電脳筆写『 心超臨界 』

人生は良いカードを手にすることではない
手持ちのカードで良いプレーをすることにあるのだ
ジョッシュ・ビリングス

いつしかボブは、彼の生活観を話し出していた――星野道夫さん

2012-10-07 | 04-歴史・文化・社会
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『アラスカ 風のような物語』http://tinyurl.com/8cf2jol
【 星野道夫、小学館 (1998/12)、p27 】

――《 エスキモーになったボブ・ユール 》より抜粋――

いつしかボブは、彼の生活観を話し出していた。

「何もなかった時代、人間は自分の生活圏以外のどこにも刺激を求める必要はなかったんじゃないかな。それは日々の暮らしの中で向こうから飛び込んできた。日常生活で求めていたのは、刺激よりも休息だったんだ。

けれども、今の時代、すべてこのことが決まりきっている。明日のことも、その先のことも……。

外界との関係が断たれた時、それでも生きていくことができるというのは、自分にとって大切なことだった。カリフォルニアにいた頃、生活はすべて他の者から与えられていた。食べるもの、着るもの……。そんな生活はおかしいと思っていた。人生にはもっと意味があるはずだと思っていたんだ」

歯がほとんどないため、時々何を言ってるのかわからなかったけれど、ボブの話し方は気負いがなく、ユーモラスで皆を笑わせた。キャリーはそんな時、何も言わずに聞いているだけだった。

次の日、僕はボブの魚とりを手伝った。驚くほど単純な漁法だった。15メートルほどのギルネット(網)を竿に引っかけて一気に浜辺から海に送り出し、そのまま放置しておくだけの漁法だった。1時間ほどして引き上げると、たくさんのフラウンダー(トゲのある小魚、普通食べない)が引っかかっている中に、2匹のチャムサーモンを見つけた。

「今年最初のサケだ!」

キャリーも浜辺に出てきた。サケを両手にぶら下げながらテントに帰る二人の後ろ姿を見ていると、感慨深かった。41年間、このように生きてきたのだ。

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