かっこうのつれづれ

麗夢同盟橿原支部の日記。日々の雑事や思いを並べる極私的テキスト

「沈まぬ太陽」読了。

2010-01-11 21:24:45 | Weblog
 「沈まぬ太陽」山崎豊子 5巻を読み終えました。10日ばかりかかりましたが、ボリュームの割に読みやすくするするとページが進みました。
 概要については、既に話題の映画にもなっていることですしごく簡単にしておきますと、国民航空、という日本のフラッグキャリア(要するにJALですね)のエリート候補が、たまたま労働組合委員長に推挙され、航空機の安全運行とそれを支える労働者の権利獲得のために真摯に戦ったのが徒となって人生を狂わせ、中近東やアフリカに10年も転々と流罪同然に転勤させられた挙句、ようやく帰国してからも窓際の閑職に追いやられていたところが、時の総理の三顧の礼によって関西財界から迎えられた会長の抜擢され、ともに社内の弊風一掃に立ち上がるも、政官財の強固な癒着構造と社内にはびこる既得権益への執着に阻まれるというお話です。ちょうど3巻目で御巣鷹山の事故がそっくりそのままの形で取り上げられるなど、その内容は小説というにはかなり生々しい話が詰め込まれています。
 最初に書いた通り、そのストーリーは平易で文体も読みやすく、すぐにその世界に没入できる文章です。このあたりは作者の面目躍如というところだろうと思いますし、御巣鷹山の事故でかけがえのない人々を亡くした遺族の描写などはまさに涙なくしては読み進めないほど真に迫るものがあります。
 読みやすさの原因は、時代劇のように人間関係が見事に色分けられて、そのブレが無いことだろうと私は思います。官僚や政治家やマスコミ、それに社内の既得権益にしがみついている人間などはもうこれでもか、と言わぬばかりに醜悪な人間に描写されている一方で、主人公を取り巻く極少数の善人グループは、もうまるで私心なき聖人のごとき姿で書き綴られています。その是非は今は置くとして、そのようにコントラスト鮮やかに人間関係が色分けされているために、国民航空の宿痾、政官財の癒着構造の酷さがわかりやすく整理されて読むことができ、作者の怒りと問題提起が理解できるわけです。
 ここで問題は、会社、登場人物など、主要なところを名前を変えたり架空の存在を挿入したりして、どこまでが本当の話でどこが創作の部分か全く分からない書き方をしている点です。この点についても、ネット上には多くの感想なり意見なりがあるので詳述はいたしませんが、私個人としては、これは大変問題のある書き方だな、と感じました。理由はどうあれ、このような事実と創作が入り交じったものが大々的に流通しますと、それがあたかも真実であるかのごとく取り上げられてしまいかねません。はるか昔のお話というのならまだしも、まだ関係者が生きている現代を取り上げるのですから、問題提起が大事ならすべて実名でやるドキュメントに徹するか、あるいは舞台も何もかもすべて創作するかすべきだったのではないでしょうか。それを中途半端に創作とドキュメントのあいのこを作ったりするのは、一つは作者のおごり、そして関係者からなにか言われたり訴訟沙汰になった時のための、あれは創作ですよ、と言いたいがための逃げ道工作、としか私には見えませんでした。
 まあ中身が嘘か本当かは、証言されるヒトによって言う事が変わるわけですし、まさに藪の中にしかならないでしょうから追求するだけ野暮なのかもしれません。ただ、現在JALが陥っている窮地を考えますと、ここで描かれている話は大体そんなものなのだろうか、と思えたりもいたします。それだけにここは妙な悲劇のヒーローを立てたりせずに、冷静な目でドキュメントに徹していただきたかった。力のある作家だと思うだけに、それが実に残念でなりません。これからこれを読んだり映画を見たりする方は、これが「水戸黄門」と同列のフィクションであることを常に意識して見られることをお薦めします。

 さて、同人の方は、今日は17日のためのポスター作りをやりました。数年前に描いた絵にちょっと大掛かりに手を入れて修正して、この間応急修理したプリンタで、A3ノビサイズに印刷してみたのです。たまたま手元にエプソンの専用光沢紙しかなかったのでそれで印刷始めたのですが、HPのプリンタでは紙質があわないのか、なかなかスムーズに給紙されずに苦労いたしました。でもまあなんとか、数枚反古にしただけで、とりあえず使えるものを印刷出来ました。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 来週は是非インテックス大阪へ! | トップ | テレビを観過ぎると早死する... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

Weblog」カテゴリの最新記事