ラムの大通り

愛猫フォーンを相手に映画のお話。
主に劇場公開前の新作映画についておしゃべりしています。

『早咲きの花』

2006-12-08 12:07:40 | 新作映画
※映画の核に触れる部分もあります。
鑑賞ご予定の方は、その後で読んでいただいた方がより楽しめるかも。


----あれっ?これ宗田理の原作なんだ。
てっきり実話かと思っていた。
「うん。ぼくもすっかり勘違いしていた。
でも考えてみたら、
海外で長年活躍して、
失明したピンホールカメラマンの
シュナイダー植松三奈子なんて人、
いままで耳にしたことなかったし……」

----どんなお話?
チラシとか見ると、
潤んだ目の浅丘ルリ子が大きく写っているけど?
あれっ?左にはもんぺの少女。
それにリヤカーの少年も……。
時代はいつなの?
「簡単に説明すれば、
失明寸前の女性カメラマンが
かつて家族と一緒に過ごした想い出の街を
その目に焼き付けるべく、
兄から受け継いだピンホールカメラで
故郷へ旅するというお話だ。
彼女の父親は医者で
東京から豊橋へ引っ越してきたと言う設定。
徐々に、戦争の影が映画を覆ってくるところは
『赤い鯨と白い蛇』と同じ。
でも監督が菅原浩志だけに、
子供の描き方が実に巧い。
西瓜を畑に盗みに行くシーンなんて
広告用語で言うところのシズル感たっぷりだし、
河原での石つぶてによる喧嘩のシーンでは
石に当たる恐怖、痛みが観る者を襲う。
とにかく子供たちが生き生きとしているんだ」

----そうか。菅原監督は子供たちの叛乱を描いた
『ぼくたちの七日間戦争』でデビュー。
これも宗田理原作だ
「原作は読んでいないから何とも言えないけど、
浅丘ルリ子演じるシュナイダー植松の前を、
子供時代の兄と自分が駆けていくシーンはよかったね。
現在から過去へのスムーズな橋渡しを
ワンショットの中でやっていて
あの『おもひでぽろぽろ』を思い出したね。
映画は、25分間の爆撃で約3000名もの人が亡くなった
豊川海軍工廠の悲劇でクライマックスを迎えるんだけど、
死体累々のこのシーンも、
よくぞ描いたものだと思った」

----そんなに亡くなったんだ。知らなかった。
「昭和20年8月7日の出来事。
前日の広島への原爆投下もあり、
軍の報道規制で表面化しなかったらしい」

----それにしても
どうしてピンホールカメラ?
「うん。このピンホールカメラと言うのは、
昨今の一瞬を切り取るカメラとは違い、
光をひとつぶひとつぶ集めて
長い時間をかけて写し出す。
そのため動くものは写らないんだけどね」

----そうか。変わらないものだけが写し出されるんだ。
「うん。少しネタバレになるけど、
そのカメラで写した
写真の中の先生と子供たちが、
少しずつ消えていくシーンはゾクゾクきた。
これは映画ならではの手法。
普通のカメラではなくピンホールカメラである理由が
ここになって生きてくる。
また、シュナイダー植松の話を聞いた高校生たちが
豊橋発祥の『ええじゃないか』をラップ風に復活させるのも
そんなに違和感なく受け取られたね」

----『ええじゃないか』って、
江戸時代に起こった踊りでしょう?。
「豊橋まつりの
ホームページによると
『明日に夢を求める民衆のエネルギーが熱気となって全国に伝わった』とある。
バブルの後、長いトンネルが続く現在、
その苛立ちを利用するかのように、
時代を逆行させる動きも見られるだけに、
監督としても、
この反戦映画と『ええじゃないか』を結びつけることで、
間違った世直しへ進むことの警鐘を発したのかもしれないね」


                  
    (byえいwithフォーン)

フォーンの一言「フォーンはバックシャンなりニャ」春告げ

※浅丘ルリ子が歌う西条八十の『風』も効果的だ度
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