電脳筆写『 心超臨界 』

影は光があるおかげで生まれる
( ジョン・ゲイ )

天風先生 虎の檻に入る――池田光

2024-08-30 | 03-自己・信念・努力
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虎の檻に平気で入れる理由を天風はこう話している。「信念が強く結晶した人の周りには、非常に強い同化力が働き出す。霊的作用の感化で、その場の雰囲気をスーッと同じ状態にしてしまう。猛獣が同化するのは当たり前じゃないか」


◆中村天風先生 虎の檻に入る

『中村天風 君だって、ここまでやれる!』
( 池田 光、知的生きかた文庫、p179 )

天風が虎の檻に入った話を披露しよう。

大正7年――心身統一法の宣布を開始する一年前のことである。

イタリアからコーンという猛獣使いが来日した。有楽座の舞台で猛獣ショーを開催するためである。

コーンは、イタリア大使館を通じて、頭山満に面談を求めた。頭山側で同席したのは、黒竜会会長の内田と、頭山の甥と、天風の4人であった。

初対面のコーンは、頭山に挨拶した途端、

「猛獣の檻に入っても、あなたにはけっして猛獣は襲いかかりません」

と述べた。猛獣使いは人の目を見て、その人の心が定まっているかどうかを判断するという。さらにコーンは、天風を見て、

「この方も大丈夫だ」

と言った。負けん気の強い黒竜会の内田が、自分はどうかと尋ねたが、

「あなたはすぐに食われてしまう」

というのが、コーンの答えだった。頭山の甥も猛獣に襲われるほうだと言われた。

頭山が、笑いながら天風を見た。

「やっぱり、長う生死の中を歩いてきただけ、見る人が見るとわかるんじゃなあ」

天風は頭山と同じ、泰然自若の境地の人となっていたのである。

そのまま頭山たち4人は、猛獣を見物するために、コーンに案内されて楽屋にはいることになった。

「この中に、まだ馴らしていない虎がおりますので、檻の前を通るときは吠えるかもしれませんが、ご勘弁ください」

とコーンは注意した。虎が3匹、低い唸り声を上げていた。

「虎の親子です。人馴れさせるまでに半年はかかるでしょう。馴らすために、こうして連れているんです」

と説明する。頭山は、

「勢いのあるやつじゃ。天風、いっちょう入ってみるか」

と促した。頭山はまじめに言っているのである。天風は臆することなく、虎の檻に近寄った。コーンのほうも、

「どうぞ」

と二重扉を順に開けた。天風は、親同然の頭山と、コーンからの太鼓判を押され、何の疑いもなく、気負いもなく、絶対信念で入っていった。虎は、天風の周りに来て、2匹がうずくまり、1匹がその後ろにいた。しばらく虎と戯れていた。

新聞記者がフラッシュをたいて写真を撮った。虎が記者に牙を剥いた。天風は平然と檻を出ていった。

虎の檻に平気で入れる理由を天風はこう話している。

「信念が強く結晶した人の周りには、非常に強い同化力が働き出す。霊的作用の感化で、その場の雰囲気をスーッと同じ状態にしてしまう。猛獣が同化するのは当たり前じゃないか」
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