シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

女工哀歌(エレジー)

2009-01-20 | シネマ さ行
いまや「世界の工場」と言われる中国の実態に迫るドキュメンタリー。農村から都会に出稼ぎに来て、昼夜を問わずジーンズを作り続ける工場で働く十代の女の子たちの生活を追う。

現在なんと中国では1億人もの少女たちが農村から都会に移住し、さまざまな工場で世界に向けて大量生産を行っているという。このドキュメンタリーはこの工場に入ったばかりの16歳のジャスミンを中心に描かれている。

ジャスミンはジーンズの糸を切る係。世界中からの納期の要望に応えるため、何日もぶっとおしで休みももらえず、睡眠もロクにとれず、ただただジーンズの縫い目から出た糸を切り続ける。ジーンズ1本を30分かけて仕上げて7セント。自転車操業の工場からは給料はなかなか支払われず、しかも初任給は工場に預かられるので、働き始めてから長い間給料が出ない。(初任給をもらってやめちゃうことを防ぐため?)中国では労働組合が認められていないので、労働者たちはストをすることもできず、住まいも会社の寮に住んでいるので、簡単に辞めることもできない。何日も眠っていないからと、工場の作業中に寝てしまうと罰金と言って給料から天引きされる。それ以外にもとにかくなんでもかんでもすぐに給料から天引きされてどんどんもらえる給料は減っていく。

納品先のメーカーとしてはリーバイスとウォルマートの名前が映画の中で実際にあげられていたけど、もっともっとたくさんのワタクシたちの知っている企業が顧客にいることだろう。そういった企業は工場の視察には来るが実際の労働者たちの条件なんて本当はどうだっていい。というか、安ければ安いほうがいいのだから、労働者の賃金のことなんて気にしない。企業が視察に来るのは労働者の条件を良くするためではなく、消費者を安心させるためだけだという。つまり、わが社は中国の少年少女たちを酷使などしていませんよ。ちゃんと視察行ってますからというポーズさえ見せられればそれでいいということらしい。

資本主義競争経済の中で、大量生産、大量消費の歯車にみなが巻き込まれていく。消費している側も生産している側もなぜか抜け出せなくなっている巨大な歯車。こんな世界に誰がした?なんて気分にもなるけれど、自分自身がその歯車のひとつであることも確か。つまり、自分自身がこの大きな歯車を動かしている消費者であるということ。それをワタクシたちは忘れてはいけない。よね。でもさ、やっぱり安いもの買っちゃうでしょ。品質の問題はまた別にあるにしても。自分の生活にも余裕があるわけじゃないもんな。ってでもそれはやっぱ恵まれた者の言い訳だよね。

ジャスミンたちを見ていて感じたのは“マシ”という言葉の怖さだった。農村での生活よりは“マシ”彼女たちはそう思って頑張っている。もっと突っ込んで言うなら売春させられるより“マシ”って言葉になるのかもしれない。(この映画の中ではそのような発言はないけれど)そうでも思わなければ頑張れない状況なんだよね。それを、大企業も国も思ってるんだよ。仕事があるだけマシだと思え、ご飯がもらえるだけマシだと思え。この不況の中、日本の労働者も他人事じゃない。

ジャスミンの働く工場の社長がよくこんなドキュメンタリーを撮らせてくれたもんだと思っていたら、「起業家の立身出世物語を撮りたい」と言って騙して撮ったそうだ。そりゃ、そうでもしないと撮れないよね、こんなの。それでも、撮影中に何度も当局から逮捕されたりしたそうだけど。

つらい現実を見せるドキュメンタリーだが、救いはジャスミンの想像力と明るさだった。魔法使いになって、監督係をやっつけたり、自分たちが作るジーンズを誰がはくのだろうと想像したり。「どうして私たちが作るジーンズはこんなに大きいの?どれだけ体の大きな人がいるの?」

…それはね、資本主義のブタがはくからだよ。


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