触りがまったく違う。
ぼく自身はこの映画、楽しめたけど、
そういう“描きすぎ”による“軽さ”が感じられて、
これってこれからの映画の課題のような気がしないでもなかったね」




フォーンの一言「直径1,000メートル、時速600キロメートル!ありえないのニャ」身を乗り出す

※ありえないと、少し引くんだ度

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