ラムの大通り

愛猫フォーンを相手に映画のお話。
主に劇場公開前の新作映画についておしゃべりしています。

『アリスのままで』

2015-03-30 10:53:24 | 新作映画

(原題:STILL ALICE)


----あれっ。
珍しい時間に映画のお話。
「ちょっと、いつもより早く出かけるので、
その間にと…。
さて、今日は『アリスのままで』
若年性アルツハイマーを患った女性の物語で、
主演のジュリアン・ムーア
アカデミー主演女優賞に輝いたことで話題の作品」

----アルツハイマーがモチーフの映画って多いよね。
『アイリス』とか『君に読む物語』とか。
カナダだと『アウェイ・フロム・ハー 君を想う』
日本にもけっこうあるよね。
「そうだね。
最近では『ペコロスの母に会いに行く』が話題になった。
これらは高齢化の問題とも合わせて
避けては通れなくなってきている。
ただ、今回の映画は“若年性”が加わっている。
このテーマで有名なのは
日本のテレビドラマを映画化した『私の頭の中の消しゴム』
日本だと『明日の記憶』だね。
ぼくは、この『明日の記憶』がとても怖くって、
主人公が渋谷の街で道が分からなくなるシーンとか、
主演の渡辺謙の名演もあって鮮烈に覚えている。
自分がどこにいるのか、
空間の感覚がつかめなくなったその恐怖が見事に映像化されていた。
この『アリスのままで』
とても心に沁みる映画だけど、
その道が分からなくなる感覚処理に関しては
『明日の記憶』に道を譲っていた気がする。
なにせ、こちらの描き方は
全体が白っぽくなって
道行く人がぼやけて見えるという感じ。
夢幻的ではあるけれど、
現実的な怖さでは『明日の記憶』」

----ニャるほど。
でも、感動の種類が違うっててなかった?
「そうだね。
普通、この認知症をテーマとした場合、
夫婦を軸に置くか、子供による親の介護が前面に出てくることが多いんだけど、
この映画では、それらよりも
自分がアルツハイマーだと自覚したヒロイン、アリスの生き方がテーマとなっている。
アリスは高名な言語学者。
その自分が物忘れどころか、
言葉をうまく操ることができない。
これは大学で教鞭をふるう自分にとって致命的なわけだ。
言語不明瞭な言語学者じゃ仕事などできるわけはない。
彼女は言う。
『みんなに理解してもらえるガンとは違う』と。
そこで彼女はある“決意”を固める。
この“決意”が映画の中に不穏な空気をもたらし、
後半のサスペンスへと繋がっていく

----ええっ?
サスペンスという言葉が出るとは思わなかったニャ。
「でしょ?
ここはお楽しみとして、
この映画のもう一つの試みとしては
アリスとその子供たちとの関係がある。
実はこのアルツハイマーは家族性のもので、
遺伝の確率は高い。
しかも遺伝すると発症は免れないという。
ところが子供の中には結婚して子どもをほしがっている娘もいる。
だて、自分が遺伝しているかどうかを調べるか否か…」

----うわあ。キツイ話だニャあ。
「さて、
主演のジュリアン・ムーアに戻ろう。
彼女は、自分の感情を
目じりの皴、頬の筋肉までコントロールしながら
アルツハイマーに冒れたヒロインを繊細に演じていく。
そんな彼女が
認知症の介護会議でスピーチする姿が素晴らしい。
体の不調を考慮して
自分の体験談を話せばいいと言う娘に対して、
アリスは
『私は闘っています、自分であろうとして。
だから瞬間を生きています』
とスピーチ。
そう、これがこの映画のタイトルに繋がってゆく。
監督はリチャード・グラッツァーウォッシュ・ウェストモアランド
自身もALSに冒されていたグラッツァーは病気を押して監督。
最近その生涯を終えたのは記憶に新しい。
アカデミー作品賞にこそノミネートされなかったけど、
これは多くの人に見てほしい映画の一本だね」




フォーンの一言「そう、だれもが避けては通れないのニャ」身を乗り出す

※「単なるヒューマンドラマとは違う度

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猫ニュー

『シグナル』

2015-03-23 23:24:01 | Weblog


(原題:The Signal)


----おおおっ。
久しぶりの映画のお話。
まさか、ここからくるとは?
「うん。
やはりしゃべりやすいというのが決め手かな。
この映画、
いわゆる“先読み不能”のお話。
いや、もっと言えば“いま読み不能”」

----どういうこと?
「つまり、
いま現在、何が起こっているかが
観ている方にも分からないんだ。
もしかして、こうなんじゃないか、
ああなんじゃないか…と、
いろんな推測は成り立つわけだけど、
いまひとつ決めてに欠ける。
物語はそう難しくないんだけどね。
主人公はMIT(マサチューセッツ工科大学)に通うニック(ブレントン・スウェイツ)。
彼は、大学のパソコンにハッキングを仕掛けてきたハッカーの居場所を突き止めるため、
友人のジョナス(ボー・ナップ)やガールフレンドのヘイリー(オリヴィア・クック)とともにネバダを訪れる。
しかし、そこで何者かに拉致されてしまい、
気が付くと政府の隔離施設に監禁されていた…」」

----うん?
監禁、
そして何が起こっているか分からない…というと、
『CUBE・キューブ』を思い出すニャあ。
「そうだね。
ぼくもその映画は
チラっと頭をかすめた。
でも、監禁している人たちの姿が全く見えないあの映画と違って
こちらは彼を拉致している人々が姿を現す。
その一人がローレンス・フィッシュバーン演じる白い防護服の男。
彼はニックに隔離の理由を説明する。
それによると、
“何か”に感染されている…とのこと。
ここでぼくは、
今度は『キャビン』
さらには衆人環視の中での物語ということで
懐かしい『トゥルーマン・ショー』の記憶が甦った。
ただ、この2作品は、
少なくとも観客には何が起こっているのかは分かる仕組みとなっている。
ところがこの映画では、皆目見当がつかない。
そして物語は、さらに意外な方向へと転がっていく」

----ゴクッ。
ニャにが起こったの?
「うむ。
ニックの体にあることが施され、
その結果、彼は異常な能力を発揮するようになっていたんだ。
ここで、ぼくらは
ああ、ニックは宇宙人に改造手術を受けて、
ここの政府の人たちはその秘密、能力を解明しようとしているんだな…と思う。
ところがところが…」

----うわあ。早く先を聞きたい。
「だよね。
でもこれはここまでだな。
この後、ニックは昏睡状態のヘイリー、
さらには別のところに収容されていたジョナスとともに施設を脱出。
ところが、外にいる人たちの空気がどうもおかしい。
まるで宇宙人に魂を抜かれたような…。
あっ、ヤバいヤバい。
やっぱりここまでだな。
この映画、この奇妙なプロットを
この時代だからこそだれもが手にしうるVFX、つまりはCGを使って
自らのイマジネーションを最大限に魅せてくれる。
『ニューヨーク・ポスト』『12モンキーズ』『2300年未来への旅』『マトリックス』を引き合いに出し、
『USAトゥデイ』スタンリー・キューブリック、デヴィッド・リンチの再来と激賞。
その理由もよくわかる。
いわゆる情緒的な感動こそないけれど、
スクリーンに引き付けられたという意味では、
今年の一二といっても過言じゃないもの。
そうそう、ニックは事故で両足の自由がきかない。
それを苦にヘイリーとの関係を清算しようとしているなど、
彼ら3人のバックグラウンドの描き方も丁寧。
うむ。これは一見の価値あるね」




フォーンの一言「でも、こういう映画って
たいてい最後にがっくりということ多い度」身を乗り出す

※「でも、自分の感情を持って行かれてこその映画。たとえ、それがほら話に過ぎないとしてもだ度


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猫ニュー

『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』

2015-03-12 22:58:12 | 新作映画

(原題:The Imitation Game)


----この映画、もうすぐ公開だよね。
アカデミー賞でもたくさんノミネート。
「そうだね。
これは確かによくできていて、
観ていてまったく飽きることがない、
ずっと引きこまれっぱなし」

----ふうん。
確か、第二次世界大戦で
ナチス・ドイツが編み出した
暗号<エニグマ>を
みんなで解くって話でしょ。
「(笑)それはそうなんだけど、
もし、それだけの話だったら
ここまで騒がれることにはならなかったと思うな。
やはり、この映画のオモシロさは
ベネディクト・カンパ―バッチ演じる
主人公アラン・チューリングのキャラにある。
自分を天才だと自認する人にとっては、
そのレベルに達しない人は
はっきり言って無能。
プロジェクトから彼を外すことになんの痛みも感じない。
つまりはクビを宣告。
人から見ればどんなに傲慢で非情に見えようともね」

----うわあ。
いやな性格だね。
「(笑)ぼくら凡人にとってはね。
でも、この映画はそれだからこそオモシロい。
だれもが感情移入できる人、
あるいは人格者の映画なんて
いくらでもそのあたりに転がっている。
普通には観ることができない”怪物(モンスター)”だからこそ、
映画は異様な輝きを放つ」

----ふうむ。
ところで
<エニグマ>の仕組みは分かったの?
「いや、
正直言ってよく分からない。
でも、それはそれでいいんだと思う。
この天才アラン・チューリングが現れるまで
だれも解けなかった暗号が、
こんな2時間足らずの映画で
観ている方に伝わるはずもないからね」

----そりゃそうだ。
ニャるほど。
だから”エニグマ”の秘密ではなくて
“天才科学者”の秘密…ってわけだニャ。
もしかしてそれは
キーラ・ナイトレイ演じるヒロインとの恋?
「う~ん。
それこそ“秘密”。
それはなぜ、このアラン・チューリングの存在が
戦後長い間世に知られないままだったか?
という
誰もが抱く根本的な疑問とも関わってくる。
<怪物>でさえも隠さざるを得なかった<秘密>
そして、それがいまこうして
語られることにも
ある大きな意味がある。
時代の変遷によってやっと
日の目を見ることができるようになったあることとね」

----いつものように、
それがニャにかは言えないんだよね?
「もちろん。
でも一言。
ここ数日、日本で大きな話題になっている
あることと関係しているよ。
そういう意味でも、
今の時代だから作られた映画だね」

----う~ん。ニャんだろう?


フォーンの一言「この<エニグマ>、暗号を解いても
しばらくは敵の作戦を止めず、
多くの人が死んだらしいのニャ」身を乗り出す

※「それは暗号を説いたことがバレないように。
これも国からすると知られたくない<秘密>というより<秘話>。
分かるけど、でも複雑な気持ちだ度

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猫ニュー

『風に立つライオン』

2015-03-07 14:04:10 | 新作映画

----この映画って
さだまさしの歌がモチーフだよね。
あの歌って確か、
アフリカを舞台にしたお医者さんの話。
う~ん。
監督・三池崇史っていうのが
ニャんとも結びつかないニャ。
「あっ、それは分かる。
三池崇史監督には
村上龍原作『オーディション』
椎名誠原作『中国の鳥人』みたいな
文学作品の映画化もあるけど、
今回は、いわゆるヒューマニズム系の物語。
これまでの彼とはフィールドが違うって感じがしたもの」

----そうそう。
でも、かなり感動していたようだよね。
「そうだね。
まあ、自分がこの手の話に弱いというのもあるけど、
なぜ、いまこの時期に三池監督が本作の企画に乗ったか、
それが垣間見えた気がしたんだ。
フォーンは、最近、
海外、特に紛争地でのジャーナリストの活動が
一部で無謀と言われ、
何か命に関わることがあっても、
それは自己責任と言われていることは知っているよね」

----うん。
この前も
二人が命を失ってしまったよね。
その中の一人は戦場ジャーナリストだった。
でも、今回はお医者さんのお話でしょ?
「うん。
でもそれぞれに、
自分が生まれてきたからには、
少しでもこの世をよくしたいと思っていることに変わりはない。
よく『そんなにまでしてお金が…』みたいなことをいう人もいるけど、
それはそのように批判する人の価値観であって、
ジャーナリスト、あるいはこの映画のようにドクターとなった人が
金銭でばかり動いているとは限らない。
『風に立つライオン』
大沢たかおが演じる日本人医師・島田航一郎は、
子供の頃にクリスマスプレゼントにもらった
シュアヴァイツァー博士の伝記を読んだことがきっかけで将来の道を決めた、
まっすぐな心の持ち主。
やがて大学の医学部へと進んだ彼は、
ケニアの熱帯医学研究所、そして戦傷病院へと派遣される。
そこで航一郎が目にしたものは、
スーダンの内戦で負傷した少年兵たち。
年端もいかない彼らの命を救えなかった彼は自分の無力さを痛感。
傷が癒えたら戦地へ戻り、また敵を殺すという少年たちの姿を見て、
彼らには心のケアが必要と考えるようになる」

----ニャるほど。
そういえば、この映画、
石原さとみ真木よう子が出てくるよね?
石原さとみは、
戦傷病院で新たに働くようになる看護師・草野和歌子。
真木よう子は、航一郎が大学時代、
結婚を心に決めていた同僚の医師・秋島貴子。
貴子は長崎の離島で父親が診療所を開いている。
そこを継ぐか否かということをめぐって
彼女にも大きな決断の日が訪れる。
と、こう話してみて思ったけど、
この映画、脚本がかなりよくまとまっている。
冒頭には、3.11震災の跡地に立つアフリカ人青年の姿が…。
途中で、彼が誰かは分かるけど、
受け継がれる希望”というテーマをうまく表している」

----そういえば、
観る前までは、
この『主題歌』が延々と流れたら
映画の二重説明になってしまうって、
危惧していたよね?
「そうなんだけどね。
ところがそこも問題なし。
いやそれどころか、
『アメリカン・スナイパー』ともつながる、
ある映画的表現でテーマを強く印象付ける。
この歌の中には、
いまの日本について言及した歌詞が二か所ある。
ひとつは
『やはり僕たちの国は残念だけれど何か
大切な処で道を間違えたようですね』

もうひとつは
『あなたや日本を捨てたわけではなく
僕は「現在(いま)」を生きることに思い上がりたくないのです』

ちょっとドキッとするこの歌詞の時、
三池監督は映像をどう処理したか…
ここが見モノだね」

----でも、それって
人によって
戦後日本の民主主義否定と取っちゃうのでは?
「そういう逆の見方をされてしまうところも
『アメリカン・スナイパー』と似ているなと…。
でもそれはあり得ない解釈、。
だって、これは日本という土地を離れて
遠い国の人々の命を救う意思の話だよ。
その基本を踏まえれば、
地球で一番重いものが何か…の答は
すぐに出てくるはずだよ」

----ニャるほど。


フォーンの一言「この映画化の話って、大沢たかおさだまさしに持ち掛けたらしいのニャ」身を乗り出す

※「大沢たかおといえば『深夜特急』。そのときの経験も大きいのかもだ度


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