団塊的“It's me”

喜寿老(きじゅろう77歳)の道草随筆 月・水・金の週と火・木の週交互に投稿。土日祭日休み

夫婦問題 夫婦点描①

2007年06月06日 | Weblog
  ある日、私はアメリカの友人で、日本の中小企業、特に下請け会社の接待商法を研究しているベティさんを、隣り町の会社へ案内するために、車でその国道を走っていた。

 橋を渡り、山に向かって大きくカーブしている箇所で、私の車の前を走っていた軽トラックが停車した。片道一車線の狭い国道である。対向車が途切れなく通行していたので、私も停車した。軽トラックから農作業すがたの初老の男性が降りた。助手席には妻とみられる女性が乗っていた。私は「こんなところで爺さん立小便かよ」、と内心毒づいた。         

 男性はゆっくり前方に進み、屈み込んだ。立ち上がると、車に轢かれ、腸がとびだした血だらけの犬が、男性の胸に抱かれていた。 私の車の後ろに、長い車の列ができた。私のすぐ後ろに停まった車の運転手が、私を睨んでクラクションを鳴らした。私は、車から降りて、後続の車の運転手に向かって、犬を抱いている男性を指差した。車から降りてその成り行きを見ている人もいた。反対車線の車も減速して、向こうも渋滞していた。  

 男性は、道端の草むらに犬を静かにやさしく降ろした。そして帽子を脱ぎ、合掌して頭を垂れた。軽トラックの中の婦人も頭の手拭を取り、手を合わせていた。男性は車に戻ると、ドアを開ける前に、後続車の人々に深々とお辞儀をして車に乗り込んだ。婦人も後ろを振り返って頭をさげた。軽トラックは、まだ生々しく血の跡が残るところを、大きく迂回して動き出した。  

 事の一部始終を見ていた助手席のベティさんが言った。「素敵な夫婦ね。奥さんの存在感が感動的。私は日本人をまだわかっていない。わからないけれど、すごいと思う。なにか神々しいというか、やさしいというか。こんな事、アメリカであるかな?今日は部屋に帰って、静かにしていたい気持ち。すみません。家に戻ってください」 (写真:イメージ。事故にあった犬ではありません)

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夫婦問題 ニオイ

2007年06月06日 | Weblog

 私がカナダへ留学する前、アメリカ人の家庭に住み込み、英会話を学んだ。そのアメリカ人は、ある聖書学院の中の職員住宅に住んでいた。同じくアメリカ人のR院長は、聖書学院の敷地を一部売却して、自分の家を学院の一番良いところに建てていた。工事はほとんど、聖書学院の学生と職員の手によってなされていた。

 その日、私は朝から、邸宅の地下のプレイルームという家族がゲームをしたり、遊ぶ部屋のペンキ塗りをしていた。 急に腹が痛くなり、トイレに駆け込んだ。すっきりして、またペンキ塗りを続けた。しばらくすると、R院長の次男のトムが降りてきた。トムは日本語がペラペラだった。そしてトイレに入った。するとすぐに出てきて、「お前、便所を使ったか?お父さんに言うぞ。お前は、この家の便所は使えないんだよ」私は黙って聞いていた。益々興奮してトムは、「日本人のウンコは臭いんだよ」と大声で言った。私は、反論もできず、かえってひどい劣等感を感じた。聖書学院の食事は、資金不足とやらで、うどんに少し野菜が入ったものが多かった。

 何を食べていようが、自分の体の中を通過すると、だれのウンコも臭いのだ。日本人だから臭いのではない。そう思っても劣等感がつのった。高校の生物の時間に、日本人は米や野菜を多く食べるので、腸が長く、大便の量も多いと習った。第二次世界大戦中、肉食のアメリカ兵は短時間で用を足したが、多くの日本兵は時間がかかったために、標的になりやすく、排便中に殺された兵隊も多かったと聞いた。

 私はすっかり滅入った。キリストは誰をも同じように愛すると、トムの父親は説教で繰り返し何度も言った。神の前では万人が平等だとも言った。 

 私は日本人の便は臭くて、西洋人の便は臭くないと思い込んでいた。留学したカナダの学校のトイレには、最初だれもいない時しか入れなかった。じきにカナダ人でも臭いことを実感した。それでも「日本人のウンコは臭い」とトムに言われたことは、長くトラウマになった。 

 ある時、妻にこの話をした。化学に強い彼女は、「人間の便は、メチルカプタン、硫化水素、アンモニアを含みだれのだって臭いのよ。トムのだってあなたのに負けないくらい臭いわよ。馬鹿みたいよ、こんなことで悩んでいたなんて。もう忘れなさい」と言ってくれた。 

 最近ニオイをごまかす製品のコマーシャルが多い。日本人は何事においても神経質すぎる。人間だって動物だ。臭くて当たり前である。加齢臭を心配する団塊世代もいるだろう。チョイ悪親父とかなんとかいって、粋がっても悪あがきにしか見えない。往生際が悪い。香水振り撒いて別人になったつもりでいるのが悲しい。人はニオイになれる。他人のニオイに敏感になり、自分のニオイに鈍感になる傾向が強い。それにしても私がトイレから出てきて、すぐに妻が入り、その逆でも二人は、トム状態にならない。夫婦の鈍感力は凄いものである。ニオイで離婚する夫婦もいるそうだ。

(写真:ネパールの家のトイレ) 


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