ラムの大通り

愛猫フォーンを相手に映画のお話。
主に劇場公開前の新作映画についておしゃべりしています。

2019年、外国映画、3本plus7本

2018-12-31 20:46:05 | 新作映画


2018年、「ラムの大通り」が選んだ3本の外国映画。

●スリー・ビルボード

●バトル・オブ・ザ・セクシーズ

●タクシー運転手 約束は海を越えて



さらに…
●アイ,トーニャ
●正しい日|間違えた日
● バッド・ジーニアス 危険な天才たち
●イコライザー2
●マチルド、翼を広げ
●リメンバー・ミー
●ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生


『スリー・ビルボード』の長回し手持ちワンカット撮影には息を飲んだ。
周りからどう見られようとも自分の意思を貫き通すヒロインを始め、
登場人物それぞれのキャラ設定もこれまでのハリウッド映画にはあまり見られないもの。
毒というよりも、これまで観たことがない映画を観ることの喜び。その意味ではこの映画が圧倒的にベストだ。
『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』『アイ,トーニャ』も、いわゆるヒューマンドラマの枠を超えたモンスターがドラマを牽引していく。
『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』もその路線だが、
これは実在のふたりの現役時代を知っているだけに物足りなさが残った。
『タクシー運転手 海を越えて』は、実話とは思えないほど映画的素材。
名もない個人がジャーナリストを客として乗せたことで、それまで知らなかった政治の闇を覗き見ることとなる。
少し『キリング・フィールド』が頭をかすめた。
『1987、ある闘いの真実』も同じく韓国政治の裏面史。
なぜか日本ではこういう歴史に切り込んだ作品が見られない。
何本もまとめて日本公開されたホン・サンス作品からは『正しい日|間違えた日』
「もし、あのときこうしていたら」タイプの映画はたまにハリウッドや香港からも現れるが、
それらは「右のドアか?左のドアか?」、いわゆるシンプルな二者択一行動ものが多い。
この映画は主人公単独の行動ではなく、
それによって変わってしまうふたりの関係を相手の人間性も加味して描いていたところが目新しかった。
『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』。カンニングをここまでサスペンスに仕上げられるとは⁉︎
タイという、映画ではあまりなじみのない国であることも驚きをいや増した。
『イコライザー2』はクライマックスの嵐の中の死闘。
SFやファンタジーではなく、こういう仕事にこそアカデミー特殊視覚効果賞を授与してほしい。
アニメでは『リメンバー・ミー』
実は『犬ヶ島』も日本の60年代アンダーグラウンド・シーンを思い起こさせてくれ、かなり好きなのだが、
「観る前の期待値を超える」感動という点でこちらを選んだ。しかし憎いストーリーだ。
『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』
いわゆるハリウッド超大作は『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』『ジュラシック・ワールド/炎の王国』も、もちろん『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』もみんな好きなのだが、それらを並べてもあまり意味がない気が…。
そこで前作から一転、いきなりダークファンタジーへと舵を切ったこの作品に。これなら「ハリポタ」ファンでも大丈夫。
最後に『マチルド、翼を広げ』
実はこれは来年早々に公開の映画。
本来ならばこの年間振り返りには入らない作品だが、ヒットを祈願。
応援の意味も兼ねて入れ替えないままここに。


1年の映画を振り返ったのは、ほんと久しぶり。
フォーンが旅立って5年。
どうにかひとりでも映画を語れる気が…。
というわけで来年は本格的にブログ復帰予定。
そうそう、FILMAGAにも不定期に深掘り記事を連載。こちらもよろしく。

来年はいい年でありますように。

2018年、日本映画。3本plus7本。

2018-12-29 22:06:37 | 新作映画


2018年、「ラムの大通り」が選んだ3本の日本映画。

●寝ても覚めても

●生きてるだけで、愛。

●母さんがどんなに僕を嫌いでも


さらに…。
●孤狼の血
●羊の木
●愛しきアイリーン
●友罪
●太陽の塔
●空飛ぶタイヤ
●止められるか、俺たちを


🔳2018年、日本映画を振り返って…。
日本映画はなぜか「ひとつの恋が結ばれるまで」を描き、その後について語ることは滅多にない。
日本映画の特徴の一つでもある「(少女)コミックスの映画化」では特にそう。
そんな中、『寝ても覚めても』『生きてるだけで、愛。』は「出会いの後」を描く
『寝ても覚めても』東出昌大が一人二役。
顔は同じだが中身はまったく違う。彼のファンは、もし自分の前に二人の東出昌大が現れたらどうするのだろう?
ヒロインと同じような葛藤にとらわれるのではないか?
そう、この映画は「スクリーンのこちらと向こう側」を繋ぐ。
『生きてるだけで、愛。』は趣里に尽きる。
彼女がクライマックスで菅田将暉に言う「いいなあ。私と別れられて」には戦慄が走った。
あのウイリアム・フリードキン監督『真夜中のパーティ』の「これ以上、自分を嫌いたくない」に並ぶ、絶望的な自己否定の言葉だ。
監督は関根光才。それまで意識したことがないと、思っていたのだが、なんとドキュメンタリー『太陽の塔』の監督だった。
この映画は、天才アーティスト岡本太郎にさまざまな角度からスポットを当てながら、
いまの時代の闇に切り込むという個人的に大収穫の作品。
日本映画から本格社会派作品が消えて久しい中、なるほど映画ではこういうこともできるのかと感心させられた。
社会派といえば『空飛ぶタイヤ』がリコール隠しに走る大企業に立ち向かう個人の闘いを描き、
政界の改竄、隠蔽が相次いだ2018年に映画で一矢報いた感があった。
『孤狼の血』も一種の社会派バイオレンス。
『仁義なき戦い』を現代に蘇らせたような猥雑さがスクリーンから熱として迸っていた。
猥雑と言えば『愛しきアイリーン』
四文字言葉の連発は原作で知っていたとは言え、やはり暴力的に凄まじかった。
『娼男』もロマンポルノ時代の監督たちが羨むような直接的性描写が話題となったが、
いかんせん、きれいに収まりすぎていた。
60〜70年代を描いた作品が多かったのも嬉しかった。
『止められるか、俺たちを』『素敵なダイナマイトスキャンダル』は、それぞれ時代の空気感をよく出していた。
『母さんがどんなに僕を嫌いでも』は太賀に尽きる。彼はまさに役を生きていた。『友罪』の瑛太と並び、長く記憶に残る演技だ。
『羊の木』はその歪な世界に魅せられた。
『シャルロット すさび』も60年代の初期ATGや金井勝『無人列島』を懐かしく思い起こさせてくれたが、
こちらが歳をとったからか、それとも時代のせいか少しキツい。
歪路線ではほかに『ニワトリ★スター』『君が君で君だ』などもあったが、化けに化けた『カメラを止めるな!』にすべて持っていかれた感があった。
コメディではニッチェの江上敬子にやられた『犬猿』。これは未見の人は観て損はないと思う。
『パンとバスと2度目のハツコイ』『モリのいる場所』もそれぞれの語り口が楽しかった。
青春映画では東京近郊の高校生にスポットを当てた『青の帰り道』『高崎グラフィティ』
時代を超えた普遍の青春の悩みを描き、嬉し恥ずかし。
あの頃の自分を重ねてしまった。
アニメはやはり『若おかみは小学生』

なんて、振り返り始めると止まらなくなるので、このあたりで。



『デイアンドナイト』

2018-12-23 10:10:09 | 新作映画
山田孝之が製作、共同脚本を担当した『デイアンドナイト』が見応えがあった。

●脚本完成に至るまでの新たな試み。
脚本を作り上げるにあたって、
山田孝之は主演の阿部進之介以外のすべてのセリフの読み合わせをして、
息継ぎしにくいところなど細かく修正していったという。

●タイトルの意味と内包するテーマ。
『デイアンドナイト』、昼と夜。
これは善と悪のメタファ以前に、裏での違法行為が表の善行を営むために意味を持つという、実に興味深い設定。
一方でこの映画は、正義の行為が他方では人の人生を壊すという、皮肉な捩れもあぶり出す。
さらには家族を殺された者の復讐の是非など、テーマは多岐にわたる。

●『七つの会議』と通底。
『デイアンドナイト』。
話の発端は車の部品の欠陥告発。
リコール隠しを描いた『七つの会議』のような派手なエンタメ性はないものの、あわせて観ると、より心に響くものが…。

●地域開発映画プロジェクト。
『デイアンドナイト』。
映画製作上、もう一つなるほどと思ったことがある。
それは「地域開発映画プロジェクト」。
これは例えば、少子化に悩む小学校の統合、伝統工芸の後継者不足、名産品が売れないなど、
悩める地方都市の宣伝を映画が担うというもの。本作のロケ地、秋田県鹿角市もその流れ。
ふと思った。
もしこれが東京国際映画祭のコンペに出ていたら…と。
この映画は、描きたいものが明確。
しかもオリジナリティもある。
アートかどうかは人によって受け止め方が違う誰うけど、
商業性は結果としてのご褒美という、
審査委員長ブリランテ・メンドーサ監督の考えに近いと思う。




パンセとカノン。昼は…。言うまでもないか。^^;