シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

こわれゆく世界の中で

2009-12-16 | シネマ か行
近年亡くなった映画人の中では、ワタクシがもっとも惜しいと感じたうちの一人、アンソニーミンゲラ監督の作品。(もう一人はシドニーポラック)

彼の作品はいつも内容が最高というわけではないんだけど、とにかく作品の持つ雰囲気がとってもポエティックで美しい。

この作品も他の彼の作品と並んで、全体的にとても美しい作品だったと思う。内容としてはまぁ“不倫もの”であり、それでも主人公のカップルは最後にはうまくいってしまうところから、「何それ?」って思ってしまう部分も当然あるのだけど、この二人の関係をどうにかしようともがく二人には、不倫嫌いのワタクシにも“都合が良い”と一刀両断にできないものがあった。

ウィルジュードロウとリヴロビンライトペンのカップルはリヴの13歳の娘ビーポピーロジャースが医師から確定はされていないが、自閉症のようななんらかの障がいを持っていることから生活に疲れ、ウィルは仕事に逃げ、リヴはビーに執着するようになり、ぎくしゃくするようになる。そんな折、ウィルの仕事場に盗難が続き、ウィルは犯人の少年ミルサドラフィガヴロンの母親でボスニアから移民してきた未亡人アミラジュリエットビノシュに惹かれるようになる。

ウィルとリヴのカップルのぎくしゃく感とウィルのオフィスでの盗難事件がどのような関連性を持つのかと見ていくと、ウィルはアミラに惹かれ、アミラは息子を守りたい一心でウィルの気持ちを受け入れるという展開になっていく。この構成がとてもうまくできていると感じた。物語はとてもゆっくりとしか進まないが、ウィルとリヴがビーのことで本人たちの気持ちとは裏腹に心が少しずつ離れていってしまうさまを丁寧に見せることで、アミラに惹かれていってしまったウィルの気持ちも、それを最後には許したリヴの気持ちも受け入れられるようにできていると思う。ボスニアという状況を持ち出すことで、アミラの息子の状況にも観客が同情できるようになっていて、彼がただの窃盗団のワルという位置付けではなかったことから、アミラの行動もうなづけるものとなっていた。

リヴがウィルを許した気持ちが受け入れられたと書いたが、最後の彼女の爆発がなかったら、「え?そんなんで許せんの?」と思ったと思うけど、最後にあの爆発があったからこちらの気持ちも納得がいったような気がする。

ウィルが会社の盗難にたびたび遭い、夜中に自分の車を会社の前に停めて見張りをしていたときに絡んでくる売春婦のオアーナヴェラファミーガがこの物語の中でどんな役割を果たしていたのかということを考えてみたのだけど、彼女はウィルの人柄を表現するための役割だったのかなと思う。少しお金を渡せばなんでも好きなことをしてあげると言うオアーナにはウィルはまったく見向きもしない。ウィルは連日、彼女が寒さをしのぐために車に入れてやるが彼女を買うことはしない。それどころか、リヴに疑われるのをイヤがって、リヴと同じ香水をオアーナにつけてもらおうとさえする。ウィルがだれ彼構わず手を出すようなタイプの男じゃないということを示しておいて、それでもアミラに惹かれてしまったやむを得なさを表現したかったという解釈でいいのかな。あと、ビーがウィル自身の娘ではなかったこともウィルの浮気を許す気持ちになれた一因かもしれない。

まぁ、とにかくアンソニーミンゲラが作り出す世界とジュードロウとロビンライトペンの美しさにやられてしまう。ポエティックな世界を好んだアンソニーミンゲラが美しいジュードロウを多用したのがよく理解できる。(彼の私生活は残念ながら、それに泥を塗るようなものだけどね…)一般的な評価は低めの作品だけど、ワタクシは結構好きでした。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿