ラムの大通り

愛猫フォーンを相手に映画のお話。
主に劇場公開前の新作映画についておしゃべりしています。

『聖の青春』

2016-11-24 22:08:19 | 新作映画
----えっ。ここにくるの久しぶりじゃん。
もう4か月。
これはさすがにやめたのかと…。
「うん。なんど、
もういいや…になったことか。
でもTwitterでもちょっと呟いたように、
この映画は久々に喋ってみたいなと…」

---そんなによかったの?
「いや。
今年の日本映画はほんとスゴくって…。
おそらくこの『聖の青春』はベストテンからは漏れると思うんだけど、
それでもここのベースにある“奇妙な味わい”だけは捨てがたいと…」

----“奇妙な味わい”?
それってTwitterで言っていたことかニャ。
「 『聖の青春』。これは力作だわ。
映画を支配する医者の母親への残酷な告知から夏の蝉の声まで。
久しぶりにブログを書きたくなった」

正直、ニャんのことかと?
「うん。
この映画、いわゆる“お涙ちょうだいもの”でもなければ
ハートフルなヒューマニズム映画でもない。
それを冒頭すぐに、観る者に感じさせてくれるのが
子供の頃、病気になった聖を初めて病院に連れてきた母親に
ドクターが投げかける言葉。
『なぜ、こうなるまで連れてこなかったんですか?
お子さんを大変な病気にしてしまいましたね。
一生、この病気と付き合っていかなくてはならない』。
ざっと、こういったような内容。
これって母親にとっては、罪の重荷を背負わされる言葉。
最近、 “毒親”というような言葉が巷ではやっているけど、
このドクターの言葉は
それこそ“母親失格”との烙印を押されたようなもの。
以後、映画は
彼に将棋のきっかけを与えたり、
終盤に出てくる“男同士の会話”などに表されるように、
父親へは、
寄り添うように好意的に描かれるのに対して、
母親には、感情的なセリフを用意するなど、
対照的な描き方を見せるんだ。
ぼくはこの時点で、これはかなり“歪な映画”だなと…」

----ニャるほどね。
映画をストーリーでは観ない「えい」らしいニャあ。
じゃあ、このTweetは?
「映画を脚色するというのはこういうことなんだろうな。
聖が羽生を前に食堂ではしゃぐ子供のような姿。対する羽生の言葉もいい。
「村山さんとだったら海の底を〜」。もう、これは恋だ。
聖の悪手に沈着冷静なはずの羽生の顔が歪む。
いずれもフィクションなのだろうけど、そこが好きだ」
って…。
「うん。
この映画は
主人公の村山聖をまるで人格破綻者のように描いている。
実力がないものに対しては
弟弟子・江川(染谷将太)はもちろんのこと、
師匠(リリー・フランキー)に対してもまったく遠慮がない。
傍若無人。
退会が決まった江川がどんなに落ち込んでいようと、
第二の人生を目指すと自分に諦め聞かせようと、
才能がない奴が何を言っているんだ…のようなといった接し方。
そんな彼が唯一認めているのが将棋七冠を達成した羽生名人(東出昌大)。
天才は天才のみを認めるということなのか…。
その羽生に勝ったある大会の後、
聖は彼を町の飲み屋に誘う。
そこで聖は、他では決して見せない無邪気な姿となり、
他の人から言われたら不機嫌にしかならない内容の話を、
自分からするわけだ。
このシーンはこの映画の白眉。
脚本の向井康介という人は
『マイ・バック・ページ』もそうだったけど、
“飲み屋”の描き方がうまいね」

----ふむふむ。
あと、
「『役になりきる』という言葉があるけど『聖の青春』はそうではない。
これは脚本に書かれた『役作り』をしているのだ。
体重増加の松山ケンイチは言わずもがなだが、羽生役の東出昌大が出色。
『デス・ノート』よりもこういう方が向いている。
筒井道隆もよかった。最後のナレーションまで気づかなかった」
というのもあったよね。
「うん。
役者が役を演じるということ、
それを楽しませてもらった気がする。

さっきのTweetともダブるけど、
最後に対極で、あと一手で聖の勝利が決まるというとき、
彼は大きなミスを犯してしまう。
それに気づいた時の羽生の表情、
いつもは見せない筋肉の動きが素晴らしい。
実際の対局はもっと淡々としていたらしいんだけど、
やはりここはこういう“誇張”が映画をオモシロくする
つまり、この映画は徹底して映画的表現にこだわるんだ。
羽生が亡くなった後、
彼のことを思い偲ぶ弟弟子・江川。
そこに浮かび上がる聖の面影に
蝉の声がかぶさる。
蝉が何を意味するか…。
フォーンだったら分かるよね」

----えっ? 蝉、蝉、蝉…
あっ、そうか。
蝉は7日しか地上では生きられない。
<短命>の象徴だ。


「なんでも食い入るように観たらしいのニャ」身を乗り出す

※映画は映画として描かれるからオモシロい度


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